564.明察篇:長編小説が書けるようになる方法

 今回は「長編小説を書く方法」です。

 ひとシーンを原稿用紙二、三枚しか書けないからとあきらめないでください。

 その場合百シーンから百五十シーン書けば原稿用紙三百枚は埋まります。

 小説投稿サイトでの連載小説もだいたいこんなふうに書かれているのでご安心くださいませ。





長編小説が書けるようになる方法


 長編小説はだいたい四百字詰め原稿用紙三百枚、文字数十万字がひとつの目安になっています。

 しかし小説を書き慣れていない方からすると原稿用紙三百枚は尋常な分量ではありません。

 そんな方はまずシーンを書く練習をしてみましょう。




シーンを書く

 長編だけでなく小説全般は「場面シーン」を書く必要があります。

 この「シーン」を原稿用紙何枚で書けるのか。あなたは先立ってこれを知る必要があるのです。

 まずはお題を出してみますので、この「シーン」を原稿用紙何枚で書けるか試してみましょう。

【課題:高校二年で一限目の英語の授業が始まるまでの喧騒】


 どうでしょうか。原稿用紙何枚くらい書けましたか。

 原稿用紙二、三枚しか書けなかった方もいらっしゃれば、原稿用紙二、三十枚書けた方もいらっしゃるはずです。

 この差がなにかわかりますか。

 原稿用紙二、三枚の方は、主人公のことしか書けていないことが多いのです。ひとりのことしか書いていないと、一文で進む時間が早くなります。よって一文を書くと時間がどんどん進んでしまうのです。だから二、三枚しか書けなくなります。

 対して原稿用紙二、三十枚書けた方は、主人公だけでなく周りの人物の会話や行動、周囲の環境などを書いて時間をゆっくりと紡いでいるのです。同じ時間に起きたことを並列的に書いていくため、ひとつの時間に十の文を書いています。

 だから同じひとシーンなのに書いた分量は十倍もの差が生まれたのです。




二、三枚しか書けないのなら

 ひとシーンを二、三枚しか書けなかった方は小説を書くのに向いていない、というわけではありません。

 まず目標を短編小説かショートショートに絞りましょう。

 そのうえでひとシーンを二、三枚で書いていきます。短編は原稿用紙五十枚ほどですから、だいたい二十シーンあれば小説として成立します。二十シーンならエピソードに四シーン使って五章仕立てにするか、五シーン使って四章仕立てにするとよいでしう。

 これでひとシーンを二、三枚しか書けないあなたでも小説が書けるのです。

 ちなみにショートショートは原稿用紙五枚から三十枚くらいとされており、仮に十枚に設定すれば、四シーンで到達します。つまりひとつのエピソードだけで物語が書けるのです。

 ひとシーンを二、三枚しか書けない人は、いきなり長編小説や連載小説を書こうとせず、その分量でも物語が書ける短編小説やショートショートを書きましょう。

 ひじょうに稀なケースとして、ひとシーンを原稿用紙二、三枚しか書けないことを利用して、百シーンから百五十シーンで物語を構成して長編小説を書いてしまえる書き手もいます。

 やってできないことではないのですが、百シーンを考えるだけでもかなりたいへんです。ひとエピソード四シーンとして二十五エピソードが必要になります。ですのでひとエピソード十シーンとして十エピソードあたりがオススメのラインでしょうか。




