684.事典篇:巨人族:神話の巨人

 今回は「神話に登場する巨人」についてです。

 ただし北欧神話の霜の巨人、丘の巨人、炎の巨人は「ジャイアント」にまとめていますので、ギリシャ神話とケルト神話の巨人をまとめました。





事典【巨人族:神話の巨人】


 ギリシャ神話のサイクロプスとヘカトンケイル、北欧神話のヨトゥン、ケルト神話のフォモール族についてまとめています。

 北欧神話の霜の巨人族に関してはコラムNo.682「事典篇:巨人族:ジャイアント」を参照してくださいませ。




サイクロプス

 ギリシャ神話に登場する一つ目の巨人キュクロプスを英語風に読んだものです。

 鍛冶技術を持つ単眼の巨人であり、下級神でもある一族です。あるいは、これを下敷き及びベースとして後世に誕生した伝説の生物をも指します。

 神としてのキュクロプスは、天空神ウラノスと大地母神ガイアの息子たちで、アルゲス、ステロペス、プロンテスの三兄弟から構成されます。いずれも雷に関連する名前であり、雷の精だったのではないかといわれるのです。

 彼らは父神に嫌われ、兄弟族のヘカトンケイル族とともに奈落タルタロスへ落とされました。弟族のティターン神族の一柱クロノスが政権を握ったあとも、久しく拘禁されたままでした。しかし「ティタノマキア」の際、ゼウスらオリュンポス神族によって解放されます。キュクロプスたちはその礼として、ゼウスには雷霆を、ポセイドンには三叉の銛を、ハーデスには隠れ兜を造ったのです。

「ティタノマキア」後はヘパイストスのもとで鍛冶業を続けたといわれています。

 怪物としてのキュクロプスは、上述の高次元的存在としてのキュクロプスとは大きく異なり、旅人を食らうただ粗暴なだけの怪物です。ポセイドンを父に持つポリュペモスも含めてそうでした。

 ギリシャ神話が初出ですので、あなたの「剣と魔法のファンタジー」にサイクロプスを登場させても著作権を侵害することはありません。



 TRPG『Dungeons & Dragons』第五版では、一つ目巨人キュクロプスは、荒れ野で貧しい暮らしを送っています。孤立を選ぶのが性分で、他の種族との接触を避け、よそものが縄張りに入ってきたら追い払おうとするのです。

 伝説によればキュクロプス族は巨人族の神々の一柱から生まれた子供だとされますが、彼らはどんな神にもほとんど敬意を払いません。

 キュクロプスには一定の知性はありますが、暮らし方はごく単純で、世間を離れ、獣の群れを育てて食料にしています。

 住処とするのは洞窟や廃墟や、自分で飾り気のない石を積んで作った大雑把な建物です。彼らは他のキュクロプスから歩いて1日以内の所に居を構えます。物々交換や配偶者探しに都合が良いようにです。木や石で武器や道具を作りますが、金属が手に入るなら金属も使います。巨人語を理解しますが文字は書けず、言葉を発することも少なく、同族の間ではもっぱらうなり声や身振り手振りで意志を通じ合うのです。

 キュクロプスは物覚えが悪いうえ、昔ながらのやり方に縛られているので、なかなか新しいことを積極的に導入するというわけにはいきません。

 体は大きく力も強いため、戦いとなれば恐ろしい。しかし機転のきく敵に遭うとだまされてしまうこともままあります。魔法の力をまざまざと見せつけられると、キュクロプスはえてして怯えすくみ、震えあがるのです。単純素朴な田舎者で、魔法を見慣れていないため、ウォーロック、クレリック等の術者にダマされて相手を恐ろしい神様だと思い込んでしまうこともあります。

 けれどももともと自尊心が高い種族なので、「神様」と思った相手が単なる定命の者と知ったなら、怒り心頭に発して大暴れするのです。



 TRPG『PATHFINDER RPG BESTIATY』では、何千年もの昔、威厳あるサイクロプスたちは広大な王国を支配していたが、栄光は今日では忘れ去られて久しい。生き残ったサイクロプスの中で、ねぐらを守り、次の食事にありつくことより上等なことを考えている者はほとんどいません。彼らの興味の大半はねぐらや食事に関する勤めが占めており、怪物的な食欲と底なしの飢えを持つサイクロプスの運命を決定づけています。それは太古の没落をもたらした原因なのかもしれません。

 平均的なサイクロプスは身の丈9フィート(約2.7m)、体重600ポンド(約270kg)。男も女もぼ完全に禿げ上がり、もつれた黒い髪が耳の上からまばらに垂れ下がっていることがあります。サイクロプスの大きな目の上には毛むくじゃらの表情豊かな眉毛が生えており、これによってこのクリーチャーの気分を容易に判断できるのです。

