562.明察篇:書けなくなったら筆写
今回は「筆写」についてです。
小説を書いているとき必ずといってよいほど「壁」にぶつかります。
そんなときは、似たようなシーンの作品をメモ帳に筆写してみましょう。
もちろん引用や盗用をするためではありません。
解消したい文章が筆写をする文章なので、書けなかった部分の詰まりを解消できます。
書けなくなったら筆写
長編だろうと短編だろうと、小説を書き始めたときに、ここから先がどうしても書けない。そういう「壁」が立ちはだかります。
無理にでも一文一語を書いてみて思考錯誤しているのだけど、うまく書けないものです。
そのときなにをするべきでしょうか。
詰まったら筆写
「壁」にぶつかったら、好きな作品や影響された作品の一部を、メモ用紙に書き写してみてください。
不思議なもので、好きな作品や影響された作品を一部でも一段落でも一文でもいいので筆写していくだけで、驚くほど「手詰まり」が溶けていくのです。
好きな書き手の作品は複数手元にあるでしょうから、バランスよくいくつかの作品の一部ずつを筆写しましょう。物語の紡ぎ方を学ぶにはとても有効な方法です。
影響を受けた作品は書き手がバラバラですので、複数の書き手の作品を一部ずつ模写していきます。ひとりの書き手の作品だけを筆写するとその人の劣化コピーが出来あがるたけです。
こうすることで、あなた独特の書き口が見つかります。
あなた独特の書き口があれば、またすらすらと筆が進むのです。
独特な書き口は小説投稿サイトへ掲載するときから持っておきましょう。
「小説賞・新人賞」を狙うとき、独特の書き口があれば評価も高まるからです。
徹頭徹尾同じ書き口の方もいますし、シーンによって書き口を変えていく方もいます。
いずれにせよ、独特な書き口を持つようにしましょう。
求める文章の形
小説を書くとき、目標とする文章の形は書き手によって大きく三つに分かれます。
「勢いのある文章」「読みやすい文章」「美しい文章」です。
「勢いのある文章」は、とにかく展開のスピード感を重視してください。できるだけ全力疾走し、読み手に息つく暇を与えず展開を畳みかけるのです。
面白いもので、「読みにくい小説」であっても、展開のスピードが速くてつい惹き込まれてしまう作品があります。
とくに小説を書き慣れていない書き手の書いた作品で読み手から評価されるのは、「読みやすさ」でも「美しさ」でもなく「勢い」のある文章なのです。
だから初心者であるほど、展開をこれでもかと畳み込む文章を書きましょう。
ただし長編小説や連載小説からではなく、まずに短編小説に絞ってください。
長編小説や連載小説で展開を畳み込むと、すぐにネタが切れます。
初心者は物語の種類にも乏しいことが多いので、その傾向が顕著に現れるのです。
物語の数を憶えていけばネタ切れにはならないので、そうなってから長編小説や連載小説に進出しましょう。
「読みやすい文章」は、書いた文章を「客観的な読み手の意識」で「何十回も読み直し」、すんなりと頭の中に入ってくるようになるまで「推敲し続けて」生み出します。
「てにをは」「5W1H」を正しく用いて、読んだときのイメージがしっかりと描けるように書くのがコツです。
視点のブレを起こさないよう、慣れないうちは一人称視点で主人公が見た世界を書くようにしましょう。
慣れてきたらエピソードごとに一人称視点の主人公を入れ替えて書くと、物語に幅が生まれて大きく世界がひらけてくるのです。
三人称視点を「読みやすい文章」で書くには、相当の技量が必要となります。
三人称視点にも視点が語る主人公をひとり設定して、その主人公にセンサーを付ける「三人称一元視点」という書き方があるので、これを利用してみましょう。
「三人称一元視点」は一人称視点の作品の一人称たとえば「私は」「僕は」を「慶太は」「麻美は」と三人称にすることで簡単に作ることができます。
主人公は知らないけれども読み手は知っている情報「秘密」を用いる場合は「三人称一元視点」が最も扱いやすい。いつでも他人の外面の情報が書けるため、主人公は知らなくても読み手は知っている「秘密」をそのまま書けます。
策謀の多い戦争もの・戦記ものでは「秘密」で読み手を煽るのが必須のテクニックです。
主人公は知っているけれども読み手は知らない情報「焦らし」を用いる場合は、一人称視点でもじゅうぶん対応できます。肝心の内容を意図的に書かなければいいだけです。
また漢字をひらくかとじるかだけでも読みやすさにつながります。
「美しい文章」は格調のある文章のことです。
「文豪」作品に見られるように、華麗な比喩やレトリックに凝ってみたり、持ってつけたような言い回しをしてみたり。一文を読むだけでも作品世界に読み手を誘うほどの魅力を持つ文章を指します。
「美しい文章」は微細な表現力に長けており、たった一語を変えるだけで文章の持つ性質が変わってしまうほどの力を有しているのです。
私は「美しい文章」は書けませんので、これ以上は言及できません。
「文豪」作品を数多く読んで、「美しい文章」というものを体得できれば、表現力に苦労することがなくなります。
「文学小説」でも求められるのは「勢いのある文章」でも「読みやすい文章」でもなく、「美しい文章」なのです。
あなたが芥川龍之介賞や直木三十五賞を狙っているのなら、「美しい文章」が書けなくてはなりません。
お笑い芸人ピースの又吉直樹氏は太宰治氏の信奉者です。そんな彼が芥川賞を授かったのは、「文豪」太宰治氏の作品を読み続けて「美しい文章」というものを頭に叩き込んでいたからではないでしょうか。
説明と描写
本コラムでたびたび問題になる「説明」と「描写」ですが、ここでも少し触れます。
「説明」は目の前にあるものをあるがままに文章に起こしていくだけです。
舞台の説明、状況の説明、人物の説明、動作の説明、反応の説明と、文章力のない書き手の小説は「説明」に偏ってしまいます。
「描写」は文章の語り手が、目の前にあるものをどのように受け取ったのか、その印象を書いていくのです。
「きらびやかな金髪をなびかせて颯爽と歩く女性」は説明です。
「瑞獣の麒麟もかくあるかと思わせる金髪をなびかせて颯爽と歩く女性」は描写になります。
同じ「金髪」を扱っているのに、「説明」と「描写」に分かれるのです。
「きらびやかな」はあくまでも形容動詞であり「金髪」を修飾しているにすぎません。
「瑞獣の麒麟もかくあるかと思わせる」は比喩を用いた動詞ですよね。
極端な話、形容詞・形容動詞・連体詞で体言を修飾していれば「説明」になります。
動詞で体言を修飾していたり、体言を動詞で受けたりしていれば「描写」です。
あくまでも極論なので、これが絶対的な区分ではありません。
ですが動詞で体言を修飾できるようになることで「描写」力は格段に鍛えられます。
最後に
今回は「書けなくなったら筆写」ということについて述べてみました。
小説を書き始めると必ず直面する「書けなくなる壁」には突破法があります。
それは今書こうとしているシーンに似たシーンを他の書き手はどのように書いているのかを参考にすることです。そのために「筆写」をします。
そうすることで、あなた独特の書き口を見つけてください。
また文章には「勢いのある文章」「読みやすい文章」「美しい文章」があります。これらは排他的ではなく、論理和で成り立っています。勢いと読みやすさはあるけど美しくない文章というものも存在します。ライトノベルが典例でしょうか。
最後はおまけ(字数合わせとも言います)で「説明」と「描写」についても簡単に取り上げてみました。この差はなかなか一言で断言できないので、後日に一本コラムを書きたい思います。
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