580.明察篇:小説は競うものではない
今回は「小説は競うものではない」ことについてです。
小説に殊のほか価値を置いたり、作文で枠にはめられたりします。
社会人であれば資金があります。「小説の書き方」や「手本」となる書籍を買って読めば、効果が上がるでしょう。
小説は競うものではない
出版社主催の、または小説投稿サイト共催の「小説賞・新人賞」があります。
だから小説は他人と競うために書くのだと思いがちです。
読み手の存在を忘れていませんか。
小説は、誰が上か下かを競うものではないのです。
自分が書きたいものを、読み手が楽しめるようにして書きます。
価値の恐怖
小説は「書くに値するようなことを書かなければならない」と考えてしまいます。
読み手を感心させるほど高いレベルの文章を書かなければと焦ってしまうのです。
その気持ちが強すぎると、小説を書けなくなります。
それではあなたの「個性」が表現されません。
「個性」とは他の人とは異なるその人らしさのことです。
書くに値するような文章を書こうとすると、「没個性」な文章を書いてしまいます。
新聞の記事や社説のような良識のある正論だけで文章が占められるのです。
書くに値するような、つまり「価値」のあるものを書こうとする意識が強すぎると「没個性」に陥ります。
作文の恐怖
あなたはいつ頃から「作文」を強要されましたか。
私は小学校に入って読書感想文を書かされたのが最初です。
小学校のうちは、どんな読書感想文を書いても文句を言われることはまずありません。
書いてきただけで褒められた経験のある人もいるでしょう。
しかし中学校からは、質の高い読書感想文や小論文などを書かされます。
読み手が感心するような文章を書かなければいけなくなるのです。
「作文」はつねに教師が内容の妥当性をチェックするようになります。
教師が褒めるような立派なことや正当性のあることを書かなければなりません。
「作文」は、書き慣れて「個性」を表現する手段から、思想や人格を審査する試験と化してしまうのです。
学校が強要する「作文」が、書くことを嫌いにさせたり、書かれた文章をつまらなくさせたりしてきました。
しかも小学校から一貫して「作文」の書き方はいっさい教えてくれません。
書くことが嫌いになったり、文章から距離をとったりするのは、実に中学校以降「作文」を強要されてきた成れの果てなのです。
ビジネス文書には定型の「書式」があります。
そこに当方と先方の情報を書き込むだけで文書が出来あがるのです。
そうなると「作文」は定型の「書式」に当てはめるだけの「作業」となります。
社会に出てから小説を書き始めようとしたとき、とたんに書けなくなるのは、能動的な文章を書く習慣がなくなってしまうからです。
これが「作文」の恐怖と言えます。
だから小説を書くなら、「作文」をすると教師が手放しで褒めてくれた小学校時代から始めるべきです。
少なくとも小学校時代に立志して、中学校時代から書き始めてください。
そうしないと文章に対する感覚の面で厳しくなってきます。
では社会に出てから一念発起してプロの書き手を目指すのは無謀なのでしょうか。
社会人には資金がある
小学校時代は時間が有り余っています。
中学校からは試験に追われて時間がなくなり、そのピークが高校三年生に訪れる大学受験です。
大学に入れば卒業論文を書かなければなりませんが、それまではかなり自由な時間があります。ここで小説を書き始められれば、まだ挽回は可能です。
しかし社会人になってしまうと、日常の業務に追われて小説を書く時間とゆとりがなくなります。小説を書く暇があるのなら仕事を憶えなければなりません。
一度社会人になると、小説を書きたいと思っても書く時間がないのです。
でもどうにかして書かなければ「小説賞・新人賞」へ応募することができません。
どうしたら小説が書けるのでしょうか。
社会人は学生生徒児童と比べて突出しているものがあります。
そうです。見出しに書きました。「資金」があるのです。
「小説の書き方」を書いた書籍「小説読本」は年四冊程度のペースで出版されていますし、それまでに出版されたものも百冊以上はゆうにあります。
社会人はこれらを買って、仕事の休憩時間に読むのがよいでしょう。
しかも、それらのエッセンスを抽出した本コラムをお読みになれば、「小説読本」を買う必要もなくなります。
スマートフォンやタブレットやPCなどでお読みいただければ、必ずや血肉になるでしょう。
そういったものを運用するためにも「資金」が必要です。
社会人は「資金」力に物を言わせて、休日をすべて読書に費やしましょう。
適切な書籍を選ばなければなりませんが、今人気のある書籍に注目していればたいていなんとかなります。
だから執筆の参考として『このライトノベルがすごい!』で紹介されているTOP10の小説を大人買いしてもよいでしょう。最初の一回は膨大な金額がかかりますが、二回目以降は新たにランクインしてきた小説だけ買い足せばよいので、比較的継続しやすいと思います。
小説は競うものではない
小説を書く段取りができたら、逸早く書き始めましょう。
まずはあなたの「命題」を見つけてください。
あなたの読書体験の原点はなんでしょうか。どんな小説に触発されて小説を書きたいと思ったのでしょうか。
以前書きましたが、私は『アーサー王伝説』『孫子』『ロードス島戦記』でした。
ここから「出世物語」「兵法」「中世ヨーロッパ風」の三つの命題が導き出されます。
この三つを組み合わせると、結局『アーサー王伝説』に帰結してしまうのです。
読書体験の原点は、それほどまでに書き手の根源となります。
あなたが書くべき小説は「命題」に宿っているのです。
「命題」が「他の書き手と競う」ことでもないかぎり、他人と競う理由なんてありません。
「小説賞・新人賞」にもあなたが書きたい物語を書いて応募する。それが理想です。
他の書き手との駆け引きをして、順位を競うような性質のものではない。芸術はすべてそのように出来ています。
誰かと競って高め合うのも悪くはない。
でもそれは自助努力で己の筆力を高めるべきです。相手を蹴落とそうとして書くべきものではありません。
健全な競争は互いを高め合いますが、不健全な競争は互いの足を引っ張り合います。
足の引っ張り合いなんてなんの生産性もありません。
あなたは書くべき「命題」を揺るぎなく書ききることに注力してください。
最後に
今回は「小説は競うものではない」ことについて述べてみました。
「書くに値するようなこと」を書かなければならないわけではないのです。
くだらなくても面白ければよい。高尚でも面白くなければダメ。
書くに値するかどうかなんてどうでもいいのです。
あなたが書くべき「命題」を見つけて、それをしっかりと書ききってください。
「命題」に関してはコラムNo.554「書かずにいられない命題」でおさらいしましょう。
「命題」が確固としてある書き手の作品は、どの作品を通しても「命題」が提示されています。
それが読み手にフィットするかしないかは、読み手次第です。
読み手にフィットするだろう小説を書きたい方は、そのように書かれている小説を「手本」として何冊でも何回でも読み返しましょう。そのうちあなたの「命題」のひとつになるかもしれませんよ。
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