674.事典篇:アーサー王伝説:世界観

 今日から手早く『アーサー王伝説』について見ていきます。

 まずは大きな流れと初期の重要人物を挙げました。





事典【アーサー王伝説:世界観】


 五世紀末にサクソン人を撃退したとされるアーサー・ペンドラゴンが、ブリテン人(ウェールズ人)の王となり、ローマ皇帝を倒して全ヨーロッパの王となる物語です。

 アーサー王は円卓の騎士を集め、冒険とロマンスに彩られた華やかな時期を迎えます。

 だいたいこの時期が「剣と魔法のファンタジー」の舞台として描かれているのです。よく「中世ヨーロッパ風」と語られることの多い「剣と魔法のファンタジー」の多くは五世紀末から六世紀くらいのことであり、とても「中世ヨーロッパ風」とは言えません。

 円卓の騎士たちは、のちに「イエスが最後の晩餐で使用した」とも「十字架上のイエスの血を受けたもの」ともされる「聖杯」を探す旅に出ます。聖杯を発見した騎士はガラハッド卿、パーシヴァル卿、ボールス卿の三名と伝えられているのです。しかし聖杯をブリテンに持ち帰ったのはボールス卿のみ。ガラハッド卿は聖杯を奉じて殉じ、パーシヴァル卿は聖杯に拒絶されました。聖杯を手にできる「資格」を有していたのはボールス卿だけだったのです。聖杯が見つかった城のことを以後「聖杯城」と呼ぶこととなります。

 後日その聖杯城へ赴く騎士ランスロットは王女グィネヴィアとの不義関係が発覚。円卓の騎士はアーサー王&ガウェイン卿派とランスロット卿派に割れ、その対決の最中にアーサー王の実子モルドレッド卿が内乱「カムランの戦い」を引き起こします。この内乱によって偉大なるブリタニア王国は崩壊するのです。瀕死のアーサー王はコンスタンティン卿へ王位を継承し、モーガン・ル・フェイやニミュルらとともにアヴァロン島へ船出して『アーサー王伝説』は幕を下ろします。




アーサー王

 ブリタニア(ブリテン人の国)の王。

 ユーサー・ペンドラゴンの息子で、「これを引き抜いた者は王となるだろう」と書かれた台座に刺さっていたカリバーンを引き抜き、魔法使いマーリンの助けで名君へ成長していきます。

 その途中湖の中で聖剣エクスカリバーを手に入れたり、キャメロット城を拠点として巨人退治やローマ遠征などさまざまな冒険を重ね、アイルランド、アイスランド、オークニー諸島を征服。十二年の平穏ののちさらにノルウェー、デンマーク、ガリア(フランス)を占領します。当時ガリアはローマ帝国に服していたため今度はローマ帝国と対峙することとなりローマ皇帝を打倒してイタリアを占領したのです。こうして巨大なブリタニア王国を築きあげました。

 アーサーはグィネヴィアを妃に、諸侯の騎士たちを臣下に迎えて円卓に席を与え、こうして有名な「円卓の騎士」が結成されたのです。

 しかしランスロット卿と王妃グィネヴィアの不義密通から円卓の騎士は分裂します。フランスへ逃亡したランスロット卿と戦うためにアーサー王は出兵することになったのです。国政は異父姉との間にもうけた不義の子モルドレッド卿を摂政に任じました。しかしモルドレッド卿が謀反を起こしたのです。

 モルドレッド卿はグィネヴィアを妃に迎えようとしましたが拒絶されたうえロンドン塔に籠城されたので、軍を率いて取り囲みます。事情を聞き、軍勢を率いて舞い戻ったアーサー王は、「カムランの戦い」でモルドレッド卿と一騎討ち。槍で突き刺して討ち取るものの、黄金の兜の側面から強烈に叩きつけられて深手を負ってしまったのです。

 その後ベディヴィア卿に指示して湖の水面から現れた手に聖剣エクスカリバーを返させます。そうして小船に乗ってブリテンを去るのです。

 アヴァロン島へ傷を癒やしに行ったのだと言われています。またアーサー王はアレクサンドロス三世と湖の乙女との子孫ともされているのです。



マーリン

 アーサーを補佐し、導く魔術師。ウェールズ南西部の小国ダヴェドの王女が夢魔インキュバスに誘惑されて産んだ子とされています。インキュバスとは「地と月の間に住む精霊で、一部は人で一部は天使である種族」とされており、夢魔とマーリンは聖なる存在として扱われているのです。

 グレートブリテン島の未来について予言を行ない、ブリテン王ユーサー・ペンドラゴンを導き、ストーンヘンジを建築しました。のちの文学作品ではユーサーの子アーサーの助言者としても登場するようになったのです。

