557.明察篇:よく読み、よく学ぶ

 今回は「読むこと」についてです。

 小説の勉強は「書き方」が中心ですが、多くの作品を「読む」こともなしに「書き方」は考えられません。

 今は『青空文庫』で文豪の作品が無料で読める時代です。電子辞書にも『青空文庫』が入っているものがあります。

 文豪だけでなく、今活躍している書き手の作品を「読むこと」で現代の文章を学ぶことができるのです。





よく読み、よく学ぶ


 小説を書く。

 この言葉をそのまま実行しようとして詰まる方は、「小説」というものを知らなすぎるのです。

 小説をたくさん読んでいれば、「小説」がどのようなものかを脳で憶えています。

 好きな小説をたくさん読んでいるんだけど。そういう方は幅広さが足りないのです。

 いろんな小説を読んでいるんだけど。そういう方は深く読んでいません。

 小説が書けるだけ「小説」を読むとすれば、どのくらい読めばいいのでしょうか。




文豪の作品は速読で数多く読む

 明治から昭和にかけて、いわゆる「文豪」が遺した「名作」の数々は、今日の日本語の書き言葉の原形をとどめています。

 しかし表現は旧仮名遣いなどで古くさい。

「文豪」作品は「小説の物語」を学ぶために読みます。

 一字一句を憶えるのではなく、どのような物語が作られているのか。そのエピソードと展開を憶えるのです。

 多くの「文豪」作品を速読してください。意味を感じるのではなく、流れを感じるイメージです。流れを感じるために効率よく読書するには速読が向いています。

 多読するために「文豪」作品を買い揃える必要はありません。図書館に行かなくていいのです。

 今は『青空文庫』という便利なものがあります。

『青空文庫』は著作権の切れた小説を無料で読めるようにしたものです。

 Webページもありますし、『Apple Books(旧iBooks)』『Amazon Kindle』『Rakuten kobo』などでも『青空文庫』から無料のブックが配信されています。パソコンやスマートフォンをお持ちなら、通信料だけで「文豪」作品をすべて読めてしまえます。電子手帳にも『青空文庫』が収録されたものがあるので、お持ちなら入っているか確認してみましょう。

 寸暇ができたら「文豪」作品を幅広く速読で読んでください。文章の分析などせずに流し読みでじゅうぶんです。

 そもそも旧仮名遣いで古語も多い「文豪」作品は、意味を正確に知ろうとするだけで難儀します。

 字面を追い、読めない漢字は字義だけを頭に浮かべながら読むのです。

 それだけで「文豪」作品は面白いように速読できます。

 速読のオススメはなんといっても芥川龍之介氏でしょう。短編・中編小説を数多く執筆しており、分量が少ないので何度でも速読できます。

 長編小説なら夏目漱石氏を外すことはできません。日本文学は明らかに「漱石以前と「漱石以後」で表現が変わっています。元々教師だった夏目漱石氏は、教え子にも読みやすいようさまざまな工夫を凝らしているのです。だからとても読みやすい。

 他にも島崎藤村氏や森鴎外氏といった長編の名手が挙げられます。また怪談で有名な小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン氏や、艶のある文章を書く泉鏡花氏なども一度は読んでおきたいところです。

 芥川龍之介賞作家のお笑い芸人ピースの又吉直樹氏は、太宰治氏のフォロワーとして有名です。太宰治氏は「文豪」の中でも比較的新しく、学ぶべき点も多々あったろうと推察できます。




