553.明察篇:努力し続ける才能

 今回も「小説を書く才能」についてです。

 なにを言われずとも小説を書いてしまう。これを「小説を書く才能」と言います。

「小説を書かなきゃ」と思って書く人は才能が薄く、「文章をどう書くべきか」を考えている人は論外です。





努力し続ける才能


「小説を書く才能」というものはあるのでしょうか。

 私は小説を書きますが、才能とは一線を画しているかもしれません。

 ただし文章を書くことは好きで、これまでに本コラムで約180万字を書いています。

 どうやら「文章を書く才能」はあるようです。




小説を書く才能

 小説を書く才能とは、「手隙の時間に憑かれたように小説を書いてしまう能力」を指しています。

 つまり「小説を書く才能」がある方は、誰に言われるでもなく小説を書いているのです。時間を忘れて何時間でも書いていられるだけの熱量があります。

 対して「小説を書きたいな」と思っているだけでいっこうに書き出さない方には「小説を書く才能」がありません。また小説を書き始めて数時間もしないうちに途中で筆が止まる方にも「小説を書く才能」はないでしょう。

 没頭するだけの熱量がない状態には「小説を書く才能」が存在しないのです。

 私が180万字ほどの「小説の書き方」コラムを書いているのに、それを読んで「よし、小説を書こう」とならないのであれば「小説を書きたいけど、実際に書くと恥ずかしい」と思ってしまうからではないでしょうか。

 その照れや恥ずかしさを越えていかなければ小説は書けません。

「小説を書く才能」のある方は、照れも恥ずかしさも感じず、内なる物語を「書かずにはいられない」という切迫感があります。脇目を振る余裕などないのです。

 そういった切迫感がなれけば、プロの書き手になったとき、物語がすらすらと浮かびませんし、小説を書くことも苦痛に感じられます。




小説家になれる人

「小説家になろう」と思い立った人がいるとします。

 彼は小説家になれるでしょうか。

 まず無理だと思います。

 先に志を立てて、それが実現するようにひとつずつ学んでいくこともできますが、時間がかかるのです。

 そうではなく、まず止むに止まれぬ思いを小説に綴っていく人。どんどん作品を生んでいきますから、気がつけば小説家になっています。

 もちろんきっかけは大事です。

 しかし「小説家になろう」と思って書き始めるのと、「書きたいものがあるから書かずにいられない」と思って書き続けている人とでは雲泥の差があります。

 小説家になりたいけど書き方がわからない、そもそも小説を書いたことがない、という人は小説家に向いていません。たまさか小説家になれたとして、あとが続かないのです。結局「小説賞・新人賞」を獲得した一本きりで文壇を去ることになります。

 勢いで小説を書いてしまったけど、これをどうしたらいいんだろう。そうお思いの方は脈があります。ぜひ小説投稿サイトや出版社が企画する「小説賞・新人賞」へ応募してください。

 小説を書くことは、とても生産性の低い労働です。

 多くの書き手は一年に一冊の書籍を発刊するのがやっとです。それでいて原稿料がひじょうに低い。印税は書籍が売れないことには入ってこないし、何度も重版がかからなければ小説一本で食べていくことはできません。

 苦い泥水をすすり、懸命にかじりついてようやくプロの書き手になることができるのです。

 そういう苦労があり、それでもなお書きたい小説があるんだ。そういう方がプロの書き手として長く活動しています。


 あなたには「どうしても書きたい物語」はありますか。

 あればそれを小説にしてください。

 書きたい物語がない方は、とりあえず読書をして刺激を受けて「どうしても書きたい物語」を見つけましょう。

「どうしても書きたい物語」がないのにプロの書き手を目指すのは、正直に申し上げて「不可能」です。

「どうしても書きたい物語」が一本しかないというのでは、その一本きりで終わってしまいます。

 最低でも三本は用意して、そのうちのひとつを書きあげてください。残り二本は「小説賞・新人賞」の次弾とし、さらに一本の企画を作ってふたつのストックをつねに確保してください。そうすれば安定して物語を生み出すことができます。




天才とは努力を続ける才能

 どの分野でもそうなのですが、「天才」とは「なにも努力しなくても結果が出る才能」のことだと思われています。

 しかし野球界でいえばイチロー氏は毎日同じルーチンで生活し、打撃練習や守備練習をみっちりやって体と技術を仕上げて試合に臨んでいました。その結果として日米通算四千本安打、メジャー三千本安打という記録を打ち立てたのです。イチロー氏は「努力を続けてきた」から「天才」のような神がかったプレーを我々に見せてくれたのです。

 大谷翔平選手は当初高卒メジャー入りを目指していましたが、北海道日本ハムファイターズのドラフト一位指名を受けます。そのとき栗山英樹監督は大谷翔平選手に「君は投げても打っても超一流。今メジャーに行っても通用するだろう。でもどうせなら日本で投打を磨いてメジャーに挑戦してもいいんじゃないかな。伝説を作るとするなら、投打の二刀流でメジャーに乗り込むんだ」というような趣旨の説得をしたそうです。栗山英樹監督は「大谷育成プラン」を作り上げて、日本球界で大谷翔平選手の二刀流を成功に導きました。現在右肘の靭帯を損傷しており、今シーズンが終わると同時に肘の靭帯再建術「トミー・ジョン手術」を受ける予定です。来シーズンは投手として登板しないことも発表されています。大谷翔平選手のこれまでの努力が身を結ぶためにも、一日も早い靭帯修復が待たれます。

 イチロー氏と大谷翔平選手はひじょうに努力家です。前例のないことに果敢に挑戦するために、体調を管理して実績を積み上げてきました。イチロー氏は年間安打記録を作りましたし、大谷翔平選手は移籍一年目の日本人最多本塁打記録を更新し、シーズン二十ホームラン以上を打った日本人選手は松井秀喜氏以来の快挙です。しかも大谷翔平選手は松井秀喜氏の半分の打席しか立っていません。もしシーズンを通じて打席に立っていたら三十本は打っていたことでしょう。苦手だった左投手もじょじょに克服していますので、来年打者に専念したら何本打ってくれるのか、大きな期待を抱いてしまいます。

 フィギュアスケーターの羽生結弦選手は基本スケーティング技術を徹底的に磨いています。そして彼の代名詞である華麗な四回転ジャンプは、徹底的に美しく魅せるために軸のブレない完璧な跳躍ですし、その前後に細かな技を差し挟むことで四回転ジャンプの加点を高めています。同じジャンプを跳ぶ他の選手とはその細かな技の差で得点が雲泥の差となっています。それがスムーズに行なえるまで徹底した「努力を積み重ねてきた」ことで冬季五輪二大会連続金メダルという金字塔を打ち立てたのです。

 このように「天才」と呼ばれる人は皆「努力を続ける才能」を持っています。努力もせずに成果が出せる方は、宝くじに当たるよりも低い確率でしか生まれません。





最後に

 今回は「努力し続ける才能」ということを述べてみました。

 文章を書くのが楽しい人は、とりあえず「文章を書く才能」のある方です。

 熱病に冒されたかのごとく、ひたすらに小説を書くくらいの熱量が欲しい。

 何本でも書けるだけ書いてみましょう。

 巧い拙いは後で判断すればいいのです。とにかく本数を書きましょう。


 あらゆる分野に「天才」と呼ばれる存在がいます。

「天才」とは「努力を続ける才能」であることを今一度認識してください。

 努力を諦めたとき、あなたは「天才」ばかりでなく、「小説を書く才能」も失ってしまいます。



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