678.事典篇:アーサー王伝説:ランスロットの血族

 今回はランスロット卿とその血族についてまとめました。

「聖杯探求」で成果を挙げたボールス卿も含まれます。

『アーサー王伝説』はアーサー王とランスロット卿との間柄で成立している作品であることがわかるでしょう。





事典【アーサー王伝説:ランスロットの血族】


 今回は「湖の騎士」と称されたランスロット卿とその血族についてまとめました。

 ランスロット卿は「円卓の騎士」の中で実力第一の騎士と誰もが認める力量を持っていたのです。

 しかし王妃グィネヴィアとの不義密通が原因で「円卓の騎士」を二つに割ってしまいます。

 その結果ランスロット卿派とアーサー王&ガウェイン卿派の戦いが発生するのです。

 戦いの最中にアーサー王がブリテンの統治を任せていた王の不義の実子モルドレッド卿が不貞な企みを実行に移します。

 ランスロット卿は休戦を申し込んで、アーサー王をブリテンへと送り出したのです。

 こうして「カムランの戦い」が始まり、ランスロット卿がアーサー王を支援すべくブリテンへと渡ろうと準備をしている中で、アーサー王はモルドレッド卿と相討ちになってしまいます。

 実力は第一で品性もあったランスロットは、貞操を守れなかったがゆえにすべてを破滅に導いてしまったのです。




ランスロットの血縁

ランスロット卿

 湖の騎士。この世で最も誉れ高き最高の騎士。ラーンスロット、ランスロ、ランスローとも。愛剣はアロンダイトという刃こぼれしにくい剣。

 フランスの一地方を治めていたベンウィックのバン王の息子で、両親とも早くに他界しています。ランスロットは「湖の乙女」ニミュルという妖精に育てられたため「湖の騎士」とも呼ばれるのです。

 その後成人になると武者修行のためブリタニア(ブリテン島)に渡り、そこでアーサー王と運命的に出会いました。そして彼に惚れ、のちに「円卓の騎士」の中でトリスタンと並ぶ最強の騎士として名を馳せることになります。

 馬上槍試合では槍、剣術、乗馬のどれも彼の右に出る者はいなかったそうです。騎士としての行動や振る舞いもまた素晴らしいものでした。

 サラセンの騎士パラミデュース卿はイゾルデに求婚したことがあったため、イゾルデの密かな恋人トリスタンと敵対関係にありました。あるときパラミデュース卿は悪辣な騎士ブリューズ・サン・ピティと九人の騎士に襲われ負傷したのです。そこを通りかかったトリスタンに助けられます。しかし相手がパラミデュース卿だと知ると、数日後にキャメロットの近くの川にあるマーリンの碑で決闘するよう要求されたのです。

 ランスロット卿は、傷も癒えず弱り果てたパラミデュース卿の姿を見かねて、彼の白装束を借り受けて対戦相手の名前も聞かずに代わりに決闘へ出かけます。

 後日ランスロット卿がアーサー王に反旗を翻したとき、パラミデュース卿はランスロット卿派についてフランスに領地を与えられます。アーサー王の死後も、すでに改宗していたパラミデュース卿はランスロット卿に付き従って出家したのです。

 カーボネック城のペレス王の娘エレインは魔法の薬の幻覚と家臣らの演技を使ってランスロット卿にグィネヴィア王妃と誤認させて一夜をともにします。このとき身籠った子がガラハッド卿でした。

 アーサー王の妃グィネヴィアに通じており、主君アーサー王に密告されるのを恐れて、「円卓の騎士」ガウェイン卿の弟であるアグラヴェイン卿を含む十二人の騎士たちを愛剣アロンダイトで斬殺しています。

 王妃グィネヴィアが不義の罪で火刑に処せられるべく刑場に引き出され、そこをランスロット卿一族が急襲し警備に当たっていた多数の「円卓の騎士」を殺してグィネヴィアを救出します。このときガウェイン卿の弟ガヘリス卿とガレス卿を殺してしまうのです。三人の弟を失ったガウェイン卿はランスロット卿討伐を強硬に主張するようになります。

 ランスロット卿と王妃グィネヴィアを追討するためアーサー王は国中に触れを出しますが、人望あるランスロット卿を助けるべく「円卓の騎士」の半ばまでがアーサー王の命に従わなかったのです。こうしてランスロット卿とアーサー王を巡って「円卓の騎士」は二つに割れてしまいます。

