667.事典篇:北欧神話:英雄ヴォルスングの血族

「北欧神話」に登場する人間の英雄ヴォルスングの血族をまとめました。

 とくにシグムントとシグルドは偉大な英雄となりました。





事典【北欧神話:英雄ヴォルスングの血族】


 今回は人間の中でも英雄の一族として知られる「ヴォルスングの血族」をまとめました。

 とくにシグムント、シグルズは北欧神話を代表する英雄です。




ヴォルスングの血族

ヴォルスング

 英雄。オーディンの曾孫にあたるとされ、彼の子孫にあたるシグムンド、シンフィヨトリ、ヘルギ、シグルズらもまた英雄として活躍しました。

 彼の父レリルは勇名を馳せ、結婚もしたが子宝に恵まれなかったのです。悩んだ彼は妻とともに神々に祈り、フリッグがそれを聞き届けました。

 彼女が事の経緯をオーディンに話すと、オーディンはワルキューレで巨人フリームニルの娘フリョリーズを彼らのもとへ遣わします。レリルの妻はカラスに変身したフリョリーズがもたらした林檎によりようやく身籠ったのです。

 しかし子は母の胎内に六年も留まり、生まれる前に父レリルは遠征先で病死します。

 自らの死を予感した母は帝王切開するように命じ、ヴォルスングは生を受けたのです。

 出産後母も死去しヴォルスングは孤児となったが、ヴォルスングは幼い頃から勇敢で強靭な肉体を持っていました。彼は父の後を継ぎフン族の国(現在のドイツ)の王となったのです。

 成人するとヴォルスングは両親のもとに林檎を運んだフリョリーズと結婚し、長男シグムンドとその双子の妹シグニュー、その他九人の息子をもうけたのです。

 やがて娘のシグニューはガウトランドの王シゲイルと結婚しますが、結婚の宴でオーディンが木に突き刺した一本の剣(のちに鍛え直され聖剣グラムとなる。バルムンクとも呼ばれる)を巡り、シゲイルとシグムンドが対立しました。このことが原因でシグムンドを恨んだシゲイルは、ヴォルスングの一族を皆殺しにしようと計略を練り、結婚の三か月後ヴォルスングと十人の王子を自国へ招待したのです。シグニューは夫の陰謀を父ヴォルスングに告げ帰国するよう促したが、ヴォルスングは敵に後ろを見せるのを潔しとせずシゲイルの軍勢と戦って死にました。


シグムント

 ヴォルスングとフリョリーズの間にもうけられた十人の息子の長男。彼と双子の妹シグニューはヴォルスングの子らの中でとくに美しくすぐれていたとされます。またシグムンドは毒が効かないほど強健でした。

 彼はシグニューとの間にシンフィヨトリ、最初の王妃ボルグヒルドとの間にヘルギとハームンド、二人目の王妃ヒョルディーズとの間にシグルズをもうけました。

 ガウトランドの王シゲイルはシグニューに求婚しました。父ヴォルスングは歓迎したが彼女本人と兄弟たちは皆反対しました。しかし父王の決定に委ねられたため、シゲイルとシグニューは婚約します。

 結婚式はヴォルスングのところで行なわれました。すると祝宴にオーディンが現れ、広間の中心にある林檎の大樹バルンストックに一本の剣を柄元まで刺し、抜いた者に褒美として与えると言って立ち去りました。その場に居合わせた勇士たちは剣を抜けた者がこの場にいるすべての中でいちばんすぐれていると考え、次々に試みたが誰も引き抜けませんでした。しかしシグムンドはたやすくこれを引き抜き、剣を自分のものにしました。

 剣の素晴らしさを目の当たりにしたシゲイルは黄金で譲るよう頼みます。しかし彼にはこの剣にはふさわしくないとシグムンドは一蹴し、腹を立てたシゲイルは翌日宴の席を辞して帰国します。シゲイルは帰り際に滞在の短さの非礼の埋め合わせに三か月後自国への招待を受けてほしいと申し出て、父ヴォルスングは承諾するが、これにはシグムンドから受けた侮辱への報復の意図があったのです。ガウトランドに到着した船上にいる父にシグニューは罠であると警告し帰国を促すが、ヴォルスングは潔しとせず船を降りてシゲイルの軍勢と戦って討ち死にし、十人の王子は捕らえられ処刑されることになったのです。

