569.明察篇:美少女や美女を出す

 今回は「美少女や美女」についてです。

 男子向けライトノベルなら「美少女や美女」が出て当たり前。

 かといって女子の読み手を増やすために「美少年や美男子」を出してもヒットしません。

 なぜ「美少女や美女」はウケるのでしょうか。





美少女や美女を出す


 小説は、文字だけで書かれた「一次元の芸術」です。

「一次元の芸術」では目を惹くような要素を作れません。

 イラストやマンガやアニメ、ドラマや映画、ゲームになれば、キャラの見た目の良し悪しで目を惹くことができます。

 小説の文字列から見た目を想像してワクワク・ハラハラ・ドキドキしてくる人はいないでしょう。

 いたらかなりの妄想癖と言わざるをえません。




美少女や美女は小説の華

 登場人物で読み手を惹きつけたいと考えたら、まず美少女や美女をメインどころの配役で登場させましょう。

「小説は男性だけのものではない」と思われますよね。

 実は女性の読み手も、小説に美少女や美女を求めているのです。

 美少年や美男子のほうが女性ウケするのではないか。

 そう思われるでしょうが、こと小説に関しては美少年や美男子はウケません。

 女性は男性には乏しい「共感力」があります。

 小説に出てくる美少女や美女に「共感」して、自分が美少女や美女になったように感じるのです。

 美少年や美男子では「共感力」が発動されません。

 女性向けの小説で、将来アニメ化やドラマ化や映画化をにらんでいるのなら、美少年や美男子を入れると映像化された際、爆発的にヒットする可能性があります。

 でも小説だけで終わる場合は、美少年や美男子が出てきても人気にまったく影響がないのです。

 美少女や美女は主人公でなくてかまいません。

 主人公に絡んでくるメインどころの脇役でじゅうぶんです。

 もし美少女や美女が出てこない小説を書いて、それが爆発的にヒットして映像化される際、原作には出てこなかった美少女や美女が配役として追加されることになります。

 これはマーケティングの問題なのですが、映像化したとき作品に美少女や美女がいるのといないのとでは、興行収入や視聴率に大きな開きが出るからです。

 だから映像化作品には原作小説で出てこない美少女や美女がメインキャラクターとして登場してきます。

 であるなら、小説の段階から美少女や美女を登場させておけば、映像化されやすいです。

「小説賞・新人賞」の選考にも幾分か有利に働くこともあるでしょう。




美少女や美女が出てくる小説

 記憶が残るあたりから例をとってくるのが無難なので、最近の作品で見ていきましょう。

 渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』は美少女として雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣、美女として平塚静、雪ノ下陽乃といった具合に、「ラブコメ」を謳う作品らしく美少女と美女が数多く登場します。

 鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』はインデックスや御坂美琴など美少女役で、黄泉川愛穂や親船素甘は美女役です。学園都市が舞台ですから美少女役には事欠きません。

 川原礫氏『ソードアート・オンライン』は美少女のアスナ(結城明日奈)です。主人公・キリト(桐ヶ谷和人)に与える影響が大です。フェアリィ・ダンス編のリーファ(桐ケ谷直葉)も美少女設定になります。美女役はほとんどいないのではないでしょうか。ちょっと稀な作品だと言えます。

 水野良氏『ロードス島戦記 灰色の魔女』はディードリットが美少女役、“灰色の魔女”カーラが美女役です。

 田中芳樹氏『銀河英雄伝説』では主人公ラインハルト・フォン・ローエングラムの姉であるアンネローゼ(グリューネワルト伯爵夫人)が美女役で、のちにユリアン・ミンツと絡んでくるカーテローゼ・フォン・クロイツェル(カリン)が美少女役になります。

 以上のように、ヒットしたライトノベルには、美少女が必ずいますし、美女も数多く存在するのです。




強い女性が作品の魅力を高める

 小説には美少女や美女が登場します。

 書き手としては美少女や美女をか弱く可憐な人物像にすることが多いのです。

 そのほうが書きやすいから、ほとんどの小説にはか弱く可憐な美少女や美女が登場するものです。

 司馬遷『史記』に登場する覇者・楚の項羽には虞美人と呼ばれるか弱い愛妃がいたそうです。当時の中国は男尊女卑社会であり、男女平等ではありません。女性は奥におさまっているのが当たり前だったのです。

 およそ二千年前の歴史書に登場する女性は基本的にか弱い存在として書かれています。

 そんな中で異彩を放つのが呂后(呂太后)です。前出した楚の項羽と天下を争った漢の劉邦の妻となります。劉邦が没した際に呂太后は劉邦が溺愛していた戚夫人を捕らえて手足を切りとり目をくり抜き、耳と声を薬で潰して便所に置いて「人豚」と呼んで来訪者への見世物にしたのです。

 これほど酷い女性であるから、歴史書に名前が残っています。円満な家庭の女性が『史記』に出てくることはまずありません。


 ここで表題に戻りますが、「強い女」とは呂后のような悪女を指していません。

 男を頼ることなく、自ら運命を切り開くような精神的に強い女性のことです。

 こちらも映像化を視野に入れた際、キャラクターが印象に残りやすいので、か弱い女性より強い女性のほうが好まれます。

『ロードス島戦記』のディードリットも、『銀河英雄伝説』のカーテローゼ・フォン・クロイツェルも、『とある魔術の禁書目録』の御坂美琴も強い女性です。

 ただ美少女や美女というだけでなく、「強い美少女や美女」が求められています。

 主人公にしないのであれば、ダメなところがあったり残念だったりする女性も物語に華を添えるのです。

 主人公がダメ美女というのは、読み手のひんしゅくを買うことが多いので、よほど筆力がつくまではダメ美女を主人公にするのはやめましょう。

 いっそ主人公を「強い女性」にしてもいいですね。

 ただし男性書き手の女性設定や描写は、書き手の理想が反映されやすいので、リアリティーが薄れてしまう難点があります。

 だからこそ「強い女性」を主人公にしてきちんとした物語が書ければ、「小説賞・新人賞」に近づくことができるのです。

「強い女性」の主人公ものを狙うよりも、男性主人公に強い女性の相棒がいるくらいのほうが魅力的に映ります。

 マンガですが北条司氏『CITY HUNTER』の主人公・冴羽リョウの相棒である槇村香のような「強い女性」は物語を盛り上げる重要なキャラ設定だったのです。





最後に

 今回は「美少女や美女を出す」ことについて述べてみました。

 小説には「美少女や美女」が必要です。

 しかし「か弱い美少女」「か弱い美女」は紋切型で面白くありません。

 時代は「強い美少女」「強い美女」を求めているのです。

 マンガの士郎正宗氏『攻殻機動隊』の草薙素子は「強い美女」の代名詞と言えます。

 男性の書き手が女性主人公ものを書くのは難しいので、男性主人公の相棒に「強い美少女」「強い美女」を配するほうがよいでしょう。



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