 ランスロット卿はアーサー王が一騎討ちを挑んできてもそれに応じませんでした。またあるときはランスロット卿側についた「円卓の騎士」のボールス卿がアーサー王を打ち倒し、剣を抜いてアーサー王の首を掻こうとしましたが、ランスロット卿はそれを止めて王の命を助けます。

 ロチェスター僧正の仲裁で王妃グィネヴィアはアーサー王のもとに返され、一年間の休戦となりました。ランスロット卿とランスロット卿派の「円卓の騎士」はフランスへと渡ります。そこでエクター・ド・マリス卿、ブレモア卿、ボールス卿、ライオネル卿、ラヴェイン卿、パラミデュース卿、サフィア卿、ブレオベリス卿といった味方する「円卓の騎士」たちに自らと同じだけの広さの領地を与えて報いたのです。

 休戦が解けるとアーサー王の軍勢はフランスへ攻め込んできますが、「円卓の騎士」同士の戦いに嫌気が差したランスロット卿は使者を送って和議を申し出ます。しかし三人の弟を殺されたガウェイン卿はこの申し出を受け入れないようアーサー王に迫り、可否を巡ってランスロット卿とガウェイン卿は一騎討ちを行ない、ガウェイン卿は重傷を負ってしまうのです。

 さらにひと月経つとモルドレッド卿がブリテンで反乱を起こします。

 ようやく和議を受け入れたガウェイン卿は「カムランの戦い」の先発隊としてブリテンに渡りますが、傷の上を打たれ、それがもとで死んでしまいます。アーサー王もまたガウェイン卿の霊が枕元に立って「ランスロットと合流してから会戦に挑め」と忠告したにもかかわらず、和議に失敗して単独でモルドレッド卿に挑んでしまいます。

 結局ふたりは相討ちとなり、アーサー王に従った「円卓の騎士」の大半もここ「カムランの丘」で討ち死にしてしまいます。「円卓の騎士」でランスロット卿に従った半数を除けば生き残ったのはベディヴィア卿と王位を継いだコンスタンティン卿だけでした。

 アーサー王の死後、王妃グィネヴィアは出家し、迎えに来たランスロットをも拒絶します。無二の親友ガウェイン卿と主君アーサー王そして多くの「円卓の騎士」の死に責任を感じたランスロット卿も出家を決意します。

 ランスロットとグィネヴィアは二度と会うことなく、グィネヴィアの死が伝えられると、ランスロットは自ら食を絶って生を終えました。


エクター・ド・マリス卿

 ベンウィックのバン王の息子でランスロット卿の弟。アーサー王の養父「エクター卿」と同名のため出身地を付けて「エクター・ド・マリス」と呼ばれます。

 行方不明になるランスロット卿を捜索するエピソードにしばしば登場します。また聖杯探求中にそれとは知らずパーシヴァル卿と槍試合を行ない、自身も重傷を負ったものの、パーシヴァル卿にも瀕死の負傷をさせています。このときは突如現れた聖杯により、たちまちのうち怪我が治癒されたのです。漁夫王、ランスロット卿とともに聖杯の恩恵を受けた数少ない人物。その後ガウェイン卿としばらく旅を続けますが、結局聖杯は見つけられずキャメロットに帰還しました。

 ランスロット卿の離反により「円卓の騎士」が割れた際ランスロット卿派に属し、ボールス卿、ライオネル卿らとともにアーサー王と戦ったのです。アーサー王とランスロット卿の間に和議がなるとランスロット卿からベンウィックとギエンヌの王に封じられます。

 アーサー王の死後、ランスロット卿が行方不明になると彼を探しにイングランドやウェールズを七年間探しまわったのです。ようやく居場所を探り当てたときにはすでにランスロット卿は死亡していました。

 その後はランスロット卿の遺言で聖地回復のため、トルコ人との戦いに出発したボールス卿らに同行し、聖金曜日に死亡したのです。


ボールス卿

 ガリアのボールス王の息子であり、ライオネル卿とは兄弟。ボールス王がベンウィックのバン王と兄弟であるため、ランスロット卿の従兄弟にあたります。聖杯探求を成し遂げた三人の騎士のひとりです。