 シグニューはシゲイルに、彼らをすぐ殺さずに手枷と足枷をはめてくれと懇願しました。この願いは聞き入れられたが、シゲイルは彼らを森のなかに放置したのです。夜になるとメスの狼が彼らの元へやってきて一晩に一人ずつ食い殺し、最後にシグムンドだけが残りました。シグニューは人をやってシグムンドの顔に蜂蜜を塗らせたのです。狼は彼を殺す前に蜂蜜を舐め、シグムンドは狼の舌が口に入ったときにこれを噛み切って殺したのです。シグニューはシグムンドが生きているのを確認すると地下室を作って彼を匿いました。

 彼女はシゲイルとの間に生まれた二人の息子が自分の一族の復讐を果たせるか試みるが、彼らに見込みがないとわかるとシグムンドに殺させたのです。その後シグニューは魔法使いの女と姿を取り替えて兄シグムンドを訪ね、床をともにしてシンフィヨトリを産んだのです。

 子であり甥でもあるシンフィヨトリを鍛えるため、シグムンドは彼とともに森のなかに住み、人を襲い収奪を繰り返しながら生活しました。

 シンフィヨトリが胆力のある若者に成長すると、シグムンドはシゲイルに復讐するためシンフィヨトリとともに王の館に忍び込みます。しかしシゲイルの若い息子たちに見つかって彼らを返り討ちにしました。シグムンドたちは勇敢に戦いましたが多勢に無勢で最後には捕まり、ひとつの家に石で間を隔てられ生き埋めにされました。しかし彼らはシグニューが差し入れた食料に仕込まれた剣で石を引き切り、塚を破って脱出したのです。王の館に取って返した二人は寝静まった広間に火を放ちました。シグニューはシゲイルに問われ、自分もかねてから父と兄弟の復讐を目論んでおり、それを果たせる能力のある息子を得るために兄と通じたことを明かしました。彼女は生き長らえることを望まず、シグムンドとシンフィヨトリに別れを告げ、シゲイルとともに焼死する道を選びました。

 復讐を遂げたシグムンドは自国へ帰り簒奪者から王位を取り戻したのです。彼はボルグヒルドを妃に迎え、彼女との間にヘルギとハームンドをもうけます。しかしシンフィヨトリは継母の弟とひとりの女性を争い、彼を殺したためボルグヒルドに毒殺されたのです。シグムンドはボルグヒルドを追放しました。

 その後シグムンドはエイリミ王の娘ヒョルディーズが美しく聡明で自分の妃にふさわしい女性であるという評判を聞き、エイリミの元を訪れようと思い立ったのです。

 エイリミはシグムンドが戦を仕掛けるのではないかと警戒していたが、音信を交わすうちに友好を結ぶようになりました。シグムンドが国へ着くと、そこにはエイリミと縁続きになるためにヒョルディーズを妃に望むフンディングの息子リュングヴィ王も到着していたのです。二人のうちいずれかを選ぶよう父に言われたヒョルディーズはよりすぐれた王としてシグムンドを選びました。リュングヴィはこれを恨んで、義父エイリミとともにフーナランドへ出立したシグムンドに宣戦を布告したのです。

 戦いは激戦を極め、高齢ながらもシグムンドは先頭に立って戦いました。多くの戦士が倒れましたが、ノルン三姉妹の加護を受けたシグムンドは負傷することなく彼の軍が優勢でした。しかし片目の老人姿のオーディンが彼の剣を槍で折ると形勢は逆転し、シグムンドとエイリミはついに倒れたのです。

 戦いに先立ちエイリミの城から森へ逃れていたヒョルディーズは、敵軍の去った戦場で倒れていた夫を介抱しました。彼女はシグムンドが傷を癒やし、父王の仇を討つことを望みました。しかしシグムンドはオーディンの加護を失った今、彼は自分が戦うことを望んでいないのだと治療を拒み、彼女が息子を身籠っていることを告げると、折れた剣(のちのグラム)を託して息を引き取りました。


シグニュー

 父ヴォルスングとワルキューレのフリョリーズの間に生まれた双子の妹。兄シグムンドと同じく美しかったのです。

 シゲイルと結婚するが、彼が悪人であることを早々に見抜きました。シゲイルに一族を殺された後、復讐を試みるために兄との間にシンフィヨトリを産んだのです。


シンフィヨトリ

 ヴォルスングの一族の双子の兄シグムンドと妹シグニューの間に生まれました。竜殺しの英雄シグルズの異母兄にあたります。

 母シグニューは夫シゲイル王に父ヴォルスングを殺害されました。十人の兄弟も捕らわれた上に処刑されることを知り、策略によって処刑を遅らせ双子の兄シグムンドを逃がすことには成功したものの他の兄弟を失ったのです。

