566.明察篇:月に一本の長編小説を書く

 今回は「月に一本の長編小説を書く」ことについてです。

 その心意気で書けば、年に十本や八本の長編小説が書けます。

「最初の一本に納得がいくまで手を入れたい」という気持ちもわからないではありません。

 しかし物語の「佳境クライマックス」「結末エンディング」をたくさん書いて経験を積まないかぎり、面白い小説は書けないでしょう。

 最初の一年間は月に一本の長編小説を書く経験を積むべきです。

 そして開催されている「小説賞・新人賞」へ片っ端から投稿していきましょう。





月に一本の長編小説を書く


 小説投稿サイトでは短編小説に人気が集まります。

 その一回ぶんだけを読めば物語を楽しめるからです。

 しかし「小説賞・新人賞」を獲るためには、長編小説やその連載を書かなければなりません。

 連載小説で人気が出れば総合評価ポイントが高まってランキング上位になるのです。

 すると出版社から「紙の書籍」化の打診が来ることがあります。

 人気が出てもまったく音沙汰なしの作品も数多くあるので、「総合評価ポイント」イコール「紙の書籍」化とは言えません。

 なぜでしょうか。




作品の良し悪しがわからない

 連載中の連載小説は、終了するまで「佳境クライマックス」「結末エンディング」がわかりません。

 つまり作品のキモである「佳境クライマックス」「結末エンディング」の良し悪しが出版社には判断できないのです。

 それでも「紙の書籍」化を打診してくる出版社の編集さんは、相当な「バクチ打ち」だと思います。

 もし大好評の連載小説の「佳境クライマックス」「結末エンディング」を保証できるだけのものがあるのなら。「紙の書籍」化の判断を手助けできるのです。

 そんな都合のよいものがあるのでしょうか。

 あります。それもあなたのライブラリの中に。

 あなたの過去作が編集さんのひとつの判断材料になるのです。

 しかし短編小説をいくら書いても判断材料にはなりません。

 この書き手は長い物語をきちんと終わらせられるのだろうか。つまりそれまでの「長編小説」が判断材料にされるのです。

 連載小説がいくら好評でも、終わらせ方の拙い小説はあります。

 最悪の場合、連載の間隔がじょじょに空いていって更新が滞って「エタる(エターナル:永遠に終わらない)」のです。

 あなたの過去の長編小説や連載小説が「エタって」いたら、それらをすべて終わらせることを考えてください。

 しっかりと終わらせる能力があることを出版社の編集さんに示さなければ、あなたに「紙の書籍」化の依頼はまずこないのです。

 過去の長編小説や連載小説がきちんと完結していれば、あなたの「終わらせる能力」を認めてもらえます。

 今連載している小説が高評価なのに「紙の書籍」化の依頼が来ない理由のひとつは、「エタって」いる作品があるからかもしれません。

 他にはテンプレートを使っていてオリジナリティーがないため、他の作品と差別化を図れていないことも考えられます。




ひと月に長編小説一本

 以下の話は、連載小説に挑戦している方にとって参考にはならないかもしれません。

 ひと月で長編小説を一本ずつ書いてみませんか。一年間で十二本の長編小説を書くのです。

 このくらい多作できないと、プロの書き手一本で生活していくことはできません。

 出版社もひとつではなく複数と契約し、一年間十二本の長編小説を「紙の書籍」化させていくのです。

 そのペースで書けると出版界が認識してくれれば、連載小説の依頼も舞い込みます。

 ちなみにひと月で長編小説を一本書くには、一日に原稿用紙十枚をコンスタントに書く必要があります。

 なんだ十枚か、と思われるかもしれません。

 実際には前半十五日で毎日原稿用紙二十枚書いていき、残り十五日を推敲に当てるほうが得策です。

 推敲もしていない長編小説をいくら書いても、不完全な作品を読ませられるだけであり、読み手も楽しめません。

 よりよい小説を書くには、じゅうぶんな推敲が不可欠なのです。

 長編小説を毎日連載投稿していくと仮定すれば、毎日原稿用紙十枚から十五枚の原稿を書き、四日ぶんのストックを用意してから連載を開始してください。

 そして毎日推敲してから投稿し、毎日原稿用紙十枚から十五枚書くのです。

 なぜ四日ぶんのストックを用意するのか。書けない日が発生するときのリスクに備えてです。

 もし書けない日があっても、推敲する時間もないということは考えづらい。

 推敲は紙にプリントアウトすれば、それを持ってどこででもできます。横になりながらでも推敲はできるのです。

 であれば三日間は推敲投稿に徹し、体調が戻るまたは用事が済めば一日に二十枚ずつ書いていけばすぐに元の状態へ戻れます。




速筆は事前のイメージ力で決まる

 一日に十枚、二十枚を一時間から三時間以内で書く必要があります。

 そんなに速く書けないよ、という方もいらっしゃると思います。

 それは準備が足りないからです。

「あらすじ」「箱書き」を作って、まず登場人物のタイムテーブルを組み上げます。

 帰宅後に書こうと思っているシーンを細部まで綿密にイメージしてください。

 野外なら風景を描写し、室内なら家具調度品などを描きます。登場人物にしゃべらせるセリフまではっきりとイメージするのです。

 登場人物を明確にイメージしづらいときは、脳内で適当な俳優に演じてもらって表情と声で語ってもらいましょう。

 イメージするだけなら、どこででもできます。

 歩いているときは歩くことに集中してください。事故に遭うのがいちばんのリスクですからね。

 バスや電車での移動、食事中、トイレや風呂、布団の中でも、本当にいつでもイメージすることができます。

 帰宅後パソコンに向かったら、脳内のイメージを次々と「プロット」として書けばよいのです。

 書くのが遅い人は、パソコンを立ち上げてから「なにを書こう」と考え始めます。

 書く前のイメージこそが速筆につながるのです。

「プロット」が出来あがれば、それに比喩や描写を加えて原稿を書きあげましょう。

 それが済んだら数回前の執筆ぶんを推敲して投稿すればよいのです。




規定上限に近いほど有利のウソ

「小説賞・新人賞」は応募規定の上限に近い枚数ほど有利になるという都市伝説がいまだにはびこっているようです。

 ある「小説読本」では「下限ぎりぎりで出すのが、賢い」とされています。

 内容の充実した下限ぎりぎりと、水増しした上限ぎりぎりとでは、内容の充実したほうが有利になるからです。上限に近づけようとして中身がすかすかになって物語がふやけてしまうのが怖い。

 同じ作品でムダを削りに削って下限ぎりきりで応募したほうが、メッセージ性も高まりますので高評価を受けます。

 文字数で有利不利があるとすれば、できれば応募規定の真ん中の文字数を狙うのがよいでしょう。

 真ん中を目指して書いて、結果として上限と下限に収まればよしとするのです。





最後に

 今回は「月に一本の長編小説を書く」ことについて述べてみました。

 一日十枚から二十枚書いて、毎月一作の長編小説を書けるようになりましょう。

 そのくらいのペースが保てなければ、あなたがプロの書き手となったとき締切に間に合わない事態が発生します。

 速くたくさん書くには、事前のイメージが重要です。

 イメージが明確なら、あとはイメージをパソコンに打ち込んでいくだけでよい。

 そう考えると気がラクになるかもしれません。



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