 暴君ヴォーティガーンの弟オーレリアン・アンブローズ(アンブロシウス・アウレリアヌス)とユーサーの軍勢が明日トットネスに上陸し、兄王を誅殺するだろうと予言します。ヴォーティガーンは父コンスタンティン二世と長兄コンスタンスを殺して王位を簒奪したため、下二人の弟はそれを恨みに思っていたのです。

 予言どおりオーレリアンが勝利して新たなブリテン王となります。戦勝碑を作るべく森のなかに隠棲していたマーリンを探し出し、彼からアイルランドのキララウス山中にある「巨人の舞踏」という巨石を使うのが良いと言われたのです。伝え聞いた王は一笑に付しましたがマーリンが重ねて「太古の巨人がアフリカからアイルランドに運んだ魔法の石である」こと、「石には治癒の効果がある」ことを説くと、弟ユーサーに一万五千の兵を付けてアイルランドに向かわせました。

 遠征中にオーレリアンが毒殺されると、夜空に二つの光線を吐く竜の形をした星々が現れたのです。マーリンに占わせると、兄王が死んだこと、ユーサーは戦に勝利すること、光線のうちガリアに伸びるのはのちに産まれる彼の息子がガリアを征服すること、もうひとつの弱々しい光線は娘アンの息子と孫たち(モルドレッドとその二人の息子)がブリテンを継ぐことを示すと言います。アイルランドに勝利した後、王位に就いたユーサーは、マーリンの予言を思い出して黄金で二つの竜を作り、ペンドラゴンすなわち「竜の頭」と名乗るようになったのです。

 ユーサーはエームズベリーに「巨人の舞踏」を使った巨石建築群を建てて死ぬまでそこで指揮を取り、崩御後もその下に埋葬されました。後世これがストーンヘンジと呼ばれ、オーレリアン、ユーサー、アーサー、コンスタンティン三世の四代のブリテン王のうち、アヴァロン島に旅立ったアーサーを除く三名が葬られているとのことです。

 ユーサーはコーンウォール公ゴルロイスの妃イグレインに一目惚れしてしつこく言い寄ったことからゴルロイスと戦争状態になりました。ユーサーはマーリンを呼び出し、魔法の薬でゴルロイスとその従者に化け、イグレインのいるティンタジェル城に侵入して彼女と一夜をともに過ごしました。このとき懐妊したのがのちのアーサー王です。

 マーリンはアーサー王の治世下で、即位に反対する勢力との戦いに助言して王を勝利へ導いたり、王を『湖の貴婦人』の元に導いて聖剣エクスカリバーを授かったりするなど活躍しました。

 彼は数多くの女性に言い寄る色男とされています。アーサー王とグィネヴィアの結婚式ののちマーリンは湖の乙女(湖の貴婦人)ニミュル(あるいはニニーヴ、ニヴィアン、ヴィヴィアンとも)に夢中になります。ニミュルはペリノア王が宮廷に連れて帰ってきたのですが、ニミュル側でもマーリンの魔術をすべて習得したいという欲があり、しばらく二人で交際していたが肉体関係はなかったそうです。

 マーリンはアーサー王に対して近いうちに自分は生きながら地中に埋められるだろうからと前置きして、国の行く末をあれこれ予言し「エクスカリバーとその鞘だけは絶対に護るように」と忠告すると、ニミュルと一緒に旅に出ます。旅の道中でもマーリンは魅了の魔法を使おうとしたりたびたび強引に彼女の純潔を奪おうとしたため、ニミュルはうんざりするとともにマーリンが悪魔の子なのではないかと恐怖も湧いてきたのです。途中、魔法で大きな岩の下にはまっている岩があり、マーリンはニミュルをそこへ案内しました。ニミュルは巧みにマーリンを石の下に潜り込ませると、どんな魔術を使っても二度と出られないように封印したとされます。

 ニミュルはその後円卓の騎士のペレアス卿と結婚し、魔術の力で王や円卓の騎士全員を助けているのです。ニミュルはペレアス卿が死ぬまで添い遂げ、アーサー王が「カムランの戦い」で傷つくと、モーガン・ル・フェイら二人の貴婦人とともに王をアヴァロン島へと導いたとされます。



ユーサー・ペンドラゴン

 ウーサー、ウーゼルとも。ブリタニアの王のひとりでアーサー王の父ともされます。

 ブリタニアで兄アンブロシウス・アウレリアヌスとサクソン人との戦いにおいて軍を率いていたのです。そのとき空に大きな彗星(「火の竜の星」)が尾を引きます。ユーサーが魔術師マーリンに尋ねるとアウレリアヌスの死を告げ、「ブリテン人がサクソン人に勝たねばならぬ」こと、「星の筋がユーサーに生まれるという息子が立派な王になる」ことを示しており、子孫は皆ブリタニアを治めていくだろうと語ったといいます。

