567.明察篇:専業作家の危険性

 今回は「専業作家の危険性」についてです。

「小説賞・新人賞」で紙の書籍化を果たしたとしても現在の職業を辞めてはなりません。

 プロの書き手一本に絞るのは、連載を二つ以上抱えてからでじゅうぶんです。

「専業作家」には危険な点がいくつかあります。





専業作家の危険性


「小説を書くのが三度の飯より好き」という方以外に専業作家をオススメしない「小説読本」が数多くあります。

 リスクが多い割に見返りが少ない。それがプロの書き手だからです。

 本職と兼業で作家活動をすることが意外と推奨されています。

 なぜでしょうか。




世間知らずを見透かされる

 高等学校から文系大学国文科へ進み、サークル活動で小説を競って書き溜めて、出版社の企画している「小説賞・新人賞」へ応募する。

 プロの書き手を目指す最も効率のよい通り路です。

 しかしこの方法で専業作家になった方は、世間を知りません。

 普通の大学生は学業の合間を縫ってアルバイトをしますが、プロの書き手を目指す人たちはその時間を創作活動に充てます。

 だから労働対価としての、原稿料や印税率はいかほどが適正なのかわからないのです。

 このようなプロの書き手は、出版社から軽んじられています。

 どんな金額を提示しようと、二つ返事で合意してしまうためです。

 同じ出版社で活躍している他の書き手や、他の出版社と契約している書き手と接触する機会もなかなか巡ってきません。

 だから渾身の一作であっても安値で買い叩かれてしまうのです。

 せっかく年月を懸けて書いた小説であっても、出版社の担当編集さんが許してくれないと書かせてもらえません。

 また実際書いてもいいよ、と言われて書いたのに、完成原稿を読んでボツにされることもあります。




担当編集が書き手の生殺与奪を握る

 仮にプロデビューが決まっても、小説界で成り上がれるとは限りません。

 書き手であるあなたに対して、出版社は担当編集さんをつけます。

 多くの現役作家が言うには「作家を生かすも殺すも編集次第」だそうです。

 たとえ万人が傑作だと思ってくれるような小説を書いても、担当編集さんが「これは出版できませんね」と言ったらそれでお蔵入りになります。


 逆に担当編集さんの好みに合うようなくだらない作品を書いたら、書き手のネームバリューなど考えもしないで出版に踏み切ることもあるのです。

 何作か書いてきて、ある長編小説を書いたのに、編集さんから「前の作品と毛色が違うから出版できない」と言われてしまうことさえあります。

 そこでやる気を失くさず、新しい小説を書き続ける努力を惜しまなければ、いつかはまた出版してくれる可能性も出てくるものです。

 一社が出版を独占していると、その出版社との間でなにかいざこざが発生したとき、プロの書き手ではいられなくなるおそれもあります。その優先的な地位を利用して作家を囲い込もうとするのが、出版社のよくやる手口なのです。

 出版社側で不祥事が起きても、大手になるほど火消しには手段を選びません。

 なだめたりすかしたり脅したり、まさになんでもありです。




複数の出版者と契約する

 以上のようなことを起こさないためには、複数の出版社と契約を結ぶことです。

 基本的にあなたが書いた作品のすべての出版権を、一社が独占してよい法律はありません。

 一社独占は「不正競争防止法」に抵触するおそれすらあるのです。

 法律論から言えば、公的文書として「私の著作はすべて貴社から出版致します。」のような条項がなければ他の出版社と契約してもなんら違法ではありません。

 というよりそのような条項があること自体、「不正競争防止法」に抵触する可能性が高いのです。


 出版社によって契約内容は著しく異なります。

 新人でも今の出版社より原稿料が二倍もらえたり、印税率を10%つけてくれたりと高待遇で扱ってくれることがあるのです。

 とくに処女作がヒットしていれば、そのぶんだけ迎え入れる側の用意してくれる待遇がよくなります。

 出版界も今は「出版不況」で小説が売れなくなっているのです。

 確実な売上が見込める書き手の確保を最優先に考えています。

 そのために小説投稿サイトで「小説賞・新人賞」を開催して、総合評価ポイントを物差しにして「紙の書籍」化したときにどれだけの売上が見込めるか、したたかに計算しているのです。

 現状、小説投稿サイト発の小説が、小説界全体の売上を下支えしています。

 また複数の出版社と契約する最もよい利点は、今の出版社ではボツになった原稿でも、他の出版社ならGOサインが出る可能性もあることです。


 また出版社の事情として、出版の権利は大御所に優先権があり、デビューしたての新人の書き手は年に一度執筆依頼がくるかどうか。そのくらい力関係が異なります。

 年に一度の執筆依頼だとわかっていたら、複数の出版社と契約して出版ペースを上げることも考えてみるべきです。合計四社と契約していれば、一年で四本の作品を執筆する機会を得られます。専業作家としてやっていこうと思ったら、複数の出版社と付き合うことを念頭に置きましょう。


『ロードス島戦記』で有名な水野良氏は、『ロードス島戦記』を角川スニーカー文庫から、『漂流伝説クリスタニア』を電撃文庫から、『魔法戦士リウイ』を富士見ファンタジア文庫から、『ブレイドライン アーシア剣聖記』を再び角川スニーカー文庫から、そして『グランクレスト戦記』を再び富士見ファンタジア文庫から出版しています。

 今でこそこの三レーベルはすべてKADOKAWA傘下に収まっています。それぞれが単独の運営会社だった頃から、水野良氏は複数の出版社と契約をしていたのです。

 書き手が書きたい作品を出版してもらうためには、複数の出版社と契約するのが最も手っ取り早い方法だと言えます。




兼業作家という選択

 専業作家が最も損をしている部分があるとするなら、先に述べた「世間を知らない」ことです。次が「執筆ばかりしていて運動をしてないから不健康な体」になります。

 兼業作家であれば、世間の常識を知れます。社会人として通勤電車に揺られて足腰が鍛えられるので、「運動不足」とは無縁でいられるのです。

 また本業のストレス解消のために小説を書けます。

 期限を切らないといつまでもひとつの作品をもてあそんでしまうので、毎年開催されている「小説賞・新人賞」に応募することを目標にしてください。

 仮に受賞したとしても、それで本業を辞めないようにしましょう。小説一本で食べていけるのは上位〇.一%もいないそうです。

 依頼された原稿をきちんと出版できる軌道に乗り、他の出版社からも出版の打診を受けたとき、初めて専業作家の道を模索してください。

 焦りは禁物です。


 できれば専業作家になるまでに数百万円の預金を有しておくことをオススメします。

 専業作家ともなれば収入が不安定になり、精神的な余裕がなくなってしまうのです。数年ぶんの生活費が手元にあれば、少なくともタイムリミットが明確になります。預金が尽きる前に複数の連載を始められるように努力してみましょう。





最後に

 今回は「専業作家の危険性」について述べてみました。

 とにかく複数の出版社と契約できるよう、出版の独占契約だけは解除するように交渉してください。

 交渉事はつねにWIN−WINの関係でなければなりません。

 書き手に不利益な契約はそもそも「不正競争防止法」違反であることを確認してくださいね。

 小説を書くほどの人が、法律をチェックすらしていないのでは、足元を見られますよ。



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