 サイクロプスの歴史は、エルフの興隆よりもはるか昔に滅亡した、蔦に覆われた失われた都市の崩れかけの壁に刻まれ、いまや失われつつあるのです。そこでは竜と巨人が、今日地上を支配している短命な種族たちに荒らされる前の大地を支配していたことが記されています。その崩壊があまりに昔であるため、今日のサイクロプスたちは、失われた時代の神話的な栄光について、半端に学んだ人間たちよりも知らずにいることが多い。

 古代の記録や他の巨人族の口伝、南方のジャングルの現住部族の断片的な証言によると、かつての姿――より大きく、毛だらけの足を持ち、探究心に満ちた目の上に大きな角をつけた堂々たる大巨人――を保った“グレート・サイクロプス”がいるといいます。この種は古代の種族の戦士か指導者であったと考えられており、現代のサイクロプスは彼らを生ける破壊神として崇め讃えているのです。



 TRPG『ADVANCED FIGHTING FANTASY』第2版『モンスター事典――奈落の底から――』では、サイクロプスは人間よりも頭一つ高く、ヒル・ジャイアントと同じくらい強靭だがより攻撃的で、多くの戦場の中心でよく見かけられます。この凶暴な人型種族はその背丈や、筋肉質の身体、前頭部の中央にある大きな単眼によって容易に判別がつくのです。その醜悪な外見ゆえに、彼らは長い間文明から遠ざけられ、今もすべての人間からその存在を嫌悪されています。その結果、彼らはオークやリザードマンら人間を憎む者たちの軍に参加しているのです。戦場での勇敢さから階級はすぐに上がり、多くは恐るべき隊長となり、その恐怖を敵に叩き込むのです。彼らに戦いを挑むのは、最も勇敢なヒーローだけだといわれます。その野蛮さは伝説の域にありますが、不幸にもほとんどが真実です。サイクロプスの人間への憎悪は限りがありません。

 戦場とは別のところで遭遇するとしたら、文明から離れた辺境の丘の洞窟などが多い。そこでよく孤独に暮らしており、小さな動物をその力強い腕で捕らえて殺し、食事としています。その残虐さや野蛮さゆえにどこでも追放されており、出会った人間は誰であれ即座に攻撃、ゆっくりとその体を料理し、食べることで復讐を締めくくるのです。



 TRPG『Tunnels & Trolls』完全版『MONSTERS! MONSTERS!』では、サイクロプスは一つ目の巨人で、巨人族の中でもとくに体力が高い種族です。不器用なのであまり武器は使いませんが、その怪力はほとんどありとあらゆるものを破壊できます。つねに単独で行動し、獲物を見つければ容赦なく襲いかかり、その肉を喰らって生きています。

 サイクロプスに対しては「攻撃を素早くかわしながら必殺の一撃を狙う」戦法が可能です。



 TRPG『ソード・ワールドRPG』完全版では、サイクロプスは巨人のなかでも最大の大きさを誇り、その高さは10メートルを超えます。

 目が一つしかなく、頭には髪の毛がありません。頭頂部は角のように硬くとがっています。ほとんど裸も同然ですが、いちおう腰布は巻いています。褐色の膚をしており、茶色の剛毛が胸や手足に生えています。

 彼らは人里離れた海辺で暮らすのです。一人で住むこともありますが、数人の集団で生活していることもあります。彼らは自らの住処を離れることはありませんし、普段はその付近に人間は住んでいません。領域を犯した者に対しては容赦なく攻撃を仕掛けてきます。



 TRPG『ロードス島戦記RPG』では古代種の一種で、原初の巨人の末裔だともいわれます。身長10mを超える一つ目の巨人で、頭髪がなく、頭頂部に角のような突起があります。衣服は腰巻程度ですが、褐色の肌には茶色の剛毛がところどころに生えており、非常に強靭です。

 人里離れた海辺で暮らしており、テリトリーへの侵入者へは容赦なく攻撃を仕掛けます。




ヘカトンケイル

 ギリシャ神話に登場する三人の巨人です。その名は「百の手」を意味し、五十頭百手の巨人の姿をしているとされます。そのため「百腕巨人」とも呼ばれるのです。

 ウラノスとガイアの息子のコットス、プリアレオス(別名アイガイオン)、ギューゲス(またはギューエス)の三兄弟です。

 ヘカトンケイルたちはあまりの醜さに父ウラノスによってタルタロスに封じ込められましたが、「ティタノマキア」の際、ガイアの勧めによりゼウスはこの三人を助け出します。そのためヘカトンケイルたちはティターン神族と戦い、無数の剛腕で一度に三百の大岩を敵に投げつけてゼウスたちを支援しました。この大岩はひとつひとつが山の如き巨大さを誇り、着弾の衝撃で大地が揺れ動くほどでした。大岩による攻撃を休みなく続けたヘカトンケイルたちは、膠着状態に陥っていた戦況を変え、ゼウス側が勝利する一因となりました。勝利後はタルタロスに幽閉されたティターン神族の監視に就き、地上から姿を消したのです。その後ポセイドンがヘラやアテナと結託し、ゼウスをオリュンポスから追放しようとした際にテティスの依頼でゼウスを守ろうとしたこともあったといいます。

