668.事典篇:北欧神話:馬、魔法アイテム
今回は『北欧神話』に登場する「馬」と「魔法アイテム」についてまとめました。
『北欧神話』は今回をもって終了です。次回から『ケルト神話』を取り上げます。その後に『アーサー王伝説』へ続きます。
「剣と魔法のファンタジー」は「中世ヨーロッパ風」と言われますが、実は五世紀頃の「大ブリテン王国」つまり『アーサー王伝説』の頃を最も色濃く反映しています。「円卓の騎士」と「魔術師マーリン」の存在がすでに「剣と魔法のファンタジー」を体現していますので。ですので今しばらくお待ちくださいませ。
なお本日で毎日連載639日目となりました。明日が640日目となります。
事典【北欧神話:馬、魔法アイテム】
北欧神話には数々の名馬が登場します。
その中でもオーディンの乗馬であるスレイプニールは、ロキが雌馬に変身して産んだ子です。その特異性が際立ちます。
また、アース神族の神々が用いる魔法のアイテムは、主にドヴェルグによって生み出されました。
ドヴェルグは基本的にアース神族が嫌いです。でも対価を払う限りにおいては、依頼を引き受けることがあります。
今回はそんな馬と魔法のアイテムについてまとめました。
馬
スヴァジルファリ
人間の石工に変装してアスガルドの壁を建造した山の巨人が所有する魔法の馬。
アース神族がアスガルドを造りヴァルハラを建てるなどして暮らし始めたある日、人間の石工に変装した巨人がやってきて神々に提案を持ちかけます。
石工は強く高い新しい壁を建ててアスガルドを囲む代わりに、月と太陽を手に入れフレイヤと結婚したいと要求します。神々は大いに怒りましたが、ロキの助言により石工が誰の助けも借りずに冬至から夏至の間、約半年を期限に壁を完成させたら報酬を支払うが、もしその間に壁を完成できなければ報酬は無効とするという対案を提示しました。石工はこれに対して彼の愛馬スヴァジルファリを使っても良いならばという条件を出したのです。
冬の初めの日から城壁の建設が開始されました。スヴァジルファリは巨大な石を運んで石工以上に目覚ましい活躍を示したのです。夏の始まる数日前、壁が完成に近づいた頃、神々は条件について助言したロキに責任をとるよう命じます。ロキは雌馬に化けてスヴァジルファリを誘惑して作業を放り出させました。
これにより作業は遅延し、期限に間に合わないと悟って石工が巨人の姿を現したので、トールはミョルニルで巨人を打ち倒しました。その後ロキとスヴァジルファリの間に生まれた馬がスレイプニールです。
スレイプニール
牝馬に化けたロキと牡馬スヴァジルファリの子ども。主神オーディンに献上された後は彼の愛馬となる八本脚の軍馬。
ひじょうに速く走ることができ、空を飛ぶこともできたそうです。「馬のうち最高のもの」と賞賛されています。
オーディンが人間の英雄シグルズに与えた名馬グラニはスレイプニールの子孫。
グラニ
灰色の毛並みをした牡馬。オーディンの愛馬スレイプニールの血を引いているとされます。
シグルズはレギンに「義父ヒャールプレイク王が管理する馬の中から自分の馬を求めろ」と言われたのです。
王に好きな馬を選ぶ許しをもらい、行き会った老人(の姿をしたオーディン)の忠告を得て選んだとされます。
グルファクシ
巨人フルングニルの所有する馬。主神オーディンは駿馬スレイプニールを駆って巨人の国ヨトゥンヘイムにフルングニルを訪ねたのです。フルングニルがスレイプニールを褒めると、オーディンは「これほどの名馬は巨人の国にはいないだろう」と応じました。すると「自分がもっと歩幅の広いグルファクシという馬を持っている」と言い、グルファクシに跨ると、スレイプニールで駆けていくオーディンを追いかけるうち、ついにアスガルドの門をくぐってしまいました。
その後フルングニルはトールとの決闘に敗れ、倒されてしまった。大地に倒れたフルングニルの巨大な脚の下敷きになったトールを救出したのは生後三日目のトールの息子マグニだったのです。トールはこれを喜び、グルファクシをマグニに与えることにしました。オーディンは「父の自分ではなく巨人の息子に馬を与えるのは良くない」とトールに語ったのです。
ホーヴヴァルプニル
空も海も自在に駆けることができる。女神フリッグによってさまざまな国への使者に出される女神グナーがまたがります。
フリームファクシ
十二時間ごとにノーム(夜)がる馬車を引いて大地の上を通るように天を駆ける。
スキンファクシ
毎日ダグ(昼)の乗る馬者を引いて空を渡る。そのたてがみが空と地上を照らした。
アールヴァクとアルスヴィズ
