673.事典篇:ケルト神話:英雄
今回は「ケルト神話における英雄」についてまとめました。
太陽神ルーの子にして筋肉の塊クー・フーリンと、その輝く金髪で「フィン」と呼ばれたフィン・マックールの二名についてです。
事典【ケルト神話:英雄】
ケルト神話における英雄は二名います。
ひとりが野生的なクー・フーリンと、もうひとりが華麗なる騎士団長フィン・マックールです。
英雄
クー・フーリン
父はダーナ神族の太陽神ルー、母はコンホヴァル王の妹デヒティネ。幼名セタンタ。クー・フラン、クー・フリン、ク・ホリン、クー・ハラン、クークリン、クー・クラン、キュクレインとも。
御者ロイグが駆る、愛馬マハの灰色とサングレンの黒毛の二頭立ての戦車に乗ります。髪は百本の宝石の糸で飾られ、胸には百個の金のブローチを付け、左右の目には七つの宝玉が輝く。美しい容貌だが戦意が高まり興奮が頂点に達すると「ねじれの発作」を起こして怪物のようになります。
コノア王が鍛冶屋クランの館に招かれた際、セタンタにも声をかけるのですが、ハーリングの最中であったため終わってから行くと答えます。しかし王がそれをクランに伝え忘れたため、館にはクランの番犬が放たれてしまうのです。
そうとは知らずにやってきたセタンタは、番犬に襲われますが逆に絞め殺してしまいます。猛犬として名高い自慢の番犬を失い嘆くクランに、自分がこの犬の仔を育てて成長するまでクランの家を番犬として守ると申し出るのです。この事件をきっかけに、セタンタはクー・フーリンと呼ばれるようになりました。
ある日ドルイドのカスバドが「今日騎士になる者はエリンに長く伝えられる英雄となるが、その生涯は短いものになる」という予言をしたと聞き、騎士となるべく王の元へと向かいました。まだ早いと渋る王に対し、槍をへし折り、剣をへし曲げ、戦車を踏み壊して自身の力を見せつけたのです。観念した王はクー・フーリンを騎士とし、彼の力にも耐えられる武器と戦車を与えました。
フォルガルの娘エメルに求婚しますが断られ、影の国を訪れて女武芸者スカアハの下で修行を行ないます。修行仲間にコノートのフェルディアがいて、彼と親友となったのです。
修行中、影の国ではスカアハと対立するオイフェ(双子の姉妹との説も)との間に戦争が起こりました。
スカアハはクー・フーリンが戦場に出ないよう睡眠薬を盛りますが、クー・フーリンには効き目が薄く止めることはできなかったそうです。
戦いは膠着し、オイフェは一騎討ちで決着をつけようとしますが、スカアハは負傷していたため代わりにクー・フーリンが一騎討ちを行ない、オイフェを屈服させて生け捕りにしました。その後オイフェを妻として息子コンラを授かるが、息子のコンラの存在をクー・フーリンは知らなかったそうです。
スカアハの修行仲間は何人もいましたが、クー・フーリンはただひとり
その後帰国したクー・フーリンはエメルとの結婚を許さなかったフォルガルを打倒してエメルを娶ったとされます。
コノートの女王メイヴとの戦いで、やむをえなかったとはいえ修行時代の親友フェルディアをゲイ・ボルグで殺してしまうのです。のちにクー・フーリンを訪ねてやってきた彼の息子コンラもその存在を当人が知らなかったがために殺されてしまいます。
ゲッシュ(禁忌)を破ったために半身が痺れたところを敵に奪われたゲイ・ボルグで刺し貫かれて命を落としたとされています。
騎士団長フィン・マックール
エリン(アイルランドの古名)の上王コーマックを守るフィアナ騎士団の首領。生来の名はディムナ(デムナ)だったが、金髪で肌が白くて美しいことから「フィン(金色の髪の意)」と呼ばれるようになったとされます。
ヌアザの孫娘マーナ(ムィルナ)とフィアナ騎士団の団長クール‥マックトレンモーの間に生まれディムナと名付けられました。父はフィンが生まれる前に隊長のひとりであったゴル・マックモーナ(ゴール・マック・モーン)に殺されたのです。出産間近だったマーナはゴルがクールの息子を生かしておくまいと恐れ、信頼できる二人の侍女を連れて山の隠れ家へと逃げました。出産後は自分がいては息子の身の危険につながると、二人の侍女へ息子を預け、ひとりさすらい消えました。
