629.活動篇:出版の準備は契約してから

 今回は「出版社との契約」についてです。

 契約書はとても難しいことがいろいろ書かれています。

 少しでも不安があれば、すぐに出版社の人に聞いてみてください。

 また自分ひとりでは判断しかねるようなら、行政書士や弁護士に契約書をチェックしてもらってもいいですね。ただしお金がかかりますけど。





出版の準備は契約してから


 プロを目指したい書き手としては、一日でも早くプロになるためにどうするか、を考えるはずです。

 ちょっと待ってください。

 あなたはまだアマチュアです。今からプロになってからのことを考えても意味がありません。

 まさに「捕らぬ狸の皮算用」です。




出版社との契約

 プロを目指すうえで最初に必要なるのが「出版社との契約」です。

 たいていの方は「小説賞・新人賞」で好成績を収めての出版となります。

「小説賞・新人賞」の募集要項で示された賞金や出版権について、口約束ではなく紙の書面での「公的な契約書」を交わすことになるのです。

 書き手が確認すべきなのは「賞金」「印税」「制約」の三点になります。




賞金

 まず「賞金」です。通常なら「小説賞・新人賞」が公募された段階で示された「賞金」が受け取れます。しかし所得税(一時所得)の源泉徴収が行なわれてから差額を受け取れるのか、先に満額をもらってから書き手が確定申告をしなければならないのかを明らかにしておかなければなりません。

 つまり大賞賞金百万円の「小説賞・新人賞」であっても、最終的に支払うべき税金は差し引かれることになります。そこを考えておかないと「確定申告の際に納めるべき所得税が払えない」ことが起こりうるのです。

 二十年くらい前に、よくプロ野球選手が一億円以上の年俸をもらって、それを湯水のごとく使って所得税が払えなくなったという話を聞きました。

 このように「賞金」は満額もらえるわけではないのです。

 また「賞金」は「原稿料」とも言い換えられます。

 この作品を「紙の書籍」化するにあたり、この原稿を「賞金」で買い取りますということです。

 さらに後述する「制約」も含まれるため、改めて考えると長編小説で十万円の「賞金額」というのは安すぎるような気もします。佳作でも10万円もらえるくらいの「小説賞・新人賞」を狙うのがオススメです。




印税

 次に「印税」について。プロになりたい方で「印税」の仕組みを知らない方はいないとは思います。もし知らない方がいらっしゃったときのために言及しましょう。

「印税」とは元々「紙の書籍を一部刷ったときに、書籍の後付に貼る印紙にかかる税金」のことです。これが「書き手に対して支払う一部あたりの著作物使用料」を指すようになりました。

 たとえば定価1,000円(税抜)の書籍を1,000部刷ったとき、「印税率」が10%なら「1,000円×1,000部×10%」となり「10万円」が「印税」として書き手に振り込まれます。これも「賞金」で話したように、前もって源泉徴収されるか、源泉徴収されずに書き手が確定申告をしなければならないかで、振り込まれる金額に差が生じるのです。

 ちなみに現在は「印税率10%」は売れっ子の書き手にしか支払われず、プロデビュー組や底辺層は3〜5%程度だと言われています。つまり5%なら定価1,000円(税抜)を1,000部刷ったら「印税」は「5万円」前後です。

 あなたはここで違和感を覚えませんか。

 きっと「プロの書き手になれば印税生活でウハウハできる」という夢を見ていたことでしょう。

 それなのに「10万円」や「5万円」という数字を見せられました。

 これは「1,000部刷ったとき」で計算しているからなのです。

 一般的に初めて「紙の書籍」化された際、5,000部からスタートすることが多いと言われています。

 そうなれば「印税率5%」なら「25万円」がもらえるのです。文庫本なら定価700円(税抜)だと仮定すれば「17万5000円」になります。

 とても「印税生活でウハウハ」とは言えませんよね。

 たとえばお笑い芸人ピースの又吉直樹氏『火花』は「紙の書籍」だけで300万部ほど売れています。定価1,000円で「印税率5%」だと仮定すると、「1,000円×3,000,000部×5%」なので「1億5000万円」です。この数字を見れば「印税でウハウハ」と言える金額ではないでしょうか。