 放浪癖のあるランスロット卿を探しまわることが多く、ランスロット卿になにかあると相談役として王妃グィネヴィアに呼び出されたり、ランスロット卿の代理として王妃グィネヴィアから試合に出るよう依頼されるなど、王妃グィネヴィアからかなり頼りにされていました。

 聖杯探求においてガラハッド卿やパーシヴァル卿のような活躍はないものの、彼らとともに旅をして、ついに聖杯に到達しました。しかしこの後ガラハッド卿、パーシヴァル卿が相次いで死亡してしまうのです。

 聖杯は「童貞」でなければ得られないとされていたためと言われています。ボールス卿は一度だけ女性と臥所をともにしたことがありましたが、以後は悔い改めて童貞を守っていたため、ランスロット卿すら到達できなかった聖杯に到達できたのです。

 こうしてボールス卿は唯一の生き残りとして聖杯をアーサー王の宮廷キャメロットへ持ち帰り、聖杯について報告しました。

 ランスロット卿がアーサー王と対立して内乱が始まるとランスロット卿派について活躍し、とくにアーサー王を落馬させてもう少しで命を奪える状況まで追い詰めたことで有名です。しかしランスロット卿に命じられ渋々ながらアーサー王を解放しています。

 和議によって戦争が終了すると、ランスロット卿にクローダスの国王に封じられるのです。

 のちにランスロット卿が出家すると彼に従い自身も出家します。

 ランスロットが死亡すると彼の意思に従い、エクター・ド・マリス卿らと聖地に向かってトルコ人らと戦い聖金曜日に死亡したのです。


ライオネル卿

 ボールス王の息子で兄弟にボールス卿。ランスロット卿の従兄弟。

 父の死後、弟のボールス卿、ランスロット卿とともに湖の乙女によって養育されます。成長して「円卓の騎士」となるのです。

 聖杯探求の旅ではボールス卿の旅に同行します。

 旅の途中、二股に分かれている道で一方ではライオネル卿がリンチを受け、もう一方では乙女が襲われているのをボールス卿らが目撃します。ボールス卿は兄を後回しにして乙女を助けてからライオネル卿の元へ向かいますが、すでに死亡していました。しかしとくに説明もないまま生き返り、自分を助けなかったボールス卿と、その場にいたコルグレヴァンス卿を恨み、襲いかかるのです。たちまちコルグレヴァンス卿を殺害した後、無抵抗なボールス卿をも殺害しようとしますが、神の声が聞こえて正気に戻ります。

 ランスロット卿がアーサー王と対立するとランスロット卿派に属し、アーサー王軍と戦ったのです。ガウェイン卿と戦うも敵騎士を討ち取るようなレベルでは活躍していません。この戦いののちランスロット卿よりフランス王に封ぜられました。

「カムランの戦い」ののち、ランスロット卿がアーサー王と王妃グィネヴィアを求め放浪の旅に出ると、ライオネル卿はランスロット卿を探索するためブリテン島に上陸。同じく探索に出ていたボールス卿、エクター・ド・マリス卿らはランスロット卿に会うことができたものの、ライオネル卿は出会えないままモルドレッド軍の残党に会い殺されてしまいました。


ガラハッド卿

 カーボネック城ペレス王の娘エレインとランスロット卿の息子。「円卓の騎士」にして聖杯を見つけた三人の騎士のひとり。

 エレインは魔法によってランスロット卿を騙して結婚しガラハッドを産みますが、正気に戻ったランスロット卿に捨てられます。ガラハッドは修道院に預けられて育てられます。ですが幼い頃にマーリンが「ガラハッドは父ランスロット卿を凌ぐ武勇を身につけ、聖杯を発見する」と予言していたのです。

 大人になると父ランスロット卿の元に行き、キャメロットのアーサー王に引き合わされてさまざまな試験を受けます。彼はそれらの試験を軽々と達成し「世界で最も偉大な騎士」と称され「円卓の騎士」に加わるとともに、聖杯探求の任務を与えられるのです。

 そしてついに聖杯を見つけたガラハッドは最も穢れのない騎士として神々のもとに召されることになりました。





最後に

 今回は「アーサー王伝説:ランスロットの血族」についてまとめました。

 ランスロット卿が王妃グィネヴィアと密通したことで、「円卓の騎士」は瓦解したのです。

 しかし息子ガラハッド卿は聖杯探求に成功し、最も穢れのない騎士と認められました。

 それもランスロット卿を反面教師にしたところがあったのかもしれません。



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