 ユーサーはサクソンに勝利し、新たなブリテンの王となったのです。「火の竜の星」を記念して二匹の黄金の竜を作り、「ペンドラゴン」という称号で呼ばれるようになります。

 ユーサーは敵国王妃イグレインに恋し、妃を奪うためコーンウォールに攻め入り、マーリンの力を借りて敵王ゴルロイスに姿を変えます。そのとき本物のゴルロイスはすでに戦死していたのです。その姿のまま妃と交わって欲望を満たしたユーサーは、その後イグレインと結婚し、産まれてきた子をマーリンに預けます。この子こそアーサー王なのです。



グィネヴィア

 アーサー王の妃。レオデグランス王の娘で、アーサー王が後ろ盾を必要としていたときに婚約しました。

 ランスロットとの禁断の恋で有名です。アーサー王が死ぬ「カムランの戦い」が発生したのも、アーサーの不義の息子モルドレッドがグィネヴィアと結婚しようとしたからとされています。



モルゴース

 アーサー王の異父姉の中の長姉。コーンウォール公ゴルロイスとイグレーヌの間に生まれる。

 アーサー王に敵対したオークニーのロット王と結婚し、息子としてガウェイン卿、アグラヴェイン卿、ガヘリス卿、ガレス卿らをもうけます。さらに異父弟アーサーとの間にモルドレッド卿を産んでいるのです(モルドレッド卿はモーガン・ル・フェイの息子ともされています)。

 ロット王とアーサー王が敵対した際に、アーサー王の宮廷の様子を探るためスパイとして侵入します。このときアーサー王が美しさに焦がれて性的関係を持ち不義の子モルドレッドを孕むのです。

 ロット王を討ち取った人物の息子であるラモラック卿を愛人としました。しかし母が仇の息子と関係していることを疎ましく思ったガヘリス卿によってモルゴースは殺害され、ガヘリス卿がガウェイン卿・モルドレッド卿らとともにラモラック卿を殺します。


エレイン

 アーサー王の異父姉の中の次姉。ネントレス王の妻。同じ両親から産まれた姉妹にモルゴース、モーガン・ル・フェイがいます。


モーガン・ル・フェイ

 妖姫。古い読みではモルガン・ル・フェで『妖精モルガン』の意。ケルト神話の女神モリガンと同一視されます。アーサー王の異父姉の中の末姉。ユーウェイン卿らの母。

 ティンタジェル公ゴルロイスと妻イグレインとの間に産まれた三姉妹の末娘とされます。母イグレインがユーサー・ペンドラゴンと再婚したのちキリスト教の修道院にて修業し、医術と魔術に通じて修道院での堕落した教育で不思議な妖術を突然身につけ、妖姫として異父弟アーサーの前に立ちはだかるのです。のちにマーリンが彼女の魔術を磨く手伝いを始めます。

 ランスロット卿の妻となるペレス王の娘エレイン姫の美しさを妬み、彼女を幽閉してランスロットを誘惑するのです。

 モルドレッド卿が王位奪取を企んでいると知り、アーサー王の最強の敵となります。モルドレッド卿とともに、グィネヴィアがランスロット卿と通じていることをアーサー王に告げました。

 また聖剣エクスカリバーの魔法の鞘(傷を癒やす力と持つ者を不死にする力を誇る)をアーサー王から盗み、恋人であるアコーロンに与えたことから、アーサーがアコーロンを敵に回して戦う窮地に陥ったのです。のちにモーガンが魔法の鞘を湖に投げ込みます。これによってエクスカリバーはアーサー王を守る不死の力を失い、やがてアーサー王はモルゴースとの間に産まれた不義の子モルドレッド卿との「カムランの戦い」で致命傷を負うのです。そして彼はドルイド信仰の伝説の聖地アヴァロン島で命を落とすことになります。





最後に

 今回は「アーサー王伝説:世界観」についてまとめました。

 アーサー王が敵方の血を引いていたことは、ケルト神話の太陽神ルーの影響があったのでしょう。

 アーサー王の「三人の異父姉」が、ケルト神話の「戦の三姉妹」を引き写しています。

 次回から「アーサーの縁者」「ガウェインの血族」「ペリノア王の血族」「ランスロットの血族」「その他の騎士」「聖杯探求からカムランの戦いまで」についてそれぞれまとめましたので、日を追って投稿する予定です。


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