643.文体篇:接続助詞・接続詞・文末処理
今回は「接続助詞・接続詞・文末処理」についてです。
接続助詞・接続詞は日本語の構文には必要なものですが、頼りすぎると途中でネタバレしかねません。
本文を書くうえでは、先に話の展開が見えてしまう接続助詞・接続詞を極力省いてみましょう。
そして文末処理で単調にならず、よどみなく読める文に仕上げるのです。
接続助詞・接続詞・文末処理
文を重ねていくと文章になります。
その文章はつねに一方向にしか動かないわけではないのです。
むしろある程度の塊ごとに方向を変えながら論説していくことが求められます。
日本人は無意識のうちに接続助詞と接続詞を使いこなしているのです。
ですが、ときに誤った用い方をすることもあります。
どんな用い方が誤りなのかを見ていきましょう。
順接の接続助詞「が」は削る
「本日は高校野球選手権大会の決勝日ですが、快晴なので予定通りに開催致します。」
この文を読んで違和感を覚えないでしょうか。
接続助詞「が」にその原因があります。
国語の文法上では例文のように「順接」で用いることも可能なのです。しかし実際に「書き言葉」で表せるのは「逆接」だけになります。
文章を読んでいるときに接続助詞「が」が登場すると、文章を読み慣れている方ほど「その文のそれまでとは逆のことを言おうとしているのだな」と判断するわけです。
冒頭の文では接続助詞「が」が現れたことで、「試合が組まれている日だけれども、試合は開催できない」という文脈だと思い込んでしまいます。だから違和感を覚えてしまうのです。
ではこの一文をどう変えればよいのでしょうか。
「順接」の接続助詞「が」は削ってください。
「本日は高校野球選手権大会の決勝日です。快晴なので予定通りに開催致します。」
どうでしょうか。違和感がなくなりましたよね。しかも言いたいことがすんなり頭に入ってくるのです。
逆接の接続助詞「が」は残す
「今晩はラーメンですが、明日はお寿司です。」
この文は「明日」は「ラーメンではない」という前フリの接続助詞「が」の使い方をしています。逆接だから「ラーメンではない」と予測できるのです。
そして案の定「明日はお寿司です。」ですから予測に適っていてすんなりと読めます。
「新企画は大成功を収めましたが、次回は新井氏がリーダーと伺いましたが、弊社としてはまったく新しい分野なので不安もありますが、全力を尽くしたいと存じます。」
この文は接続助詞「が」が三回出てきます。そのうち順接が二回、逆接が一回です。
順接は削って、逆接を残しましょう。
「新企画は大成功を収めました。次回は新井氏がリーダーと伺いました。弊社としてはまったく新しい分野なので不安もありますが、全力を尽くしたいと存じます。」
これならわかりやすいですね。
順接の接続助詞「が」はすべて無くしてかまいません。
接続助詞「が」は「逆接」を一回だけ使えるのだと認識しましょう。
そうすれば読み手を接続助詞「が」で振りまわすことがなくなります。
書き言葉の接続詞
接続詞の中には、砕けた「話し言葉」のものと、引き締まった「書き言葉」のものがあります。
軽い感じのある一人称視点では「話し言葉」の接続詞が最適です。三人称視点の場合は基本的に「書き言葉」の接続詞を用います。
因果の接続詞 「話し言葉」なので 「書き言葉」だから、したがって、ゆえに、しかるに
反転の接続詞 「話し言葉」でも、だって 「書き言葉」しかし
順接の接続詞 「話し言葉」で 「書き言葉」そして
飛躍の接続詞 「話し言葉」というか、っていうか、てか 「書き言葉」ところが、もっとも
添加の接続詞 「話し言葉」あと、で 「書き言葉」または、それから
接続詞は文章の流れを方向づけるために用います。
自動車の運転と同じです。曲がる方向にウインカーを出してから曲がりますよね。
文章の流れが変わっていくときは、変わる方向へ接続詞というウインカーを出してから流れを変えるのです。
文末を変化させる
文末には大別して二種類あります。
報告や公の文章に用いる常体「だ・である体」と、丁寧な語り口である敬体「です・ます体」です。
一般的には「だ・である体」と「です・ます体」は混交させてはなりません。敬意があるのかないのか読み手は分からなくなります。
しかし書き手が明確な意図を持って書き込むぶんには許容されているのです。
絶対ダメではないのですが、そこにピンポイントで文末の文体を書き換えるのは勇気が要ります。
一緒くたに「混交だからダメ」と判断する編集さんや校正さんも多いのです。
一般的に「混交がダメ」と言われるのは「だ・である体」で書いてきて、ポイントで「です・ます体」を用いる場合です。なぜそこだけ「です・ます体」を用いるのか、説明しづらい。
逆に「です・ます体」で書いてきて、ポイントで「だ・である体」を用いるのは許容されています。これは「です・ます体」では「断言」する力が弱いからです。「だ・である体」で「断言」すると明らかに説得力が生まれます。とくに「です・ます体」はやんわりとした雰囲気を醸し出す文体なので、「断言」しようとしても切り口が鈍るのです。
たとえば「高橋先生が担当編集者に暴力を振るいました。」と書けば「深刻さ」を感じませんよね。「高橋先生が担当編集者に暴力を振るった。」ならビシッと「断言」していて、事の深刻さが読み手に伝わりやすくなります。
