609.明察篇:オリジナリティーを出すには

 今回は「オリジナリティー」つまり「独創性」についてです。

 まず書きたいものを書きましょう。そして登場するものが存在する理由をきちんと明らかにするのです。

 そうすれば「オリジナリティー」が出てきます。





オリジナリティーを出すには


 過去の作品を読み込んで、それとはかぶらない作品を書くことが「オリジナリティー」だと考えている人が多い。

 しかしこの展開はあの作品と同じだからダメ、その展開は別の作品と同じだからダメ、という具合に消去法で物語を考えていると、「オリジナリティー」のある作品なんて生まれません。がんじがらめになってしまい、作品を創り出そうとする意欲さえ減殺してしまいます。

 執筆するには発想の転換が必要です。




まず書きたいものを書く

「オリジナリティー」のある作品を書くには、まず自分の書きたいものを書きたいように書きましょう。

 この時点でかぶった作品があるかどうかはいっさい考えないでください。

 考えた時点で「オリジナルティー」がなくなってしまいます。

 あなたが書きたい物語は、おそらくどこかの作品で似たような展開がされていることでしょう。

 ですが、この世にまったく同じ作品なんて山のようにあります。

『週刊少年ジャンプ』黄金期、鳥山明氏『DRAGON BALL』で「天下一武道会」が始まって爆発的人気を獲得した頃から、ジャンプ作家たちは自分たちの作品に「天下一武道会」を持ち込んだのです。当人が希望したのか担当編集さんから「ヒットしますから」と説得されたのか読み手から求められたのかは定かではありません。ですが同じ展開に集約していったことは確かです。

 これは意図的な例ですが、あなたが無意識に「天下一武道会」システムを導入してしまうことはじゅうぶんにありうるのです。

 人間の発想は、既存の情報が頭に入っていて、それがふとした瞬間に思い浮かぶことで生じます。つまりあなたの中に「天下一武道会」が記憶されていれば、いつか「天下一武道会」システムの展開を書かないとも限らないのです。

 だから、オリジナリティーのある作品を書きたければ、まずはなにかの作品に似ているのではと考えて書くよりも、かぶることなんて気にせず好きなように書いたほうがよい。

 書きあげた結果、いずれかの作品で「同じ展開」があったことが判明したら、展開を少しズラしましょう。たったそれだけで「似た展開」にはなりますが、「同じ展開」にはなりません。




エルフとドワーフは必要か

 あなたの「剣と魔法のファンタジー」小説にはエルフとドワーフが出てきませんか。

 出てくるのなら、なぜ出てくるのが考えたことはありますか。

 おそらく「剣と魔法のファンタジー」にはエルフとドワーフが付き物だ。という理由で登場させているはずです。

 これでは「オリジナリティー」の欠片もありません。

 そもそもエルフとドワーフは『北欧神話』に端を発し、J.R.R.トールキン氏『指輪物語』によって「剣と魔法のファンタジー」世界の住人(妖精)となったのです。

『指輪物語』からTRPG『Dungeons & Dragons』(『D&D』)でプレイヤーが演じる種族として世の人々に定着しました。

 さらに『D&D』のリプレイとしてグループSNE『ロードス島戦記』がパソコン雑誌『月刊コンプティーク』で連載されたのです。これによって、エルフとドワーフの存在は一気に光の当たる場所へ躍り出て、大衆に認知されるに至りました。

 日本産の「剣と魔法のファンタジー」でエルフとドワーフが欠かせない存在になったのは、このような流れがあったからです。


 では翻って、あなたの「剣と魔法のファンタジー」でエルフとドワーフが登場する理由はなんでしょうか。

 よくよく考えるとエルフとドワーフである必然性はないのです。

 大元の『北欧神話』を知らず、集約した『指輪物語』を知らず、それを元に作られた『D&D』を知らず、日本で普及した原因となった『ロードス島戦記』を知らず。

 それでも後発の多くの作品でエルフとドワーフが登場するから、「剣と魔法のファンタジー」にはエルフとドワーフがいて当たり前なんだと勘違いしてしまうのです。

『指輪物語』でホビットと呼ばれる種族はJ.R.R.トールキン氏がオリジナルで創り出した種族であり、J.R.R.トールキン氏に著作権があります。『ロードス島戦記』ではそれに配慮してハーフリングやグラスランナーという名前で登場させているのです。つまり「剣と魔法のファンタジー」であっても、他の著者に著作権がある場合は「ちょっと変えて」います。

