572.明察篇:共感と憧れ

 今回は「共感と憧れ」についてです。

 主人公に感情移入してもらうための二つの機能です。

「かっこよさ」「華麗さ」「かわいさ」は人物を動かして表現しましょう。





共感と憧れ


 主人公には読み手が「共感」できる部分と、「憧れる」部分を持たせましょう。

 それが読み手の感情移入をより深めることにつながり、作品に魅力を感じるようになるのです。




共感

 主人公は幅広く「共感」してもらえなければなりません。

 主人公が読み手と等身大であること。これが第一です。

 読み手よりもスケールの大きな主人公は、「憧れ」こそすれ「共感」を得ることはできません。

 逆にスケールの小さな主人公は、読み手が高みから見下ろして物語を楽しむようになります。「共感」よりも「侮蔑」の意識が働きやすいのです。

 主人公が読み手に似通っているからこそ、感情移入を促します。

 歳相応の考え方を持ち、筋力を持ち、知識を持ち、技術を持つ。

 だからこそ主人公の歳と同じくらいの読み手から「共感」を得られるのです。

 そのうえで、なんらかの「弱点」を作ってください。

「人見知り」であったり「やる気がない」であったり「優柔不断」であったり。

 そういう「弱点」が読み手自身の「弱点」に引っかかって感情移入を深めてくれます。

 できるだけ多くの読み手に感情移入してほしいから。そういう理由で「弱点」を設定しなければ主人公が「完璧超人」すぎて誰からも深い「共感」は得られません。

「弱点」を多くまたは強く設定しすぎれば「さすがにここまでのヘタレには興味ないわ」とわずかの「共感」すら持ってもらえなくなります。

「人見知り」だけど慣れた人たちとは社交性がある。

「やる気がない」けどなんでも省エネ解決を考える知恵がある。

「優柔不断」だけど譲れないものも持っている。

 そういう人物設定だからこそ、読み手は主人公に感情移入することができるのです。

「人見知り」は川原礫氏『ソードアート・オンライン』の主人公・|キリト(桐ヶ谷和人)、「やる気がない」は渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の主人公・比企谷八幡を思い浮かべてもらえばわかりやすいと思います。いずれもその他は普通の高校生であり、そこに「弱点」がひとつ設定されているから多くの「共感」を呼んだのです。




憧れ

「共感」を呼ぶだけでも感情移入はしてもらえますが、あまりにも自分ごとすぎてすぐに飽きてしまいます。

「キャラクターが立っていない」のです。

 読み手がワクワク・ハラハラ・ドキドキしてくるためには、読み手の「憧れ」を主人公に盛り込みましょう。

 読み手にはやれないことができる主人公は、それだけでも「憧れ」の対象になります。

「読み手にはやれないことができる」とは、つまり「長所」や「特技」です。

「長所」や「特技」があることで、「私にはこんなことできないな」と思ってくれます。その感情こそが「憧れ」なのです。

 よくマンガで、不良の男子生徒が捨てられた子猫にミルクをあげる場面を主人公の女子生徒が目撃して、その男子生徒に「胸キュン」する鉄板の展開がありますよね。

「私にはこんなことできないな」と思っている。でも実際に目の前でやっている人がいる。だから「憧れ」てしまうのです。

「剣と魔法のファンタジー」であれば魔法が使える、神の祝福を受けて奇跡を起こせる、誰よりも逃げ足が速い、危険を顧みない勇気がある、空を自在に飛べる、など普通の人物とは明らかに異なる「長所」や「特技」を持たせましょう。

