642.文体篇:主体・主語のごちゃまぜを無くす
今回は「主語と述語の対応」についてです。
日本語には「○○は△△だ」「○○は〜い」「○○は〜する」の三つの形態があります。
このうち形容詞文「○○は〜い」は動詞文「○○は〜する」に置き換えられないか検討してください。
主体・主語のごちゃまぜを無くす
文章の基本である
それは複数の主語と述語が乱立して、どれがどれと対応しているのかが判然としないからです。
まず主体・主語が混ざらないように切り分けて文を構成してみましょう。
主体・主語の混交は無くす
A「本日の打ち合わせで、急遽場所を変更したのは、ライバル会社の営業担当がたまたま打ち合わせで使っていたことから、その場の判断によるものです。」
頑張ればわからないこともないのですが、やはりわかりにくいと思います。
Aがわかりにくいのは、主語と述語がわかりづらいからです。
「本日の打ち合わせで、急遽場所を変更した」のは誰ですか。「ライバル会社の営業担当がたまたま打ち合わせで使っていた」の主語は何でしょうか。
前者は話者つまり「語り手」が主体であり、後者は「ライバル会社の営業担当」が主語です。つまり異なる主体・主語の文を混ぜてしまったからわかりにくいのです。
そこで「語り手」を主語にした文と「ライバル会社の営業担当」が主語の文を分けてみましょう。
B「本日の打ち合わせでは、急遽場所を変更しました。なぜならライバル会社の営業担当がたまたま打ち合わせで使っていたからです。」
入れ子構造になっていた文章を単文にしました。「その場の判断によるものです。」はとくに必要のない言葉なので削除してもよいでしょう。
どうしても「その場の判断によるものです」という情報を語りたいのなら、その主語がある文に入れてください。
C「本日の打ち合わせでは、その場の判断により急遽場所を変更しました。なぜならライバル会社の営業担当がたまたま打ち合わせで使っていたからです。」
「その場の判断によるものです」は「語り手」の判断です。ですから加えるなら前文にします。
主語と述語が対応しているか
「この企画の問題点は、他社の企画と類似してしまうのが問題です。」
この一文おかしいと思いませんか。
主語は「問題点は」、述語は「問題です」です。
最もシンプルな文型である「主語プラス述語」に直すと「問題点は、問題です。」になります。やはりおかしいですよね。
この場合は「問題点は、類似してしまうことです。」と書けばきちんと噛み合った文になります。
つまり「この企画の問題点は、他社の企画と類似してしまうことです。」が正しい文です。
「私がびっくりしたのは、B社の独創的なアイデアに驚きました。」
この一文も「主語プラス述語」に直すと「びっくりしたのは、驚きました。」です。
おかしいですよね。どちらかの「驚き」表現を生かした例を二つ挙げます。
「私がびっくりしたのは、B社の独創的なアイデアにです。」
「私は、B社の独創的なアイデアに驚きました。」
正しい二文が混ざらないように注意しましょう。
「私が思うに、この企画は見直す段階に来ていると思います。」
この一文も「主語プラス述語」に直すと「私が思うに、来ていると思います。」です。
おかしいですよね。どちらかの「思う」を生かした例を二つ挙げます。
「私が思うに、この企画は見直す段階に来ています。」
「この企画は見直す段階に来ていると思います。」
後者は主語の「私が」を消しました。「私が」が直接かかる述語は「思う(に)」です。最後の「と思います。」につなげるためには「私は」が欲しいところですが、助詞「は」は「この企画は」で使っていますので使えません。ですので「この企画は」を削って「私は」に差し替えてもいいのです。そうすると「私は見直しの段階に来ていると思います。」になって「なにを見直す段階なのか」がわからなくなります。
主語の「私は」は主体が「語り手」であることが明確なら省けるのです。だから「私は」を省いても意味は通じます。
「先方に伝えたのは、志村課長から折り返しの連絡が欲しかった。」
この一文も「主語プラス述語」に直すと「伝えたのは、欲しかった。」です。
これもおかしい。「伝えたのは」ときたら「ということだ。」で受けるべきです。
