630.活動篇:出版原稿を作る

 今回は「出版原稿」についてです。

 小説投稿サイトで連載していたり「小説賞・新人賞」を獲得したりして「紙の書籍」化が決まったとします。

 すると必要になるのが「出版するに値する原稿に仕立て直す」ことです。

 ときに主人公以外総入れ替えなんてこともあるらしいので怖い。





出版原稿を作る


 出版契約が済めば、後は「出版原稿」を作ることになります。

「小説賞・新人賞」を受賞した文章がそのまま「紙の書籍」化されるのではないのか。

 そう思いますよね。ですがそれはかなり稀なケースです。

 ほとんどの作品は、徹底的に修正が施されます。




売れる原稿に仕立て直す

「小説賞・新人賞」を獲得してそのまま出版されることはまずありません。

 それは「作品のレベルが出版に堪えない」ためです。

 確かに賞を獲得したのですが、それでも出版業界のレベルから見れば雲泥の差があります。

 だから徹底して修正箇所を指摘されるのです。

 ひとつずつ直していくことによって、次第に「売れる原稿」へと変貌を遂げます。

 また「小説賞・新人賞」受賞作が「紙の書籍」化するには分量が多すぎる、または少なすぎる場合は、ばっさり削除されるエピソードがあったり、新しいエピソードを追加させられたりします。

 とくに小説投稿サイトで企画されている「小説賞・新人賞」には「連載中のものも含む」「規定文字数を上回って連載していても応募可」というものもあるのです。

 この場合は、どこまでを第一巻に収めるのか、出版社から指定されます。

 書き手側が「ここからここまで」と指定できないことは出版契約にも含まれていますし、目の肥えた担当編集さんのほうが的確に判断できるからです。

 たとえば田中芳樹氏は『銀河のチェス・ゲーム』という作品を幻影城の「幻影ノベルス」から出版する予定だったのですが、書き終える前に幻影城が倒産します。徳間書店の編集さんがその原稿を読んで「本編より数世紀前のこの時代の出来事を書いた序章部分を膨らませて書いてくれたら出版する」と言ったのです。そうして書きあげたのが、今や当人の代名詞ともなった『銀河英雄伝説』です。

 つまり田中芳樹氏は『銀河のチェス・ゲーム』を出版したかったが、徳間書店の編集さんは「その序章を膨らませたほうが断然面白くなる」と判断したのです。結果として現在でも藤崎竜氏によるコミカライズや新アニメ化が進められており、世界にファンを持つビッグタイトルとなりました。

 駆け出しの書き手よりも熟練した担当編集さんのほうが正しい判断を下せるものなのです。

 自分の意地を通そうとしても、たいていは担当編集さんの予測を下回ることになります。

 それなら担当編集さんの言うことを素直に聞いて、腐らずに魂を込めて書きあげたほうが断然お得なのです。


 また小説投稿サイトで読んだものと「紙の書籍」で読んだものとでは、見え方が違います。これは液晶パネルに横書きされた小説と、紙に縦書きされた小説とでは、受ける印象が大きく異なることに起因するのです。

 推敲の段階から、紙に縦書きで印刷プリントアウトするクセをつけましょう。

 とくに小説投稿サイトでは改行を頻繁に行なうことが多く、空行も目立ちます。これをそのまま印刷すると内容がスカスカで、とてもではありませんが読み手からお金をいただく代物ではなくなってしまうのです。

 空行を省き、改行を控えた状態で小説を読んでみましょう。すると小説投稿サイトで人気を博した作品でもテンポが変わってしまい、まったく面白くない小説になってしまうこともあるのです。

 そういった齟齬そごを正すために「紙の書籍」用に文章を書き足すことも多々あります。「小説投稿サイトで面白い」と「紙の書籍で面白い」との間には大きな溝があるのです。


 また一般小説に成人向け表現があれば削られます。出版するのは一般小説なので、これは当たり前ですよね。

 とくに『小説家になろう』では年齢制限ギリギリを攻める書き手が多いので、そういった作品は穏当な表現になるよう訂正を求められます。




まったくの別物になる可能性も

「主人公はいいんだけど、ライバルの印象が弱いので、もっとライバルが引き立つように変更しましょう」というように、場合によっては物語の展開すらも仕立て直されます。

 ことによっては「主人公の設定以外まったく別の作品」になってしまうことすらあるそうです。

 これは「キャラクター小説」の側面を持つライトノベルに多く見られます。主人公のキャラが際立っていたから「小説賞・新人賞」を受賞したのですが、他の人物があまり目立たない。これでは主人公が映えないので、他のものを変更して「どうすれば魅力的なライトノベルになるのか」を担当編集さんが考えてくれているからです。主人公に魅力がなければ、そもそも受賞することもありません。

 逆に言うと「どの作品よりも主人公が際立っている」作品は大賞や優秀賞や佳作を獲りやすく、「紙の書籍」化しやすいのです。その代わり「主人公以外の魅力が乏しい場合は、それ以外の要素をばっさりと切り捨てて、新しい人物と新しい展開の小説にさせられる」ということでもあります。




タイトルが、筆者名が変わる

「小説賞・新人賞」を受賞した作品であっても、出版社の意向によって「タイトルが変わる」ことがあります。

 これはマーケティング上の理由で「売れるタイトル」を付けようとしているからです。

 あなたのネーミング・センスがわからない以上、出版社は自社の抱える編集さんやコピーライターさんに「タイトル」を付けてもらうほうが「よりよい」と判断しています。


「小説賞・新人賞」を受賞した作品であっても、「筆者名が変わる」ことがあります。

 すでに同名の「プロの書き手」がいる場合は、たとえ本名であろうとも筆者名を変えざるをえません。こればかりは先行者優位ですので致し方ないのです。

 また筆者名が倫理的に好ましくない場合や、作品のイメージに合っていない場合などは変更を余儀なくされます。


「タイトル」にしても「筆者名」にしても、出版社は「作品をより多く売る」ことを第一に考えています。それは出版社の利益でもありますし、書き手により多くの印税を渡すためでもあるのです。

 書き手には、そういう親心を受け入れるだけの広い心が求められます。




小説投稿サイトでの扱い

 小説投稿サイトが企画した「小説賞・新人賞」の場合、元原稿が小説投稿サイトに残ってしまいます。

 これから「紙の書籍」として有料で読んでもらいたいのに、小説投稿サイトに無料で読める状態として置いてあるのでは商売が成り立ちません。

 そこで冒頭の一部を除いて削除を要請されたり、要約されたものに差し替えさせられたりと、こちらも大きな影響が出てきます。

 基本的には出版社との契約によるところが大きく、次いで小説投稿サイトの利用規定によるところが大きくなるのです。

『小説家になろう』のようにサーバー負荷の抑制のために原則削除禁止というところもあります。その場合は編集をして内容を抜くことになるのです。これならブックマークや感想などのリンク先が無くなってサーバーにかかる負荷が軽減できます。





最後に

 今回は「出版原稿を作る」ことについて述べました。

 出版社と契約を結ぶことからすべてが始まります。

 当面の活動は、受賞作のリライトです。

 よりよい作品こそが、より売れる作品であり、より印税の入る作品になります。

 つまり書き手と出版社がWIN−WINの関係となるために、さまざまな手直しを求められるのです。

 修正が山のようにあっても、腐らずにひとつずつ吸収するようにしていけば、次作からはそれを踏まえたうえでよりよい作品が書けるようになります。



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