 ギリシャ神話が初出ですので、あなたの「剣と魔法のファンタジー」にヘカトンケイルを登場させても著作権を侵害することはありません。



 TRPG『ソード・ワールドRPG』完全版では、ヘカトンケイレスは巨人族の亜種の一つで、身長は4メートル近くあります。

「百手巨人」と呼ばれていますが実際には12本しかありません。戦闘のときにはそのうちの6本を使います。1ラウンドに別々の目標を狙うことも、一つの目標を集中して殴ることも可能です。武器を持っているものもいますが、そのようなものがなくとも、その太い腕だけでじゅうぶんに人間(や妖精)にとっては脅威となります。

 ヘカトンケイレスは深い地下迷宮で財宝や古代王国の秘密を守っており、地上にはめったに出てきません。知能は人間並みで、必ずしも邪悪ではないのです。中には神に仕えているヘカトンケイレスもいます。



 TRPG『ゴブリンスレイヤーTRPG』では、千手巨人ヘカトンケイルは神話時代に戦場を闊歩していた原初の巨人が一柱です。千というのは比喩表現で、無限とも思える腕を持ち、それぞれに神の権能を宿しています。これはまだ顕現途中の状態で、倒すなら今しかありません。「長剣、長槍、大弓、矢」を持っています。





ヨトゥン

 TRPG『ロードス島戦記RPG』では、ヴァルハラの神々に反逆する巨人。力のみならず、豊富な知識を持ち合わせています。





フォモール

 ケルト神話(アイルランド神話)に登場するエリン(アイルランドの古名)に住む巨人族です。詳しくはコラムNo.681「事典:巨人族」を参考にしてください。

 ケルト神話が初出ですので、あなたの「剣と魔法のファンタジー」にフォモールを登場させても著作権を侵害することはありません。ただし『D&D』の異形の姿をそのまま使うと、著作権に引っかかる可能性があります。名前を変えるか、形態を変えるかして『D&D』のフォモールとは異なるようにすることをオススメします。



 TRPG『Dungeons & Dragons』第五版では、あらゆる巨人族のうち最も醜くねじくれたもの。醜くひきゆがんだ体は忌まわしい振る舞いに似つかわしい。

 ある者は形の悪いイボだらけの頭のあちこちに目鼻口耳がでたらめに配置されています。またある者は手足の形や大きさがひどく違っていたり、歪んだ口から息を吸うたびに恐ろしい叫びのような音を立てたりするのです。その悲惨な姿は、ほとんど同情を呼びません。なにしろフォモールたちは、己の心と精神を支配する悪のせいで自業自得で異形の姿になったのですから。

 フォモールは“邪眼”と呼ばれる力によって、自分たちの受けている呪いを他の者にも押しつけることができます。フォモール族がかつて有していた偉大な呪文発動能力の最後の名残りです。フォモールの邪眼に呪われたクリーチャーは、魔法によって体がねじくれゆがみ、この邪悪な種族を呑み込んだ苦痛と悪意がどんなにひどいものだったのかをかいま見る羽目になります。

 ケルト神話のフォモール族の、とくに「邪眼のバロール」の影響を受けたモンスターです。デーモン・ロードの中に「バロール」が出てきますので、『D&D』におけるケルト神話の影響は絶大だといえるでしょう。





最後に

 今回は「巨人族:神話の巨人」についてまとめました。

 ギリシャ神話のサイクロプスとヘカトンケイル、北欧神話のヨトゥン、ケルト神話のフォモールの計四種類を対象としました。

 北欧神話の霜の巨人族は「ジャイアント」でまとめて説明しています。霜の巨人ヨトゥン族、炎の巨人ムスペル族らとアース神族との戦い「ラグナロク」が北欧神話のラストを飾るほどです。それほど著名な巨人族は、相応の知恵を持つ「ジャイアント」であることが多いため、そちらにひとまとめにしてあります。

 神話に登場する巨人の中でも、神の如き知性を有しない巨人族が今回の四種類だったのです。



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