馬の名前。ソールが馭者を務める太陽の車を引いています。アース神族は二頭の馬の体を冷ますために肩の下に鉄製のふいごを取り付けました。太陽がつねに急いで運行しているのは、狼スコールに追いかけられているためだとされています。
フリームファクシとスキンファクシに関連があります。
グルトップ
ヘイムダルの馬。アース神族が跨って毎日ユグドラシルの元に出向く馬が列挙されており、グルトップがその一頭に挙げられています。
ブローズグホーヴィ
豊穣神フレイの所有馬。フレイの召使いのスキールニルに与えた馬と同一かは明示されていません。
魔法のアイテム
スキーズブラズニル
ドヴェルグのイーヴァルディの子らがフレイのために作ったとされる魔法の帆船。
すべての神族を乗せうるほど巨大な帆船であるが、折りたたむと袋に入るほどの大きさになります。また帆を張ったときにはどこからともなく風が吹き船を進めることができるのです。
グングニル
ドヴェルグのイーヴァルディの息子たちによって作り出され、オーディン、トール、フレイに品定めされた後、オーディンへ渡されました。この槍はけっして的を射損なうことなく、敵を貫いた後は自動的に持ち主の手元に戻ります。この槍を向けられた軍勢に必ず勝利がもたらされました。
グングニルの穂先はしばしばルーン文字が記される場所のひとつとされているのです。
柄はトネリコで作られているとされます。またある再話ではオーディンがミーミルの泉を飲んで知識を得た記念として、泉の上にまで伸びていたユグドラシルの枝を折ってグングニルを作ったともされています。
グリンブルスティ
黄金に輝く猪で、フレイの乗り物。水中や空中を、どんな馬よりも速く駆け抜けると言われています。
ドラウプニル
オーディンが持つとされる黄金の腕輪。九夜ごとに同じ重さの腕輪を八個滴り出すとされています。
ドヴェルグ(ドワーフ)のブロックとエイトリによってフレイ神の金の猪グリンブルスティ、トール神のミョルニルの槌と一緒に作り出され、オーディンの所有物となりました。
バルドルが死んだ際、バルドルの遺体とともに薪の上に置かれ荼毘に付されましたが、のちにバルドルを取り戻すべくヘルモーズがヘルヘイムに出向くと、バルドルはオーディンに記念として渡してほしいとこれを預けたのです。
スキールニルがフレイの代理としてゲルズへ求婚のために訪れた際、経緯は不明ながらドラウプニルを彼女に贈与しようとしました。このときスキールニルは腕輪のことを「オーディンの息子と一緒に焼かれた」ものと説明しているのです。
ミョルニル
トールが持つ鎚。トールハンマーという名でも知られています。
思う存分に打ち付けても壊れることなく、投げても的を外さず再び手に戻る、自在に大きさを変えて携行できるといった特徴を持つが、柄がかなり短いとい欠点もあった。
再話ではしばしば真っ赤に焼けているとされ、扱うためにはヤールングレイブルという鉄製の手袋が必要だとされます。
ドヴェルグの兄弟ブロックとエイトリが、イールヴァルディの息子たちよりもすぐれたものを作り出せるかというロキから提案された競い合いの際に、グリンブルスティ、ドラウプニルとともに作られトールに献上されました。多くの巨人を打ち殺したため、霜の巨人や山の巨人はミョルニルが振り上げられる音でそれがわかるといわれているのです。
その威力は凄まじく、一撃で死亡しなかった生物は世界蛇ヨルムンガンドくらいであり、巨人のゲイルロズがトールにミョルニルを持たずに自分の屋敷に来るようにと告げたという話もあります。
ミョルニルは相手を打つためだけに使われるものではなく、トールの戦車を引く二頭のヤギ(タングリスニとタングニョースト)を屠って食料とした後に生き返らせる際に振られたり、バルドルの葬儀の際、儀式を聖別するためにも用いられました。
巨人スリュムがミョルニルを盗んでフレイヤとの交換を要求します。しかしフレイヤに変装した花嫁姿のトールを聖別するために、隠していたミョルニルを花嫁(姿のトール)の膝に載せたため、ミョルニルを取り返されて頭を砕かれたといわれています。
メギンギョルズ
トールが腹に身に着けた力を倍加させる力帯。ミョルニルを振るうために必要。
ヤールングレイプル
トールがミョルニルを握るための鉄製の籠手。
ギャラルホルン
アスガルドの門番であるヘイムダルが持つ角笛で、ラグナロクの到来を告げるといいます。
ブリージンガメン
フレイヤが持っていた首飾り。
アジアに「アーシアヘルム」と呼ばれる国があり首都はアスガルドと言ったとされます。
そこに暮らすアース神族の王がオーディンであり、ニョルズの娘フレイヤを側室にしていたのです。オーディンはフレイヤをたいへん愛していました。
