669.事典篇:ケルト神話:世界観
今回は「ケルト神話の世界観」についてまとめました。
「ケルト神話に意味があるのか」といわれると難しいかもしれませんが、『アーサー王と円卓の騎士』を理解する助けになります。
実は「ケルト神話」はキリスト教が広まる前までヨーロッパで広く信仰されていたのです。
それがどんどんキリスト教が広まってきて、アイルランド付近まで追いやられてまとめられたのが今の「ケルト神話」です。
そして『アーサー王と円卓の騎士』はキリスト教がイングランドに上陸した頃の話といえます。
つまり「北欧神話」「ケルト神話」「アーサー王伝説」の順に学んでいくと、ヨーロッパの世界観の土台が見えてきます。
あまり乗り気でないかもしれませんが、しばらく「ケルト神話」にお付き合いくださいませ。
事典【ケルト神話:世界観】
今回は「ケルト神話」における世界観をお話し致したいと思います。
「ケルト神話」は、ローマ帝国がヨーロッパを支配する以前に広くヨーロッパに分布していたケルト人やケルトイベリア人などの間で広まっていた神話です。
のちにアイルランド神話だけが残り、主にアイルランド(古名エリン)を舞台とします。
アイルランド神話ではダーナ神族が神話の中心です。モイツラの戦いでフィル・ヴォルグ族を倒してエリンの王権を手に入れます。
しかしフォモール族との最初の戦い「マグ・トゥレドの戦い」に敗れて王ヌアザを殺され、圧政に苦しむのです。
ダーナ神族はルーを旗頭に二度目の「マグ・トゥレドの戦い」で勝利し宿敵「邪眼のバロール」を殺すのです。
しかしダーナ神族はのちにミレー族によって倒され、エリンの地下に住むこととなります。
このミレー族こそが現在のアイルランド人だとされているのです。
古代ケルトの神話
ローマ時代前後にガリア、ブリタニアなどのケルト社会で崇拝されていた神々が古代ケルトの信仰の対象でした。
ガリア人のパンテオン(すべての神々)ではテウタテス、タラニス、エススなどが重要視されていました。ユリウス・カエサルはこれにベレヌスを挙げています。しかし神々がどのような役割を果たしていたのかははっきりとわかっていません。
古代ケルトの神々
ルゴス
ルグとも。おそらく印欧祖語「光」に由来します。ガリアでは崇拝の形跡が見つかっていない神です。地名学の見地から崇拝されていたことが証明可能とされました。リヨンの古名ルグドゥヌの由来とされているのです。カエサルがメルクリウスと同一視した神と考えられますが、メルクリウスはテウタテスにもエススにも対応しえます。
テウタテス
トータティス、トティオウリクス、テウタヌスとも。おそらくケルト祖語の「三つの」「父」に由来します。ルキアノスはあるときメルクリウスを、あるときマルスと同一視しています。テウタテスはカエサルがローマの冥府の神ディスに対応するとした神と思われるが、はっきりした証拠は残っていません。
タラニス
おそらくゴール語の「雷鳴」に由来します。タラニスは太陽と天上の神であり、さらにその職能から雷鳴、戦争、炎、死、そして空の神でもあります。
エスス
エーススならヴェネト語の「神」、エススなら「主人、支配者」に由来しますがはっきりしません。ルカヌスが同時に挙げたテウタテス、タラニスに比べ考古学上の証拠となるような遺物の発見に乏しく、その信仰の実態は他の神以上に不明瞭です。
スケッロス
槌(死と復活の象徴)と盃(富の象徴)を持つ森と農業の神です。アイルランド神話のダグザに対応すると考えられます。
エポナ
馬、豊穣を司る女神です。騎乗した女性あるいは馬を従えた女性で表されます。
ケルヌンノス
ガリアで広く信仰された狩猟神です。有角の男性の姿で表されます。
アイルランド神話の神々
アイルランド神話はキリスト教が覆いかぶさるにつれて土着の文化とともにゆっくりと消滅していったとされています。生き残った資料は
アイルランド神話は大きく四つのサイクル(作品群)に分けられます。
神話サイクル
神々の物語を扱うサイクル。
アルスターサイクル
英雄クー・フーリンの活躍を中心とするサイクル。
フェニアンサイクル
フィン・マックールと彼の率いるフィアナ騎士団を中心とするサイクル。
歴史サイクル
歴代のアイルランドの君主を扱うサイクル。
フォモール族
巨人族。山羊や馬や牛などの頭を持った獣面の蛮族として描かれることが多い。
インデッハや邪眼のバロールといった王に率いられました。
太古からアイルランドに棲み着いており、西方から訪れた種族の侵入を再三に渡って阻んだのです。巨石を苦もなく扱い、人食いの怪物とされます。
フォモール族の支配に初めて成功したのはフィル・ヴォルグ族ですが、彼らは平和的に共存していました。最後の侵入者であるダーナ神族はフィル・ヴォルグ族よりも巧妙にフォモール族を懐柔してスキをつき、二度目の「マグ・トゥレドの戦い」によって「邪眼のバロール」を倒します。その邪眼によってフォモール族の兵士が壊滅し、残る者はアイルランドから駆逐されました。生き延びた者は妖精としてひっそりと暮らしているといわれています。
邪眼のバロール
フォモール族の魔神。セスリーンの夫でエスリンの父にしてルーの祖父。「魔眼のバロール」「強撃のバロール」などの異名を持ちます。
