679.事典篇:アーサー王伝説:その他の騎士(毎日連載650日目)
今回は『アーサー王伝説』に出てくる中で、今までまとめられなかった「名のある騎士」を取り上げました。
「円卓の騎士」第二の騎士とされるトリスタン卿の名は『トリスタンとイゾルデ』というお話で知っている方も多いでしょう。
事典【アーサー王伝説:その他の騎士】
血族関係が明確でない騎士をまとめました。
一癖も二癖もある人物が多いので、「剣と魔法のファンタジー」にも使えそうな逸話が残されています。
その他の騎士
マーハウス卿
アイルランドの王族。マロース、マロルド、モルオルトなどとも。
ガウェイン卿と互角以上に戦ったこともある武勇の持ち主。
ユーウェイン卿とガウェイン卿が旅をしていたとき、些細な行き違いからまーハウスは彼らと決闘になり、ユーウェイン卿を落馬させ、午前中で力が三倍の状態のガウェイン卿と互角以上に戦いました。しかしお互いの誤解が解けて和睦します。
その後ユーウェイン卿とガウェイン卿に同行して数々の冒険をこなし、一年後に「円卓の騎士」に参加するのです。参加直後の槍試合ではペレアス卿に次ぐ準優勝を果たしています。のちに村を襲う巨人を倒すなどかなりの活躍をしています。
アイルランドとコーンウォールの間で紛争が起きた際、アイルランド代表としてコーンウォール代表のトリスタン卿と決闘し、毒を塗った剣でトリスタン卿に重傷を負わせるものの敗北。アイルランドに帰還したが傷が原因で死んでしまいます。
トリスタン卿
リオネス(ライオネス)王メリオダスと王妃ブランシュフルール(エリザベスとも)の子でありアイルランド(コーンウォールとも)王マルクの甥(マルク王は母方の叔父)。当初コーンウォールに所在。竜退治やイゾルデ(イズー)との恋で有名。
アイルランドがコーンウォールに貢物を要求するがマルク王は拒絶します。そこでマーハウス卿はトリスタンと決闘しますが重傷を負って敗れ、アイルランドに帰還直後に死亡するのです。
一方マーハウス卿の剣には毒が塗られていたため傷口が腐敗していきます。これを治療できるのはアイルランドの「金髪のイゾルデ」のみ。しかしアイルランドとは確執があるため偽名でアイルランドに渡り、身分を隠して治療を受けながらイゾルデ姫と心を通わせ合います。しかし治療が終わるとトリスタンはコーンウォールへ帰国するのです。
帰国後トリスタンがイゾルデ姫の美しさをたびたび口にするので、独身であったマルク王はイゾルデを妻にしたいから連れてこいと命令します。
再度アイルランドに入国し、竜を退治したり、正体が明らかになったことでマーハウス卿殺しの責任を追及されたりしますが、アイルランド王から許しをもらいイゾルデをコーンウォールに連れ帰ることになったのです。この帰りの船でトリスタンとイゾルデが誤って媚薬を飲んだことから互いに愛し合うようになります。
無事イゾルデとマルク王は結婚しましたが、マルク王と確執が生じてコーンウォールを去るのです。
トリスタンは「円卓の騎士」となり、最高の騎士であるランスロット卿に並ぶほどの騎士として数多くの武勲を残しています。「円卓の騎士」ではランスロット卿、ラモラック卿、ディナダン卿らと仲がよく、イゾルデに恋心を抱くパラミデュース卿と対立しのちに友人となるのです。
クエストの旅の途中、かつての恋人と同名である「イゾルデ」という女性と出会います。これを「白い手のイゾルデ」と呼ぶことになるのです。トリスタンは彼女と結婚しますが「金髪のイゾルデ」を忘れられず床を同じくすることはありませんでした。
ある日ふとしたきっかけからトリスタンは瀕死の重傷を負ってしまい、これを治療できるのは「金髪のイゾルデ」しかいないということで使者がアイルランドに派遣されます。しかし彼女が到着する前にトリスタンは死んでしまうのです。
パラミデュース卿
イスラム教徒のサラセン人でありながら弟のサフィア卿も円卓の騎士。パロミデスとも。
トリスタン卿とイゾルデへの愛を巡って争いました。初期はお互いに嫌い合っており、ある槍試合ではトリスタン卿はあえて彼の所属していない陣営に参加しており、まさに不倶戴天の間柄だったのです。
しかしトリスタン卿に命を助けられたり、一緒に行動してているうちに徐々にトリスタン卿とは友情めいた関係を結ぶことになります。最終的にはトリスタン卿に敗れたパラミデュース卿は彼の手でキリスト教の洗礼を受けることになるのです。
ひじょうに武勇にすぐれており、ある槍試合ではガウェイン卿を含めた円卓の騎士十人も打ち破っています。実際のところランスロット卿、トリスタン卿、ラモラック卿など以外にはほとんど負けることはないほどです。
アーサー王とランスロット卿の仲が破綻すると円卓の騎士はふたつに割れ、パラミデュース卿と弟のサフィア卿はランスロット派に属しました。アーサー王の軍と激しく戦い、戦後ランスロット卿によりプロヴァンスの公爵に封じられたのです。
サグラモール卿