そんな中、王宮近くの岩の奥にアールヴリッグ、ドヴァリン、ベルリング、グレールという四人のドヴェルグが住んでいたのです。彼らは素晴らしい技術を持ち、なんでも作ることができました。
ある日フレイヤがこの岩屋の前を通りかかると入り口が開いており、ドヴェルグたちが黄金の首飾りを鋳造して仕上げをしているのが見えました。フレイヤが気に入って買い取りを持ちかけますが、ドヴェルグたちは金銭よりもフレイヤの体を希望したため、フレイヤは彼らのそれぞれと一夜をともにするしかなくなりました。その代償として首飾りを手に入れたのです。
この一連の出来事を知ったロキがオーディンへ告げ口したところオーディンは激怒し、ロキを後宮に侵入させて首飾りを盗んでこさせました。
フレイヤが寝ているスキにロキは蝿に変身して館に侵入し首飾りを盗むが、それを見ていたヘイムダルが首飾りを取り戻そうと雲や熊に変身してロキと闘うのです。長い戦いの末にヘイムダルがロキを打ち負かし、ブリージンガメンをフレイヤに取り戻してやることができました。
レーヴァテイン
スルトの剣として。とくに日本においてスルトが「ラグナロク」のときに振るう炎の剣と同一視する傾向があります。「ラグナロク」で世界をまるごと焼き尽くすという究極の武器はおそらくレーヴァテインであるとされているのです。ただ神話などではレーヴァテインでスルトの炎と同じであるとは明言されていません。
フレイの剣として。鍛冶屋として名高いヴェルンドはイーヴァルディの息子たちの一人であり、ロキと、ブロックとエイトリ兄弟の賭けで、息子たちが鍛えた宝物が兄弟の鍛えた宝物に負けたことを受け、ミョルニルを超えるものとしてレーヴァテインを鍛えたということです。
グラム
『ニーベルンゲンの歌』に登場する「バルムンク」のモデルです。
石や鉄もたやすく切り裂いたといわれ、鍛え直された後は長さ七スパン(およそ百四十センチメートル)もあったのです。
シグムントの双子の妹シグニューと王シゲイルとの結婚の饗宴にオーディンがこの剣を携えて現れ、林檎の巨木にこれを突き立て、引き抜きことができた者に与えると言いました。
居合わせた者は順に試しましたが叶わず、シグムントがこれを抜いて自分のものとしたのです。シグムントはこの剣とともに長らく戦勝を重ねましたが、リュングヴィ王との戦いの際、戦場に現れたオーディンの槍の一撃で剣が折れてしまいます。
与えられた剣が折れたことで現世での恩寵を失ったと悟ったシグムンドは、これ以上長らえることを望まず、剣の破片を保存し鍛え直すことを妻ヒョルディースに遺言したのです。このとき「グラム」と名付けられました。
その後シグムンドの末の息子シグルズは鍛冶を生業とする養父レギンの元で育ち、レギンから財宝を守る竜ファフニールの話をされたのです。
二度の失敗の後、シグルズは母を訪ね父の形見の折れた剣を受け取ってレギンのもとへ持っていき、技を尽くして剣を鍛えることを求めました。レギンは三度目にしてついにグラムを作り出したのです。
レギンは竜退治に行くよう急かしたが、シグルズは約束は守ると誓ったうえで、先に父の敵討ちに出征し復讐を果たします。
竜ファフニールを退治したシグルズは竜の心臓の血を舐め、鳥の言葉を理解するようになりました。鳥たちが「レギンがシグルズを殺そうと企んでいる」と話しているのを聞き、逆に彼をグラムで殺害します。
シグルズは義兄たちに図られ暗殺される時に、自分を刺したグトホルムにグラムを投げつけ、彼を腰のところで両断したとされます。
リジル
シグルズが自身の養父レギンに頼まれ、レギンの父フレイズマルを殺して財産を独占したレギンの兄であるファフニールを殺しました。シグルズは剣リジルを使ってファフニールの心臓を切りとり、レギンがその血を飲んだとされているのです。
フロッティ
ファフニールとレギンの父フレイドマルの持ち物であった剣。フレイドマルを殺したファフニールは父の財産の分前を求めてきたレギンに対し、父の兜をかぶりこの剣を帯びたため、レギンはフレイドマルのもとから逃げるしかなかったのです。
ファフニールを殺したシグルズが竜の棲み家へ入ると、莫大な量の黄金がありました。さらに相手を恐れさせる力があるエーギルの兜、黄金でできた甲冑、そして剣フロッティを見つけたそうです。
最後に
今回は「北欧神話:馬、魔法のアイテム」についてまとめてみました。
どれもまさに「名馬」「魔法のアイテム」としての能力を発揮しています。
武器が多いのは、「ラグナロク」が約束された世界ならではともいえるでしょう。
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