バロールの片目(左目とも額の第三の目ともいわれる)は視線で相手を殺すことができる魔眼であるため通常は閉じられているのです。戦場では四人がかりで取っ手を回しまぶたを押し上げます。この他にも魔力で嵐を起こし、海を炎の海にすることもできます。
一度目の「マグ・トゥレドの戦い」でダーナ神族を従属させ、重税をかけて苦しめていました。あるとき自分の孫に殺されるという予言を受け、娘エスリンに子どもを産ませまいと塔に幽閉したのです。しかしダーナ神族のキアンにエスリンを連れ去られ、彼を追いかけるがマナナン・マク・リルの妨害によって取り逃します。
最期は予言どおり孫のルーの手で魔眼を射抜かれ殺されました。その際魔眼が後ろにいたフォモール族の兵士を凝視して壊滅させてしまったということです。
フィル・ヴォルグ族
アイルランドに入植した四番目の民族です。フィル・ヴォルグ族と五番目の民族ダーナ神族は双方とも三番目の民族である「ネウェドと従者たち」の子孫にあたり、同じ言葉を使用したとされます。「ネウェドと従者たち」は疫病で大きく人数を減らした後、フォモール族から重税を強いられました。そのため彼らの大部分がアイルランドを後にしたのです。
この内のギリシアに向かった者たちが後のフィル・ヴォルグ族となり、「世界の北」へ向かった者たちが後のダーナ神族となります。
ダーナ神族に敗北した後、アラン諸島へと敗走したのです。
本来アイルランド人の祖先であるケルト民族が自ら信仰の対象としていたものです。
アイルランドに上陸した五番目の種族で女神ダヌを母神とする神族とされています。
アイルランド上陸時、北方四都市ファリアスから「リア・ファル(戴冠石)」、フィンジアスから「ヌアザの剣」、ゴリアスから「ルーの槍」、ムリアスから「ダグザの大釜」という四種の神器(エリンの四秘宝)が持ち込まれたとされます。
一説によればフォモール族に追い出されたネミディア族がダーナ神族になったと言われています。やがて六番目の種族であるミレー族(マイリージャ族とも)との戦いに敗れて地下の世界に移るのです。この世界は地上の世界の鏡像のような世界であり、ダーナ神族はやがて妖精ディーナ・シー(ダーナ・オシーとも)となりました。
いくつかある楽園の中のひとつが「
フィル・ヴォルグ族との戦いにおいてヌアザ王が「ヌアザの剣」を振るって奮戦します。四日間に渡る合戦の末、フィル・ヴォルグの王エオホズ・マクアークを破りダーナ神族は勝利するのです。しかしヌアザは合戦の際フィル・ヴォルグ最強の戦士スレンとの一騎討ちで右腕を切り落とされてしまい王権を失います。七年後にディアン・ケヒトが銀の義手を作って王権が復活したとされるのです。
フォモール族との戦い「マグ・トゥレドの戦い」の初回で王ヌアザは妃ヴァハとともにフォモール族の「邪眼のバロール」に殺されてダーナ神族は圧政を強いられます。
後日ダーナ神族はルーを旗頭に二度目の「マグ・トゥレドの戦い」を行ない、ルーは祖父にあたる「邪眼のバロール」を投石器で殺すのです。このときダグザが負傷し百二十年後に死亡します。
ミレー族
ゲール族のケルトを代表するアイルランドの最終的な住民。マイリージャ族とも。
ミールの子孫はアイルランドを統治するだろうと予言されます。しかしミール自身はアイルランドに達することなくイベリア半島北西のガリシアで死にます。彼のおじイトは塔からアイルランドを見張り、ミールの妻とともにそこに渡りましたがダーナ神族に殺されたのです。彼の身体をスペインに返したときミールの八人の息子、イトの九人の兄弟がアイルランドの侵略に着手します。
ベルティナの祭りのとき、ミールの息子アワルギンの導きで彼らはアイルランドに到着するのです。ミレー族はダーナ神族を破り、首都タラを占領し自分たちの首都としました。途中で彼らはエーリウ、バンヴァ、フォードラという女神に会い、その土地を彼女らのひとりにちなんで名付けると約束します。
エーリウの助言が彼らを導き、島はエリン(エーリウのもの)と命名されます。そしてダーナ神族を「タルティウの戦い」で破り、長い抵抗の末に休戦し、島は地上を持つミレー族と地底を与えられたダーナ神族とに分割されました。
エーレウォーン(ミールの息子)はアイルランドの北半分を治め、ミレー族の酋長のひとりエヴェルは南半分を治めましたがのちに双方は戦争を始め、エヴェルは戦死し、エーレウォーンはすべての領土を得、初代の島全体のミレー族王となったのです。
最後に
今回は「事典【ケルト神話:世界観】」について述べてみました。
古代ケルトはヨーロッパを広く舞台としていますが痕跡はほとんど残されていません。
ローマ人によるキリスト教布教により古代ケルトはどんどん放棄されていき、最終的にアイルランド周辺のみが舞台となりました。
そしてアイルランド(古名エリン)の覇権を巡るダーナ神族の戦いが創世伝として伝えられているのです。
「剣と魔法のファンタジー」の舞台としてはマイナーです。
しかし複雑な成立過程を経て、魅力的な説話も多くあります。
英雄クー・フーリン、騎士団長フィン・マックールといった者の活躍も、『ギリシャ神話』のヘラクレスや『アーサー王伝説』の円卓の騎士のようであり見どころとなっているのです。
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