636.文体篇:文体とは(2/5)
今夏も「言いまわし」を見ていくことでご自身の「文体」に気づいていただくのが目的です。
限界まで文を縮めていくと「素の日本語」に近づいていきます。
そこから「自分ならこう書くな」という意見を見つけてください。
それが「あなたの文体」です。
文体とは(2/5)
今回も「文体」を定義する「言いまわし」について述べていきます。
文を可能なかぎり縮めていくことで「素の日本語」に近づけます。
そこから「自分ならこう書くな」というものを見つけてください。
一般化する
短くするために最もよく用いられる方法が一般化です。個別の要素に共通項を見出してひとつの概念にまとめる作業で、「概念化」「普遍化」「抽象化」とも呼べます。
個別の事例を捨てて文章を短くまとめるために必要となる重要な作業です。
「地震で、電気、ガス、水道、電話、インターネット、鉄道、道路は瞬時に断たれた。」なら、「電気、ガス、水道」は「公共エネルギー」、「電話、インターネット」は「通信手段」、「鉄道、道路」は「交通網」に一般化できます。
「地震で、エネルギー供給や通信手段、交通網は瞬時に断たれた。」となるのです。さらにすべてをひと括りとして「ライフライン」まで一般化して絞り込むことができます。
「地震によって、ライフラインは瞬時に断たれた。」となるのです。
具体性を残す
「一般化」することで文章は短くなります。でもわかりにくくなったら意味がありません。いくつか具体例を残してみましょう。
「宇宙食にはこれまで、赤飯や山菜おこわ、鮭のおにぎりから、浮かし餅、羊かん、草加せんべい、黒飴まで認定されている。」なら「赤飯や山菜おこわ、鮭のおにぎり」は「ご飯類」、「浮かし餅、羊かん、草加せんべい、黒飴」は「和菓子」に一般化できます。
そこで「宇宙食にはこれまで、ご飯類から和菓子まで認定されている。」とするのが一般化です。これでは具体例の面白さが生かせません。そこで象徴的な具体例をひとつ残してみましょう。
「宇宙食にはこれまで、赤飯や山菜おこわなどのご飯類から、羊かんや黒飴などの和菓子まで認定されている。」とすれば面白さのミソが読み手に伝わります。
「など」を用いるときは二つ以上の例示が必要です。例示がひとつしかないときに「など」を使うと、文はあいまいになります。
漢熟語で表現する
くどい言いまわしを漢熟語で簡潔に言い表せば、文が縮みます。
「この考古学者は地道で心を込めた調査と他に抜きん出た技術で数々の功績を打ち立てた。」なら「この考古学者は丹念な調査と卓越した技術で数々の功績を打ち立てた」と表現することでスリムにできるのです。
漢熟語は的確なものを選ぶ必要があります。
「急速に増加する」なら「急増する」、「だんだん減る」なら「漸減する」、「詳しく調査する」なら「精査する」
文脈にピッタリ合った漢熟語を見つけるためには、辞書とくに類語辞典と仲良くしてください。
以上が「素の日本語」なのですが、小説の場合「和語」を用いたほうが表現が豊かになります。漢熟語は決まりきった口調になりがちで、無味乾燥な文章つまり紋切型に陥りやすいからです。
能動態にする
受動態より能動態のほうが表現がストレートで字数も削れます。
能動態は主語と動詞が直結し、主体のアクションがそのまま伝わるため、単純明快で「誰がなにをした」かが読み手の頭にすぐ入るのです。
受動態の「中国の対米輸出によって、アメリカの国際貿易収支は赤字に追い込まれた。」なら能動態で「中国の対米輸出がアメリカの国際貿易収支を赤字に追い込んだ。」と表します。
能動態は積極的な意志で行動する主体が前面に出るため、行政文書では避けられます。この「れる」「られる」は主体をあいまいにして責任を回避するための「逃げの表現」であり、行政文書に限らず広く見られます。
動詞の単純化
動詞は簡潔に意味を表すものを選びます。
厄介なのは「行なう」です。「協議を行なう」「戦闘を行なう」「訓練を行なう」などさまざまな漢熟語に付けて使える便利な動詞ですが、下手をすると文章は「行なう」だらけになります。これらは「協議する」「戦闘する」「訓練する」と言い換えられます。
「今日の午後に教室で実験を行なうことにしている。」なら「今日の午後に教室で実験することにしている。」で済むのです。
漢熟語動詞は重厚な感じがしますけれども、和語動詞のほうが字数が少なくやわらかい表現になる場合もあります。「選択する」は「選ぶ」、「運搬する」は「運ぶ」、「執筆する」は「書く」に換えられます。
「この議題については、午後の会議で決定する予定だ。」なら「この議題は、午後の会議で決める予定だ。」
逆に漢熟語を使ったほうが字数を節約できる場合があります。「激しく泣く」を「号泣する」、「沈黙して考える」は「黙考する」、「いくつかに分ける」は「分割する」などです。
行政文書によく見られる「取り組みを推進している」という持ってまわった表現をシンプルに言い換えます。
「警察では、捜査における科学技術の活用等の取り組みを推進している。」なら「警察は、捜査における科学技術の活用等に取り組んでいる」
「販売に従事している」は「販売している」を経て「売っている」
「収集に取り組んでいる」は「収集している」を経て「集めている」
「調査を進めている」は「調査している」を経て「調べている」
「強化に努めている」は「強化している」を経て「強めている」
「推進を図っている」は「推進している」を経て「進めている」
以上のように簡略化できます。
名詞化する
動詞を含んだ語句を名詞化することで密度を高めることができます。
「経営の規模が拡大するとともに担当する社員を増やした。」なら「経営の規模拡大とともに担当社員を増やした。」と名詞化して縮めます。
漢熟語の「する動詞」は「する」を省くだけで名詞化できます。
「与党は公約を実現させるため野党との連立を模索した。」なら「与党は公約実現のため野党との連立を模索した。」
「〜すること」は便利なだけによく使われます。
「文章は必要に応じて整理することがたいせつです。」なら「文章は必要に応じた整理がたいせつです。」
「〜とともに」「〜に応じて」「〜に伴う」「〜を通して」「〜に向けて」「〜に従って」「〜によって」「〜を理由に」などが利用できます。
この方法で留意すべき点は、「の」が続いて修飾語も多くなり、意味がわかりづらくなる場合があるのです。
「国民は与党が当初の公約を実現させるために財源を確保することを求めている」なら「国民は与党の当初の公約の実現のための財源確保を求めている。」と漢熟語を「の」でつないで名詞化した結果、わかりにくくなりました。「の」の連続は三つが限界。できれば工夫して二つにとどめます。そこで「国民は与党に当初の公約実現に向けた財源確保を求めている。」なら縮んでいますし、わかりやすくなっているはずです。
何度も言います。小説の基本はあくまでも和語です。和語は小学生でも意味がわかるため、幅広い読み手層が理解できる文章に仕上がります。ですので小説では「経営の規模が広がるとともに〜」と書くべきなのです。
最後に
今回は「文体とは(2/5)」について述べてみました。
五分冊の二つ目です。
今回は単語を縮めることをまとめています。縮めるには並列の個数を減らしたり動詞を名詞化したりといった手段があるのです。
ですが、それで難解な漢熟語が頻出するようでは読み手にやさしくありません。
論文ではできるだけスリムな文章が求められます。
小説ではできるだけイメージが浮かびやすい文章が求められるのです。
漢熟語は漢字のイメージが浮かんできますけれども、いまいち空を掴むようなイメージになります。
だからこそ「小説の基本は和語」なのです。
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