671.事典篇:ケルト神話:ダグザの子

 今回は「ケルト神話に登場する神ダグザの子」についてまとめました。

 ダグザの子はひとクセある者たちです。

 魔法の要素が強いのは神話だからですが、それを抜きにしても「剣と魔法のファンタジー」であることが窺える内容だと思います。





事典【ケルト神話:ダグザの子】


 前回登場したダグザの子をまとめています。




ダグザの子

豊穣の処女神ブリギッド

 ダグザの娘。ブリード、ブリーイッド、ブリギッデとも。火、金属細工、豊穣、家畜、作物の実り、そして詩の女神。ブレグ(偽り)、メング(狡猾)、メイベル(醜さ)三人の母神でした。フォモール族のブレスの妻です。

 しばしばローマ神話のミネルヴァやウェスタと比較され、ブリテンの偉大な女神であるブリガンティアと関連づけて考えられました。



地下の神ミディール

 ダグザの息子。妻はファームナッハ。養子はオェングス。

 マン島に美しい王宮を持ち、そこには三頭の不思議な牛と大きな釜があったそうです。それらのおかげで多くの食糧を得ていました。王宮には三羽の鶴がいて、近づく者に「来るな」「去れ」「通り過ぎよ」と鳴いたといいます。

 国中でいちばん美しい女性を新しい妻に迎えたいと考え、養子のオェングスに相談するとエーディン(ディアン・ケヒトの娘ではない)がいいと答え、エーディンの父アイルに結婚を申し込みに行ったのです。アイルは十二の平原と十二の川、そしてエーディンの体重と同じ重さの金と銀を要求し、オェングスはダグザの力も借りて揃えてミディールはエーディンと結婚しました。

 しかし妻ファームナッハが美貌のエーディンに嫉妬し、彼女を水たまりに変えてしまいます。水たまりがやがて蝶へと変わったのです。エーディンが消えたことを心配したミディールは自分についてくる紫色の蝶をエーディンだと見抜きます。再びファームナッハは魔法の杖を使ってエーディンを王宮から追い払い、七年荒野をさまよった蝶はオェングスの宮殿にたどり着いた。

 オェングスの植えた花畑で保護されたエーディンは夜の間だけ元の姿に戻りました。するとファームナッハは嵐を起こしてエーディンをアルスターのエタア王のところまで吹き飛ばし、妻の胎内に入ってエタアの娘エーディンに生まれ変わったのです。すでに1012年が経過していて、彼女は自分がダーナ神族だったことも忘れてしまいます。

 アイルランドの王エオホズ・アイレヴが国中でいちばん美しい娘を王妃にしようとしたところ選ばれたのがエーディンでした。王妃になったエーディンの元へ再びミディールが現れるものの、エーディンには記憶も想いもすでになかったのです。ミディールは二人が暮らした常若の国ティル・ナ・ノーグでの思い出を語り、エーディンは王が許すならミディールと一緒に行ってもよいと答えたのです。

 ミディールはエオホズ王にフィドヘルの勝負を申し込み、負けたら相手の願いをなんでも叶えると条件をつけます。最初ミディールはわざと負けて王の要求を魔法で次々と叶えるのです。ところが最後にミディールは勝ってエーディンを連れ戻すことを要求します。エオホズ王は一カ月の猶予を申し出、ひと月後王宮を軍勢で囲んでしまいます。しかしミディールは難なく王宮の広間に入り込み、エーディンと二羽の白鳥になって自分の王宮まで飛び去るのです。

 エオホズ王は島にある妖精の丘を片端から破壊していきます。ミディールが魔法で丘を直していっても間に合わず、最後の丘だけが残ったのです。やむをえずミディールはエーディンを帰すと申し出、エーディンそっくりに変身させた五十人の侍女の中にエーディンを紛れ込ませます。ミディールが「本物のエーディンが選べたら帰す」と言ったところエーディンが「私が本当のエーディンです」と自ら名乗り出ました。妖精の王より人間の王を選んだのです。

 ミディールの元を去ったエーディンは、エオホズ王との間に娘エーディンを得たと言います。

(「エーディン」だらけでわかりにくいと思いますが)。



愛と若さ・美の神オェングス

 父はダグザ、母はボアーン、養父はミディール、養子はディルムッド・オディナ。

 彼は黄金で出来た竪琴を持ち、その口づけは小鳥となってさえずる声が若者の心に恋心となって飛び込んでいくのです。

 オェングスはミディールに育てられ、成人するとダグザの王宮を訪ねて「昼と夜に居させてほしい」と頼みます。彼が何日も王宮に居続けるのでダグザが理由を聞くと「昼と夜とは永遠のこと。あなたは永遠に居てもいいと言った」と答えたのです。こうしてオェングスは妖精国の王となります。

 ある晩オェングスの寝床に美女が現れ、寝床に入れようとすると消えてしまいます。その後毎晩現れては美しい笛の音色を奏でたのち消えたのです。ついには彼女に恋い焦がれて病気になってしまいます。

 誰にも理由を話さないのを見て医術の神フィンゲンが恋の病と見抜くのです。

 父母とマンスターの王ボォヴにも探してもらい、ようやくコノートのウェヴァンという妖精の丘に住むエタル・アヌバァルの娘カーと判明します。

 ところが彼女はひじょうに魔力が強いため、父エタルも嫁がせることはできませんでした。

 しかしエタルは、カーが一年ごとに白鳥と人間の姿を交互にとること、次の什一月一日の「サウィン」には白鳥の姿になって仲間たちと湖を泳いでいるはずだと話します。オェングスはその日に湖へ行き、百五羽いる白鳥の中にいたカーの白鳥を呼び、彼女を抱きしめて自らも白鳥となって仲良くオェングスの王宮へ飛んでいき、以後カーはオェングスと一緒に暮らしたそうです。

 ミディールの新妻エーディンが蝶に変えられた際、オェングスの王宮にやってきた蝶のために美しい四阿あずまやを作り、甘い蜜を持つ花をたくさん咲かせました。ファームナッハの魔法は解けなかったものの、夜の間だけは人間の姿に戻れたそうです。その後ファームナッハが嵐を起こすまでエーディンと恋を楽しんだといいます。



オグマ

 ダグザの息子。戦いの神。また言語と霊感の神。オガム文字の発明者とされます。

 妻はディアン・ケヒトの娘エーディン(ミディール、オェングスの項で出てくる娘とは別人)。女詩人のエダンとの間にフォモール族を風刺した詩人コープルをもうけています。

 八十頭の牛にも勝る怪力の持ち主で、戦場でフォモール族の王が所有していた意思を持つ剣オルナを見つけたそうです。ダーナ神族が地上の支配権を失墜して地下の国に赴いた際、精霊の塚アーセルトレイを住処としたといいます。





最後に

 今回は「ケルト神話:ダグザの子」についてまとめました。

 人間味にあふれており、ダーナ神族がフォモール族に虐げられていた際にも、次の世代へつながる土壌を作っていたのです。

 次回は「ディアン・ケヒトの子孫」と「戦の三姉妹」についてまとめています。

 ダーナ神族がエリン(アイルランドの古名)の覇権を取り戻した太陽神ルーや、ヌアザ王の后三姉妹は、ケルト神話を語るうえでは欠かせません。



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