587.明察篇:説明は行動と観察
今回は「説明」文についてです。
説明には「行動」と「観察」の別があります。
中でも「行動」は説明の多くを占めるのです。
「行動」をいかに客観的に表現できるのか。それが「説明」文には求められます。
説明は行動と観察
他人に誰かのことを「説明」しなければならなくなったとき、なにを「説明」すればよいのでしょうか。
あなたの主観を排した客観的な「説明」をする必要があります。
事実だけで構成され、書き手の意見を含まない客観的な文章。それが「説明」文です。
「日本は自然災害の多い国だ。」という文は「多い」という主観が混じっています。「多い」とはどのくらい、いつと比べてといったことがあるので書き手の主観が混じった「意見」文です。
「説明」文にするには「多い」を具体的に数字を挙げて述べます。たとえば「日本は昨年台風が五個上陸した国だ。」と書けば主観ではなく客観的な数字を挙げていますから「説明」文です。
そんな「説明」文のコツは「行動」「観察」です。
行動
「説明」しなければならない人物は、普段どのような「行動」をしていますか。
誰かの「行動」を「説明」するのは、「説明」文の基本です。
一日中部屋に引き籠っているかもしれません。毎日通学通勤しているかもしれません。子育て真っ最中かもしれません。世界中を旅しているかもしれません。
とにかくその人物は「行動」しているはずなのです。
もし「行動」していないとすれば、その場に存在するだけの人形と大差ありません。
生きているかぎり、心臓が絶えず動いており、呼吸もしており、飲食もしており、排泄もしています。
これら四つの「行動」は人間であれば誰でも行なっているため、取り立てて「説明」するに及びません。
ですがファストフード店において友人たちとハンバーガーを食べているシーンを書くのであれば、「飲食」について書く必要があります。
しかし「排泄」を書くことは小説の中ではなかなかありません。道端で用を足しているシーンなんて、現代では倫理的また法律的に書きにくくなりました。もし読み手が真似したら「軽犯罪法」違反で警察官に逮捕されてしまいます。かといってトイレで用を足しているシーンもとくに必要ないですよね。血便や血尿が出たといった病気の予兆があるのなら、書く必要は出てくるでしょうが。
例外ばかり説明してもしょうがないので、本題を進めていきます。
海外へよく行く人物なら「毎年海外を旅行する」、旅先のグルメに詳しいのなら「ラーメンを食べるために福島県に来た」、報道カメラマンなら「事件現場に駆けつけた」と書けるのです。
通勤通学でラッシュに揉まれているのなら「通学電車内でぎゅうぎゅう詰めになった」と書きます。
ただし「説明」するのは「物語の進行に関係があるもの」だけです。
「通学電車内でぎゅうぎゅう詰めになった」は事実でしょうが、それが本題となんの関係があるのでしょうか。
電車内で女子高生と知り合って、のちのち付き合うことになるのなら。物語の本題に関係しそうなので書きます。のちのち女子高生が物語に絡んでこないのなら、たとえ付き合うことになったとしても本文に書かないでください。蛇足です。
たった一文「俺は通学電車で多くの人混みの中、明美と出会って互いに一目惚れし、付き合い始めた。」とだけ書くのはそっけない。でも物語で他の女子生徒から告白されたときに断る理由を読み手に知らせたい場合は、この一文が伏線となるので前もって書いておくことが前提です。もしそんな場面もなく明美と付き合っていることも物語に出てこないのなら、この一文は不要になります。
「説明」文の「行動」は、物語に関係するものだけでいいのです。
それが小説に求められる「行動」の「説明」文の基準になります。
観察
人物を「観察」してその様子を書くことも「説明」の大事な役割です。
「行動」は動作を書くのに対し、「観察」は止まっている人物を眺めて書きます。
背丈・肉付き・肌の色・髪の色・瞳の色・目の形・耳の形・鼻の形・口の形・腕の長さ・指の長さ・脚の長さ・靴の大きさなどは身体に関するものです。
着ている服・身に着けている装飾品・履いている靴・羽織っている外套などは装束に関するものになります。
こちらも物語に必要なものだけを書くのです。
主人公の男子の背丈が百八十センチメートルあるとして、付き合っている明美は百五十センチメートルだとでこぼこコンビになります。物語に関係するものは書くのです。
華やかな服装やイヤリングやネックレスも、デート・シーンとするなら必要な小道具と言えるでしょう。
ただし「華やかな」「きらびやかな」は主観が入っていますから「説明」文には使えません。どんな形と色彩で「華やかな」と感じるのかを書くことになります。たとえば「スパンコールを合わせた真っ赤なドレス」なら「華やか」そうですよね。このように客観的な情報だけで構成したものが「説明」文となります。
学園ものなら制服については、初めの一回だけ書いてあとはスルーして結構です。
制服のある学校なんだと一度読み手に理解してもらえば、あとから何度も「制服姿の明美は」と書かずに済みます。学校帰りなら制服を着ていて当たり前ですしね。
忘れがちな「観察」として「クセ」があります。「無くて七癖」です。
小心者で話を切り出すたびに頭を掻くクセがある人物なら、話をするたびに頭を掻いていることでしょう。
クセは人物の性格を特定するのに役立ちます。
大胆不敵な人物なら鼻息が荒くて目を見開いているかもしれません。
自慢話をするときに鼻を掻くクセも一般的に知られています。
ウソをつくときに視点が右に泳ぐクセも知っている人が多いでしょう。
こういった有名なクセを出すのは紋切型なので、できれば避けるべきです。
その人物特有のクセをひとつ作ることが、魅力的な人物を生み出すときには欠かせません。
聞き知らぬ方言を話したり、ちょっとしたものにこだわりを持っていたり、書いた楽譜が他人には読めなかったり。そんな特有のクセを持つと人物が映えます。
最後に
今回は「説明は行動・観察」について述べてみました。
とくに人物の「説明」に特化しました。
状況の「説明」は「物語に関係するものだけ」を書きましょう。
公園の大時計を見て午後五時であることを知ることと、あたりが暗くなってきたのでもうすぐ日が暮れると知ること。どちらが正しいかは「物語に関係するか」どうかにかかっています。
「午後五時」に重要な用事があるのなら前者を書き、遅くならないうちに家に帰らなければいけない程度のことなら後者を書くべきです。
「説明」は文章の基本でありながら、具体的に書き方を教わることがありません。
小学校の国語の授業でも、「説明」の書き方は教わらないのです。
おそらく大学国文科を専攻するか、卒業論文で初めて書かなければならなくなります。
小説だけでなく文章を書くときに最も重要な「説明」の書き方を教えられていない。
ですから、皆様が小説を書けないのも当たり前なのです。
まずは教えられていない「説明」文が書けるようになりましょう。
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