680.事典篇:アーサー王伝説:聖杯探求とカムランの戦い

 今回は「聖杯探求」「ランスロットの不義」「カムランの戦い」という『アーサー王伝説』の大きな流れをまとめました。

 これを持って『アーサー王伝説』のまとめは終わりです。

 いかがだったでしょうか。「剣と魔法のファンタジー」のイメージが湧きやすかったのではないでしょうか。

「中世ヨーロッパ風」というよりも、五世紀末のヨーロッパのほうが「剣と魔法のファンタジー」に近いように私は感じます。





事典【アーサー王伝説:聖杯探求とカムランの戦い】


 今回はアーサー王伝説を物語るうえで欠かせない「湖の乙女」と、聖杯探求の旅、そして「ランスロット卿の不義」についてまとめました。

 アーサー王は「湖の乙女」から聖剣エクスカリバーを授かり、ランスロット卿は「湖の貴婦人」に育てられました。そして「カムランの戦い」はアーサー王とモルドレッド卿が相討ちの形で決着します。




湖の乙女ニミュル

「湖の姫」「湖の精」「湖の貴婦人」などの別名も。ヴィヴィアン、ニミュエ、エレイン、ニニアン、ニマーヌ、ニニュー、ニヴィアン、ニムエなどさまざまな名前が当てられています。水の妖精であり、「円卓の騎士」ランスロットの守護妖精はヴィヴィアンで統一されているのです。

 ペリノア王との戦いに敗北し、剣を折られたアーサー王に対し、新しい剣(一般にエクスカリバーと称される二本目の剣)を渡します。このときアーサー王に対し「将来自分の願いをなんでもいいから必ずひとつ叶える」と約束させたとするものもあります。

 エクスカリバーを渡した際の約束に基づき、ベイリン卿あるいはベイリン卿の剣を持ってきた乙女の首をアーサー王に要求するのです。恩のあるアーサー王が悩んでいると、この要求に激怒したベイリン卿によりニミュルは首を刎ねられてしまいます。このニミュルはベイリン卿の母親を殺害したこともあるらしい。しかしこれ以降もニミュルが登場するため、「湖の乙女ニミュル」はひとりではなく複数の人物をまとめて呼ぶときの呼び名と考えられます。

 ランスロットは父であるベンウィックのバン王の死後、「湖の貴婦人」に十八歳まで養育されたのです。これによりランスロットは「湖の騎士」の異名を持つようになります。

 アーサー王とグィネヴィア王妃の結婚式にニミュルは突然白馬に乗って宮廷に現れました。彼女に惚れたマーリンは自分の知る魔法のすべてをニミュルに伝えようとしますが、嫌悪ゆえか彼女はマーリンを魔法で魔法の森または空中楼閣に監禁してしまいます。これによりアーサー王の国力が大きく削がれたのです。

「カムランの戦い」で瀕死の重傷を負ったアーサー王の代理人であるベディヴィア卿からエクスカリバーを回収します。そのシーンがアーサー王物語の最後にかかわるシーンです。

 アーサー王の死に際し、ニミュル及びアーサー王の異父姉モーガル・ル・フェイらが、重傷を負ったアーサー王をアヴァロン島へと連れて行ったとされています。




聖杯探求

 カーボネック城の主・漁夫王ペラムは、十字架に磔にされたイエスが死んだか確認するために脇腹を貫いたとされる「ロンギヌスの槍」によって癒えることのない呪われた傷を負ったことから「不具の王」などとも呼ばれました。王が病むことで肥沃だった王国も荒野へと変貌してしまうのです。

 十数年後、ペラム王の病を癒やすためにアーサー王の指示の下、騎士たちや勇者たちが「聖杯」を探す旅に出ます。

 カーボネック城の主・ペラムの子、のちのペレス王にはエレインという娘がいるのです。エレインは「この国で最も美しい」と評判が立ち、モーガン・ル・フェイの恨みを買って魔法で閉じ込められ、熱湯で茹でられる苦しみを受けます。そこをランスロット卿が救出すると彼に恋をしてしまったのです。しかしグィネヴィア一筋のランスロット卿は振り向いてくれません。そこで魔法を使ってグィネヴィア王妃に化けてランスロット卿と関係を持ち、ガラハッド卿を孕みます。ガラハッド卿はペラム王の曾孫ひまごであり、ランスロットの息子に当たるのです。ランスロット卿はエレインの元から立ち去ったため、子育てはペレス王などが行なったのです。

 幾多の冒険を重ねてガラハッド卿、パーシヴァル卿、ボールス卿の一団がとある城で聖杯を探し出し、ペラム王と王国を癒やすことに成功します。聖杯を発見した城はのちに「聖杯城」と名づけられたのです。ガラハッド卿は聖杯を奉じて聖地に至りそこで天に召されました。パーシヴァル卿も聖杯から拒絶されて死亡したのです。聖杯は「童貞」でなければ持つ資格がなかったとされます。そこでアーサー王の待つキャメロット城へ聖杯を持ち帰ったのはボールス卿の役目となったのです。




ランスロットの不義

 王妃グィネヴィアはのちにランスロット卿と出会ったとき彼へ一目惚れして不倫関係を持ちました。アーサー王は長年そのことに気づきませんでした。気づいたのは祝宴の席にランスロット卿と王妃グィネヴィアがともにいなかったときです。

