554.明察篇:書かずにいられない命題
今回は「命題」についてです。
「テーマ」よりも小さな「モチーフ」を生み出すのが「命題」です。
どんな書き手にもれぞれ「命題」があります。
それを組み合わせて「あなたらしい命題」をもとに「モチーフ」を作れば、唯一無二の「テーマ」が生み出せるのです。
書かずにいられない命題
「小説を書く」のは時間がかかる割に、なかなかうまく読み手に伝わらない「一次元の芸術」です。
それなのに「小説を書こう」と思い立ったのには理由があるはず。
あなたは「どんな小説」を書きたいと思ったのですか。
ジャンルを書きたいという欲求はない
「文豪」のような「純文学」私のいうところの「文学小説」を書きたい。
あなたはそう思っているかもしれませんが、「文学小説」はジャンルのひとつです。
ジャンルを書きたいと考えているプロの書き手はまずいません。
もしあなたが「剣と魔法のファンタジー」が書きたいと思っても、「で、どんな物語が書きたいの」と問われれば答えに窮するでしょう。
ジャンルでは物語は書けません。書けるとしたら「テンプレート」な作品だけです。「異世界転生ファンタジー」や「悪役令嬢」のようなものだけ。
「小説を書きたい」と思い立つ動機は書き手すべてが持っています。
それはなにかと尋ねられたら、多くの書き手は「命題」と答えるでしょう。
「命題」が書き手の核にしっかりと存在すれば、「ハイファンタジー」だけでなく「現実世界恋愛」だって「
実は小説は「ジャンル縛り」ではなく「命題縛り」で書くものなのです。
プロの書き手は自らの「命題」をしっかりと持っている方たちだと言えます。
劇作家のウィリアム・シェイクスピア氏といえば「悲劇」を書くのが巧い印象です。しかしその根底には「行き違い」という「命題」が存在しています。
『ロミオとジュリエット』は仮死状態になる薬を飲んだジュリエットの葬儀が行なわれ、後れて到着したロミオはジュリエットが本当に死んでしまったと勘違いをします。実はこの計画を主導した人物・ロレンス上人がロミオのもとへ計画を伝えに行かせたのですが、ここで「行き違い」が生じていたのです。そのためロミオは本当にジュリエットは死んでしまったんだと勘違いし、結果ジュリエットの棺の前で毒をあおって自害します。そうとは知らず仮死状態から戻ったジュリエットは自らの目の前でロミオが死んでいる姿を見てしまい、絶望してロミオの短剣で自らの胸を貫きます。
シェイクスピア氏は「悲劇」を書きたかったわけではなく、「行き違い」を書きたかったのです。
そういう視点から四大悲劇に改めて触れてみると、なんらかの「行き違い」が含まれていることに気づきます。
また「行き違い」という「命題」から『夏の夜の夢』『ヴェニスの商人』のような「喜劇」を書くこともできるのです。
シェイクスピア氏は「悲劇」を書きたかったわけではなく、「行き違い」を書きたかったのだと気づくこと。
それができれば、あなたの小説にも「命題」が必要であることが見えてきます。
命題を見つける
小説を書くにあたって「命題」を見つける必要があります。
あなたが好きな小説、感銘を受けた小説はどんなものでしたか。
その分析から、あなたが「小説として書きたい」と思っている「命題」を見つけていきましょう。
私を例にすれば、物語に目覚めた根本として『アーサー王伝説』が挙げられます。一介の市民にすぎなかったアーサーが「抜けばブリタニア王国を治める権利がある剣カリバーンを引き抜く」場面から始まります。剣を引き抜いたことで、アーサーはウーサー・ペンドラゴン王の子どもであったことが判明したのです。これにより以後「アーサー・ペンドラゴン王」としてブリタニア王国の政を進めていきます。まずすぐれた騎士による「円卓の騎士」を組織したのです。彼らに実戦指揮を任せて自身は内政に専念しようとの腹積もりでした。