 ではなぜ300万部で計算せず1,000部で計算しているのかとお思いでしょう。

 それは「そんなに売れない」からです。

『火花』の場合も当初はそれほど部数は刷られておらず、重版がかかるごとに段階的に「印税」が支払われていったのです。だから結果として又吉直樹氏は総額「1億5000万円」の「印税」を手に入れました。(厳密に『火花』の書籍は1,200円(税抜)ですから印税は「1億8000万円」になります)。

 今ライトノベルで売れているタイトルは10巻で総計100万部といったところです。しかも文庫本は1部700円(税抜)ほどですから、10巻書いても総額「3,500万円」になります。売れっ子でこの金額ですから、「小説賞・新人賞」の「印税」なんて1,000部の見積もりでもやさしいくらいなのです。

 また「印税」が支払われるタイミングも出版各社で異なります。収益が上がった翌月に支払われるところもありますし、半年以上数年単位で待たされるところもあるのです。このあたりも契約書でしっかりと確認しておきましょう。

 この現実を見せられて、それでも「プロの書き手」になりたいとお思いですか。

 売れるか売れないかわからないのに、本業を辞めてまで「専業の書き手」になっても、狙った金額は入ってきません。

 今、年収300万円以上もらっている方は、絶対に本業を辞めるべきではありません。それだけの金額を稼げる書き手になるまでは。兼業しながらそれだけ稼げれば副業で300万円ですから結構な副収入だと言えます。

 小説の文庫本一冊書くのに四か月かかったとして、年三冊出版し各5,000部を刷った場合、あなたの「印税」は1年で「52万5000円」です。

 なお現在は「刷った部数」ではなく「売れた部数」から「印税」を決める出版社が増えています。ですので文庫本を5,000部刷って500部しか売れなかったら印税は「1万7500円」です。

 どうですか。これでもまだ「プロの書き手」を目指しますか。思ったより稼げませんよ。小説を書くことが三度の飯より好きでなければ、とてもではないですがやっていられないのです。




制約

 残る「制約」についてです。「契約書」はあなたへメリットを提供する代わり、出版社にもメリットがなければなりません。

 多い「制約」は「何年何月何日から何年間、あなたの小説を出版する権利を独占する」というものです。たとえば「三年間出版権を独占」されれば、三年間は他の出版社から小説を出版できなくなります。ひとつの「小説賞・新人賞」に複数作を投稿できる「速筆家」の書き手の場合によく用いられるようです。

「何冊目まで、あなたの小説を出版する権利を独占する」というものもあります。たとえば三冊目までなら、半年に一冊出版できれば最短で一年ほどの「制約」に留まるのです。「小説賞・新人賞」に一作だけ応募してきた書き手によく用いられます。


 現在は「電子書籍」が広く流通しているので、「電子書籍」の印税に関する条項もあります。またマンガ化やアニメ化、ドラマ化や映画化などの二次使用についての条項も前もって「契約書」を交わしておくのです。


「契約書」はよく読まなければ「書き手がカモ」にされる恐れもあります。

「契約書」でわからない点がある方は行政書士や弁護士などと相談しましょう。

 ただし彼らの報酬は無料ではないので、「賞金」の大半を注ぎ込んでしまうこともありえます。





最後に

 今回は「出版の準備は契約してから」について述べました。

 出版社と契約を交わすのはとても難しい。

 それは携帯電話やスマートフォンの契約を行なったときと同じくらい難しいと思ってよいでしょう。

 わからないことがあったら契約書を持ってきた営業さん編集さんにすべて尋ねてください。

 出版社側には「わかるまで説明する義務」がありますので、あなたがわかるまで説明してくれます。

 不安があったらずばりと問いただすのがオススメです。

 それでも不安であれば行政書士や弁護士にチェックしてもらいましょう。

「契約書」にも他の契約同様「クーリング・オフ」制度が適用できます。

 こちらのほうが圧倒的に不利だと感じたら、契約締結後七日以内であれば契約の見直しもできるのです。



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