612.明察篇:お手軽ファンタジー

 今回は「お手軽ファンタジー」についてです。

 ライトファンタジーとしてまずローファンタジーを書きましょう。

 たったひとつ「なにかができる」だけで、世界は大きく変わります。





お手軽ファンタジー


 小説投稿サイト『小説家になろう』では「ハイファンタジー」ジャンルが最も人気です。だから自分も「ハイファンタジー」小説を書けばたくさんブックマークや評価が集まってランク上位は確実だ!! と意気込みます。

 それはいいのですが、「ハイファンタジー」は世界観を作るところから始めなければなりません。もちろんいわゆる「テンプレート」、鉄板な展開というものがあるので、それを利用するのもよいでしょう。ですが多くの書き手が「テンプレート」を使っているため、差別化を図るのは難しい。




ファンタジーはローから入る

「ハイファンタジー」小説を書くのはとてもたいへんです。

 世界観を自ら作り出し、人間や亜人や妖精といった住人を生み出し、小鬼や巨人やドラゴンなどの敵対勢力も設定しなければなりません。

 しかし『小説家になろう』で活躍したいというピンポイントな願望なのであれば、ぜひとも「ハイファンタジー」小説が書けるようになる必要があります。

 そこでこれから「ハイファンタジー」小説の書き方を指南――とはいきません。

「ハイファンタジー」小説を書くには、上記のような世界観を生み出すだけの脳力が欲しいのですが、あなたにそこまでの脳力があるのか私にはわかりません。

 ですからまず「ファンタジー」小説が書けるか適性を見させてください。

 それには「ローファンタジー」ジャンルの小説を書いていただくことになります。

 なぜ「ローファンタジー」なのか。

 基本的に現実と似たような世界観ですが、なにか「ファンタジー」要素を入れると必ず現実とは異なる世界観になるからです。


 たとえば主人公がギリシャ神話のイカロスのように「空を飛べたら」どうでしょうか。飛ぶためには羽が必要かもしれませんし、羽がなくても飛べるかもしれません。「タケコプター」が手元にある可能性もあります。鳥のように羽ばたいて飛ぶのかもしれませんし、グライダーのように滑空するように飛ぶのかもしれません。

 あなただけが「空が飛べる」のだとしたら、世の中の人はあなたをどう見るのでしょうか。きっと好奇な目で見てくるはずです。

 ある人は東尋坊から身を投げる人を救ってほしいと思うでしょうし、ある人は犯罪計画に加担させたいと思うでしょう。

 良くも悪くも「空を飛べる」というだけで、人々からの扱われ方が変わります。

 どのような使い方をするのかは書き手であるあなたが自由に決めてみましょう。羽の力を使えば陸上競技百メートル走を五秒でゴールできるかもしれません。であれば世界記録のために陸上競技を始めるのもいいですね。


 たったひとつ。なにかが現実とは異なる設定を考えてみてください。それがライトファンタジーとしての「ローファンタジー」に続く扉です。

「人の目を見据えていると、相手の考えていることがすべてわかる」能力があったらどうなると思いますか。

 意中の異性の目を直視できないのではないでしょうか。もし自分のことが好きでなかったら、絶望を抱え込んでしまいます。だからその人の目は見られません。

 この能力を積極的に使おうと思ったら、刑事か検察官になるのが手っ取り早い。

 取調室で、捕まえた犯人の目をじっと見据え、犯行の状況を始めから終わりまで寸分違わず言い当てる。そうなると誰もが狼狽して抵抗する意思が挫けます。

「この人にはなにを言っても見抜かれてしまう」わけですから、言い訳や虚偽を並べるだけムダなのです。

 それだけでなく、犯行の証拠を探し出すのにも一役買います。より確実に犯行を立証できるのです。このような能力をお持ちであれば、ぜひ刑事か検察官を目指してください。




お手軽ファンタジー

 ライトファンタジーである「ローファンタジー」といえど侮れないのです。

 巧みな「ハイファンタジー」小説が書ける人は、たいてい巧みな「ローファンタジー」小説が書けます。それは「現実とは異なる設定」を以上のように広げて読ませる能力があるからです。

