563.明察篇:わかりやすい文章を目指す

 今回は「わかりやすい文章」についてです。

「小説賞・新人賞」を狙いたい人は、つい技巧に走った文章を書きます。

 それが「読み手にわかりやすいか」を今ひとつ考えてください。

 いくら技巧が巧みでも、読み手にわかりにくい文章では「小説賞・新人賞」は狙えません。





わかりやすい文章を目指す


「小説賞・新人賞」を狙おうとして「巧みな文章」を書いて注目を集めようとしてしまうことがあります。

 肩肘張った文章や、『日本国語大辞典』『広辞苑』『大辞泉』などを読まなければわからないような難解な単語を使ったりするのです。

 こういった文章は下読みさんも選考者さんも編集さんも嫌います。

 辞書を引かないと意味がわからない単語だらけの小説を、中高生は読みません。




難解な漢字は使わない

 たとえば「訊く」という単語があります。

 読み方がわかる人も何割かいらっしゃるはずですが、普通に勉強をしてきた人にはまず読めません。

 答えは「きく」で、意味は「人にものをたずねる」です。ちなみに「たずねる」も「訊ねる」と書けます。

「聞く」「尋ねる」とはニュアンスが異なる感じを出したいのでしょうが、中高生も下読みさんも選考者さんも編集さんもそんなニュアンスの違いなんて見ていません。

 ただ書き手の意識の問題であり、「聞く」「尋ねる」で済ませても選考でなんら不利にはならないのです。

 小説を読む人は、読みながら辞書を引くことはいっさいありません。

 だから難読漢字は使わないようにしましょう。使うほど読み手が冷めてしまいます。

 ルビを振ればいいというものでもないのです。ルビを振ることで読めて意味がわかる漢字ならまだいいのですが、読めても意味がわからない漢字もかなりあります。

「論う」が読めるでしょうか。「あげつらう」と読みます。今ルビを振ったので読めはしたはずです。ではその意味がわかりますか。こういう意味がわからない漢字が殊のほか多いのです。

 書き手は「読み手が読めるかどうか」を考えながら漢字を選ぶことはまずありません。書き手本人の漢字力で書いてしまいます。だから一般の方には読めない漢字でも、自分はすらすら読めるから読めるはずだと思い込むのです。




文章に凝らない

「小説賞・新人賞」で見られるのは、「登場人物が立っている」か、「エピソードに目新しさがある」か、「謎解きで破綻や矛盾がない」か、そして「わかりやすい文章で書かれている」かといった点になります。

 つまり文章に技巧を凝らして「わかりにくくなるほど減点」されるのです。

 これは「小説賞・新人賞」受賞作を読んでみればすぐわかります。

 小説投稿サイトで開催された「小説賞・新人賞」はそのサイト上に受賞作が掲載されているので、試しに読んでください。

 この程度の文章なら私でも書ける。そう思う作品が河原の小石ほどあふれていることに気づきます。

「小説賞・新人賞」は文章の巧拙を競う場ではなく、「物語が面白いか否か」、それだけが評価されるのです。

 極端に言えば、誤字脱字が多くとも「小説賞・新人賞」は獲れます。

 ただし多すぎたら落選しますので、最低限推敲はしっかりやりましょう。

「小説賞・新人賞」のポイントが物語である以上、文章に凝るよりも物語に凝るべきです。

 誰にも思いもつかなかった物語が書けていること。

 それが「小説賞・新人賞」への近道です。

 テンプレートを使っていたら、よくて入選。ほとんどの場合は一次選考を通過するのも難しくなります。

 テンプレートを使いたければ、オリジナルな要素を含めてください。

 同様のテンプレートであふれていても、ひときわきらめく作品にすることができます。




セリフに凝る

「巧みな文章」に凝るくらいなら、その労力をセリフにまわしてください。

 地の文をまったく読まずセリフだけを読んでも、「誰が」「どういう立場で」「どういう心境で」しゃべっているのかが明確にわかるように書くのです。

 セリフ回しの巧みさは、ただ読んでいるだけではわかりません。

 セリフだけをしっかりと読んで、「誰が」「どういう立場で」「どういう心境で」しゃべっているのかがわかるかどうか意識しながら読まないかぎり見分けられないのです。

「地の文で発話者を書いているのだから『誰が』『どういう立場で』『どういう心境で』なんてわからなくてもいいじゃないか」とお思いの方もいらっしゃるでしょう。

 しかし会話文のセリフ回しが巧みな小説は、読み手が試し読みしたときに物語がひじょうによくわかるのです。結果としてその小説は書籍なら買われ、小説投稿サイトなら閲覧されます。

 小説を書くコツのひとつとして「会話文だけで物語の展開がわかるか」があるのです。


 登場人物の性格をきちんと設定していないと、会話文だけで「誰が」話しているのかはわかりません。

 どういう人物がどんな会話をしているのか。必要なら人物に有名な俳優を当てて、頭の中で劇をさせます。演じている場面を脳裏で描きつつ、セリフ回しを拾い上げていくのです。

 そうすれば少しは「誰が」がわかる「会話文」が書けるようになります。

 どうしてもわかりにくいところにだけ、地の文で発話者の名前を出すのです。

 地の文で発話者の名前が少ないほど、センスのよい会話文が書けます。

 そのあとに主人公なら心理描写、話し相手なら顔色や表情の変化を書くとよいでしょう。


 ですが「巧みなセリフ回し」を身につけるためには、無言の「……」や感動詞・間投詞「あ」「ああ」「ええ」「おお」「えっ」「えーっと」「やあ」「さあ」「はい」「いいえ」「いえ」「うむ」「ふむ」「あの」「もしもし」「すみません」「ごめんなさい」など実際にしゃべるだろう応じるセリフは書かないことです。

 また「オウム返し」に相手のセリフを反復してはいけません。

「小説賞・新人賞」では文字数稼ぎの「オウム返し」は減点の対象になっています。

「オウム返し」では登場人物の性格や傾向などを読み手に示すことができないからです。

 文章はどんどん文字数稼ぎの度を増していきます。

 また一度でも「オウム返し」をやるとクセになって何度でも繰り返して使ってしまう点も無視できません。

 だから「オウム返し」にならないよう会話文では頭を絞りましょう。

 三点リーダーや感動詞・間投詞、「オウム返し」といったことを書くと、小説はどこまでも冗長になっていきます。

 形式的に応じるセリフはキャラクターとは無関係なので、基本的には使わないようにしてください。

「絶対に使わないように」とは言いません。でも「極力使わないでセリフ回しを考える」と欠かせない「会話文」を書くことができます。





最後に

 今回は「わかりやすい文章を目指す」ことについて述べてみました。

 難読漢字を使わない、文章に凝らずセリフに凝る。

 これができていれば、一読しただけで内容が頭の中に入ってくる作品になります。

 小説投稿サイトをご利用の方は、過去に開催された「小説賞・新人賞」の受賞作・佳作を読んでみましょう。きっと「このくらいの言葉で書いても評価されるんだ」と思うはずです。

 そしてセリフは徹底的に凝ってください。

「会話文」を抜き出しただけで「誰が」「どういう立場で」「どういう心境で」しゃべっているのかがわかるくらい技巧を凝らしましょう。

 読み手を惹き込む小説とは、「会話文」だけで読み手を惹き込める小説だと言えます。



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