ハンガリー王と東ローマ皇帝の娘の子で、コンスタンティノープルの帝位継承者。アーサー王の宮廷でグィネヴィアに育てられた女性との間に娘をひとりもうける。また異父妹でブランドゴリスの娘である美しいクレアは騎士ボールス卿と恋に落ち、同衾して「白のエリアン」を出産します。
若いうちに父が死に、母がブリテンのエスタンゴアのブランドゴリスの誘いを受け、十五のときに母子ともどもブリテンに渡るのです。ブリテンに着くとアーサー王のもとでサクソン人との戦いに従事し、王の甥ガウェインとその兄弟の助けを受けました。彼らは一緒にアーサー王の騎士叙勲を受けたのです。
「カムランの戦い」ではアーサー王の騎士の中でも戦いの最後まで生き残った騎士のひとりであり、最終的にはモルドレッド卿の手にかかって亡くなります。
ディナダン卿
弟に「ラ・コート・マルタイユ」ことブルーノ卿。
とくに武勇にすぐれているわけでもなく、槍試合でも負けが込んでいます。色恋沙汰に関しては相当疎い。
とくにトリスタン卿とかなり親しい仲であり、トリスタン卿絡みのエピソードが多い。
話術にすぐれた明るく屈託のない性格から、たびたび他の騎士や貴婦人を笑わせています。しかし彼のユーモアのある洒落はモルドレッド卿にとっては嘲笑や皮肉と同義であり忌み嫌われていました。
また観察眼もすぐれていたため謀反を看破されることを危惧したモルドレッド卿によって聖杯探求時に殺されてしまいます。
ブルーノ卿
兄にディナダン卿。ブルーノ・ル・ノワールが本名だが、「ラ・コート・マルタイユ(だぶだぶのコート)」の名前のほうが有名。身の丈に合わない父の形見のコートを着ており、仇を討つまでコートを着直さないことを誓っていた。
体にまったく合っていないコートを着てアーサー王の宮廷にやってきて、ケイ卿から「ラ・コート・マルタイユ」とあだ名を付けられます。グィネヴィア王妃を襲ってきたライオンをたったひとりで撃退したことから騎士に任命されたのです。
騎士に任命された日、マラディザンドという乙女がアーサー王の宮廷キャメロットへ「黒い盾の冒険」に挑戦する騎士を求めてやってきました。ラ・コート・マルタイユ卿が名乗り出たが、乙女は不満を覚えて口汚く罵倒するのです。それでもラ・コート・マルタイユ卿は乙女と冒険の旅に出かけ、途中何人かの騎士に決闘を挑まれます。道化のダゴネット卿のみには勝ったものの、他の騎士には負け続けるので「あなたは道化役以外には勝てないのか」と罵倒され続けるのです。
しかし負け続けたがラ・コート・マルタイユ卿はけっして弱いわけではなく、馬術こそ未熟でよく落馬させられたが、徒歩での戦いにおいてはかなりの武勇を発揮し、たびたび相手の騎士を打ち負かしました。途中から旅に同行したモルドレッド卿が「熟練の騎士は徒歩の戦いを拒否するから今まで活躍できなかったに過ぎない」とマラディザンドに説明するのです。しかしあいかわらず罵倒し続けました。それからモルドレッド卿と入れ違いにランスロット卿が途中参加してきます。ペンドラゴン城での戦いでラ・コート・マルタイユ卿は六対一の戦いに敗れて囚人になるも、ランスロット卿の活躍でマラディザンドとともに釈放されました。
こうして冒険を終えたラ・コート・マルタイユ卿らはキャメロットへ帰還し、「円卓の騎士」に叙任されます。
マラディザンドが罵倒し続けたのは、若い彼に冒険をあきらめさせ、命を守るためだったことが明かされたのです。そしてマラディザンドと結婚してランスロット卿によりペンドラゴン城の主に任命されます。乙女はビアンペサントとあだ名を改名しました。
このあと見事に父の敵討ちを達成したとされています。
ペレアス卿
冒険中にガウェイン卿に出会い、エタードという乙女の仲を取り持ってくれるように依頼するのです。しかしガウェイン卿自身がエタードと同衾している姿を見て、ガウェイン卿をひどく憎むことになります。
この一件の後、悲しみのあまり放浪していましたが、彼に恋した「湖の乙女」が接近したことから、ペレアス卿は「湖の乙女」と愛し合うようになります。そして馬上槍試合があるときはランスロット卿と同じ側につかないかぎり試合の場所には着けない、つまりランスロット卿と戦えないように魔法をかけられるのです。
彼が「円卓の騎士」に叙せられる直前の大会では見事に優勝を果たしており、弱いわけではありません。
他の騎士が聖杯探求、ランスロット卿の内乱により大勢死亡したが、「湖の乙女」に愛されたペレアス卿は安楽な最期を迎えることができたと言います。
最後に
今回は「アーサー王伝説:その他の騎士」についてまとめました。
彼ら以外の「円卓の騎士」は名前が出てくるだけの場合が多いので省いたことをご了承くださいませ。
次回はいよいよ『アーサー王伝説』の物語の軸である「聖杯探求とランスロットの不義」についてです。
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