579.明察篇:小説賞・新人賞の選考(毎日連載555日達成)
今回は「小説賞・新人賞」の選考についてです。
現在プロとしてデビューするには「小説賞・新人賞」を獲る以外に手段はありません。
たまに例外も見られますが、例外はあくまでも例外であって、その方法でデビューしようとするのは再現性がまったくないのです。
一次選考は小説になっているか、二次選考は面白いかどうか。それが問われます。
小説賞・新人賞の選考
今回は「小説読本」に書かれている「小説賞・新人賞」の選考方法についてまとめてみました。
新旧織り交ぜているため、現在では使えない方法もあるかと存じます。選考過程の遍歴を知ることで新世代の選考を考える契機としていただきたく、古いものも省くことなく取りまとめました。
小説賞・新人賞がデビュー唯一の道
小説投稿サイトに長編小説を投稿したり連載小説を継続していたりするだけで、出版社の編集さんから連絡が来ることはまずありません。
最大手の『小説家になろう』には現在六十万を超える作品があります。これをすべて読む編集さんはいません。全ジャンル合わせて毎日千作品ほど投稿されています。編集さんがひとつひとつ面白いかの確認に、一作品三分かかると仮定。つまり物理的に考えて三千分必要になります。
では一日の総分数はご存知ですか。一日は二十四時間、一時間は六十分。つまり千四百四十分です。ひと作品三分で見切りをつけて寝ずに丸一日チェックをし続けてようやく投稿数の半分弱が読めます。
どうですか。小説投稿サイトに投稿して出版社の編集さんから声がかかる可能性は皆無だとおわかりいただけましたでしょうか。
ですが住野よる氏『君の膵臓をたべたい』のように、小説投稿サイトに投稿しただけで「紙の書籍」化された例もあります。こういうことがあるから、書き手は夢を持ってしまうのですね。『君の膵臓をたべたい』はプロの書き手が担当編集さんに「こんな面白い小説があるんだけど」と紹介した
プロの書き手がたまたま読んだことで認知され編集さんが知るところとなったのです。これはきわめて稀なケースと言えます。
現在出版社では原稿の持ち込みは受け付けておりません。「文豪」のように担当編集さんに「この人の小説を読んでみてください」とお願いすることもまずないでしょう。『君の膵臓をたべたい』はそれほどレアケースなのです。
ではどうやってプロデビューすればよいのか。
出版社が主催する「小説賞・新人賞」に応募して最高賞または佳作・優秀賞を獲ることです。
出版社の募集に紙の原稿を郵送するパターンと、小説投稿サイトにおいて出版社と共同企画で開催されている「小説賞・新人賞」に応募するパターンがあります。
いずれにせよ、最高賞か佳作・優秀賞を獲れればプロの書き手になるチャンスが手に入るのです。
しかし手に入るのはチャンスだけ。実際に「紙の書籍」化されるには、継続して小説を執筆できる実力があるのかを見られます。
ここまで概要を述べてまいりましたが、現在プロデビューする道は、「小説賞・新人賞」へ紙の原稿を送るか、小説投稿サイトで共同開催されている「小説賞・新人賞」へ応募するかの二択です。できれば双方に別の作品を応募しましょう。数多い「小説賞・新人賞」のうち、自分に合うものはごく少数です。だから紙の原稿を送るルートと、小説投稿サイトで応募するルートの二つを確保しておくべきなのです。
一次選考
「小説賞・新人賞」の一次選考は、「小説の形になっているか」をチェックされます。
一次選考の通過人数は不定です。「小説の形になっているか」をクリアした作品はもれなく一次選考を通過すると見てよいと思います。
会話文だけで進んでいく小説は、専門の「小説賞・新人賞」以外では確実に落とされるのです。
ちなみに一次選考はレーベルの編集さんと編集プロダクションの編集さん、そして新人作家さんなどに委託されることが多いと言われています。
「小説の形になっているか」をチェックすると言いました。
プロ志望の書き手が書いているから、さぞ素晴らしい作品だろう、と思われがちです。
実は応募作の中で「小説の形になっている」作品は一割程度とされています。
大半は説明の「書き込み不足」です。
説明しなければならないものをじゅうぶんに説明しきれていない。