 読み手が「こんなことできたらいいな」と思える主人公だからこそ、読み手に「憧れ」られてワクワク・ハラハラ・ドキドキを感じるのです。

「弱点」と同様、「長所」や「特技」も数が多すぎたりレベルが高すぎたりすると完璧超人になってしまい、興を削ぎます。

 だってどんな困難もあっと言う間に解決してしまうのです。だからワクワク・ハラハラ・ドキドキなんてしてきません。

「なんでもできそうだけど、これはできない」という人物像であれば、完璧超人の印象が薄れます。

 主人公にはどんどん出来事を解決してもらいたい。それだと完璧超人になってしまう。だから「でも、これはできないんですよね」という「弱点」をつくってあげるのです。

 たとえ主人公がジャイアンであっても、「かあちゃんには頭が上がらない」という「弱点」があるから愛嬌が生まれます。

 過去のトラウマから能力を満足に発揮できないというのも、「憧れ」られる主人公につけられる「弱点」です。

『ソードアート・オンライン』のキリトは過去の出来事により人間不信に陥っていますが、剣技には自信がありユニークスキル「二刀流」を所持するチートキャラになります。

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の八幡は入学式当日に犬を助けて病院行き。そのため高校へ行っても友達が出来ないのです。ですが成り行きで入部させられた「奉仕部」の活動において、独自のトラブル解決法を発案して見事に依頼を果たしています。

「共感」と「憧れ」のバランスがとれれば、読み手は主人公に深く感情移入するのです。

 バランスが見出せないときは、「共感」を与える「弱点」をひとつと、「憧れ」を与える「長所」や「特技」をひとつ、ワンセットで考えてください。

 キリトも八幡も、ひとつの「弱点」とひとつの「長所」「特技」をセットで持っています。だから読み手が感情移入しやすいのです。




かっこよさと華麗さとかわいさ

 ライトノベルは「キャラクター小説」であり、とくに主人公が映えないライトノベルに存在価値はありません。

 映えるキャラクターに必要なのは「かっこよさ」であり「華麗さ」であり「かわいさ」です。

 初心者の書き手は「かっこよさ」「華麗さ」「かわいさ」が漠然としていることが多い。

 誰が見ても「かっこいい」「華麗だ」「かわいい」人物なんていません。

 読み手の数だけ、どんな人物像が「かっこいい」「華麗だ」「かわいい」かは異なります。

 女子はよく「かわいい」という言葉を使うのです。

 どんな基準で用いているのか私見を述べます。

「幼児児童などの小さくて丸いもの」「ツンデレ」「おとなしめの女子がふと見せる笑顔」「強い女子がたまたま見せた弱さ」といったものが「かわいい」と呼ばれているようです。

「かっこよさ」「華麗さ」「かわいさ」は読み手によってウケるポイントが異なります。

 であるなら、書き手が「かっこいい」「華麗だ」「かわいい」と思う人物像をそのまま書いたほうが読み手にウケるのではないでしょうか。




魅力は動かさないと伝わらない

「かっこよさ」「華麗さ」「かわいさ」を決めたとして、それを地の文でそのまま書くのでは芸がない。

 その人物に出来事が起こって、どう行動するかで「かっこよさ」「華麗さ」「かわいさ」を描写していくのです。

 また出来事が起こると、よいことにつながるかもしれませんし、悪いことにつながるかもしれません。悩んで考える。それが成長を促すことになります。

 成長を促す出来事に「親類知人が事故に遭う」「親類知人が病気になる」「親類知人が死ぬ」ことが挙げられるでしょう。

 事故に遭ったり病気にかかれば「死にはしないか」気になりますし、死んでしまえば「懐かしい想い出」もあふれ深く悲しみ納骨まで済ませなければなりません。

 出来事が起きてもすぐに解決させないでください。

 能力があるのなら、すぐに解決できてしまいます。それでは緊迫感に乏しいのです。

 解決に少し時間がかかれば主人公の懊悩おうのうつまりハラハラ・ドキドキを感じることができます。

 過去の出来事によって動きが変わるようなときは、その「過去」の出来事を読み手に知らせてください。シーンで見せてもよいですし、地の文やセリフに入れてもよい。それによって人物は今どのような判断をするのか。それを読ませることで人物の魅力が引き立つのです。

 出来事が起こって、恋を選ぶか仕事を選ぶか。選択を迫られているときは、「過去」を判断基準のひとつにして選びましょう。

 あくまでも「判断基準のひとつ」なので、そこから人物がどういう心境の変化で別の選択肢を選ぶかを書くのもありです。





最後に

 今回は「共感と憧れ」について述べてみました。

 読み手と等身大で「弱点」を持っている人物は「共感」を得られます。

 読み手がやれないことをできる「長所」や「特技」を持っている人物は「憧れ」を得られるのです。

 主人公はそれだけでもよいのですが、「対になる存在」や第三者(脇役)には「かっこいい」「華麗な」「かわいい」人物を用意すると、物語が華やぎます。



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