638.文体篇:文体とは(4/5)

 今回も「言いまわし」について見ていきます。

 削って削って削りまくります。

 四回目は小手先の削り方を提言しているので、実行しやすいはずです。





文体とは(4/5)


 今回も「文体」の言いまわしについて述べます。

 重複や同じような言葉を削ることから始めましょう。




重ね言葉(重複表現)を避ける

「馬から落馬した」を代表とする重ね言葉(重複表現)には、実にさまざまな言いまわしがあります。

 「ついうっかり」「いちばん最初」「収入が入る」「被害を被る」「違和感を感じる」「挙式を挙げる」「震災による災害」「血痕の跡」「いまだに未解決」「過半数を超える」「過大すぎる」「数多く山積している」「後ろへバックする」「はっきり断言する」「すべて一任する」「全員揃って総辞職する」「成功裡のうちに」「突然のハプニング」「お体ご自愛ください」「頭をうなだれる」「今以上に発展させる」「突然卒倒する」「ただ今の現状」「まだ時期尚早だ」「全国中から選ぶ」「古来から」「従来から」「毎土曜ごと」「沿岸沿い」「およそ二千数百円」「ほぼ百年前後」「元旦の朝」「射程距離」「よりベター」「炎天下のもとで」「期待して待つ」「最後の追い込み」「物価の値上がり」「得点をあげる」「互いに交換する」「余分な贅肉」「賞を受賞する」「犯罪を犯す」「海外に渡航する」「この計画は効果的なプランだ」「誤りは宛名を書き損じたというミスだ」「焦点はNY市場の株価下落というポイントだ」

 まだまだあるのです。ほんの一例を挙げてみました。

 ではこれらをどう書けば重ね言葉でなくなるか、皆様にはわかりましたか。それを考えることも文章力を上げる一助となるのです。




同じような言葉を削る

「描き手の喜怒哀楽、情熱、思い、感情、パッションが伝わってくる絵だ。」という文では、「喜怒哀楽」は「感情」「思い」を指しますし、「情熱」は「パッション」のことです。つまり「感情」「思い」と「パッション」は書く必要がありません。「描き手の喜怒哀楽や情熱が伝わってくる絵だ。」でじゅうぶんわかります。

「新製品の研究、開発、実用化に多大な資金を投入してきた」という文。新製品は実用化を前提に研究し、開発を進めるわけですから「実用化」「研究」を省いてもかまいません。「新製品の開発に多大な資金を投入してきた」で意味は通ります。


 文章を連ねていくうちに「似たような意味の表現」を重ねてしまいがちです。

「ギターを習得するためには、まず教則本によって基礎的技術を会得すること。次によい教師に習って覚えること。そして日々訓練を重ねて身につけることがギターの習得には欠かせません。」という文章には「ギターを習得」「ギターの習得」と似た表現が二回出てきます。また「習得」のほか「会得する」「習って覚える」「訓練を重ねて身につける」はほぼ同じ意味ですので省いてみましょう。

「ギターを習得するためには、まず教則本によって基本的技術を身につけること。次によい教師につくこと。そして日々の訓練を重ねることです。」

 これでも意味は通じますよね。




接続語を削る

 接続語は文章の理解を助けるために用います。文章の流れを事前に示すことで、次にどんなことを述べるのかを読み手に教えてくれるのです。接続語を削っても文章の流れが理解可能なら、その接続語は必要ありません。削ると理解不能になるところにだけ接続語を用いましょう。

「そして」「また」「さらに」などの並列・付加の接続語、「なので」「したがって」「すなわち」「というのも」など順接・理由・換言の接続語は、とくに前後の文章がちゃんとつながってさえいれば、わざわざ接続語を挿入しなくても前後の関係は読み手に伝わります。

 また接続語ではありませんが、「言ってみれば〜」「考えてみれば〜」「逆に言えば〜」「かいつまんで言えば〜」「換言すれば〜」「言葉を換えれば〜」「たとえて言うなら〜」なども削っても理解できる場合は削りましょう。

 接続助詞も要注意です。「〜が、」「〜ので、」「〜のに、」「〜けれども、」などがあります。中でも「〜が、〜が、」はどの「文章読本」でも禁則です。逆説の「〜が、」でなければ、多くは接続助詞の前で文章を切っても差し支えありません。


 著名なプロの書き手ほど「そして」「しかし」「つまり」「だが」などの接続詞を用いません。

「そして」は含みを持たせた表現です。乱用すると効果がなくなります。「そして」を頻出するほど底の浅い書き手であることが明らかになるのです。「そして」を封印して別の表現で書けるようになれば、文章のレベルも上がります。

 他にも「しかし」「つまり」「だが」などの接続詞を極力抑えることが良い文章につながるのです。




水増し語を削る

 語句の中には「とくに必要もないけれどもニュアンスを感じさせたいから書く」ものがあります。

 これらのほとんどは水増し語です。

「ただ株価をチェックするというだけで、トレードはしなかった」の「という」が水増し語になります。省いて「ただ株価をチェックするだけで、トレードはしなかった」と書いても意味はほとんど変わりません。遠回しのニュアンスとして「という」を使う人が多いのです。

「将人の言うこともわかるような気がする」の「ような」も水増し語になります。「気がする」自体に不確定さが表れているので、あえて「ような」を付ける必要がないのです。「将人のいうこともわかる気がする」でも意味はほとんど変わりません。

「株式のことをいまだに怖がっている日本人が多い」の「のこと」も水増し語です。「株式をいまだに怖がっている日本人が多い」で通じます。「すみません。消防署のほうから参りました」の「のほう」も水増しです。「すみません。消防署から参りました」で通じますよね。「のほう」は詐欺師が使う言い回しでもあります。




擬声語・擬態語を削る

「チリチリ」「ザブンザブン」「ゲラゲラ」など、音声をマネた言葉が「擬声語(擬音語)」です。

「にやにや」「ゆったり」「ふらふら」など、人や物の状態や様子を感覚的に表した言葉が「擬態語」になります。

 いずれも感覚的、具体的に読み手に訴える効果を持つのです。

 読み手の感覚に訴えかける擬声語、擬態語は情報主体の文章にはほとんど貢献しません。だから削れるものは削りましょう。

 擬声語・擬態語はうまく使えば効果的ですが、なくてもかまわない場合がほとんどです。




――・……・空白行

 多用といえばダッシュ「――」、三点リーダー「……」、空白行も多用しがちです。

 ダッシュは文脈へ割って入るキャッチホンのように、三点リーダーは間を作るために、空白行はライトノベルでわかりやすくするために用います。

 いずれも多用すると元の効果もあいまいになってしまうのです。

 とくにダッシュを三点リーダーのように「間を作る」使い方で用いると、本来の「文脈に割って入る」使い方ができなくなります。

 ダッシュと三点リーダーはそれぞれ二個セットで用います。

「間を作る」とき、とくに考えもせずダッシュと三点リーダーを長く連鎖させると、下読みさんや選考さんから低評価を出されてしまうのです。

 そのためダッシュと三点リーダーは必ずそれぞれ二個セットで用いてください。四個や六個などで用いることを許容する「文章読本」もありますが、地の文で間を作れない筆力の低さを露呈しているように私は感じます。

 コンピュータ・ゲームではないのですから、ダッシュや三点リーダーが二個よりも多く続ける必要なんてありません。





最後に

 今回は「文体とは(4/5)」について述べてみました。

 五分冊の四つ目です。

 削れるものはとことん削る。そうやって「文の骨組み」を露わにして、普段自分の書いている文章と比べるのです。膨らんでいるところがあなたの「文体」になります。



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