614.明察篇:テンプレートを極めてみる

 今回は「テンプレート」についてです。

 小説投稿サイトには各種のテンプレートが存在します。

 それを用いるだけで簡単に小説が書けるのですが、オリジナリティーが出せません。

 ですがテンプレートを極めてしまえば、耳目を集めることができます。





テンプレートを極めてみる


「お手軽ファンタジー」「ひとひねりしてありえない」話を作ってみて、どうもしっくりこない。そんな方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 あなたが書きたいのはテンプレート作品であり、そこからズラすことで魅力が激減してしまう。そう考えてしまうのです。

 であれば、いっそ「テンプレート」を極めてみてはいかがでしょうか。




テンプレートは安心して楽しめる

 オリジナリティーあふれる作品は、読み手にはどんな展開となるのかわからないため、読むとき多少なりともストレスがかかります。

 オリジナリティーとは「伝わりにくい」「わかりにくい」と紙一重です。予備知識がないぶん、ワクワク・ハラハラ・ドキドキが喚起されて小説を読む衝動が沸き立ちます。

 しかしテンプレートに沿った作品であれば、読み手はどんな展開が待ち構えているのかをこれまでの経験から知っているので、安心して読み進められるのです。

 わかりづらくならないようにすることと楽しみながら読めるようにすること。

 この両立はなかなか難しいのです。

 どちらかを選べと言われたら、初心者の方には「テンプレート」をオススメします。




説明しなくても世界観が通じる

「テンプレート」な作品は、王道の世界観を踏襲しています。

「剣と魔法のファンタジー」であれば「剣と魔法で戦い、ドラゴンや魔王を倒す」のが話の筋で、そのような世界観を共有しているのです。

 だから「テンプレート」な作品は、取り立てて世界観を書き連ねなくても読み手に伝わります。

 小説初心者にとってこの利点はとても有効です。世界観を書くことなく読み手には伝わります。

 もちろん世界観を書くようにすれば、オリジナリティーのある作品を書くときに使えるため、後々のためになるのです。

 ですが、初心者は遠い後々のことを考えても意味がありません。

 まずは一作書きあげなければなにも始まらないからです。




異世界に飛ばされる

 小説投稿サイト『小説家になろう』では、主人公が不慮の事故に遭ったり自殺を図ったりして死亡し、神様の計らいによって異世界へ転生する「テンプレート」があります。

 元々は「異世界ファンタジー」の世界観説明・舞台説明をわかりやすくするために採用されたものです。

 しかし現在では「ありえないものに転生する」こと自体が「テンプレート」になっています。

 伏瀬氏『転生したらスライムだった件』はなんと魔物のスライムに転生してしまうお話です。棚架ユウ氏『転生したら剣でした』は剣に転生します。

 転生するからといって必ずしも人間に生まれ変わる必要はないのです。これが現在の「テンプレート」となっています。

 もちろん人間に生まれ変わるのが王道の「テンプレート」であることに変わりはありません。

 現実世界では味わえない出来事を体験する楽しみがある。

 だから「異世界転生」「異世界転移」「VRMMO」が流行るのです。




見知らぬ美女が駆け込んでくる

 冒頭でこんな状況が発生すると「これからなにか始まるぞ」という合図になります。

 もちろん追っ手を主人公が次々と倒していくのです。

 これで美女が感謝してくれて、場合によっては用心棒を頼まれます。

 そして主人公たちは冒険の旅に出かけるのです。

 しかしもし美女のほうが悪者で、追っ手が治安維持隊だったとしたらどうでしょう。

 主人公はお尋ね者になって村にいられなくなるかもしれません。

 すると贖罪の旅に出かけることもありえます。

 これらの展開はともに「テンプレート」です。

 だからまず「見知らぬ美女が駆け込んでくる」シーンから始めると、物語のスタートを知らせることができます。




仲間を集める

 主人公と美女だけで冒険をするのはあまりにも危険です。

 そこで敵と戦うために仲間を集うことにします。

 といっても町の掲示板に募集の紙を貼るだけで集まりはしません。

 町村から町村へと渡り歩き、その町村の悩みごとを解決していくのです。

 そうすれば恩義に感じた村人・町人の中から協力者が現れます。

 その人物が主人公パーティーに加わったり、後方から支援してくれたりするのです。

 こうやって敵の居所へ向かって町村を転々とすることで仲間が集まります。

 このとき主人公パーティーの弱点を補強するような人材を仲間に加えるのが、王道であり「テンプレート」です。

 またテンプレートでは、男主人公ならメンバーは女性の比率が高く、女主人公なら男性の比率が高くなります。つまり「ハーレム」「逆ハーレム」を構成するわけです。

 もし男女双方の読み手を満足させたいのなら、メンバーの男女比を半々にしてください。魅力的な女性がいれば男性の読み手が支持しますし、魅力的な男性がいれば女性の読み手が支持してくれます。

