574.明察篇:ひらがなとカタカナ

 今回は「ひらがなとカタカナ」についてです。

 成り立ちを知ることで、表記の書き分けの基準を書いてみました。

 擬声語(擬音語)はカタカナで書き、擬態語は基本カタカナですがひらがなも許容されています。

 ひらがなは「単語の表記」を表し、カナカナは「単語の読み」を表しているのです。





ひらがなとカタカナ


 日本語は長く独自の文字を持っていませんでした。

 平安時代まで、東アジア圏で広く使われていた中国の文字とくに「漢字」を用いて文章を書いていました。

 しかし六世紀に編まれた『古事記』において、部分的に日本語やまとことばの発音を「漢字」の音で表しています。

 これにより日本は漢語とは異なる独自のことばを持っていたことが明らかとなったのです。




万葉仮名の登場

『古事記』に次ぐ史書『日本書紀』にも、部分的に日本語やまとことばの発音を「漢字」の音で表しています。

 この『古事記』『日本書紀』の二大史書では実は音を当てる「漢字」に違いがあったのです。

 『古事記』には呉音による「漢字」、『日本書紀』には漢音による「漢字」が当てられています。

 これらの音を当てる「漢字」のことを、とくに際立って表現されていた『万葉集』の名を付して「万葉仮名」と通称されるようになったのです。

 江戸時代後期に和学者の春登上人氏が『万葉用字格』において「万葉仮名」を分類して973の借字があったと判明します。

「万葉仮名」は今の「ひらがな」の母体であり、少し遅れて「カタカナ」の母体にもなります。

「万葉仮名」は公的文書に用いられ続け「男仮名」とも呼ばれていたのです。これは女性に限って用いると決められていた「ひらがな」を「女手」と呼んでいたことに由来します。




ひらがなの誕生

「ひらがな」は平安時代、万葉仮名の草書体化が進んでから生まれた文字です。

 八世紀末の正倉院文書に見られる「草書体化が進んだ文字」ということで「草仮名」とも呼ばれるようになります。この時点ではまだ「草書体化が進んだ文字」程度であり、現在の「ひらがな」とは開きがあるのです。

 九世紀後半から歌文に用いられてきた「ひらがな」は『古今和歌集』によって初めて公式の文書に現れてきました。

 十世紀の紀貫之氏『土佐日記』は「ひらがな」で書かれていました。紀貫之氏は男性であり、「ひらがな」は「女手」と呼ばれるくらい私的な場か女性に仮託したかしないと書かれないものです。

『土佐日記』に記されている「ひらがな」は現在の「ひらがな」と遜色ない字体で書かれています。他にも和歌は「ひらがな」で書く風習が確立されていたのです。それにより貴族の間で広く用いられるようになりました。

 そして十一世紀初頭、紫式部氏が書いた『源氏物語』は本邦初のみならず世界でも屈指の早い時期に書かれた長編小説です。

「ひらがな」はその後変遷し、形を少しずつ整理されて現代まで伝わりました。


 現代における「ひらがな」は、「単語の表記」をするために用います。

「とうきょう」を「とーきょー」と書かないのは、「ひらがな」が表音文字ではなく「単語の表記」に特化しているからです。

「わたしはおさなごをほいくしへあずけた」という文を表音文字として「わたしわおさなごおほいくしえあずけた」と書かないのも「単語の表記」(ここでは助詞)のためです。

「おーじさまわおーきなうまをえーごでほーすとよんだ」とも書きません。「ひらがな」で書くのなら「おうじさまはおおきなうまをえいごでほーすとよんだ」とするのも「単語の表記」(ここでは長音)の正しさのためです。




カタカナの誕生

「カタカナ」は平安時代、万葉仮名の一部または全部を使って音を表す訓点・記号として生まれたものと言われています。

 九世紀初めに奈良の古宗派の学僧たちの間で、漢文を和読するための訓点として万葉仮名の一部の字画を省略して用いられたのが始まりとされています。

「カタカナ」は当初経典の行間の余白などへ「ヲコト点」とともに使われたのです。

 それが小さく素早く書くために簡略化して十二世紀頃になって、現在に伝わる「カタカナ」とほぼ同じ字体が確立します。


 現代における「カタカナ」は、「表音文字」としての役割を持っているのです。

「漢字」の読みは「ひらがな」で表記しますが、「洋語」の読みはもっぱら「カタカナ」で表記します。

「タバコ」「キセル」「コンピューター」「プロデューサー」のように、「漢字」以外の読みは「カタカナ」が基本です。

「漢字」をあえて「カタカナ」の表音文字で表せば、「トーキョー」「オージサマワオーキナウマオエーゴデホーストヨンダ」のようになります。「東京」はわかりやすいですよね。続くのはひらがなでも例に用いた「王子様は大きな馬を英語でホースと呼んだ」ですね。

「表音文字」として擬声語(擬音語)・擬態語も「カタカナ」で書くことが多いと思います。

 とくに擬声語は「カタカナ」で書いたほうがわかりやすい。そのため国語指導では擬声語はカタカナで書くことを推奨しているのです。擬態語は「ひらがな」のほうが主張してこないので読みやすいと思いますし、実際擬態語は「ひらがな」表記が許容されています。

 また学術用語や生物の和名、たとえばイヌ・サル・キジ・ブタも漢字以外では「カタカナ」で書くのです。

「漢字」の音や常用漢字外の音は「カタカナ」で書きます。たとえば「憂鬱」は「憂ウツ」と表記するのです。

 固有名詞を強調するときも「カタカナ」を用います。原子力爆弾被爆地を表すのに「ヒロシマ」「ナガサキ」と書くと地名が強調されることも明らかです。

 あとは砕けた表現をするときにわざと「カタカナ」で書くこともあります。「テキトー」「ヤバイ」「マジで」などですね。

 このように「カタカナ」は利用範囲の広い「表音文字」なので、現代では大活躍しています。

 とくに「外来語」(イコール「洋語」)が頻出するコンピュータ用語や英語・フランス語・ドイツ語・スペイン語などの単語も「表音文字」の性質を生かして「カタカナ」で書くのです。

 おかげで我々日本人は、憶えなければならない単語が何百万語にも及ぶ、世界でも最多の単語をTPOに合わせて使い分ける技術が必要となりました。





最後に

 今回は「ひらがなとカタカナ」について述べてみました。

 小説を書く方は無意識に使い分けていると思いますが、これから書こうと思っている方や一度しっかり学んでおきたかった方には需要があると考えて一本書かせていただきました。

 意外と知らなかったこともあったかもしれませんね。

 日本語は世界一懐の深い言語です。

 どんな言語の単語も、「カタカナ」にするだけで書けてしまいます。



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