661.事典篇:北欧神話:巨人族:ロキの血族2
今回はロキの血族のうち、初期の妻であるアングルボザと、その間の子であるフェンリル、ヨルムンガンド、ヘルについてまとめました。
ヘルの治める死の世界「ヘルヘイム」の番犬ガルムも書き記しました。
オーディンとロキの関係が「ラグナロク」を引き起こすことになったのです。
その際、フェンリル、ヨルムンガンドは尖兵としてオーディン、トールを討ち倒しています。
事典【北欧神話:巨人族:ロキの血族2】
フェンリル、ヨルムンガンド、ヘルはロキの初期の子であり、ロキの最初の血族です。
フェンリルとヨルムンガンドは「ラグナロク」でも主要な役回りをしますので、ひとまとめにしています。
ロキの血族
アングルボザ
女巨人でヨトゥンヘイムに住み、ロキとの間に巨狼フェンリル、ミッドガルドの世界蛇ヨルムンガンド、ヘルを産みました。ロキがアングルボザの心臓を食べることによって産んだとする異伝もあります。
フェンリル
狼の姿をした巨大な怪物。ロキが女巨人アングルボザとの間にもうけました。またはその心臓を食べて産んだともされる三兄妹の長子。彼の次にヨルムンガンドが、三人目にヘルが産まれたのです。
初めは普通の狼とほとんど違いがなかったため、アース神族の監視下に置かれることとなりました。しかし彼に餌を与える勇気があったのはテュールだけでした。日に日に大きくなり力を増してきたのと、予言はいずれも彼が神々に災いをもたらすと告げたため、アース神族はフェンリルを拘束すると決めました。
神々はフェンリルを拘束するために、レージングと呼ばれる鉄鎖を用意しましたが、フェンリルはそれを容易に引きちぎったのです。続いて神々はレージングの二倍の強さを持つ鉄鎖ドローミを用いたがこれも難なく引きちぎりました。そのためスキールニルにスレイプニールを貸して使いに出し、ドヴェルグ(ドワーフ)に作らせたグレイプニルという魔法の紐を用いることにしました。
アース神族はアームスヴァルトニル湖にあるリングヴィという島で、紐が見かけよりも強いことをフェンリルに示し、試しに縛られるように彼に勧めます。フェンリルはこの紐も切れないようなら神々の脅威たりえないから解放すると言われたが、一度縛られたら助けを得ることは難しいと考えたのです。約束が間違いなく行なわれるという保証に誰かの右腕を自分の口へ入れることを要求しました。神々の中からテュールが進み出て右腕をフェンリルの口の中に差し入れます。
縛られてグレイプニルから抜け出せないことに気づいたフェンリルはテュールの右腕を手首の関節のところで食いちぎりますが、神々は素早くゲルギャと呼ばれる足枷から綱を伸ばしギョッルという平らな石にフェンリルを縛り付け、石を地中深くに落とし、スヴィティという巨大な石を打ち込んで綱をかける杭にしたのです。フェンリルは暴れてこれを噛もうとしたので、神々は下顎に柄が上顎に剣先がくるように剣を押し込んでつっかえ棒にしました。開きっぱなしになったフェンリルの口から大量のヨダレが流れ落ちてヴァン川となったのです。
こうしてフェンリルは捕縛されたものの「ラグナロク」の到来によりすべての枷や鎖が解けて自由になり、神々との戦いの場となるヴィーグリーズに進みます。この口を開けば上顎が天にも届き、目や鼻からは炎を噴き出しており、オーディンと相まみえて彼を噛み殺して飲み込むが、直ちにオーディンの息子ヴィーザルに殺されます。
イアールンヴィズ(鉄の森)にいる老婆がフェンリルの一族を産み、それらのうちのスコールがソール(太陽)を、ハティがマーニ(月)を追いかけているのです。彼らから逃れるために太陽と月は馬車を走らせ、これが太陽と月の運行を司る形になっていますが、「ラグナロク」ではそれぞれソールとマーニとに追いついてこれを飲み込んだとされています。
スコール
魔狼フェンリルと鉄の森の女巨人との間の子。つねに太陽(ソール)を追いかけており、日食はこの狼が太陽を捕らえたために生じると考えられました。「ラグナロク」の際には太陽に追いつき、これを飲み込むとされています。地上の人々は鍋を叩いて吐き出させたということです。狼の姿をした巨人とも考えられます。
ハティ
フェンリルの息子で、月を追いかけているが「ラグナロク」の際にはとうとう月に追いついてこれに大損害を与えるとされています。
世界蛇ヨルムンガンド
毒蛇の怪物。ロキが巨人アングルボザとの間にもうけた、またはその心臓を食べて産んだ三匹の魔物のうちの一匹。長子フェンリル、次子ヨルムンガンド、末妹ヘル。
