613.明察篇:ありえないものを読ませる

 今回は「ありえないものを読ませる」ことです。

 と言っても「ありえない」ものを考え出そうとすると思いつかないのではないでしょうか。

 そこで「ひとひねり」加えることを提案致します。





ありえないものを読ませる


 小説投稿サイトの読み手は目が肥えています。ライトノベルの王道・テンプレートを読み尽くしてきたからです。

 そんな読み手たちに一目置かれるようないい作品は書けないものか。そう思うのではないでしょうか。

 そういう思惑があるのなら、前回の「お手軽ファンタジー」に即した小説では評価を得られません。

 一目置かれるには読み手にとって「ありえない」と思わせるような意外性が必要です。




ありえないひとひねり

 人の欲望は無限で尽きませんが、その種類は有限です。

「お手軽ファンタジー」の物語は可能性を追求する書き方になります。

 つまり欲望をひとつ入れた小説が「お手軽ファンタジー」なのです。

 ですが欲望の種類が有限である以上、必ず誰かの発想とかぶることになります。

 かぶらなくするには、もうひとつ「現実とは異なる設定」を加えることもあるのです。

 しかしそうすると「お手軽ファンタジー」ではなく「普通のファンタジー」になってしまいます。

 ではどうすればいいのか。

 ひとつ「現実離れした設定をひとひねりして」加えてください。

 たとえば「ハーレム」ものがあります。これは現実にはまずありえない「現実離れした設定」ですが、そのままだと小説投稿サイトですでにたくさんの作品が投稿されているのです。

 そこで「女嫌いなのにハーレム」とひとひねりしてみたらどうでしょうか。

 そばに美女や美少女をはべらせているけど、そんな女性たちのことが大嫌い。そうなると「心から愛せる女性はいないものだろうか」と考えているかもしれませんね。

「どんな女性も自分のことをちやほやしてくるのが嫌だ」ということが大元かもしれません。

 そうなると「主人公に手厳しい指摘をして叱咤する女性」に強く惹かれるのではないでしょうか。

 恋愛小説ではよくあるパターンですが、ファンタジー小説では数が少ないと思います。

「ハーレム」はありきたりですが「女嫌いなのにハーレム」なら一気に類似作品数が減るのです。

 どういったひねり方をするかで、さまざまなパターンが考えられます。

 たとえば「同性愛なのにハーレム」「貧乏なのにハーレム」「余命幾ばくもないのにハーレム」のように、簡単にひとひねりできるのです。

「ハーレム」はありきたりでも、奇抜なひとひねりがあればオリジナリティーもあふれてきます。

 奇抜なひとひねりを思いつく方法は、「ありえない」と思われるものを考えつくかどうかにかかっているのです。




王道・テンプレートの逆を行ってみる

 私が挙げた「同性愛なのにハーレム」「貧乏なのにハーレム」「余命幾ばくもないのにハーレム」はいずれも王道つまり「テンプレート」の逆を考えて発想しました。

 テンプレートでは「女好きで裕福な男性主人公がそばにさまざまな美女や美少女をはべらせている」ものです。

 そこを逆手にとって「女好き」でないなら「女嫌い」や「実は男性が好き」、「裕福」でないなら「貧乏」、「はべらせている」のなら「そんな時間は長く続かない」というように。

「テンプレート」の逆を考えることで、奇抜なひとひねりを考え出せるのです。


 戦争もので全将兵の命をあずかる将軍が、実は「血を見るのが怖くて仕方ない」性格だとしたら。

 正面切って戦うことはまずないでしょう。徹底的に逃げまわるだけかもしれません。

 そうしているうちに敵の兵糧庫を発見してすべて焼いてしまうのです。

 すると敵は将兵の食べ物がなくなるので撤退せざるをえません。これで「血を見ることなく戦いに勝つ」という物語の展開が見えてくるのです。

 戦争ものは必ず全軍が正面切ってぶつかる必要なんてありません。


 大相撲の中継を見ていると、立ち合いで変化して相手をはたき込む力士が何人か見受けられます。必ず正面から戦う必要なんてないのです。


 高校野球で星稜高校の松井秀喜氏は、甲子園大会準決勝で「五打席連続敬遠」という作戦をとられます。星稜高校で怖いのは松井秀喜氏だけだと対戦校の監督が指示したのです。結果星稜高校は狙いどおりに敗北します。

 もし一打席でも勝負をしてしまったら、ホームランを打たれる危険性が高まってしまうのです。だから絶対に敬遠しなければなりません。バッテリーに敬遠を徹底させたことで星稜高校に勝つことができました。


 逆を考えてみるのは、こういったスポーツの観点からも重要なことなのです。

「ハーレム」で主人公側を逆にしましたが、仮に女性たち側が反対だったらどうでしょうか。

 たとえば「ぽっちゃり体型だらけのハーレム」「老婆だらけのハーレム」「天然おバカだらけのハーレム」「コミュニケーションが満足にできない女性だらけのハーレム」「自国語の通じない外国人だらけのハーレム」「愛想の悪い女性だらけのハーレム」「平気で仲間を殺してはばからない女性だらけのハーレム」などいろいろ考えられますよね。

 ここまで逆を考えると、ポンと斬新なひとひねりが生み出されるのです。

「美人だけど残念な女性だらけのハーレム」というのもあります。

 平坂読氏『僕は友達が少ない』は「かわいかったり綺麗だったりするけれどもダメなところのある残念なヒロインたち」が登場するのです。その中からひとりのヒロインを選ばなければなりませんから、面白い展開が考えられますよね。

 このように逆を考えるとオリジナリティーを増す効果が期待できるのです。

「ハーレム」で舞台をひとひねりするなら、異世界転移、異世界転生、VRMMOといった現実世界ではないところが考えられます。

 VRMMOなら「ゲームの中だけはいつもハーレム」という状態になるので、ログアウトしたくなくなるかもしれません。

 異世界転生で「ハーレム」にすると考えるなら「王子様に転生した」なら王道で当たり前すぎます。

 辺境に住む一介の村人が「ハーレム」を持っていたとしたら。なにか理由があるはずです。そこから物語が広がってきます。


 ネタを「ハーレム」に絞りましたが、かなりのパターンが出てきたはずです。

 さまざまな設定のうちひとつをひとひねりすることで、独特の環境が現れてきます。

 それをどうやって世界観に落とし込むのか。それを考えることが、あなたの「フィクション構想力」を高めてくれます。

「お手軽ファンタジー」の次に取り組んでいただきたいお題です。





最後に

 今回は「ありえないものを読ませる」ことについて述べてみました。

 小説投稿サイトにはさまざまな王道・テンプレートがあります。

 それを踏襲するのは没個性であり、まったく目立てません。

『小説家になろう』で一番人気の「ハイファンタジー」ジャンルは激戦区です。テンプレートに沿った小説なんてそこら中に転がっています。もはや珍しくもなんともないのでまったく目立てないのです。

 そこで、たったひとつ、なにかをひとひねりしてみましょう。

 ひねる対象を選び、どのようにひねるのか。そのセンスがこれからの書き手には求められます。

 小説投稿サイトで自分の得意とするジャンルの作品を読んでください。おそらく「この発想はなかった」と思えるような作品がいくつか見つかるはずです。

 そしてそういう小説は総合評価ポイントが高く、ランク上位の常連になっています。

 あなたも「ひとひねり」して「ありえない」状況を作り出しましょう。



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