568.明察篇:異性の魅力を引き出す
今回は「異性の魅力の引き出し方」についてです。
書き手と同性の人物はそれなりに書けます。
異性の人物を書くのが殊のほか難しいのです。
異性の魅力を引き出す
書き手には登場人物へ「男らしさ」「女らしさ」をどの程度付与するかの権限があります。
しかし男性が書く男の「男らしさ」は女性ウケせず、女性が書く女の「女らしさ」は男性ウケしません。なぜでしょうか。
それは異性から見たときの魅力が、同性にはほとんど感じとれないからです。
書き手と同性の人物を書くには
男の書き手を悩ませるのは「男らしい男」とはどんな人物かです。
男が惹かれる「男らしい男」とは高倉健氏や菅原文太氏、アル・パチーノ氏やロバート・デ・ニーロ氏のような寡黙で骨太で、進んで人前に出るようなタイプではないが、やるときはやるような人物像。でも女性ウケはしないため、伝説に残るような人物にはなりにくいのです。
その点、加山雄三氏であったり石原裕次郎氏であったり松田優作氏であったりジェームス・ディーン氏であったりと、野性味あふれるセクシーな人物像が女性ウケして伝説に残るような人物になります。今だとトム・クルーズ氏やレオナルド・ディカプリオ氏やキアヌ・リーブス氏、ブラッド・ピット氏やジョニー・デップ氏などが女性ウケする「男らしい男」に当てはまるでしょう。(これでも古いほうですが。今なら鈴木亮平氏が日本俳優でトップ級の人気を誇っています)。
しかしいざ「小説を書く」となったとき、主人公の男性像をどうするか考えた際、高倉健氏のような寡黙で誠実なタイプにしてしまうことがあまりにも多いのです。
男の書き手がトム・クルーズ氏やブラッド・ピット氏のような主人公を思いつかないわけはないでしょう。ただし「ちょっと出来すぎじゃないか」と感じてグレードダウンしてしまいます。
ここでグレードダウンをせずに、トム・クルーズ氏やブラッド・ピット氏のような人物像を押し通せれば、女性ウケをしてビッグ・ヒットも狙えるのです。
鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』の主人公・上条当麻は、学園都市で「レベルゼロ」と蔑まされています。実際は心がひじょうに強い「カッコいい」男です。その証拠に『このライトノベルがすごい!』ではいつもランキングの上位に載っています。
「男らしい男」を、男性目線からでなく女性目線から作り上げることができれば、その作品の大ヒットは約束されたようなものです。
女の書き手が書く「女らしい女」にも似たような面があります。
女が惹かれる「女らしい女」とは上戸彩氏、新垣結衣氏、ローラ氏、戸田恵梨香氏、有村架純氏のように共感力の高い人物像です。先頃引退した安室奈美恵氏も「女が惹かれる『女らしい女』」といえます。女性の特徴として「綺麗」な女性よりも「親しみ」のある女性のほうが共感できて人気が出るのです。『世界の果てまでイッテQ!』のイモトアヤコ氏のような女性が、女性ウケする「女らしい女」になります。
男性ウケする「女らしい女」は、あのタモリ氏が敬愛する吉永小百合氏を始め、現在では長澤まさみ氏、北川景子氏、綾瀬はるか氏のような忍耐力と包容力のある人物像です。男性は何歳になっても母性を求めると言われています。綺麗なだけでなく包容力がある女性が男性ウケするのです。
女性が書く「女らしい女」も女性目線からではなく男性目線から作り上げられれば、多くの男性が読み手となって大ヒットします。
異性のギャップ
男性書き手の女キャラ、女性書き手の男キャラともに「浮ついて」見えるものです。
なぜか。自分の理想をキャラに押しつけていますからね。
男性書き手の女キャラは、男主人公に対してだけは貞操を守ってくれるような、貞淑な女性像ということが多いのです。これではいけないと思ったら、今度は真逆の女性像を作り出してしまいます。どんな男性とも仲良くお付き合いができる社交的な人物であったり、誰とでも致してしまう尻軽な人物であったり。とにかく貞淑がひとつの基準になっています。
そして貞淑な女性はなぜか美女ばかりです。「高嶺の花」が自分のものであると「他の男性よりも自分は上だぞ」と示したいのでしょう。男性書き手の無意識にあるその欲求が、女キャラに投影されてしまいます。
渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の雪ノ下雪乃も「高嶺の花」ですよね。しかも同じ奉仕部の主人公・比企谷八幡にしか心を開かない。貞淑な女性像が投影されています。
人気作品の多くが、このような「高嶺の花」で男主人公にしか心を開かない女性を出しているのです。男性書き手でこのような女性像はテンプレートと化しています。
田中芳樹氏『銀河英雄伝説』は自由惑星同盟側の主人公ヤン・ウェンリーのそばに士官学校主席卒業という「高嶺の花」で、ヤンに心酔しているフレデリカ・グリーンヒルが登場するのです。
水野良氏『ロードス島戦記』では主人公パーンのそばにハイエルフという「高嶺の花」で、パーンの純真さに惹き込まれるディードリットがいます。
女性書き手の男キャラについてですが、女性向け小説を読まないので小説投稿サイトの恋愛小説をいくつか読んでみました。
女性書き手は「同性愛」に寛容なようで、女主人公を厳しく律してくれる女や、女主人公に従順な女がよく登場しているのです。
男性書き手は「男同士の同性愛」については腫れ物扱いで、「女同士の同性愛」は文学小説でもよく見られます。
「同性愛」ものが多いのも女性書き手の恋愛小説の特徴です。とくに「ボーイズ・ラブ(BL)」は「男同士の同性愛」ものですが、女性にとても人気があります。女性ウケするアニメなどを見ても、男同士のカップリングが成立するようなキャラ立てをしているものがウケているようです。
その先駆けがアニメの『六神合体ゴッドマーズ』で、主人公の明神タケルと双子の兄マーグとのBLが捗っていました。近作ならマンガ・藤巻忠俊氏『黒子のバスケ』やアニメ『おそ松さん』がさまざまなカップリングで人気を集めたのです。
対して誰からも一目置かれるようなエリートが、女主人公にだけは心を開くという、男性書き手の「高嶺の花」タイプのものもあります。マンガ・美内すずえ氏『ガラスの仮面』は、大都芸能の敏腕社長・速水真澄が、主人公の北島マヤにだけ心を開くのです。彼女のために“紫のバラ”を贈って陰ながら彼女の演劇を支援します。そしてマヤから正体不明の「紫のバラの人」として慕われることになるのです。
このように、書き手にとって異性のキャラは、書き手の理想が投影されてしまうものなのです。
異性を観察して演技する
書き手にとって同性キャラはとても書きやすいのです。友人も同性が多いため、誰かを参考にすることもできます。書き手の想像が及びやすい点でも有利です。
異性キャラはどうしても埋められない「性差」があります。そこを突破するには、異性をよく観察することです。
オカマバーで働くオネエの方々は、女性よりも女らしい人が多いといいます。それはつねに女のしぐさを観察していて「女らしさ」を憶え込んでいるからです。
歌舞伎の
書き手はつねに異性をよく観察しましょう。
そして同性とはどう異なるのか、「性差」を意識するのです。
そうすれば異性を書くときに、異性の演技ができるようになります。
異性の演技ができるようになれば、あなたの異性キャラは異性にも好かれるキャラへと昇華するのです。
今はSNSの時代で、異性と直接会って話をする機会も減りました。
それでも「異性の観察」は異性を演じるうえでとても有効な手段であることに変わりありません。
移動手段が自動車であれば難しいのですが、徒歩やバス・電車などであれば、異性とすれ違ったり同じ方向へ歩いていたりするものです。そのときにじゅうぶん観察してください。観察こそが異性を違和感なく書くための秘訣なのです。
最後に
今回は「異性の魅力を引き出す」ことについて述べてみました。
書き手にとって異性を書くのは、とても難しいのです。
どうしてもテンプレートにハマりやすい。
異性をよく観察しましょう。
でもあまりじろじろ見ていると不審者扱いされますのでご注意を。
「性差」を理解しなければ、魅力的な異性は書けません。
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