どんな状況でどんな状態で言動が起こったのか。まるでわからない小説が多いのです。
また「比喩に頼ろうとしすぎる」こともあります。
比喩を使いこなせなければ、小説家として二流であることは疑う余地がありません。
しかしなにごとにも比喩を用いてしまうと、かえってくどくて読めたものではなくなります。
「書き込み不足を比喩で埋めようとする」のは愚の骨頂です。
説明の足りない文章のまま比喩をたくさん飾るのは、幹が細いのに実がたくさんなった果物の木のようなもの。あまりの重さに幹自体が折れてしまいます。
「てにをは」のおかしな小説も「推敲不足」を理由に落とされるようです。
プロの書き手でも犯しやすいミスとして、助詞「が」「は」「に」「で」「を」などをひとつの文に複数回用いてしまうことがあります。
この手の文は一度読んだだけでは文意を理解しづらいのが欠点です。
選者する方がつっかえることなく読み進められるかどうかも、一次選考通過の鍵を握ります。
またレーベルの方向性と異なる作品を応募しても、一次選考で弾かれます。
たとえば男子向けライトノベルのレーベルに、女子向け恋愛小説を送ってもまず一次選考を通過できません。万が一女子向け恋愛小説が専門の編集さんが読んでくれたら、応募先を変更するか確認の連絡が来て、女子向け恋愛小説レーベルの「小説賞・新人賞」へまわされることもあります。
でも誤った「小説賞・新人賞」に送ってしまったことは確かなので、心象が悪くなるものです。
二次選考
無事一次選考を通過したら、二次選考に進みます。
二次選考は出版社の編集さんが主に行なうのです。
一次選考で評価の高かったものから順に読み始めます。
二次選考には通過枠が設けられていることが多い。
だから一次選考で評価の高かった作品から判別していくことになります。
最終的には一次選考を通過した作品はすべて選考されますが、二次選考で残るには一次選考の評価を意識してください。つまり「完成度の高い小説」であることが望ましいのです。
二次選考の大きな評価ポイントは「オリジナリティー」と「面白さ」と「バランス」の三つになります。
「オリジナリティー」は「テーマ」「世界観」「ストーリー」「登場人物」のいずれかの斬新さが求められるのです。
つまりテンプレートを踏襲した作品は二次選考要件の「オリジナリティー」では不利になります。
「一次選考は通過するのに二次選考がどうしても通過できない」方は、テンプレートを踏まえた作品で応募していませんか。それでは通過はおぼつきません。
「テーマ」がすぐれていないと、作品を通して読み手に伝えたいことがぼやけてしまいます。読後感を左右する「テーマ」がしっかりしている作品は大きく評価されるのです。
作品の「バランス」も求められます。
「世界観」「ストーリー」「登場人物」のバランスがとれているかも通過基準です。
「世界観」が強すぎると設定資料集にしかなりません。
「ストーリー」が強すぎると登場人物の自由意思を無視した展開優先の物語になってしまうのです。
「登場人物」が強すぎると「世界観」や「ストーリー」を破壊することもあります。
二次選考では「オリジナリティー」と「面白さ」と「バランス」によってふるいにかけられるのです。
二次選考を通過したら普通は最終選考に残ったことになります。
最終選考は本数が決まっているので、二次選考では大量の落選作が生まれるのです。
最終選考
たいていの小説賞は二次選考のあとに最終選考へ入ります。
応募作が多い場合は三次選考を挟むこともあるのです。ですが三次選考をしているかどうかは明らかにされないことが多いので、だいたい二次選考のあとは最終選考だと考えてよいと思います。
最終選考は出版社の編集さんの他に著名な書き手も選考委員に名を連ねることが多いのです。一種の権威付けとも言えるでしょう。
最終選考は書き手の「伸びしろ」を評価されます。
数多くの「小説読本」を読むと、最終選考にまで残れれば作品自体の優劣はほとんどないそうです。
最終選考では書き手の「伸びしろ」つまり「小説賞・新人賞」を授賞してから、書き手がプロとして長く活躍できるかどうかが評価されます。
芥川龍之介賞を19歳で受賞した綿矢りさ氏や、20歳で受賞した金原ひとみ氏は、その若さから「伸びしろ」が評価されての授賞であったことがわかるでしょう。