二人の育て親に荒野で生きる術を授けられたディムナは素晴らしい狩人になったのです。ある日家である小屋から離れたところに出歩いて、ディムナと同じ年頃の少年たちがしているハーリングに興味を持ち、仲間に入って遊ぶとたちまち上達してひとりで全員を相手に勝利を収めます。
このことを知った少年たちの族長がディムナに興味を持ち、名前を誰も知らなかったので、外見の特徴である「太陽のように明るい髪をしている」から「フィン」と呼ばれるようになったのです。
噂で耳にしたゴルは、フィンがクールの息子ではないかと恐れ、配下の騎士たちに見つけ出して捕まえるように命じてフィン捜索の騎士たちが野に放たれました。
そのことを魔術で見聞きしたフィンの育ての親のひとりである魔女は彼に出生を明かして槍を渡し、フィアナの団長としての地位を勝ち取るための旅に出したのです。旅の中で王や族長に仕えて戦士としての経験を積みます。
騎士団長にふさわしい知恵をつけるためボイン川近くで出会ったドルイド僧フィネガスの弟子となりました。
七年経ちもうすぐ成人しようというとき、フィネガスに命じられ、食べた者にあらゆる知識を与えるという「知恵の鮭」の調理を行なったのです。フィネガスは鮭料理を前に持ってきたフィンの顔つきが変わったことに気がつき、鮭を食べたか聞きました。フィンが「焼いている最中に油が親指にはねやけどをしたので傷をなめた」と答えると、フィネガスはフィンに鮭を食べさせたのです(このあたりは『北欧神話』で魔竜ファフニールの心臓の血を舐めてあらゆる言葉がわかるようになったシグルズにそっくりです)。以後フィンは難解な問題に立ち向かう際親指をなめることによって知恵を得られるようになり、両手ですくった水を怪我人や病人を救う癒しの水へと変えられるようになりました。
知識と癒やしの力を得たフィンは、サラワン祭りの頃にターラの王宮の上王コーマックの元へ行き、自分の出生を明かして近衛騎士として仕えることを申し出ます。フィアナ騎士団に所属するには団長ゴルに忠誠を誓わなけれはならなかったからです。
王に快く受け入れられたフィンですが、宴の中で「宮殿を二十年間毎年サラワン祭りの頃に燃やしてしまう『炎の息のアイレン』という怪物を倒したものに褒美をとらせる」との上王の言葉を聞き、騎士団長の座を賭けて戦うこととなります。
『炎の息のアイレン』は竪琴の音を聞いた者を魔法の眠りにつかせる力を持っているため、これまで誰も倒せなかったのです。フィンは父に恩のある騎士のひとりから神々の刀鍛冶レインの作った魔法の槍を受け取っていました。この槍は太陽の火と月の秘力を鍛え込まれて月光のように青く輝き、袋をかぶせておかないと勝手に血を吸おうとする獰猛な槍で、穂先に額を当てることで眠気を吹き飛ばすことができたのです。これによりフィンはアイレンの音色を破って討ち倒します。
こうしてフィンはフィアナ騎士団の首領の座に収まり、父の仇である前団長ゴルとも手を結んだそうです。一説によればゴルを決闘で倒して騎士団長の座を得たとされます。
団長になるにあたり上王からキルデアにあるアルムの砦を与えられ、優秀な騎士を多数配下として従えたのです。フィアナ騎士団は三千人を超え、入団希望も跡を絶たなかったが、入団に厳しい試験を設けたため入団できる者は限られました。フィンの死とともに騎士団の栄光も終わりを迎えることとなります。
フィンは公平であり、物惜しみもせず、人を笑って許す、多くの騎士たちに慕われたすぐれた将でした。その一方で月の影のような側面もあり、深い恨みを長年溜め続け、相手が死ぬまで憎むこともあったといいます。
最初の妻サーバは妖精であり、同族の黒いドルイドによって鹿に変えられていたところをフィンが助けて出会ったのです。本当の姿を取り戻した彼女と暮らすうちに二人は愛し合うようになり、妖精との種族と寿命の差による多くの悲しみと苦難を覚悟して婚姻を結びました。騎士団長としての役目で出陣している間に、フィンに化けた黒いドルイドによってサーバは再び鹿に変えられさらわれてしまいます。フィンは七年間彼女を探し続けるものの見つかりませんでした。