 逆に言えば「ローファンタジー」が書けない方に「ハイファンタジー」は書けません。

『小説家になろう』で目立つために「ハイファンタジー」を狙いたいのなら、まずは「ローファンタジー」を書ききってください。短編小説でも長編小説でもかまいません。

 現実世界の中にたったひとつ「現実とは異なる設定」を加えてみる。その結果世界観も現実から若干ズレるはずです。このズレを大きくまた多くしていくことで「ハイファンタジー」が構成できるようになります。「千里の道も一歩から」です。

 まずはたったひとつ「現実とは異なる設定」を決めて、そこから生まれる「お手軽ファンタジー」を書いてみましょう。

 そういう意味で「ローファンタジー」を捉えられれば、「ハイファンタジー」への登龍門なのだと理解できるはずです。


 たとえば「水の上を歩ける」主人公なら、海水浴場の監視員にしましょう。溺れている人のところにダッシュで駆け寄れ、その人を担いでダッシュで浜へと戻ってこられます。救急救命も迅速に行なえるため、ひじょうに重宝されることでしょう。


「不老不死」の主人公なら危険なことを率先して行なうようになるはずです。

 火災現場に突入して、生存者を救出して現場から出てくる。ちょっとした英雄のような活躍が期待できます。

 特殊な「不死」だと、一回死ぬけど幼児に戻ってまた成長する、という人もいるでしょう。聖悠紀氏『超人ロック』のロックがこのパターンです。

 もしただの「不死」だけならベッドで介護されるほどに老衰しても、二百歳でも千歳でも生き続けます。何代先の子孫にまで介護されていくのでしょうか。おそらく子孫が「恐ろしさ」を感じて殺してしまおうと思ってしまうはずです。

 実際古代中国で「この老王はいつまで生きるかわかったものではない」という理由から息子に殺害される事件が起こりました。

 しかしファンタジーの「不死」ですからどんなことをされても死なない。そして子孫が傷害罪や殺人未遂罪で刑事告訴されてしまいます。ちょっと面白い短編小説が書けそうです。


「不老」の場合は死ぬことは普通の方と大差ないので、いわゆる「美魔女」のように死ぬまで綺麗やカッコいい状態を保っていられます。ただ実際の年齢をしっかりと把握していないと、いつコロッと死んでしまうかわかりません。


「死んだら蘇った」としたらどうでしょうか。運悪く交通事故で死んでしまったけれど、なぜか蘇ることができたとしたら。ここから不良少年が霊界探偵となって活躍する話が作れますよね。それがマンガの冨樫義博氏『幽☆遊☆白書』の主人公である浦飯幽助です。


 主人公に「現実とは異なる設定」を付けなければならない理由はありません。たとえばゲームのLeaf『To Heart』ではAIロボットの「マルチ」「セリオ」が登場します。それにより現実とはズレた世界観となっているのです。


 このように、たったひとつ「現実とは異なる設定」を決めることで、世界観は少しズレていきます。このズレをいかに生かすか。この筆力がなければ「ハイファンタジー」に挑戦しても散々たる結果が待っているのです。

「お手軽ファンタジー」は書いていくごとにオリジナルの世界観を構築するのに必要な脳力を鍛え上げることができます。

『幽☆遊☆白書』の冨樫義博氏は『てんで性悪キューピッド』『幽☆遊☆白書』『レベルE』『HUNTER×HUNTER』と「現実とは異なる設定」がひとつずつ足されていって成長してきた一面があります。ひとつがふたつ、ふたつが三つ、三つが四つと増えていき、『HUNTER×HUNTER』では連載中でもどんどん新たな「現実とは異なる設定」を追加しているのです。そこが読み手のワクワクを引き出している魔法の泉なのかもしれません。





最後に

 今回は「お手軽ファンタジー」について述べてみました。

『小説家になろう』の王道は「ハイファンタジー」だから、書くなら断然「ハイファンタジー」だな。

 そう思いたくなるでしょうが、今のあなたに「ハイファンタジー」を書くだけの想像力・構想力・創造力・構成力があるのでしょうか。

「テンプレートを使うから大丈夫」という方もいますが、そのような作品はたとえ王道であっても読まれる率はぐんと下がります。

 自分のオリジナルな世界観が描けなければ、「ハイファンタジー」に手を出すべきではありません。

 脳力が足りないのなら、「ローファンタジー」で「お手軽ファンタジー」を書いてみましょう。経験を積むことで「ハイファンタジー」を書けるだけの脳力は必ず身につきますよ。



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