672.事典篇:ケルト神話:ディアン・ケヒトの血族など

 今回は『ケルト神話』ダーナ神族のディアン・ケヒトの血族と、戦の三姉妹についてまとめました。

 太陽神ルーを旗頭に第二次「マグ・トゥレドの戦い」で勝利したダーナ神族が巨人フォモール族を壊滅させて楽園を築きます。

 戦の三姉妹のひとりモリガンが、『アーサー王伝説』でアーサー王の異父姉モーガン・ル・フェイと同一視されることもあるのです。

『アーサー王伝説』を理解するためにも、モリガンは押さえておきましょう。





事典【ケルト神話:ディアン・ケヒトの血族など】


 今回はディアン・ケヒトの血族と戦の三姉妹についてまとめました。

 とくに重要なのは孫のルーです。

 ルーはフォモール族の王「邪眼のバロール」の孫にもあたります。




ディアン・ケヒトの子

エーディン

 ディアン・ケヒトの娘。ダグザの子オグマに嫁いだ女神。


ミアハ

 ディアン・ケヒトの息子。ヌアザの切り落とされた腕を繋ぎ直したとされます。

 ミアハは存在せずディアン・ケヒトの銀の義手によってヌアザの王権が復活したとする説もあります。


キアン

 ルーの父。ディアン・ケヒトの三人息子のひとり、または四男二女のひとりとされますが、近世版物語ではキアンの父はケィンチ(カンタ)です。

 キアンがバロールの娘エスリウとめぐりあい、二人の間からルーが生まれたとされます。

 ダーナ神族でありながら宿怨の相手であるトゥレンの三兄弟(トゥリル・ビクレオの息子たち。ブリアン、イウハル、イウハルバ)との対決を避けるために豚(子犬とも)に変身して難を逃れようとしましたが、見破られて殺されました。キアンの息子ルーは、殺害者から数々の財宝を賠償金エレックとして求めているのです。



ディアン・ケヒトの孫

太陽神(光の神)ルー

 ダーナ神族で医術の神ディアン・ケヒトの孫。キアンと、フォモール族の「邪眼のバロール」の娘エスリン(エスリウ。エスニウ)との間の息子。つまり「邪眼のバロール」の孫にもあたります。英雄クー・フーリンの父とも。

 古写本では「ルー・マク・エスリン(エスリウの子ルー)」と称す場合が多い。母についてはあまり鮮明ではなく、フィル・ヴォルグ族の王妃タルトゥに養われたという記述があります。

 工芸・武術・詩吟・古史・医術・魔術などすべての技能に秀で、サウィルダーナハ(百芸に通じた意)、イルダーナハやドルドナなど「全知全能」を意味する名で呼ばれる場合もあるのです。こうした万能性から、ユリウス・カエサルが『ガリア戦記』の中でメルクリウスと呼んだガリアの神と同一視する学者もいます。

 トゥレンの三兄弟への賠償においてゲイ・アッサル(アッサルの槍)を要求しています。呪文を唱えれば的中させたり召喚したりできます。ですが近世物語ではアラドヴァルと称するペルシア王ピサルの槍であり、水をたたえた釜に漬けおかないと発火性を発揮する槍です。

 エリンの四神器のひとつ「ルーの槍」は「森の一番のイチイ」とも呼ばれ、不敗の槍です。ルーンと同一視する古文書のくだりも存在します。

 他にも海神マナナン・マク・リルより借り受けたフラガラッハ(どんな鎧や鎖でもその一撃を食い止められない剣)や、陸海を駆ける馬アンヴァル、目的地を告げれば自動で航海する魔法の船舶『ウェイヴ・スウィーパー(静波号)』などを所持しています。

