627.活動篇:パクリを疑われたら

 今回は「パクリ」についてです。

 小説はインターネットや紙媒体を含めて、世の中ですでに十億冊以上販売されています。

 つまりあなたの作品がどこかの誰かの作品に似ているということは起こりうるのです。

 固有名詞が異なるだけで、展開はまったく同じ、ということもあるでしょう。

 小説投稿サイトとくに『小説家になろう』にはテンプレートがあり、さらに似た作品が量産される事態が起こるのです。





パクリを疑われたら


 日本にあるすべての小説投稿サイトに毎日投稿されている小説の本数は、重複も含めておそらく十万単位でしょう。これは連載小説の一話も一本と換算したうえでの話になります。

 あなたが書いた小説が、この十万単位の他作品とまったくバッティングしない可能性のほうが少ないのです。

 つまり「あなたが書きたいように書いた小説は、いつかどこかの小説投稿サイトに投稿されたある作品にとても似ている」ということが起こりえます。




パクリを指摘されたら

 そういう作品をたまたま憶えていた読み手が「あなたのこの小説は、◯◯という小説投稿サイトの△△という作品のパクリだ!」と言われかねないのです。

 しかし慌てないでください。

 あなたの小説の主人公と、指摘された作品の主人公は本当に似ているのでしょうか。

 また似ていることだけで「パクリだ!」と決めつけられるようなものでしょうか。

 この世にはすでに数百万、数千万の小説が出回っています。海外も入れれば数十億はあるはずです。これだけ数があるのに、主人公の属性がいっさいかぶらないなんてことはまずありません。

 推理小説を書こうとして「主人公は私立探偵にしよう」と思ったとします。それだけでも数百万の類書がヒットします。「私立探偵は中年男性がいいな」これで仮に十分の一に絞れたとしてもまだ数十万が似たような作品です。サー・アーサー・コナン・ドイル氏『シャーロック・ホームズの冒険』シリーズのシャーロック・ホームズ、アガサ・クリスティー氏『名探偵ポワロ』シリーズのエルキュール・ポワロ、江戸川乱歩氏『名探偵明智小五郎』シリーズの明智小五郎、横溝正史氏『金田一耕助シリーズ』の金田一耕助は、いずれも「中年男性の私立探偵」という分類ができます。

 では誰がパクったのでしょうか。それぞれまったく異なる作品なのに、主人公の属性は二つまで一緒なのです。

「少年たちを情報収集に利用する」という点を追加すれば、シャーロック・ホームズと明智小五郎が残ります。もちろん他の作品でもこの三点を満たす作品はあるはずです。たとえばマンガの青山剛昌氏『名探偵コナン』の江戸川コナンは、毛利探偵事務所の中年探偵である毛利小五郎が受けた事件についていき、少年探偵団に証拠を集めさせることがあります。総体的にこの三点を満たす物語だとも言えます。

 有名な作品ですらこの有様なのです。

 またストーリーや犯行トリックのタネの面から「密室殺人」「不可能犯罪」という事件を探せば、推理小説の大半が「密室殺人」「不可能犯罪」であることに気づくはずです。

 つまり「主人公が似ている」という指摘も、「ストーリー・犯行トリックが似ている」という指摘も、もはや創作の枷にはなりえません。

 2018年12月現在に小説を企画したとして、それまでに同じような作品は必ずあったはずなのです。小説はすでに数十億は出回っていますからね。




パクリと断言されるのは

 その点、明確に「パクリだ!」と言われてしまうものもあります。

 それは「一部分であっても文章の表現が似ている」ことです。似ている部分が多ければ多いほど「パクリだ!」の声は高らかに響き渡ります。

 厳密に言えば、これは「盗作」です。

 文章の表現に関しては、日本語では兆を超えるバリエーションがあり、それらがすべて一致するということは、過去を振り返ってもまずありません。だから「文章がまるっきり同じだ」と指摘されれば「盗作」のそしりは免れないのです。

 英語の場合数十万の単語がありますが、「主語と述語」の組み合わせはそれほど多くなく、そこに付属する補語や目的語などもたかが知れています。だから英語の小説はそもそも「一部分の文章がまるっきり同じ」になってしまうことがありうるのです。

 だから自分の創作で書いた文章が、いつかどこかで書かれた作品と似ているからといって「パクリ」だ「盗作」だと騒がれるいわれはありません。

 ですが似ている部分が長い文章にわたっている場合、それは奇跡のような確率となります。その場合は、どう考えても「パクリ」であり「盗作」である可能性が高いのです。




引用は盗作ではない

「盗作」に似ているものとして「引用」があります。

 違いは「出典元を明記しているか」どうかです。

 まずあなたの文章はいつも通り書きます。そして引用する段では、引用符を用いたり、改行して一字下げてまた改行したりと、「これは引用ですよ」と明示するのです。そして引用元となった書籍名・著者名・出版社名を明記します。

 誰が見ても、その文章は「引用」している部分だとわからせるのです。

「引用」は著作権に抵触しません。




パクリではないけど似たような文章

 パクリではないのだけれども、他の作品に似ていることがあるいくつかの例があります。

 たとえば「オマージュ」という言葉は、似せる元になる作品に敬意を表して、意図的に作品の対立構図やセリフまわしなどを用いることを意味しているのです。元になる作品は古典であることが多く、劇作家ウィリアム・シェイクスピア氏の作品はたくさんの「オマージュ」小説を生んでいます。「タイトル」だけを借りてくる場合もありますし、そのままほとんど同じ展開を見せる場合もあるのです。

 現在最も「オマージュ」を多用している作品は前出のマンガ『名探偵コナン』でしょう。

 主人公の父「工藤優作」は松田優作氏と彼が演じたドラマ『探偵物語』の主人公「工藤俊作」の名前をミックスしたものです。

 主人公の母「藤峰有希子」は『ルパン三世』の峰不二子とその初代声優「二階堂有希子氏」の名前をミックス。

 主人公「工藤新一」は諸説ありますがショートショートの大家・星新一氏とのミックスでしょう。

 またFBI捜査官である「赤井秀一」は『機動戦士ガンダム』の「赤い彗星」とあだ名されたシャア・アズナブルの声優「池田秀一」氏とのミックスで、彼の偽名である「沖矢昴」はシャアの本名「キャスバル・レム・ダイクン」から来ています。

 「100億の男」として今年の映画シーンを彩った「安室透」は同じく『機動戦士ガンダム』の主人公「アムロ・レイ」とその声優「古谷徹」氏のミックス。同じミックスから「降谷零」という本名を持っています。

 主人公のライバル「服部平次」は時代小説『服部半蔵』と『銭形平次』のミックス。

 という具合に、登場人物の名前の多くが「オマージュ」から作られています。連載が千回を超えていますから、なにかの「オマージュ」でなければ各シリーズで一定の方向性が作れないという事情もあったのでしょう。


 また「パロディー」も「盗作」とは異なる創作です。

 たとえば世界観を借りてきて、実際の作品にはない展開を見せるものを全般して「パロディー」と称します。

 皆様に馴染みのあるのが「同人誌」だと思います。

 とくに「アニパロ」と呼ばれる「アニメのパロディー」本は飛ぶように頒布されていくのです。

 舞台も人物も著作権者に無断で使用しています。それでも現時点では大きな営利目的でないかぎりは裁判を起こされることはないようです。

 もちろん「パロディー」は二次創作なので、小説投稿サイトの多くでは投稿できません。そのため最も規約の緩い『pixiv小説』が二次創作の穴場となっています。『ピクシブ文芸』は一次創作専門ですので、投稿時に間違えないようにしてください。


 しかし世界観の一部分、またキャラクターの一部分を借りてきて、あなたなりに噛み砕いてみるのも創作の初手です。

 まったくの一から創り上げるよりも、借りてきたほうが手っ取り早いのは皆様もご理解いただけるでしょう。

 借りてきたものを、あなたの世界観やキャラクターに当てはめていき、フィットさせていくことで、借りてきたはずのものがオリジナリティーを持つようになります。

 状況が変われば世界観もキャラクターも変化せざるをえないからです。




パクリを疑われたら

 いわれもないのに「パクリ」「盗作」を疑われたら、あなたがどのようにしてその物語を思いついたのかをいっさい隠さず相手に晒しましょう。

 記憶力がよい方は、自分の知らないうちに「パクリ」の文章を書いてしまいがちです。

 悪意はなかったことが伝われば、たいていは納得してもらえます。

 もし意図的に「パクリ」「盗作」をしていたのなら、すぐに謝って当該作品を削除しましょう。


 逆にあなたの小説が誰かに「パクられた」「盗作された」のなら、まずは相手側の小説投稿サイトの運営に通報してください。あなたの小説が掲載されている小説投稿サイトへ訴え出ても、サイト運営は作者の代理人ではないのです。

 相手の小説投稿サイトに訴え出れば、必ずなにがしかのリアクションをとってくれます。自社サイトの信用問題に関わるからです。





最後に

 今回は「パクリを疑われたら」ということについて述べてみました。

 やっていいのは「オマージュ」と「パロディー」だけです。

「パクリ」「盗作」は絶対にしてはなりません。

 ですが世に数十億の小説がある以上、絶対にかぶらないことはまずないのです。

 それでも可能なかぎり「重複」を避ける努力はしましょう。



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