 不倫を明るみに出そうと画策したのは、ロット王の后モルゴースの二人の息子、アグラヴェイン卿とモルドレッド卿でした。

 ランスロット卿は同衾の場に居合わせた騎士たちを斬り殺して逃亡し、王妃グィネヴィアは火あぶりの刑に処せられることになります。ランスロット卿とその家族はそれを止めさせようとし、多くの騎士たちが守備にあたっている処刑台に向かいます。しかしガウェイン卿は守備の任を辞退していたのです。

 ランスロット卿は王妃グィネヴィアを救出しますが、その戦いでガウェイン卿の兄弟ガヘリス卿とガレス卿が殺されます。復讐に燃えるガウェイン卿はアーサー王にランスロット卿と戦うよう訴えたのです。

 アーサー王は決戦のためフランスへ行くことになります。そしてランスロット卿からアーサー王の元に返された王妃グィネヴィアを息子のモルドレッド卿に預けることにしたのです。しかしモルドレッド卿はグィネヴィアと結婚しようとし、王座を簒奪してブリテン王を公称しました。

 モルドレッド卿の裏切りを知ったアーサー王は急ぎブリテンに引き返し、「カムランの戦い」でモルドレッド卿と最終決戦に臨みます。




カムランの戦い

 ランスロット卿が王妃グィネヴィアと密通し、それをモルドレッド卿らが暴露しました。ランスロット卿は居合わせたモルドレッド卿以外の騎士を斬り殺して逃亡します。残された王妃グィネヴィアは火刑に処されることとなるのです。それを聞きつけたランスロット卿一族がグィネヴィア奪取に動きました。無抵抗の騎士たちを多数斬り殺して領地であるフランスへと連れ立ったのです。しかしランスロット卿はグィネヴィアをアーサー王の元へと送り返して和議を結ぼうと考えます。

 アーサー王はけじめとしてランスロット卿と戦うためにフランスへ出兵し、モルドレッド卿をイングランド(ブリテン島)の統治者に任命して国を委ねました。

 しかしモルドレッド卿は邪心を抱いて謀反を起こし、アーサー王が外征で討ち死にしたという手紙を偽造して王妃グィネヴィアを妃に迎えて王位に即いたのです。

 グィネヴィアはスキを見てロンドン塔に籠城します。モルドレッド卿の野心にカンタベリー司教は諫言しましたが聞き入れられなかったため、モルドレッド卿を破門したのです。

 アーサー王は裏切りに気づいて帰国を急ぎましたが、アーサー王統治下では戦いと争い以外にないとの噂が広まっていたためモルドレッド卿には多くのイングランド豪族・諸侯が味方します。

 五月十日ドーヴァーに上陸を試みるアーサー王との戦いで、モルドレッド卿軍は異父兄ガウェイン卿を討ち取りました(モルドレッド卿が自ら手を下したかは不明)。しかし次第にアーサー王の軍勢に押され、ついに敗走するのです。モルドレッド卿はさらにバラムの丘に陣を構えますが再びアーサー王に敗北し、カンタベリーへ逃走します。

 その後聖霊降臨祭の次の月曜日にソールズベリの近くで決戦を行なうことが取り決められ、アーサー王はモルドレッド卿に復讐ができると喜んだのです。しかし戦の前日アーサー王の夢の中に神から遣わされたガウェイン卿が現れ、もし戦えばアーサー王自らが死ぬこと、一カ月の休戦を締結すればランスロット卿がアーサー王の救援に来ることを告げます。

 アーサー王とモルドレッド卿の休戦交渉はまとまりかけますが、不運なめぐり合わせから決裂します。モルドレッド卿は十万の兵を率いてアーサー王と戦いますが、戦場から逃亡せずに生き残ったのはモルドレッド卿ただひとり。アーサー王側もアーサー王とルーカン卿、ベディヴィア卿の三人だけしか残りませんでした。モルドレッド卿は疲れ果て剣を杖に休息していたところ、ルーカン卿の制止も聞かず復讐に逸って突撃してきたアーサー王と一騎討ちを演じたのです。そしてモルドレッド卿は槍で胴体を貫かれます。死を覚悟したモルドレッド卿は渾身の力を振り絞って、串刺しのまま槍のつばの距離までアーサー王に近づき、諸手の剣でアーサー王の側頭部を兜ごと割り、ついに絶命したのです。

 致命傷を負ったアーサー王は、血縁のあるコンスタンティン卿に後事を託すと、異父姉モーガン・ル・フェイと湖の乙女ニミュルらとともに、船でアヴァロン島へと旅立ちます。

 エクスカリバーはベディヴィア卿の手により「湖の乙女」に返還されたのです。

 グィネヴィアは最後にもう一度ランスロット卿と会い、その後修道院に戻って残りの人生を過ごしました。ランスロット卿も出家し、グィネヴィアの死を伝え聞くと、絶食して餓死したのです。

 これにて『アーサー王伝説』は幕を下ろします。





最後に

 今回は「アーサー王伝説:聖杯探求とカムランの戦い」についてまとめました。

 冒険以外で「円卓の騎士」が戦死した出来事は、主に「聖杯探求」「ランスロットの不義」「カムランの戦い」です。

 これらを俯瞰で見ることによって『アーサー王伝説』はより理解しやすくなります。

 今回で「アーサー王伝説」のまとめを終わりに致します。

 次回からは「剣と魔法のファンタジー」によく出てくる種属やモンスターなどについて取り上げていく予定です。



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