 二度目の「マグ・トゥレドの戦い」ではダーナ神族軍の旗頭として参加し、投石器の石を放ってフォモール族で祖父にあたる「邪眼のバロール」を討ち取りました。




戦の三姉妹

モリガン

 破壊、殺戮、戦いの勝利をもたらす三姉妹の戦争の女神(総称してモリグナ)。モリグー、モーリアンとも。

 デルバイス神と女神エルンワスの間の長女。メイへという名の息子がいたが、ディアン・ケヒトに殺害されたそうです。

 予知と魔術で戦いの勝敗を支配する戦女神の一柱。その名は「夢魔の女王」「大女王」を意味しています。

 ヴァハ、バズヴ(ネヴァンとも呼ばれる)と行動をともにします。これら三柱はそれぞれ戦闘の違う側面を体現しているのです。

『クーリーの牛争い』では主人公クー・フーリンを助けたり邪魔したりします。そして第二次『マグ・トゥレドの戦い』の中では詩人にして魔法使い、さらに権力者という複数の役割を演じ、ダーナ神族に勝利をもたらすのです。彼女たちはほぼ毎回カラスもしくは大ガラスとして描かれますが、ウシ、オオカミ、ウサギなど多くの生き物に变化できます。

 主に美しい女性や恐ろしい老婆の姿をしています。

 戦闘時には二本の矛槍を両手に持ち、背が高く膝まである灰色の長髪に、鎧と灰色のマントを羽織り、真っ赤なドレスを着た美しい女傑の姿をして、二頭の真っ赤な馬に牽かれた戦車に乗って戦場に出現します。

 黒いカラスの姿で戦場に現れることも多い。彼女に目をつけられ、愛を受け入れたり交わったりした男はその援助を受けることができたそうです。

 愛の告白を一蹴して援助を拒否した英雄クー・フーリンに対して、当初は憤怒のあまり彼を妨げることに執着し数々の傷を負わせたのです。ですがのちに自分の傷を手当てして命の恩人となった彼を補佐することになります。彼の臨終時その肩にはカラスがとまっていたといいます。


ヴァハ

 戦いの三女神の一柱。「赤いたてがみのマッハ」「赤毛のマッハ」とも。

 馬、戦い、豊穣、および主権を司る女神。デルバイス神と女神エルンワスの間の次女で、姉妹のモリガン、バズヴとともに三姉妹揃って主神ヌアザの妃を務めています。

 赤い髪に真っ赤なドレスとマントに身を包み、赤い一本足の馬に引かせた戦車で戦場を駆け巡ります。戦士たちを戦闘の狂気の渦へ導くとされるのです。

 モリガンが魔法の他に槍を用いて戦うのに対し、ヴァハはつねに魔法のみで戦います。

 フィル・ヴォルグ族との戦いでは魔法を駆使してダーナ神族の勝利に貢献しています。

 最期はフォモール族との第一次「マグ・トゥレドの戦い」でフォモール族の「邪眼のバロール」にヌアザ王とともに殺されました。

 ヴァハは何度も転生を繰り返し、ネヴェズ族の族長の妻やミレー族の王女、クルンヌッフ(クルンチュー)の妻の妖精となってたびたび神話に登場しています。


バズヴ

 バイヴ、ネヴァン、ネヴィンとも。

 デルバイス神と女神エルンワスの間の末女、ネードまたはテスラの妻とされます。

 ワタリガラスの姿で戦場を飛びまわり恐ろしいときの声をあげるといわれ、戦士たちに狂乱をもたらし同士討ちをさせる役目を持ちます。

 水辺で血まみれの武具を洗っていることがあり、その武具の持ち主は近いうちに戦死してしまうのです。こうした特徴からバンシーとの共通点が指摘されています。





最後に

 今回は「ディアン・ケヒトの血族など」についてまとめてみました。

 ディアン・ケヒトの血族には、のちにダーナ神族の王となるルーがいます。

 また戦の三女神のうち、次女のヴァハがヌアザ王とともにフォモール族の王「邪眼のバロール」に殺されているのです。

 関係の複雑さが見受けられる者たちではないでしょうか。

 モリガンに関してはゲームのCAPCOM『ヴィンパイア・セイバー』に登場する同名キャラのモデルと思われます。



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