こういった「意図」を持って「です・ます体」において「だ・である体」を交えるのは「あり」なのです。
「だ・である体」と「です・ます体」は同じ文末が続くことが多くなります。
それをどう変化をつけていくのかを見ていきましょう。
形容詞文の文末
形容詞文は文末をどう処理するかが問われます。
とくに「です・ます体」の形容詞文の文末は殊のほか難しいのです。
たとえば「今すぐにでも駆け出したいです。」という形容詞文があったとします。
ですが敬体の「です」は元々常体の「だ」をやわらかくした変化です。
ということは「です」は「だ」に変えることでいつでも常体に書き換えられます。
ではもう一度先ほどの文を見てみましょう。
「今すぐにでも駆け出したいです。」の「です」を「だ」に置き換えると「今すぐにでも駆け出したいだ。」となります。日本語としておかしいのです。
同じように「美しかったです。」は「美しかっただ。」になります。津軽の方言でも聞いているような違和感を覚えないでしょうか。
そこで常体を適正にするために「今すぐにでも駆け出したいのだ。」「今すぐにでも駆け出したいところだ。」あたりに書き改めます。
これを敬体へ直すと「今すぐにでも駆け出したいのです。」「今すぐにでも駆け出したいところです。」になるのです。
「美しかっただ。」も「美しかったのだ。」にすれば普通に読めます。これを敬体へ直すと「美しかったのです。」になるのです。
では「どうですか。美しかったでしょう。」はどうでしょうか。これはかなり許容される書き方です。しかし厳密にはやはりおかしい。常体へ直すと「どうだ。美しかっただろう。」ですからとくに違和感を覚えない方が多いのです。しかし「だろう」は「だ」の活用ですから、これも「どうだ。美しかっただ。」になります。この場合は「どうだ。美しかったことだろう」とすれば正しい常体になるのですが、やや古語の雰囲気が漂いますよね。
しかし日本伝統の「美しかったろう。」を使うと「敬体にできない」問題が発生するのです。敬体を使うためには「だ」がどうしても必要になります。
そういうときに用いるのが「だ・である体」の一時使用です。
「です・ます体」に固執するとどうしても表現が婉曲になりかねません。
「今すぐにでも駆け出したい。」「美しかった。」「どうです。美しかったことでしょう。」「どうです。美しかったろう。」のように「だ・である体」を用いることで、日本語の正しさや違和感のなさが表現できます。
とりあえず三人称視点で小説を書く場合は常体の「だ・である体」で書くので、文末のバリエーションは豊富です。「だ」「である」は「定義」の文末です。過去形にして「だった」「であった」、動詞文へ書き換えれば「洗う」「書く」「さらす」「立つ」「死ぬ」のようにウ段の文末が登場します。これに補助形容詞「たい」を使った「洗いたい」「書きたい」「さらしたい」「立ちたい」「死にたい」のように文末に「い」が出てきます。形容詞文も「よい」「悪い」「うまい」「まずい」「くさい」のように文末に「い」が出てきます。他にも「体言止め」をすることで名詞が文末に登場するのです。
三人称視点はバリエーションを考えるのがかなり簡単だと思います。
一人称視点ではとくに女性の一人称視点である場合、地の文を「です・ます体」で書くことが多くなります。
動詞文なら「洗います」「書きます」「晒します」「立ちます」「死にます」とすべて文末が「ます」です。過去形にして「洗いました」、能動として「洗いましょう」、否定として「洗いません」にすれば文末に変化がつけられます。
名詞文・形容動詞文なら「私は女だ」「山は静かだ」を「私は女です」「山は静かです」と文末の「だ」を「です」にするのです。過去形にして「山は静かでした」、感想として「山は静かでしょう」、否定として「山は静かでない」にすれば文末に変化がつけられます。
最後に
今回は「接続助詞・接続詞・文末処理」について述べてみました。
接続助詞で最も気をつけるべきは「が」です。とにかく「が」を使い続ければいくらでも文をつなげられます。順接の場合は削っても問題ないことが多いので、削りましょう。
接続詞は文章の流れを読み手に予測してもらうためのものです。「話し言葉」の接続詞も多いですが、三人称視点の小説を書く場合は基本的に「書き言葉」の接続詞を用いましょう。
そして文末処理に気を配りましょう。とくに意図もなく同じ文末が続かないよう、計算しながら文章を書くのです。計算しながら書いていくことによって、名詞文・形容動詞文・動詞文・形容詞文を適宜表すことができます。つまり「定義」をしてそれが「動作」する。「状態」を書いてそれを「定義」する。といった文章の基本的な書き方が身につくのです。
「だ・である体」の文章の中に「です・ます体」を書けば減点は免れないでしょう。しかし「です・ます体」の文章の中に「だ・である体」を書くことは許容されています。「事実」「定義」の提示をするときには、「意図的」に「だ・である体」を混ぜることも考えましょう。
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