550.臥龍篇:実習してみよう(1/2)
今回と次回で「臥龍篇」はおしまいです。
とにかく、小説を書いてみましょう。
失敗作でもいい。書くことを経験することで「なにがダメだったのか」を理解できることが重要なのです。
実習してみよう(1/2)
ここまで550回に迫る説明を尽くしてきましたが、それでもまだ小説を書き出さない方がいらっしゃるかもしれません。
そこで今回と次回で、小説の雛形を作ってみましょう。
難しいのは物語を作ることであって、小説自体は簡単に書けますよ。
出来事が起こった順に書く
小説を書くとき、必ずやらなければならないのは「出来事が起こった順に書く」ことです。
時系列どおり書くことで物語が前に進んでいきます。
時間を追っていくことで、主人公や登場人物の身になにが起こったのか、なにをしていたのか、どう感じたのか。そういった情報を書けます。
登場人物がいて、その人物がなにをしたかを書けばそれがストーリーになるのです。
つまらないような些細なことも書くことで、分量はどんどん増えていきます。
どこまで細部を書くか。ざっくりと書くか。
これで分量のコントロール方法を身につけてくだい。
学校に行くシーンを書くときは、何時に家を出たのか、どの道順で通っているのか、どんな人とすれ違ったか、電車やバスなどの移動手段は、同乗者はどんな人物か。
どんな些細なことでも書き出していくのがトレーニングの目的です。
ただし小説を書くときは「物語に関係のないものは書かない」ようにしましょう。
読み手は小説に書かれていることを物語に不可欠なものだと認識します。
小説にはムダな一文などないのです。
人物の人柄について語るときも、今後の物語で言及されるから書きます。
言及されない人柄なんて書いても意味がないのです。
ただし今回のトレーニングでは、あえて本文で用いない設定も書いてください。
時系列どおりに書くことだけを考えて、ムダや重複など考えず自由に書きましょう。
主人公以外の人物については、時系列が崩れてもかまいません。
たとえば主人公パーティーに参加してともに戦ってきた人物の裏側を書きたいとき。
「対になる存在」から主人公側の情報を流すように言い含められる、という出来事を物語に書くには、過去に遡って書くしかないからです。
それ以外の状況であえて過去に遡る必要があるのは「焦らし」のテクニックを用いているときです。
「焦らし」を使って読み手に「主人公の考え」を読ませなかった。
そしてまったくわからない展開が目の前で繰り広げられるさまを見ます。
ここで過去に遡って「こういうことをしよう」と仲間と取り決めていた、ということを述べる。
そういう場合は時系列に過去を割り込ませてもなんとかなります。
同じ語尾を三回以上続けない
小説は基本的に語尾を「だ・である」体で書きます。
リズムよく読んでいくためには、「同じ語尾を三回以上続けない」ことです。
私は村上春樹氏の小説が好きではありません。
なぜかというと、語尾「〜た。」が連発されているからです。
小説の書き出しからずっと「〜た。」が続きます。
日本語の時制は、過去の出来事であっても現在起こったように書くことができるのです。
過去を書くとき、最初の一文は「〜た。」であるべきでしょう。
その後の文については現在形で書いても過去のことであると思わせられるのが日本語の特徴なのです。
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ミゲルは孤児だった。七歳のときに商家を営む両親が流行り病で亡くなった。後を継いだ叔父は彼を家から追い出してしまった。少年は他人からお金をスって食べていくことになった。今日の獲物は短い銀髪を整えていた壮年の男性に決めた。気取られないように背後に回り込み、得意のタックルで男性を転ばせた。そのスキをついて腰に下げている貨幣袋に手を伸ばした。袋に触れたところで男性に手をつかまれた。手を振り払おうとしたが、強い力で握られているため振りほどけなかった。
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私は「文末は変えるもの」という心得があるので、上記「〜た。」文末だけの作文を書くのには苦労しました。
文末が続かないように工夫してみましょう。
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ミゲルは孤児だった。七歳のときに商家を営む両親が流行り病で亡くなる。後を継いだ叔父は彼を家から追い出してしまう。少年は他人からお金をスって食べていくことになる。今日の獲物は短い銀髪を整えていた壮年の男性に決めた。気取られないように背後に回り込み、得意のタックルで男性を転ばせる。そのスキをついて腰に下げている貨幣袋に手を伸ばす。袋に触れたところで男性に手をつかまれる。手を振り払おうとしたが、強い力で握られているため振りほどけない。