 シグニューはシゲイルとの間に生まれた二人の息子に仇を討たそうと考えますが、シグムンドに不適格とされて殺害されます。そこで魔女に頼んで互いの姿を取り替え、道に迷った風を装ってシグムンドのもとに赴き、なにも知らない兄と関係を持ちシンフィヨトリを産んだのです。

 復讐のために産まれたシンフィヨトリはヴォルスング一族の血を濃く引いた偉丈夫に成長しました。十歳になるかならないかの頃、シグムンドに試されたが彼の目にも適う胆力を見せ、シグムンドのもとで暮らし、さらに修練を積むことになったのです。

 シグムンドはシンフィヨトリとともに強盗や追いはぎなどで生活し、息子の心身を鍛えました。しかし育つに連れてシグムンドの目にはシンフィヨトリが生粋のヴォルスング一族のようにも、血を引いていない父シゲイル王の悪い部分を多く持つようにも見えるようになったのです。とりわけ実の父と思い込んでいるシゲイル王の非道さを聞かされていたため、シンフィヨトリは家族に対する愛情には疎いようでした。

 シンフィヨトリがじゅうぶんに成長すると、シグムンドは彼を伴って敵討ちのためシゲイルへ行動に移しました。このときシンフィヨトリは、シグムンドが殺さないとした異父弟をためらいもなく殺害したが、多勢に無勢でシグムンドとともに捕らえられ、岩を隔てた穴へ生き埋めにされた。しかし夜になるとシグニューの差し入れた剣で岩を切り裂いて脱出し、奇襲をかけてシゲイル一族を皆殺しにして屋敷に火を放ちました。

 シグニューはシンフィヨトリの出生の秘密を二人に告げると、復讐の成就のために行なった自らの罪ゆえに生き長らえるつもりはないと言って、シゲイルとともに死ぬ運命を選びました。

 シグムンドとシンフィヨトリは手勢を引き連れてフンの国(現在のドイツ)へ帰還すると、ヴォルスングの後を襲って王になった人物を追放し、シグムンドが王に即位しました。その後シンフィヨトリは、シグムンドと後添いの王妃ボルグヒルドとの間に産まれた異母弟「フンティング殺しヘルギ」の指揮するヴァイキング行(略奪遠征)に補佐官として同行し手柄を挙げます。

 しかしあるヴァイキング行で、シンフィヨトリはひとりの女性を巡って継母ボルグヒルドの弟と対立し、彼を殺害したため継母の怒りを買ったのです。シグムンドは二人の仲を取り持とうとして王妃に身代金を支払ったため、ボルグヒルドは表面上は復讐をあきらめざるをえませんでした。代わりに毒殺を企てたのです。王妃の弟を弔う宴でボルグヒルドはシンフィヨトリに酒杯をすすめたが、酒の濁りを理由に忌避されたため、毒の効かないシグムンドが二度毒酒を呑んだ。しかしさすがに三杯目となるとシグムンドは酩酊して判断力をなくしてしまったため、シンフィヨトリは毒酒を飲まざるをえなくなり死にました。

 失意の中シグムンドはシンフィヨトリの亡骸を抱えて森へ行ったのです。そのまま歩いているとフィヨルドへたどり着きました。そこで渡し守の格好をしたオーディンに向こう岸へ渡してほしいかと聞かれ、そのようにと頼むが、船が小さいため渡し守はシンフィヨトリだけを乗せて漕ぎ出したのです。シグムンドが岸伝いに追いかけるもその姿は見えなくなりました。シグムンドは引き返すと王妃を国外へ追放し、彼女は間もなく死んだのです。


シグルズ

 シグルドとも。『ニーベルンゲンの歌』の主人公ジークフリートと起源を同じくします。

 英雄シグムンドとヒョルディーズの息子でシンフィヨトリの異母弟。父の形見の名剣グラムを振るい、さまざまな軍功を挙げました。

 シグルズは母ヒョルディーズがデンマーク王のヒアールプレク王の子アールヴと再婚した後、鍛冶のレギンのもとで養育されることとなり王子にふさわしい教養を身につけました。

 あるときレギンに、シグルズが王の息子であるにもかかわらず自身で自由にできる財産に乏しい事実をほのめかされます。そして近くの竜の姿をした小人ファフニールを退治して名を上げるとともに竜の守る莫大な富を手に入れて身分にふさわしい財を成すようそそのかしたのです。