サーバがさらわれてしばらくのときにエイネーとミルクラという美しいダーナ神族の姉妹に求婚されましたが、ふたりには見向きもせずに妻を探しました。婚約が無理なら誰のものにもならないようにしてしまおうと考えたミルクラの策略と魔法によりフィンは老人に変えられてしまいます。その後エイネーの黄金の杯により魔法は解けますが、彼女の夫となる気がなかったフィンは髪だけは元に戻さず生涯金の髪は銀色に輝くことになったのです。その後、森で出会った不思議な少年から、彼がフィンとサーバの子であること、鹿に変えられたサーバは黒いドルイドを拒み続けたものの最期は身体を操られ従わされたことを聞かされ、二度とサーバと会えないことを悟りました。そして息子をアシーン(小さな子鹿の意)と名付けたのです。
長い年月が経った後に黒膝のガラドの娘マーニサーを二人目の妻に迎えます。子も成し生活は順調でしたが彼女が先に死んでしまい、老年に差しかかってまた独り身となります。
サーバを失った悲しみを思い出しているフィンの気持ちを察したアシーンは結婚を薦め、騎士ディアリンは上王の娘グラーニアを挙げ、気乗りはしなかったものの上王とグラーニアの了承を得て結婚が決まりました。
しかし結婚の宴の場でグラーニアは老年のフィンとの結婚を嫌がり、騎士ディルムッド・オディナに惚れ込んで彼をゲッシュ(禁忌)によって縛り駆け落ちを強制させてしまいます。
グラーニアを奪ったディルムッドに激怒したフィンは彼を殺そうとしますが、配下の騎士たちは彼との友情から気乗りしなかったそうです。人間ではディルムッドを追い詰められないと知ったフィンは、育ての親の魔女に助力を請いますが、彼女もディルムッドの返り討ちにあって殺されてしまいます。
彼らの不和が多くの騎士と養い親の命を奪ったことに気落ちしたフィンはディルムッドと和睦したが恨みは完全に消えていませんでした。
フィンとディルムッドの前に恐ろしい猪が現れた際ディルムッドが猪殺しはゲッシュ(禁忌)とされていることを知りながら猪に挑みかかり、猪の牙により致命傷を負ったのです。
フィンは癒しの水で助けようとしつつも心がそれを拒み、ディルムッドと孫のオスカ(オスカルとも)の言葉もあって三度目でディルムッドの元へ癒やしの水を運ぶことに成功するものの彼は息を引き取っていました。これによりディルムッドの親友であったオスカの間に確執が生じてしまうのです。
その後グラーニアのもとに健気に通い、軽蔑されても愛情深い態度を崩さず、ついに彼女と正式な婚姻を結びました。しかし騎士たちの反応は冷ややかで、フィンがディルムッドよりグラーニアを選んだ。割の悪い取引をしたと蔑みました。その後グラーニアは一生を砦で過ごしたのです。
ディルムッドの死からしばらく後、上王が代替わりします。新しい上王ケアブリはフィンとフィアナ騎士団を恐れ嫌っていました。ケアブリは騎士団との誓いを破り使者を殺害して宣戦布告した結果、騎士団を捨て上王に従う者と、フィンに従う者と真っ二つに分かれてしまいます。
両派閥は互いに援軍を連れて戦争となり、オスカはケアブリと相討ちとなるのです。孫のオスカの死を嘆くも確執があると理解し、オスカも冗談と悲しみに浸りながら死亡します。
孫を看取ったことで年老いたフィンに再び若き日の勇猛心が目覚め、敵軍の多くを討ち倒しますが、一人ひとりとまた忠臣が倒れていき、ついにひとりで孤軍奮闘するも疲労困憊となったところをアーリューの五人の息子に槍で囲まれたことで終わりを悟り、胸を張って五本の槍を迎えて戦死したのです。
最後に
今回は「ケルト神話:英雄」についてまとめてみました。
これにてケルト神話は終了です。
現実味のある神話ですので、「剣と魔法のファンタジー」のイメージが湧きやすいのではないでしょうか。
明日から『アーサー王伝説』に入ります。
現在「剣と魔法のファンタジー」として知られているのは、この「アーサー王と円卓の騎士」の頃のヨーロッパです。ですので厳密には「中世ヨーロッパ風」と呼ぶべきではないかもしれません。
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