「小説賞・新人賞」のレーベルらしさがあり、かつ「オリジナリティー」のある作品という、ある意味矛盾した作品が勝ち残っています。
過去の受賞作を分析しながら読めば、受賞する要素がなにかわかる、と提言する「小説読本」があるのです。しかし私見で言えば過去受賞作の分析は意味がありません。
つまり「傾向と対策」を考えている暇があるのなら、「オリジナリティー」の高い設定を考えたほうがましです。
もしライトノベルの「小説賞・新人賞」へ応募したいのなら、「登場人物」の「オリジナリティー」を最大化してください。ライトノベルはキャラクター小説とも呼ばれています。それほど登場人物の魅力が選考の有利不利を左右するのです。
落選したら使い回さない
「小説賞・新人賞」を受賞できず佳作・優秀賞にも残らなかった。
せっかく書いた長編小説だから、どうにか評価してもらいたい。
そう思って、落選作に手を加えて他の「小説賞・新人賞」へ応募する方がかなりいるそうです。
しかしこれはオススメできません。
落選したのには理由があるはずです。一次選考すら通過できなかった小説は、「小説の形になっていない」と判断されています。つまりいくら手を入れたところで、どの「小説賞・新人賞」に応募したところで評価されるはずがないのです。
一次選考を通過した作品を手直しすれば二次選考まで行けるかもしれない。
そう思いたいところですが、「オリジナリティー」が足りないから二次選考で残れなかったわけですから、多少手直ししたくらいでは二次選考の壁は突破できません。
手直しするくらいなら、同じ物語をもう一度執筆し直すことをオススメします。
「企画書」はそのまま使いまわせるとして、「あらすじ」「箱書き」「プロット」を変えて物語そのものを変えるのです。
そうすれば、使いまわすよりもよい経験が得られます。
同じ物語でも、どう書けば一次選考に残れるか、二次選考に残れるか。それがわかるのです。
ですが落選した小説はなにかが足りなかった作品ですから、使いまわしても結果はついてきません。
「小説賞・新人賞」にはつねに新作で臨むくらいの覚悟が必要です。
応募規定を守る
小説を書き終えたら、「小説賞・新人賞」の応募規定をもう一度よく読んでください。
原稿用紙の枚数、総文字数が規定よりも多すぎても少なすぎてもダメです。
ファンタジー小説賞にSF小説を応募するのも、受賞するはずがないのでやめましょう。
また「小説賞・新人賞」への応募には
梗概の他に、イメージ写真を添付したり登場人物のイラストを描いて添付したりするのも規定違反なのでやめましょう。小説は文字だけで勝負すべきです。
二重投稿の禁止
せっかく書いた小説だから、たくさんの「小説賞・新人賞」に応募してひとつでも賞を獲れたら御の字だ。などという欲をかかないでください。
もし複数の「小説賞・新人賞」を受賞してしまったら、その後の展開がややこしくなり、出版界に禍根を残すことになりかねません。
そうなったらもうプロとして活動することなんてできなくなるのです。
ある「小説賞・新人賞」に落選した作品を他の「小説賞・新人賞」に応募するのはいっこうにかまいません。オススメはしませんが。
ですが、同じ作品を同時に複数の「小説賞・新人賞」へ応募してはならないのです。
まだ結果の出ていない作品を他の「小説賞・新人賞」へ応募するのもいけません。
出版社のレーベルにふさわしい作品を、それぞれの「小説賞・新人賞」へ応募するようにしてください。
けっして同時に複数の「小説賞・新人賞」へ応募しないことです。
最後に
今回は「小説賞・新人賞の選考」について述べてみました。
「小説賞・新人賞」は出版社の生命線です。
応募する書き手にとっても、プロになれるかどうかの分水嶺であり、死活問題と言えます。
であれば「小説賞・新人賞」を正しく把握することがたいせつです。
どのような手順で選考されるのかを知れば、それに対応することもできます。
あと絶対に二重投稿はしないでください。プロへの道を完全に断たれてしまうおそれがあります。
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