〈「用言A」のは、「用言B」(という)ことだ。〉は双方の用言を助詞を使って体言に変化させています。だから一方が体言化したら、もう一方も体言化しなければならないのです。
「先方に伝えたのは、志村課長から折り返しの連絡が欲しかったということだ。」
「生きるとは、死ぬまで働く。」
用言Aを体言化して主語となるとき、それを用言で受けては齟齬が生じます。
「生きるとは、死ぬまで働く(という)ことだ。」のように「○○するとは、〜(という)こと(もの)だ。」と体言に変化させて受ければよいのです。
であれば「生きるとは、死ぬまで働くことだ」でも通ることになります。
以前お話しましたが、「という」は文体のクセのひとつなので、取っても意味は通じます。
「係長が『B社の新商品がうちの商品と類似している』と指摘したので、混乱しているということを、先に課長に知らせておくべきでした。」
この文は「(誰が)混乱している」のか、「(誰が)課長に知らせておくべき」なのかがわかりません。文中に出てくる主語は「係長が」だけです。でも「係長が指摘して混乱した」わけですから、まさか係長本人が混乱しているとは思えません。また「係長が先に課長に知らせておくべきでした。」というのもこの文章ではおかしいですよね。
これは文章の主語ではなく「語り手」がかかわっています。
「語り手」が混乱している場を見て、先に課長に知らせておくべきだったと思うわけです。
それを補うと次のようになります。
「係長が『B社の新商品がうちの商品と類似している』と指摘したので、現場が混乱している(という)ことを、私が先に課長へ知らせておくべきでした。」
になりますが、こうすると助詞「が」が三つ出てきて意味がわかりづらくなるので、文を分けて主体を変えます。
「課長が『B社の新商品がうちの商品と類似している』と指摘したので、現場は混乱しています。この指摘を、私が先に部長へ知らせておくべきでした。」
これで少しはわかりやすくなったはずです。
日本語の文型
「○○は△△だ」
〈「体言A」は「体言B」だ。〉という形は「定義」の文型です。
ただし〈「体言B」の「体言A」〉の形で体言の修飾語として用いることもできます。
「俺は男だ。(男の俺)」「彼は高校二年生だ。(高校二年生の彼)」
〈「体言」は「形容動詞」だ。〉という形は「説明」の文型です。
ただし〈「形容動詞」な「体言」〉の形で体言の修飾語として用いることもできます。
「彼女の横顔は綺麗だ。(彼女の綺麗な横顔)」「森は静かだ。(静かな森)」
ですがどのように「綺麗」なのかどのくらい「静か」なのかがわかりませんよね。
「速く走るには、つま先着地することだ。(そのままでは倒置できません)」(「〜には」「〜ことだ。」ともに用言を体言に置き換える表現です。倒置させようとすれば「つま先着地することで速く走るに」となり意味不明になります)。
〈「用言A」には「用言B」ことだ。〉は〈「用言B」すれば、「用言A」できる。〉にすれば解決できるのです。「つま先着地すれば、速く走れる。」
「○○は〜い」
〈「体言」は「形容詞」い。〉という形は「修飾」の文型です。
ただし〈「形容詞」い「体言」〉の形で体言の修飾語として用いることもできます。
「彼女は美しい。(美しい彼女)」「豆腐は脆い。(脆い豆腐)」
ですがどのように「美しい」のかどのくらい「脆い」のかがわかりませんよね。
「○○は〜する」
〈「体言」は「動詞」する。〉という形は「動作」の文型です。
ただし〈「動詞」する「体言」〉の形で体言の修飾語として用いることもできます。
「桐生祥秀選手が日本人で初めて百メートルを九秒台で走った。(日本人で初めて百メートルを九秒台で走った桐生祥秀選手)」
最後に
今回は「主体・主語のごちゃまぜを無くす」ことについて述べました。
「話し言葉」で書くと、どうしても主語と述語の対応が交差したり、片方が無くなったりするものです。
それを補うために、一文を書いたら改めて読んでみて、主語と述語が対応しているかをチェックしましょう。
日本語の文型も頭に入れておき、勘違いされそうな文は書き改めましょう。
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