 パーティーが主人公と美女ヒロインだけの場合は、とくにキャラクターを魅力的に描いて男女双方の読み手にウケる人物設定にするのです。




キーアイテムの獲得

 主人公パーティーは今のままではドラゴンや魔王に勝てないのが普通です。

 そこでドラゴンや魔王に勝つための「キーアイテム」を獲得しておくのが「テンプレート」になります。

 ドラゴンの硬い鱗すらたやすく切り裂ける矛槍や剣、魔王が放つ魔法を封じる装飾品などが「キーアイテム」です。

 また物語の進行を助けるための「キーアイテム」も存在します。

 中ボスを倒すために必要なものであったり、魔法がかかっていていくら歩いても前へ進めない迷路の森を抜けるために必要なものであったり。

 行く手を阻むものを乗り越えるために必要なアイテムはすべて「キーアイテム」と言ってよいでしょう。

 必要が生じてから手に入れるのでは「ご都合主義」もいいところ。

 必要になる前には手に入れておくのも「テンプレート」です。これはできるかぎり前の段階で入手しておき、「使い方がさっぱりわからない」という要るんだか要らないんだか不明な状態にしておきます。もちろん物語の先々で必要になるので、必ず入手しておくべきなのです。

 もし入手しなかったら、行く手を阻まれたときにいったん退却して、その「キーアイテム」を取りに行くことになります。ただ冗長に過ぎるきらいもあるので、やはり手に入れるチャンスがあるときに一回で入手しておくべきでしょう。




最終決戦

 物語で最も盛り上がるのが「対になる存在」つまり倒すべき相手との最終決戦です。

 ここに至るまでに主人公パーティーは経験を積んでレベルを上げ、「キーアイテム」を入手しておき、万全の体制を構築しておきます。

 それでも「対になる存在」は想像を絶する強さを発揮して、主人公パーティーは一気に劣勢に立たされるのです。

 そこでメンバーが「キーアイテム」を使用して命がけで活路を開きます。

「キーアイテム」の力で主人公パーティーが優位に立ち、その勢いに乗って一気に「対になる存在」を倒しきるのです。

「キーアイテム」を持っているからとそのまま圧勝してしまうのではまったく盛り上がりません。一度崖っぷちの劣勢に立たされることで読み手に「どうなってしまうのか」とハラハラ・ドキドキを感じてもらいます。そして「キーアイテム」を使用することで形勢が逆転し、今度はワクワクしながら「対になる存在」を討ち倒すさまを記憶に焼きつけるのです。




結末

 幾多の犠牲を払い、なんとか「対になる存在」であるドラゴンや魔王を討伐できました。これで戦う理由がなくなりますので、主人公パーティーは解散することになります。

 それぞれが自分の道を歩いていくのです。

 主人公は美女ヒロインと結婚するのがよくあるパターンになります。

 ですが「異世界転移」「異世界転生」でこの世界にやってきたという設定なら、元の世界に戻ることを決断するかもしれません。

 愛する美女ヒロインとの別れはつらいですが、ここは自分のいるべき世界ではないと強く感じるのです。

 ここでふたりが離れ離れになることもあります。ふたり揃って主人公の世界へと「異世界転移」することもあるのです。

 これが「剣と魔法のファンタジー」における標準的な「テンプレート」になります。

 これらすべてを踏襲してもいいですし、一部アレンジを加えてもよいのです。

 結末エンディングでこれまでの流れを壊さず、うまく締めることができたら、あなたの構成力は確実に高まります。

 だから結末エンディングには細心の注意を払いましょう。

 名作にするのも駄作にするのも、結末エンディングの出来不出来によるところが大きいのです。





最後に

 今回は「テンプレートを極めてみる」ことについて述べてみました。

 どうしても物語が思いつかないのなら、いっそ「テンプレート」を極めてみましょう。

 奇をてらわず「テンプレート」を過不足なく書ききれれば、それだけで一定の評価は得られるのです。

 もし「テンプレート」に沿って小説を書いたのに評価されなかった場合。あなたにはまだ小説を書くのが早かったということです。才能がないわけではありません。準備が足りなかったのです。

 巧みな書き手は、書き始める前に物語の展開を可能なかぎり細かく切り出しています。

 それこそ修飾や形容や比喩がないだけで、他は完成版と同等くらいまで細かく展開を書き記しているのです。

「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」でいうと、「プロット」レベルまで考えてあるから、面白い小説が書けます。

 ですから、まずは工程をしっかり踏んで、破綻のない物語を作り上げることに心血を注いでください。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る