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本当は冒頭の一文以外はすべて「〜た。」を省こうと思ったのですが、「〜る。」の文末が続くところが出てきたので、そこはあえて「〜た。」を残しました。
同じ文末が続いていませんから、単調なイメージは払拭できたはずです。
また「〜た。」の持つ過去完了のあやふやさは、断言することによってイメージが明確になっていませんか。
村上春樹氏は海外作家の小説を和訳してきた方です。だから原著が過去形で書いていたら、忠実に過去形で書いたのかもしれません。そのクセで自らの小説も過去形の「〜た。」になってしまう。そして自らの著書を英訳するときに自然と過去形が使えるように、あえて英語の時制である「〜た。」の連呼となるのかもしれません。
ついでにいうと、本コラムは基本的に毎文末を変えて書いています。
ときどき同じ文末が続くこともあるのですが、178万字の中でもそれほど多くはありません。
心の声文と会話文を入れる。
心の声文は基本的に地の文に含むものです。書き手によっては( )で囲って会話文と同様に書く人もいます。
会話文は言わずもがなですね。「 」で囲って書きます。
会話文は便利です。なんでもかんでも会話文にしてしまう方がいらっしゃいます。
でも設定を話すのは不自然です。あと会話する両者が知っていることを改めて会話文で書くのもおかしい。
会話文はあくまでも人物同士の「会話」をそのまま抜き書きするように書きましょう。
心の声文は音に出さない心の中の声を書いた文です。音にならないだけで、会話文のように心の中で声を上げています。だから昔の書き手ほど心の声文は地の文に含めて処理しているのです。年を経るごとに心の声文は( )で囲う風潮が生まれ、今では会話文と同様に( )で囲うのが常道になっています。
心の声文と会話文を書くことで、人物に血が通って活き活きとしてくるのです。
ですが心の声文と会話文があまりに多いと、どんな状況で話しているのかを描写することが疎かになります。
とくに小説投稿サイトでは全体の半数以上が心の声文と会話文になっている作品もあり、一定の評価もされているのです。
紙の書籍化されたライトノベルでも、半分以上が心の声文と会話文ということはまずありません。
おそらく小説投稿サイトで出版社から声がかかり、編集さんの指示に従って地の文を補強しているからではないでしょうか。元々物語の展開は面白いのはわかっていますから、地の文できちんと説明を表現しておけば「小説の体をなす」と判断しているのだと思います。
会話文で注意したいのが「誰が口に出した会話なのか」を明確にすることです。
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「〜」
とミゲルが言った。
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と、
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ミゲルは、
「〜」
と言った。
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が主に用いられます。
しかしこれしかバリエーションがない人は、幼稚な会話文しか書けません。
「言う」にはバリエーションがたくさんあります。
「述べる」「伝える」「告げる」などです。
こちらは『pixiv小説』の二次創作として『「言う」の語彙』という投稿をしていますので、類語辞典を読む手間を省きたい方はご一読くださいませ。
また「言う」類いの言葉を用いず、
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「〜」
ミゲルは兜をかぶった。
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のように、別の動作の主体として会話文を発した人物を特定する方法があります。
実際の人物とは、受け答えがはっきりしている会話が多いものです。
しかし意地になって反対のことを言ってみたり強がったり、のほほんとして噛み合わなかったりと「会話文」にはさまざまな力があります。
会話文をどう活かしているかを見るだけで、書き手の筆力の高さを計れるほどです。
最後に
今回は「実習してみよう(1/2)」について述べてみました。
小説は怖くありません。
短くてもかまわないので実習してみましょう。
一度書いてみると「こんなに簡単なんだ」と思っていただけますよ。
次回の(2/2)をお読みいただいたら、第一歩を踏み出してみてください。
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