 シグルズはまず父の仇を討つ前に黄金に目がくらんだとフンディング一族に笑われたくないと言い、父の敵討ちをすると宣言しました。

 養父レギンから名剣グラムを受け取り、母ヒョルディーズの再婚相手の父ヒアールプレク王から水軍を借りたのです。しかし途中で止まぬ嵐に遭い、岩礁の近くを航行しました。すると近くの崖からフニカルと名乗る男が船に乗せてもらいたいと呼びかけてきます。彼を船に乗せると嵐は止み、シグルズたちはフンディング一族の王国にたどり着きました。シグルズの軍は彼の国に猛攻をかけ、街も人も焼いたのです。フンディングたちは国中の戦力をすべて集めて対抗したが結局はシグルズに一族全員討ち取られることとなりました。

 敵討ちを終えるとレギンはファフニールを討つことを急かしたのです。

 そしてシグルズは竜を退治するが、実はレギンはファフニールの弟で、兄の財産を独り占めするためにシグルズを利用していました。しかしシグルズは剣リジルで切り取られたファフニールの心臓の脂を口にしたため、その魔力で賢さと動物と会話する力を得たのです。そしてシジュウカラの言葉から、レギンの裏切りを知って眠っている間に彼の首を刎ね、牡馬グラニに剣フロッティを含む財宝を積んで旅に出ました。

 フランケンへ向かう旅の途上シグルズは、ヒンダルフィヨルの山の上に建つ炎に守られた館で、盾の垣の中で眠る身に鎧をまとっていたヴァルキュリア、ブズリの娘ブリュンヒルドを救い、彼女と恋に落ち結婚を誓ったのです。

 しかしシグルズはライン河畔のギューキ王の宮廷で、王子グンナリをブリュンヒルドと、王女グズルーンをシグルズと結婚させようと目論む王妃グリームヒルドに忘れ薬を飲まされ、ブリュンヒルドを忘れてしまったのです。

 シグルズはグズルーンと結婚し、同じくギューキ王とグリームヒルドの子であるグンナル、ホグニと義兄弟の契りを交わします。

 そしてシグルズは義兄グンナルがかつての恋人ブリュンヒルドに求婚する旅に同行したのです。ブリュンヒルドの館を取り巻く炎をグンナルは飛び越えられませんでした。グリームヒルドに秘策を授けられていたシグルズは、グンナルに姿を変えて炎を飛び越え彼女にグンナルとして求婚した。ブリュンヒルドは自分の城を囲む炎を乗り越えてきた勇士と結婚する誓いを立てていたため、やむをえずグンナルと結婚しました。シグルズはブリュンヒルドとグンナルの結婚式の晩に記憶を取り戻したがそれを口にすることはありませんでした。

 しかしその後グズルーンとの口論でブリュンヒルドは欺かれたことを知り、誓約が偽計によって破られたのならば、シグルズか自分かグンナルのいずれかが死なねばならないと夫に告白します。ブリュンヒルドはその日より部屋に閉じ籠もるようになったのです。シグルズはブリュンヒルドの部屋に赴き、彼女と対談した。ブリュンヒルドとシグルズは互いの思いを吐露し、ブリュンヒルドが死ぬ覚悟を持っていると知ると彼女が死ぬくらいならば財産を捨て、グズルーンも捨ててブリュンヒルドとともにいようと提案しましたが、ブリュンヒルドは自分を不貞を犯すような人間にするつもりか、もう遅いとシグルズを拒絶したのです。ブリュンヒルドを失うことを恐れたグンナルは弟ホグニにシグルズをどう殺害するか相談したが、ホグニは義兄弟の契りを交わしていることとシグルズほどの武勇を持つ人間を失うことを嫌がり、グンナルの相談を相手にしませんでした。

 しかしグンナルはあきらめず義兄弟の契りを交わしていないもうひとりの弟グットルムにシグルズを暗殺させたのです。

 グズルーンはグリームヒルドの忘れ薬で兄たちへの恨みは忘れたが、シグルズを忘れることはありませんでした。

 シグルズがファフニールから奪ったアンドヴァリの呪われた遺産は、彼の死後も悲劇の原因となったのです。





最後に

 今回は「北欧神話:英雄ヴォルスングの血族」についてまとめてみました。

 北欧神話の英雄はどことなく人間臭い者が多いのが特徴です。

 とくにシグムントとシグルズは北欧神話を代表する英雄であり、世界の苦境を幾度となく救いました。



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