「円卓の騎士」にはくだんのアーサー王の他に、ランスロット、ガウェイン、パーシヴァル、ガラハッド、ケイ、ベディヴィア、トリスタン、ガレス、ボールス、ラモラック、ユーウェイン、パロミデス、アグラヴェイン、ペリノア王、モルドレッドなどが連なっています。現代でもその名前が他の作品で流用されるほどですね。この中でとくに重要な騎士は王妃グィネヴィアと不倫をして円卓の騎士が割れた“湖の騎士”ランスロットと、その息子で聖杯探索の旅に出て「聖杯」を手に入れ天に召されたガラハッド、アーサー王の甥で王位継承権を持って王の信任がとくに篤かったガウェインです。ランスロットとガウェインが双璧の地位を与えられ、他の騎士よりも一段格上の騎士となります。
騎士の名前は現在ではTYPE−MOON『Fate/stay night』シリーズや『Fate/Grand Order』などのスマートフォンゲームアプリでおなじみでしょう。
私は養護施設育ちなため、そのときに読んだ『アーサー王伝説』は「後ろ盾のないアーサーの出世物語」として見ています。つまり「私も実はどこかの王族や貴族などの子どもなのではないか」と胸に抱いていたんですね。でも小学校に上がるときに母子家庭として引き取られたときに「自分はアーサーではなかったか」と自覚することとなります。
だから「出世物語」は私の「命題」のひとつです。
その後児童文庫版のモーリス・ルブラン氏『怪盗ルパン』シリーズやサー・アーサー・コナン・ドイル氏『シャーロック・ホームズの冒険』シリーズなどを読み、「推理小説も面白いものだな」と思いました。でもトリックを考えるのが億劫で「推理小説」をまともに書いたことはありません。
中学生のときに出会ったのが中国古典『孫子』です。兵法と初めて出会い、これだとピンときて和訳本があるのに、漢和辞典を片手に自分なりの解釈をしていきました。戦争では負けない態勢はこちらの準備で達成できるが、勝つには相手の態勢次第だと学んだのです。
その後「武経七書」を次々と読み、田中芳樹氏『銀河英雄伝説』を読んで、私の命題に「兵法」も加わりました。
水野良氏『ロードス島戦記』を読んだことで再び『アーサー王伝説』が思い浮かびました。こういった中世ヨーロッパを舞台とした作品が好きなんだなと認識したことにより、「中世ヨーロッパ風」の世界観も私の命題に加わったのです。
「出世物語」「兵法」「中世ヨーロッパ風」の三つの命題を合わせると、『アーサー王伝説』が出来あがります。
結局、最初にのめり込んだ小説や物語が、「命題」の核を担っているのだと気づかされたのです。
皆様も一度は自分探しの思索をしてみてください。
あなたにしか書けない「命題」を見つけられるはずです。
書けっこないを振り切る
常識にはあなたの創作意欲を萎えさせる力があります。
あなたの小説を読んだこともないのに、「小説家になるなんて無理に決まっている」と常識を掲げてあなたを脅すのです。
「できるわけがない」と言われ続けても勇気を持って無視してください。
そもそもあなたの作品を読まずに批判するような方の言うことが信頼できますか。
もしあなたに小説の才能があるのなら、他の人は99.99%以上あなたより才能がありません。
あなたの意図を理解できない人の意見に惑わされないでください。
才能のある人には、周囲の雑音を聞かない勇気があります。
最後に
今回は「書かずにいられない命題」について述べました。
あなたが書きたいと思っているものは「ジャンル」ではありません。
「命題」をこそ書きたいのです。
「命題」がしっかりと見えていれば、多くの「ジャンル」を書くことができます。
たとえば「ボーイズラブ(BL)」を「命題」とすれば、「現実世界恋愛」はもちろん、「異世界恋愛」も「ハイファンタジー」も「ローファンタジー」も「空想科学(SF)」も「スペースオペラ」も、それこそありとあらゆるBL小説が書けるのです。
それを支えるのが「命題」ということになります。
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