『ロードス島戦記』は元々『D&D』のリプレイから始まっています。小説化するために『D&D』に著作権があるものをすべてズラしています。

 その結果、今日見られるように、『ロードス島戦記』には「オリジナリティー」が宿っているのです。

 しかし後発の小説は、『ロードス島戦記』の世界観をつまみ食いする形で発展し、なんの理由もなくエルフやドワーフが出てきます。

 もし大元の『北欧神話』に出てくるエルフとドワーフの存在を知っていたら、扱いは大きく変わっていたはずです。


 始まりの巨人ユミルの死体から湧いて出てきたウジからオーディンたちの手で光の小人エルフが生まれ、闇の小人ドヴェルグ(ドワーフ)が生まれたとされています。このドヴェルグは光の小人エルフに対して闇の小人ダークエルフとも呼ばれているのです。つまりドワーフとダークエルフは元々同じ存在を指しています。

 ですが現在ドワーフとダークエルフはまったく別の存在として認知されているのです。これも『ロードス島戦記』による影響が色濃く出ています。

 ダークエルフは暗黒神に魂を売ったエルフの裏切り者であり、その結果肌が黒または褐色になったとされているのです。

 暗黒の島マーモの皇帝ベルドにはアシュラムという親衛隊長がいました。ベルドがフレイム王カシューとの一騎討ちに敗れて死去すると、マーモの次なる象徴として台頭。それに伴ってダークエルフのピロテースが彼に付き従うようになったのです。

 これは主人公である自由騎士パーンの相棒が、光の小人で森の妖精でもあるハイエルフのディードリットであることに呼応した形で成立したものと思われます。

 とくにOVA『ロードス島戦記』では、ダークエルフのピロテースがハイエルフのディードリットと戦う場面があり、パーンとアシュラムの一騎討ちと同時進行しているのです。


 このように「剣と魔法のファンタジー」では、エルフとドワーフの存在理由が明示されていることが望ましい。

 ただ漫然と「剣と魔法のファンタジー」だからとエルフとドワーフが登場するのは、思考停止もよいところです。

 こんな小説が「小説賞・新人賞」を獲れるでしょうか。まず無理だと思います。


 同様に「剣と魔法のファンタジー」だからドラゴンが出てきて当たり前、巨人が出てきて当たり前というのも思考停止の最たるものです。

『ギリシャ・ローマ神話』『北欧神話』では巨人は神と対等に戦えるだけの力を持っています。「剣と魔法のファンタジー」ではヒットポイントがひじょうに高く倒すのに難渋する強敵として登場するのです。

 ドラゴンは多くの神話で巨人と同様に神と戦い、世界を滅ぼすほどの力を有しています。「剣と魔法のファンタジー」ではこちらもヒットポイントがひじょうに高く、かつ魔法やブレスを使ってくる難敵です。

 ですが神話を知っていれば、あなたの「剣と魔法のファンタジー」に巨人やドラゴンが必要かどうか判断できます。


 また主人公たちが最初に戦う種族がゴブリンであることも多い。こちらも『D&D』の影響を受けた『ロードス島戦記』からの流れで普及しました。

 最初に戦う敵つまり最弱の敵がスライムであるのはエニックス(現スクウェアエニックス)『DRAGON QUEST』に端を発します。それまでのスライムはたとえば『D&D』では金属を腐食させ、人間を溶かして喰らう難敵として設定されています。弱点は火なので、油をまいて火をつければ戦うことなく倒すことができるのです。ですが『DRAGON QUEST』では剣で戦ってしまうんですよね。しかもプニプニしたグミのような外見をしています。『D&D』ではアメーバを巨大化したような姿をしているのです。つまり『DRAGON QUEST』のスライムは、『D&D』のスライムとはずいぶん異なる存在といえます。であれば「オリジナリティー」があるとされるのです。


 このように売れた作品は、エルフやドワーフ、巨人やドラゴンなどの存在理由やその特性が、出典元となった『ギリシャ・ローマ神話』『北欧神話』や民間伝承などからズラして異なっていることで「オリジナリティー」を出しています。

 そうすることで、「オリジナリティー」はじゅうぶんに確保できるのです。

 もう一度問います。

 あなたの「剣と魔法のファンタジー」小説にはエルフとドワーフが出てきませんか。

 出てくるのなら、なぜ出てくるのが考えたことはありますか。





最後に

 今回は「オリジナリティーを出すには」ということについて述べてみました。

 まずは書きたいものを書きたいように書き、完成したら既存の作品と似ている部分をズラして「オリジナリティー」を出していくのです。

 そしてあなたの「剣と魔法のファンタジー」にエルフやドワーフが出てくる理由を考えてください。考えなしに登場させるのでは「オリジナリティー」は現れません。

 あなたの作品でエルフやドワーフが出てくる理由を、一度考えてみてください。



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