現代小説は精読する

 では小説の書き方を学ぶにはどうすればいいのでしょうか。

 現代小説を研究しましょう。

 あなたの感性に合う作品を見つけて、それを五回でも十回でも精読するのです。

 そして文法や息遣いを感じとって自分の感性に刷り込んでいきます。

 閃くような輝きを放つ小説を書く人は、感性に合う小説を精読してきた方であることが多いのです。

 現代小説は十冊速読するよりも、一冊を何度も精読したほうが大きな学びを得られます。

 ある人は村上春樹氏を選ぶでしょうし、ある人は有川浩氏を選ぶでしょう。池井戸潤氏を選ぶ人がいてもよい。

 書きたい「命題」が自分と同じ書き手を選ぶと、学習効果は高まります。

「この作品に感動した。この作品のような小説を書きたい」という動機で「小説を書こう」と思い立ったのなら、その作品をこそ精読の対象に選ぶべきでしょう。

 ただし、ひとりの書き手の作品だけを精読するだけだと、その人の「劣化コピー」が出来あがるだけです。

 他にも二、三人精読の対象にすることをオススメします。

 そうすれば、目先の変わった作風で書けるようになり、「劣化コピー」と呼ばれることもなくなります。




読書の成果

 読書の成果は「質×量」で単純化できるのです。

「文豪」作品は現代小説と比べて旧仮名遣いで書かれていてそのままでは質が落ちますから、速読で量を読まなければなりません。

 現代小説は今の言葉で書かれているため質がよく、量を読めば学習効果は計り知れないほど高くなります。

 質と量のバランスをとることで、読書の効果はいや増すのです。


 以前にも書きましたが、私は小学校に上がるまでは『アーサー王伝説』を読んでいました。小学生でモーリス・ルブラン氏『怪盗ルパン』シリーズとサー・アーサー・コナン・ドイル氏『シャーロック・ホームズの冒険』の児童文学版を読み、中学生で芥川龍之介氏の作品を速読して、中国古典『孫子』に傾倒し吉川英治氏『三国志』を愛読していました。この頃から小説を書き始めたのです。高校生で中国古典・司馬遷氏『史記』を読み、田中芳樹氏『銀河英雄伝説』と水野良氏『ロードス島戦記』を読んで、以後『銀河英雄伝説』と『ロードス島戦記』は暇があれば読んでいるような状態でした。

 会社勤めで読書の時間はビジネス書を読む生活で、小説からは遠ざかっていました。会社員生活が終わったらまた小説を読むようになります。このあたりからライトノベルを多く読むようになります。『銀河英雄伝説』と『ロードス島戦記』の影響が強かったのですね。田中芳樹氏『アルスラーン戦記』と水野良氏『魔法戦士リウイ』にハマっていた時期になります。小説執筆を再開したのも程なくしてです。

 私の小説は吉川英治氏、司馬遷氏、田中芳樹氏、水野良氏の劣化コピーと言えるかもしれません。とくに現在本コラムと同時並行で作業を進めている連載小説『秋暁の霧、地を治む』はその影響が窺い知れると思います。近々「箱書き3」をアップできたらと考えているので、前回の「箱書き」とどこが違っているのかもご覧いただきたいですね。




自分で考えるクセをつける

 私たちは日頃新聞や週刊誌やテレビ、インターネットから情報を仕入れています。

 あなたはその情報に疑問を持ちませんか。

 新聞は発行社が違うだけで、同じ事件なのにまったく別の状況かのような報道がなされています。いわゆる「偏向報道」です。

 しかも困ったことに、新聞社の中で「真実だけを書いている」新聞はひとつもありません。新聞よりもテレビのほうが速報性があって「新聞よりも真実に近い」とされた時期がありました。それもインターネットの登場で駆逐されたのです。

 しかしインターネットは情報が膨大であるだけでなく、真偽不明の情報ばかりで、どれが真実で嘘なのかがわかりません。

 そこで必要になるのが「自分で考える」ことです。

「この情報はなにか引っかかるものがあるんだよな」とか「この情報は印象操作を企図しているのかもしれない」などと、情報を疑ってかかるクセをつけましょう。

 情報を疑って「自分で考えるクセ」をつけることです。

 そうすれば「小説賞・新人賞」で同じお題を出されても「そのまま書いても競合がたくさんいるだろうから、少しひねってみるか」と判断できるようになります。

 陳腐な発想をアレンジするクセをつけることで、オリジナリティーが生じるのです。

 オリジナリティーに困っていたら、アイデアを疑ってかかりましょう。





最後に

 今回は「よく読み、よく学ぶ」ことについて述べました。

 日々小説を読むことと、そこからなにを学べるのかで、「小説を書く」のに必須の地力がつくのです。

「文豪」作品は数多く速読して物語のパターンを憶えること。

 現代小説は好みの書き手とその周辺の書き手の作品を精読して、あなたの血肉にするのです。

 学習効果は「質×量」で決まります。

「文豪」作品は速読で量を確保し、現代小説は精読で質を確保するのです。

 これで学習効果は最大化します。

「小説賞・新人賞」にお題があったら、それをひねるクセをつけましょう。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る