556.明察篇:舞台と佳境・結末を決める

 今回は「舞台」と「佳境クライマックス結末エンディング」を決めることについてです。

「舞台」が決まらなければ「人物」を生み出せません。先に「人物」ありきで「舞台」を決めようとすればかなり難儀します。

「人物」が生み出せたら、「佳境クライマックス」「結末エンディング」を作ることで物語の最終目標を定めるのです。

 物語で出来事エピソードを経て、人は成長して人物像が少しずつ変わっていきます。

 だから「佳境クライマックス」「結末エンディング」を決めたら、そこからひとつずつ前の出来事エピソードを決めていき、スタート地点にふさわしいところまで戻るのが、物語作りの秘訣です。





舞台と佳境・結末を決める


 あなたの書きたい「命題」を決め、「ジャンル」を仮決めしたら、次は「舞台」を決めてください。

 人物を生み出そうとしても、「舞台」が決まっていなければできないからです。




舞台が決まれば人物を生み出せる。

 物語の「舞台」は現実世界なのか架空世界なのか空想世界なのか。

 現実世界なら現在なのか過去なのか未来なのか。

 架空世界ならどのような世界観にするか。

 空想世界ならどのくらいのことができてしまうのか。

 それらを決めなければ人物が生み出せません。


 世情、世俗を定めれば社会の秩序が見えてきます。

 社会秩序が見えてきたら、そこに適合する人物を生み出していく。

 人物は基本的に社会秩序に適合した存在です。

 資本主義社会であれば、父は会社で稼ぎ、母は家庭を管理する。子どもが学校に通っていることでしょう。

 もちろん父が会社を退職して、代わりに母が仕事を始め、子どもが学業とアルバイトを両立することだってあります。

 子どもがニートで学校にも仕事にも行かず、家でゲームやインターネットばかりしているかもしれません。

 これらはすべて現実世界の現在の資本主義社会である日本の家庭像に適合しています。

 日本で戦闘訓練を受けて銃器を扱えるのは、警察官と自衛官だけです。

 だから現在の日本にデューク東郷や次元大介や冴羽リョウはいません。

 そこで現実世界を舞台にしながらも架空世界・空想世界を交える小説が思い浮かぶのです。

 賀東招二氏『フルメタル・パニック!』は冷戦が終わっていない世界を舞台にしています。現実世界の過去で架空世界を交えた設定です。主人公・相良宗介が属する秘密組織ミスリルは現実に存在しませんが、架空世界を交えているので社会秩序も幾分変わってきます。

 宗介の人物像は「戦争ボケ」というもので、架空世界が混じっていないとなかなか設定できません。現在戦争しているのは内戦を含めてもシリア、南スーダン、カンボジアなどごくわずかです。だから現在「戦争ボケ」の人物像を作ることが難しくなっています。

 現実世界の過去で架空世界を交えた設定といえば、ゲーム・SEGA『サクラ大戦』シリーズを挙げる方もおられるでしょう。こちらは『フルメタル・パニック!』よりもさらに架空世界の割合が大きくなります。




主人公を決めたら佳境・結末を決める

 舞台を決めたら人物が生み出せます。人物が生み出せたらどんな「佳境クライマックス」を経てどんな「結末エンディング」にするのかを先に決めてしまいましょう。

 本コラムでは何度も書いていますが、先に「佳境クライマックス」「結末エンディング」を決めておくと、伏線をどこに入れるかや人物の登場するシーンを決めやすくなります。

佳境クライマックス」「結末エンディング」を決めずに小説を書き始める人がいるのですが、それで物語として辻褄を合わせるのには相当経験で磨かれた実力を求められます。

 中級者までのうちは先に「佳境クライマックス」「結末エンディング」を決めておくべきです。

 上級者で物語をダイナミックに動かしたいと考えてのことなら「佳境クライマックス」「結末エンディング」を決めずに書いても破綻はしづらいと思います。


 ここまで書いてきてたいせつなのは、物語に「オリジナリティー」があるかどうかです。

 自分の思いついた物語だから斬新で「オリジナリティー」にあふれていると思いがちですが、たいていの物語はすでに誰かが書いた物語と同じか似ていて不思議はありません。

 とくに特定の書き手の愛読者であれば、その書き手の「命題」をそのまま自分の「命題」にしてしまうことがあります。

 その場合、尊敬する書き手が書いた小説と同じような物語を書いてしまいがちなのです。

 こういった物語は「小説賞・新人賞」に応募しても受賞は難しい。

 小説投稿サイトに掲載しても「○○さんの劣化コピー」と断じられることがあります。

 評価されなくても好きで書いているからいいんだ、と居直ることもできますが、少しでも評価されたいと思っているのならひとつでも新しい出来事を取り込むべきです。

「オリジナリティー」を確保したいなら、できるだけ文豪や現在人気作家の小説を読みまくって、物語の定石を憶えましょう。

 定石がわかればそこから少しズラすこともできるようになります。

 小説を書く練習にもなりますので、文豪や現在人気作家の小説は貪欲に読み込むことです。ただあまりにもその小説たちのインパクトが強すぎるとあなたの自信が喪失しかねないので、自信が保てる程度までに抑えたほうがよい場合があります。このあたりはその人それぞれです。

 人気作だけを読み続けると影響を強く受けすぎてしまいます。意識して流行とは異なった刺激を受けるようにすれば、おのずと新しい味わいを醸し出せるようになるのです。




佳境・結末の脱線

 「佳境クライマックス」「結末エンディング」は先に決めておきましょう。

 たとえ上級者の方でも、仮の「佳境クライマックス」「結末エンディング」があるのと、まったくないのとでは、書きやすさが明確に異なります。

 仮の「佳境クライマックス」「結末エンディング」を決めておいて、登場人物の赴くままに連載を続けていくとします。

 ある想定が外れて、仮の「佳境クライマックス」「結末エンディング」へ辿り着けそうにないと思ったら、瞬時に物語を計算して「新たな」仮の「佳境クライマックス」「結末エンディング」を割り出さなければなりません。

 そのためには物語の筋道を瞬時に計算できる「ストーリーテラー」としての能力が不可欠です。

 こればかりは場数を踏まなければ鍛えられません。

 プロの書き手を目指す方は、仮の「佳境クライマックス」「結末エンディング」を設定して、話の流れによって変わる物語の筋道を瞬時に計算する能力に磨きをかけてください。

 プロになると、あなたひとりの考えだけで物語を作れなくなります。

 担当編集さんと二人三脚で物語を作る必要が生まれ、あなたが想定していた筋道を否定され、自らの意志とは切り離されて修正されてしまうからです。

 そのとき必要になるのが、物語の筋道を瞬時に計算できる「ストーリーテラー」としての能力になります。





最後に

 今回は「舞台と佳境クライマックス結末エンディングを決める」ことについて述べました。

「命題」から「ジャンル」を決め、そこから「舞台」を決めるのです。それでようやく「人物」についてあれこれ考えられるようになります。

 「佳境クライマックス」「結末エンディング」は先に決めておくべきです。

 しかし連載小説の場合、連載するごとに筋道が逸れていってしまうこともあります。

 そのときには、物語の筋道を瞬時に計算できる「ストーリーテラー」の能力が必要となるのです。

 プロの書き手になれば、担当編集さんとの二人三脚で物語を作る必要が生じます。そのとき、筋道の計算力の高さが求められるのです。



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