シーンを二、三十枚書けるようにする

 先述しましたが、ひとシーンを原稿用紙二、三枚書ける人と、二、三十枚書ける人との差は、主人公しか書けていないか、物語にかかわる文章の種類が豊かであるかです。

 主人公だけを追ってしまうと、どうしてもひとシーンは二、三枚で終わってしまいます。頑張れば五枚は書けるかもしれません。

 一人称視点で主人公の目線から書く場合、主人公の言動だけを書く方がかなり多いのです。

 そうではなく、主人公から見た他人の言動や状況や環境の変化などを、物語にかかわるものだけ書くという姿勢がたいせつになります。

 書き手としては主人公に思い入れがあるので、どうしても主人公の言動に注意が行きがちです。それではどうしてもシーンが薄っぺらくなってしまいます。


 またシーンにも時間は流れているのです。

 時の流れで変化するもの、たとえば主人公周りの状況や環境の変化とそれに伴う感情の変化、「対になる存在」や第三者(脇役)も時の経過で言動に変化が生じてきます。

 この時間の流れによる変化を克明に書くだけで、原稿用紙は飛躍的に埋まっていくのです。




あらすじを細分化する

 ひとシーンを二、三枚で書けるだけの方は五枚でも十枚でも書けるように努力すべきです。

 しかしそれだけでは「小説を書く」という本質が達成できず鬱積うっせきすることになります。

 そこでひとシーンを二、三枚で書けるのならあらすじを細分化してしまうのも一手です。

 以前書きましたが、「勢いのある文章」を目指して、短い場面シーンを怒涛のごとく畳み込むことで、ドミノ式に物語を推進していく手法もあります。

 たとえば高校二年生の一年間を描く長編小説を書こうと思い立ち、あらすじを書きます。ここでひとシーン二、三十枚書ける人は三エピソードで計十二シーンで構築することができます。もしシーンをひと月に設定すれば、一年間を書くことができます。

 ひとシーン二、三枚書ける人は、通学日を毎日書いていけば原稿用紙三百枚に到達することができるのです。

 ひとシーンを一日に設定すれば、物語背景をしっかりと読ませて重厚な小説に仕上げることができます。

 ひとシーンを通学日に設定すれば、毎日なにがしかの事件が起こらなければなりません。しかし百も百五十もお話が作れる人はまずいないのです。

 だからシーンで書ける枚数を増やすことが喫緊きっきんの課題となります。

 そもそも百も百五十もお話を作ると伏線管理がシビアになってしまうのです。

 初心者にはかえって物語が破綻しやすくなるという弱点もあります。

 そのためにもシーンで書ける枚数は増やすに越したことはありません。




シーンの枚数を増やす

 シーンの枚数を増やすには、書くべきものを増やしましょう。

 主人公の説明・描写と会話文だけを書くのではなく、話し相手の説明・描写、話している場所の説明・描写、話している時間の説明と描写。これらを書くのです。

 主人公が行動したら、周囲のものがそれによって変化します。その変化するものを書くのです。

 朝寝坊して朝食もそこそこに家を出て、駅まで走って始業時間に間に合う最後の電車にギリギリ飛び乗る。

 そんな場面も「朝寝坊して朝食もそこそこに家を出る」「駅まで走って」「始業時間に間に合う最後の電車にギリギリ飛び乗る」の三シーンに分けることができます。

 では「なぜ朝寝坊をした」のですか。夜更かししたからでしょうか。前日に激しい運動をしていたからでしょうか。「夜更かし」したとしたら、宿題や勉強に忙しかったからでしょうか。テレビゲームやスマートフォンアプリをプレイしていたからでしょうか。「宿題」だとしたら、英語ですか数学ですか化学ですか、複数科目いっぺんの可能性もあります。

 ここまできて気づいた方がいるかもしれませんね。

 そうなのです。ひとシーンを二、三枚しか書けない人は、この掘り下げができていません。

「それはなぜでしょう」「それはなにでしょう」と掘り下げていけばいくほど、書くべき内容が増えていきます。

 とはいえ掘り下げができても二、三枚しか書けない方もいるのです。

 その場合は前述したとおり「百シーンから百五十シーンの長編小説」を目指しましょう。





最後に

 今回は「長編小説が書けるようになる方法」について述べてみました。

 あなたはひとシーンを原稿用紙何枚で書けますか。

 それがあなたの執筆スタイルを決めるのです。

 シーンを原稿用紙二、三枚で書く方は百のシーンを畳み込むスタイルになります。

 原稿用紙二、三十枚なら十から十二シーンで終わりますから、じっくりと腰を据えて、ひとシーンを読ませることができます。

 連載小説を書く場合はひとシーンを十枚から十五枚程度で書けることが望ましい。

 連載小説のひとシーンを長編小説よりも短くするのは、「惹き」を作って続きをワクワクしながら待ってもらいたいから。

 連載小説は「惹き」が強くないと、続きを読んでもらえません。



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