ヨルムンガンドの子どもたちがいずれ神々の脅威となることを予見した主神オーディンが、ヨトゥンヘイムで育てられていたヨルムンガンドを連れてこさせ、海に捨てられたのです。しかしヨルムンガンドは海の底に横たわったままミッドガルドを取り巻き、さらに自分の尾をくわえるほど巨大な姿に成長します。
雷神トールが巨人ヒュミルとともに船で釣りに出た際、ヨルムンガンドを釣り上げ、ミョルニルで倒さんとします。しかし途中で逃げられてしまうのです。
トールが巨人の王ウートガルザ・ロキの宮殿を訪れた際「猫を持ち上げて床から足を離してみせよ」と言われます。トールが猫の胴を高々と持ち上げたものの床から離すことができなかったのです。実は猫とはウートガルザ・ロキの幻術によって猫の姿に見えていたヨルムンガンドであったといいます。
「ラグナロク」が到来するとき、ヨルムンガンドが海から陸に上がり、その際に大量の海水が陸を洗う様子が語られます。トールがヨルムンガンドにミョルニルを三度投げつけ、撃ち倒すことに成功しますが、最期に吹きかけられた毒のためにトールは命を落とし、相討ちという形で決着しました。
ヘル
老衰・疾病による死者の国を支配する女神。エーリューズニルという館に住む。
ロキが巨人アングルボザとの間にもうけたといわれ、フェンリル、ヨルムンガンドは彼女の兄です。ヘルだけはロキがアングルボザの心臓を食べてその後に女巨人に変身して自らヘルを産んだという説もあります。
ヘルはオーディンによって兄弟たち同様に隔離地であるニヴルヘイムへ追放されました。オーディンはそこに九つの世界において名誉ある戦死者を除く、たとえば老衰や疾病で死んだ者たちや悪人の魂を送り込み、彼女に死者を支配する役目を与えました。その世界は彼女の名前と同じく「ヘル(ヘルヘイム)」と呼ばれます。
北欧神話で唯一、死者を生者に戻すことができる人物でもあるのです。
ヘルの半身は青く、半身は人肌の色をしています。これは彼女の体の半分が生きていて、半分が死んでいることを意味しているのです。
フリッグの命を受けたヘルモーズがバルドルの蘇生をヘルに懇願したが、ヘルは「九つの世界」の住人すべてがバルドルのために泣いて涙を流せば蘇生させてもいいという条件を与えました。しかし女巨人セック(ソック)に化けたヘルの父ロキが涙を流さなかったのでバルドルが蘇ることはなかったのです。
「ラグナロク」のときヨルムンガンドがミッドガルドに上陸するとき高潮が起こりました。死者の爪で作った船ナグルファルに死者たちまたはスルトの一族ないし霜の巨人族が乗り、巨人に加勢する死者の軍団がアスガルドに攻め込むのです。彼女自身はヘルヘイムに残ったままという説もあります。
「ラグナロク」の後で彼女がどうなったかはわかりません。ですが冥界の住人が「ラグナロク」が起きている間、慄いている描写があり、冥界は滅びなかったと唱える者もいます。バルドルやヘズ、心正しい人々を残し、ヘルと彼女の支配する死者たちは滅びたと解釈する者もいます。
ガルム
ヘルヘイムにあるヘルの館「エーリューズニル」の番犬で、入り口にある洞窟グニパヘリルに繋がれています。むやみに冥界へと近づく者たちを追い払い、冥界から逃げ出そうとする死者を見守るのです。「犬のうち最高のもの」とされています。
「ラグナロク」の際に自由になり、ガルムが死に際にテュールの喉を噛み切り相討ちになったのです。
見た目は狼犬に似て巨大な身体であり、胸元には渇いた血が付いており、その胸元の血は死者の血です。フェンリルと同一視されることがあります。
最後に
今回は「北欧神話:巨人族:ロキの血族2」についてまとめてみました。
オーディンとロキの関係性が北欧神話を読み解くうえでの鍵となっています。
「ラグナロク」ではフェンリルが主神オーディンを倒し、ヨルムンガンドが戦神トールと相討ちになるなど、アース神族を追い詰めました。
しかしムスペルヘイムに住むムスペル族の長スルトが炎の剣で「世界樹ユグドラシル」を焼いたことでのちに海中に沈んだことにより、おおかたの神々と巨人族などは焼死または溺死しています。
エルフとドヴェルグ、デックアールヴがどうなったかはわかりませんが、ミッドガルドに住んでいた人間はひとつがいを除いて溺死しているのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます