618.明察篇:アイデアの泉の湧かせ方
今回は「アイデアの湧かせ方」についてです。
キーワードは「触媒」と「化学反応」。
ありきたりな二つの展開を「化学反応」させることで、新しい展開を生み出すことができます。
アイデアの泉の湧かせ方
小説にして書きたいアイデアが泉のように湧き出す書き手と、なかなかアイデアが出てこず自分がなにを書きたいのかわからない書き手がいます。
これはセンスや才能に負う部分であり、長所にも短所にもなりえるので気にしすぎないようにしましょう。
しかし訓練次第でアイデアの泉を湧かすことはできるのです。
ひとつのアイデアから膨らませていく
人物を書こう、展開を書こう、世界観を書こうというひとつのアイデアがあるとします。これは書き手であれば誰でも思いつけるアイデアです。
ですがひとつのアイデアを膨らませる能力のある人と、どうすればいいのかわからない人がいます。
いきなり結論から言います。
アイデアを膨らませるためには、他のアイデアと組み合わせて「化学反応」を引き起こすのです。
これがパッとできる人と、いくら考え続けても思いつかない人がいます。
そこに才能の限界を感じて筆を置く人がひじょうに多いのです。
思いつかない人は他人からアドバイスを受けるようにしましょう。
といっても「このアイデアを組み合わせたら面白くなるんじゃないかな」と具体的に提案されてしまうと、その書き手は
「よくあるパターンとしてはこんな展開があるんだけど」「ちょっと前にこんな展開の作品があってね」「今流行りのこの小説ではこういうふうにしているんだけど」といった、書き手の判断と自主性を引き出せる言葉で「化学反応」に気づかせるのです。
「化学反応」に気づかない書き手は、論理的な整合性ばかりに気をとられて発想が固執しています。
たいていの物語の展開は、後付けで論理的な整合性をとれることが多いのです。
だから「化学反応」を促進するための「触媒」をどれだけ多く持っているかが、ひとつのアイデアを膨らませるためには必要不可欠になります。
触媒を増やす
「触媒」を増やすには、物語や出来事、情報や知識などアイデアの素にたくさん触れることです。
他人の書いた小説だけでなく、マンガやアニメ、ドラマや映画や舞台、ゲームなどから情報を集めて「触媒」にします。
また新聞や雑誌、テレビ、書籍などのメディアからも「触媒」は集められるのです。
さらにあなた自身の体験や知り合った人、噂話などにも「触媒」は隠されています。
これらの「触媒」はなにも細かく憶える必要はありません。
川端康成氏『雪国』の書き出しを暗記している方も多いでしょう。私も何度となく本コラムで言及してきました。
しかし『雪国』の書き出しを暗記しているからといって、それでは「触媒」の役目は果たせません。
暗記はアイデアにはなりえません。アイデアはもっと抽象的なものです。
――――――――
主人公が夜汽車に乗り、水上からトンネルを抜けて越後湯沢へやってくる。その車内には活発な娘も乗っている。
――――――――
具体的すぎて、アイデアになりません。
――――――――
主人公が乗り物に乗って日常とは隔絶した場所に来た。その乗り物には若い娘も乗っている。
――――――――
ここまで抽象化するとアイデアの素つまり「触媒」になるのです。
「ボーイ・ミーツ・ガール」ものの小説が書きたいというアイデアが浮かんだとき。上記の「触媒」があれば、「そうか、主人公を日常とは隔絶した場所に行かせて、そこで若い娘も居合わせていればいいんだ」と「化学反応」を生じます。
これをある程度のレベルまで高めたのが、小説投稿サイト『小説家になろう』で人気を博している「異世界転生」「異世界転移」「VRMMO」ものです。
異世界やゲーム世界は、日常とは明確に隔絶しています。だから多くの書き手が「触媒」として用い「化学反応」を起こして小説を書くのです。
インターネット時代の触媒の探し方
世はインターネット全盛期。あやふやな知識でもWeb検索することで、「触媒」となるものが容易にヒットします。
もちろんある程度の知識は必要です。
広く浅くでかまいません。検索キーワードを思いつくくらいには知っている必要があります。
「ボーイ・ミーツ・ガール」ものは多くの作品が書かれていますから、適当に検索キーワードを設定しても芋づる式に検索キーワードを得ていくことも可能です。
しかし「剣と魔法のファンタジー」では逆に膨大にありすぎます。適切な「触媒」を探すのは至難の業です。
「剣と魔法のファンタジー」であれば、『ハンニバル』や『
アクション小説を書きたいのであれば、ブルース・リー氏やジャッキー・チェン氏のような武術の見事さを「触媒」にして「化学反応」を起こし、派手なバトルを演出するのです。
SF小説なら、『STAR WARS』や『MATRIX』などが「触媒」になりえます。
触媒は多い方が良い
「触媒」があると「化学反応」を引き起こして、ひとつのアイデアを膨らませることができます。
だから物語を見聞きしたら、頭の中に「抽象化」して記憶しておくのです。
そうやって数多くの物語に触れることで、「触媒」の数は必ず増えていきます。
ミステリーのアリバイトリック、ハーレムの侍女の性格、冒険小説で対決する魔物と手に入るお宝などを「抽象化」して憶えていくのです。
むやみに百本の作品を読むよりも十本の作品を「抽象化」して憶えておくほうが、「触媒」は確実に増やせます。
事実は小説より奇なり
小説は事実よりも理屈立てて構成しないといけません。
そうしなければ「こんなご都合主義な展開では読み手はついてこない」という事態を招きます。
「事実は小説より奇なり」です。
事実はどんな奇跡的なことが起きても、「それを現実に見せつけられる」ことで「本当にあった話」だと受け手は納得してくれます。
しかしこの事実をそのまま小説にしてしまうと、因果関係もなく「こんな物語はありえない」と読み手に思われてしまうのです。
同じ出来事であっても「事実」と「小説」は許容のされ方が異なります。
どんなにありえないことでも「事実」であれば受け入れざるをえないのです。
しかしありえないことを「小説」に書いてしまうと総スカンを喰らいます。
たとえあなたが直接体験した「事実」であろうとも、小説にするときは因果関係が必要なのです。
このように「小説より奇なり」な現実は皆様も実際にご覧になっていますよね。
フィギュアスケートの羽生結弦氏、メジャーリーグベースボールの大谷翔平氏、将棋の藤井聡太氏。
彼らは、そのまま小説に書くと怒られそうなほどの活躍を見せています。
小説にするには、その結果を出すまでにどのような努力をしてきたのかを書く必要があります。つまり「因子」を明らかにして「結果」が自然に導き出せるようにするのです。
これが「因果関係」を明らかにすることになります。
事実よりも小説のほうが展開は制限されるのです。
最後に
今回は「アイデアの泉の湧かせ方」について述べてみました。
アイデアの泉を湧かせるには、アイデアを膨らませる必要があります。
アイデアを膨らませるには、他のアイデア「触媒」を加えて「化学反応」を起こすのです。
「触媒」は頭の中に数多くストックしておきましょう。
そのとき丸暗記するのではなく「抽象化」して憶えるのです。
ただし「事実」は「抽象化」するだけでなく「因果関係」を想定して記憶してください。
「こんな小説を書いたら怒られそうだ」と思う「事実」は、「因果関係」がとれるところまで程度を引き下げるのです。
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