608.明察篇:惹きを入れる

 今回は「惹き」についてです。

 読み手に次回の投稿を読んでもらうには、今回投稿のラストに「惹き」を入れましょう。

 ただしエピソードの最中なら「惹き」はなくてかまいません。

 エピソードが終わって次のエピソードへつなぐところに「惹き」を入れます。





惹きを入れる


 あなたは連載小説を読んで、続きが気になったことはありませんか。

 おそらくあるはずです。

 連載小説なら毎回の投稿の終わりに「惹き」を入れて、次回へ読み手をつなぎとめなくては、ファンが増やせません。

 長編小説なら、各エピソードの終わりに「惹き」を入れる必要があるのです。

 では「惹き」とはなんでしょうか。




読み手は気になって仕方ない

 たとえば「メインの人物が絶体絶命のピンチに陥った」ところで書き終えます。

 すると「この人物はピンチを切り抜けられるのだろうか。それともそのまま敗れてしまうのだろうか」と気になって、読み手は次回の投稿が待ち遠しくなるのです。

 他にも「メインの人物が重傷を負ったり殺されたりした」直後に終わると「主人公や他の人物は無事でいられるのだろうか。重傷を負った人物は快復するのだろうか」が気になってきますよね。

「メインの人物が崖から落ちたり川に流されたり謎の暗闇に飲み込まれたりして生死不明な状態になった」直後に終わると「生きているのか死んだのか」が気になってくるはずです。

「『対になる存在』を倒して佳境クライマックスが終わったと思わせて、実は生存しているかのような痕跡や笑い声が響いたりして、まだ『対になる存在』が残っていると思わせてすぐに終わる」と「ここが佳境クライマックスではなかったのか。その先『対になる存在』がどんな形で復活するのか」が気になってきますよね。

 恋愛ものなら「主人公が意中の異性にフラれそうな状況だと思わせてすぐに終わる」と「主人公に逆転のチャンスは訪れるのか。このまま関係が立ち消えになるのか」。やはり気になるはずです。


 続きが気になって仕方がなくなる終わり方をしていれば、読み手は「次回も読まないと心のモヤモヤが晴れない」と思います。だから読み手へ確実に次回を読ませられるのです。

 これが連載小説の四部構成「主謎解惹」における「惹」のあるべき形です。




なんでも先送りしない

「惹き」を作りたくて、先が気になって仕方がなくなる状況で今投稿ぶんを終えたとします。

 しかし毎回「惹き」だけで構成されると「先々の構想がないのか」とか「謎が解けないから先送りにしているだけではないのか」とか「結末エンディングはすべて次回へ丸投げなのか」といった負の印象を読み手に与えてしまいます。

 次回で今回の「惹き」を確実に解消しているならまだよいのです。

 連載小説を書いていれば次回のストーリーはある程度決まっているため、解消していない「惹き」を残してしまうことがあります。

 田中芳樹氏『アルスラーン戦記』は第15巻で物語の進行に欠かせない重要な人物が戦死してしまいます。その不安感という「惹き」を最終第16巻で思いもかけない形で解消するのです。だからこそ読み手は一年後に発売すると案内されていた最終巻の発売を心待ちにしていたのです。

 しかしこれほどまでの強力な「惹き」は単行本の最終エピソード直前くらいがちょうどよい。

 毎回の投稿ぶんの「惹き」はもっと手軽なものでかまいません。

 同じく田中芳樹氏『銀河英雄伝説』でも、基本的に各章が独立しており、各章の「惹き」も少なく出来ています。それでも単行本の最終章では、次巻への期待を持たせるような強い「惹き」で構成しています。

 このように単行本書き下ろしであれば、強い「惹き」は最終章だけでじゅうぶんなのです。

「最後に出てきた人物と戦うことになるのかな」「そういえばあれのことに言及していないけど次章で言及してくれるのだろうか」というくらいの簡単な「惹き」でかまわないのです。

 マンガの桂正和氏『I”sアイズ』の主人公である瀬戸一貴は、気になる相手に気持ちを悟られないよう、好きな女の子・葦月伊織に対して「逆走くん」を発動して邪険な態度を取ってしまいます。関係が近づくか離れるかのバランスがとれた、ドキドキにあふれる終わり方を毎回採用しているのです。

 ラブコメでありながらも、純粋な恋愛もののような繊細な感情が描写できているため、「女の子が魅力的」というだけではないところに多くの読み手は惹きつけられました。




その他の惹き

「メインの人物に対する影響」が最も単純な「惹き」です。

 たとえば背後からナイフを持っている何者かが忍び寄っているシーンで終わります。すると「刺されたのか撃退したのか」わかりませんよね。だから「惹き」になるのです。

 学園ものならテストの答案で低い点数をとってしまい、持って帰って母親が彼に近づいてきて終わります。「怒られるのか励まされのか」わかりませんよね。

 親友が交通事故に遭って病院に担ぎ込まれたところで終わったら「軽傷なのか重傷なのか死んでしまうのか」が気になるのです。

 両親がケンカをして妻が「別れます」と言って自室へ向かって終わったら「実家に帰るのか離婚するのかウサを晴らしたらまた元の生活に戻るのか」わかりませんよね。

 主人公ならびにそれに近しい人へなにか影響が及ぶのが「惹き」となるのです。


 他にも「新しい人物を登場させる」というものがあります。その際は敵味方や能力などはいっさい明かさず、「ただ登場させる」ことだけにしてください。

 するとこの人物が「主人公や『対になる存在』などにどのような影響を及ぼすのか」が気になります。主人公に味方してくれるのか、「対になる存在」に味方してこちらと対峙することになるのか、仲を取り持ってくれるのか、双方を煽って対立を深めさせるのか。

 それだけで、強い「惹き」が作れます。


「状況を変えるような情報が舞い込む」というものもあります。

 ある国を攻めているときに、母国の首都が何者かに襲われているという情報が舞い込んだとしたら。攻める手を緩めず敵国を攻め落としてから母国の首都へ取って返して撃退するのか、急いで母国の首都へ取って返して遊軍を撃退してから再度敵国を攻めるのか、二手に分かれて同時に対処しようとするのか。選択を迫られるのです。

 主人公が意中の異性に思いを寄せているときに、自宅に郵便物が届いたとしたら。それは意中の異性が送ってきたものかもしれませんし、新キャラが送ってきて三角関係が始まろうとしているのか、意中の異性から手を引けという警告や忠告などの内容が送られてきたのかもしれません。

「便りがないのはよい便り」とも言われますが、「便り」がやってくることで必ず現状になんらかの影響が及びます。人物や状況に影響が及ばないのに「便り」を登場させる必然性なんてありません。はっきり言って蛇足です。





最後に

 今回は「惹きを入れる」ことについて述べました。

 連載小説は、エピソード単位で必ず「惹き」を入れる必要があります。そうしなければ読み手に「続きが読みたい」と思わせられないからです。

 ひとつの事件を追っているエピソードであれば、事件の解決までは否が応でも続きを読んでくれます。しかし事件が終わってしまうと、次の事件を読まなければならない必然性がなくなるのです。だから今回の事件のラストに次の事件への「惹き」を用意する必要があります。

 長編小説もエピソード単位で「惹き」を入れますが、結末エンディングに「惹き」を作らないようにしてください。その一作だけで物語が完結していなければならないからです。



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