617.明察篇:伏線の張り方

 今回は「伏線の張り方」についてです。

「伏線」には大きく分けて三つあります。

 これを巧みに用いて、関心をそそる小説に仕立て上げましょう。





伏線の張り方


「伏線」は「あらすじ」段階で埋設しておくのがベストです。

「伏線」には大きく分けて、次のエピソードに向かうもの、「佳境クライマックス」に向かうもの、「結末エンディング」に向かうものの三種類があります。

 それぞれ見ていきましょう。




次のエピソードに向かう伏線

 今のエピソードの中に次のエピソードを喚起する「伏線」を埋設する方法があります。

 とくに今のエピソードの「結末エンディング」に、次のエピソードの「書き出し」が読みたくなるような「伏線」を張ることが多い。

 すると読み手は「伏線」を読んで、「この情報って内容がわからないけど、次のエピソードで解説してくれるのかな」と思います。

 この状態になると、読み手は次のエピソードを心待ちするようになるのです。

「伏線」がなければ、今のエピソードが終わったら読み手は満足してしまい、次のエピソードを読んでくれるとは限りません。

「伏線」があればそれが推進力となって、次回の閲覧数(PV)は必ず上がります。

 どんどん閲覧数(PV)が増えていく連載小説というのは、エピソード単位での「伏線」を巧みに用いているのです。

 さらに凄腕の書き手になると、毎回の投稿で次回への「伏線」を張って結末エンディングに「惹き」を設けます。

 だから毎回読み終わると、次回が楽しみになるのです。

 最低限「エピソード」単位で「伏線」を仕込むことを考えてください。




佳境クライマックスに向かう伏線

 物語の中で最も盛り上がる「佳境クライマックス」に向かう「伏線」を埋伏する方法があります。


 たとえば『アーサー王伝説』において、「佳境クライマックス」はアーサー王と不義の子モルドレッド卿との決戦「カムランの戦い」です。

 そこに至る「伏線」は次のものになります。

――――――――

一.アーサー王が異父姉モルゴースとの間にモルドレッド卿をもうけたこと。

二.円卓の騎士ランスロット卿が王妃グィネヴィアと不義密通し、モルドレッド卿らがその現場を押さえようとする。しかしランスロット卿が口封じを図って多くの騎士を斬り殺したこと。

三.火刑に処されようとしたグィネヴィアの守備に就いていたガウェイン卿の兄弟などを、ランスロット卿が殺してグィネヴィアとともにフランスへ逃亡したこと。

四.アーサー王がランスロット卿を討つために、モルドレッド卿にブリテン島の統治を任せたこと。

五.アーサー王が軍勢を連れてフランスへ渡ったこと。

六.アーサー王不在であることを機にモルドレッド卿がブリテン王を宣言し、ランスロット卿から帰国させられた王妃グィネヴィアと結婚しようとしたこと。

――――――――

 とこれだけあります。

 これによってアーサー王はブリテン島に帰り着いてカムランの地においてモルドレッド卿と対決することになるのです。

佳境クライマックス」に向かう「伏線」は、このように「アーサー王とモルドレッド卿が対決する」ために必要な条件を整えることでもあります。

 エピソードが進むごとに「伏線」を張って「佳境クライマックス」への期待を煽るのです。

『アーサー王伝説』でもそうですが、一見「伏線」に見えない情報が「伏線」になっていますよね。

 たとえば「アーサー王が異父姉モルゴースとの間にモルドレッド卿をもうけた」ことは、それだけでは「カムランの戦い」には向かいません。「ランスロット卿が王妃グィネヴィアと不義密通していた」ことも、それだけでは「カムランの戦い」には向かわないのです。

 直接関係があるのは「モルドレッド卿にブリテン島の統治を任せた」ことと「アーサー王がフランスへ渡った」こと、そして「モルドレッド卿がブリテン王を宣言し、王妃グィネヴィアと結婚しようとした」ことだけでしょう。

 この三つは「アーサー王とモルドレッド卿の直接対決」を演出するには必要な「伏線」となっています。


佳境クライマックス」へ向かう「伏線」は、物語を盛大に盛り上げるのに一役買うのです。この「伏線」がない小説は、盛り上がりに欠けると言わざるをえません。

 そのため「佳境クライマックス」へ向かう「伏線」はすべての小説が持っている必要があります。




結末エンディングに向かう伏線

 「結末エンディング」に向かう伏線もあるのです。


 再び『アーサー王伝説』を例にとります。

「カムランの戦い」において、双方の兵数は底をつき、モルドレッド卿側は彼ひとり、アーサー王側は王を含めて三人しか残りませんでした。

 アーサー王がモルドレッド卿を槍で突き貫きますが、モルドレッド卿はかまわず前進してアーサー王の兜を横薙ぎでしたたかに叩きます。これによってアーサー王は致命傷を受けるのです。

 ここまでが「カムランの戦い」の「佳境クライマックス」です。


 そしてアーサー王は侍従の騎士に「宝剣エクスカリバーを湖の乙女ヴィヴィアンに返還する」よう頼みます。生存したアーサー王の血族の中で最もアーサー王に近かったコンスタンティン卿を次期国王に指名したのち、異父姉モーガン・ル・フェイや湖の乙女ニミュルらとともに伝説の島アヴァロンへと船出します。

 これが『アーサー王伝説』の「結末エンディング」です。


 まず「宝剣エクスカリバー」というキーアイテムが出てきます。これを湖の乙女ヴィヴィアンからもらい受けたのはずいぶん昔のことです。アーサー王の死後これを返還する義務を「伏線」で表しています。

 そしてアーサー王の血縁であるコンスタンティン卿が登場するのは、「カムランの戦い」の直前です。これは「次のエピソードに向かう伏線」でもあります。

 最後の異父姉モーガン・ル・フェイらですが、彼女は魔女として有名であり、異父弟アーサー王をさんざん邪魔してきました。しかし最後には彼を伝説の島アヴァロンへといざなう役割を演じているのです。

 アーサー王の血縁は異父姉の三名、異父姉モルゴースの息子ガウェイン卿、アグラヴェイン卿、ガヘリス卿、ガレス卿ら、異父姉モーガン・ル・フェイの息子であるユーウェイン卿、そして異父姉モルゴースとの間にもうけた息子モルドレッド卿、コーンウォールのカドー卿とその息子コンスタンティン卿のみです。

 しかし「カムランの戦い」終了時点で生き残っているのは異父姉の三名、コーンウォールのコンスタンティン卿のみであり、王位継承者はコンスタンティン卿しか残っていなかったのです。

 これにより、王位はコンスタンティン卿に継承されたのです。

 そして異父姉モーガン・ル・フェイと湖の乙女ニミュルらによって、アヴァロン島へ船出します。


 このように「伏線」は「結末エンディング」までにすべて解消しておくべきなのです。残してしまうと「続編」への期待が高まってしまいます。

『アーサー王伝説』はラストに「アヴァロン島への船出」があるため、今でもアーサー王生存説がヨーロッパでも広く語られているくらいです。

 とくに「小説賞・新人賞」へ応募する長編小説では、すべての「伏線」を解消して物語を終えましょう。

「伏線」を残すと減点対象になるからです。





最後に

 今回は「伏線の張り方」について述べてみました。

 毎回読んでもらうためには、「伏線」は毎回張るべきです。

 その他にも次のエピソード、「佳境クライマックス」、「結末エンディング」へと「伏線」を張ることで、物語に推進力が生まれます。

 読み手の「この先が読みたい」「続きが読みたい」と思わせるものが「伏線」なのです。



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