545.臥龍篇:テーマとはモチーフの見せ方
今回は「テーマ」についてです。
音楽には「モチーフ」があります。「モチーフ」を繰り返すことで「テーマ」を描き出すのです。
小説も同様。「テーマ」は「モチーフ」の見せ方によります。
テーマとはモチーフの見せ方
小説には「テーマ」が求められます。
しかし小説を書くとき、殊さら「テーマ」を決めていないことが多いものです。
それでも「小説賞・新人賞」に応募して、まかり間違ってとは言いませんが実力で賞をつかみ取ったとします。そのとき、あなたの小説の「テーマ」を聞かれることがあるのです。
そのとき「テーマはとくに決めていません」と発言すれば、出版社も世間も冷たい目で見てくるようになります。
では小説における「テーマ」とはなんなのでしょうか。
モチーフとはなにか
音楽の話になりますが、クラシック楽曲の場合「モチーフ」を手を替え品を替え何度でも繰り返して曲を編成します。そうやって一曲が生み出されるのです。「モチーフ」を持たないクラシック楽曲はありません。
「モチーフ」とは「ある小節で表される旋律のパターン」のことです。つまり「決まった旋律」を何度も用いて楽曲を組み立てることで曲が生み出されます。
では小説に置き換えてみましょう。
小説の「モチーフ」とは「哲学的な命題」のことです。「人はなぜ生きるのか」「人はなぜ自殺へ走ってしまうのか」「命よりもお金が大事」「お金よりも命が大事」「よい人生を歩むには学業に励むこと」「豊かな人生を歩むにはあらゆることに挑戦すること」「二股は長くは続かない」といったものが「哲学的な命題」となります。
この「モチーフ」を小説全体に張り巡らせることで、「テーマ」が生まれてくるのです。
テーマとはモチーフの見せ方
「モチーフ」として「人はなぜ生きるのか」を選んだら、それをどう見せれば小説の核が生み出せるかを考えます。
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人は自分の考えを後世へ残すために生きている。それまでに死んでしまったら自分の考えは人間社会の発展になんら寄与しない。それでは人として生きている必然性がないのではないか。
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「モチーフ」の見せ方が決まれば、それが「テーマ」になります。
つまり上述した「人は自分の考えを後世に残すために生きている。〜(中略)〜。それは人として生きている必然性がないのではないか」が、そのまま作品のテーマになるのです。
同じ「モチーフ」を用いても、書き手によって見せ方は異なります。それがその人の「テーマ」の捉え方の違いであり、作風の違いでもあるのです。
私の「箱書き」段階のにある連載小説『秋暁の霧、地を治む』の「モチーフ」は、「戦争はすぐにでも終わらせるべき」つまり「反戦」なのです。「反戦」という「モチーフ」を主人公ミゲルに託して、物語の随所で「反戦」思想を描き出していきます。
そして私の「モチーフ」の見せ方は、
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小隊長、中隊長とは異なり、戦争を指揮する将軍・軍務長官の立場になってもなお、人は反戦を貫けるのか。戦争を終結させるには、無条件降伏をするか、戦争で勝敗をつけるほかない。しかし無条件降伏にせよ負けるにせよ、自国民の命の保証はない。戦争に勝って終結させるためにはどうすればよいのだろうか。
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というものです。これがそのまま作品の「テーマ」になっています。
「反戦のために戦争に勝って戦乱を終結させる」ことができれば、この小説で私が皆様に伝えたい「テーマ」が伝わるのです。
「小説賞・新人賞」ではジャンルの他に「テーマ」が決められているものがあります。
しかし募集要項に書かれている「テーマ」は、私の言った「モチーフ」にすぎないのです。募集要項には「夏にふさわしいホラー短編小説を投稿してください」と書いてある。これは「モチーフ」です。そこからあなたの見せ方を考えましょう。
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猛暑厳しい日々、多くのお客を呼び込む旅館があった。なんでもそこには魑魅魍魎が棲むという。そんなこととはつゆ知らず、高校二年生の女子三人組が泊まりにやってきた。彼女たちは、なにかが普通と異なる旅館で、日常とは隔絶した体験をすることになる。平穏無事に地元へ帰れるのだろうか。
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これが「テーマ」です。
テーマと企画書
ここまで本コラムを読まれた方は「テーマ」と「企画書」って似てない? とお思いかもしれませんね。私が殊さら「テーマ」を気にしなくていいと言ってきたのは、「企画書」を書けば「テーマ」なんて意識する必要がなかったからです。
「企画書」は「テーマ」をさらに肉付けして「どんな主人公」が「テーマ」に立ち向かい、「どうなる物語」なのかを書いたものとも言えます。
「企画書」を書く段階で「テーマ」についても考えているのです。
「テーマ」は身構えて書くようなものではありません。
「モチーフ」を設定し「テーマ」を書いてみる。その流れで「どんな主人公が」を含む「企画書」まで持っていくのです。
「企画書」には「テーマ」が含まれています。
もし小説賞・新人賞を獲得したとき、あなたの作品の「テーマ」はなんですかと問われたら、「企画書」の内容をそのまま話してもよいのです。
確たるテーマ、柔軟なテーマ
書き手にとって「テーマ」とは人生にひとつしかないのかもしれません。事実文豪の書いた小説でも、すべて同じ「テーマ」で書かれている作品群を見ることがあります。
それは「◯◯のテーマならあなた」というイコール記号が成立するのです。
しかし融通がきかない。編集さんから「他のテーマで書けないの?」と言われても書けるのは確たる「テーマ」だけです。
対して「テーマ」をさまざまに思いつける才能を持つ書き手がいます。柔軟な「テーマ」が思いつける人はストーリーテラーとして千変万化。ひとつとして同じ「テーマ」では書かないというような多様性を見せます。
どちらが優れているとは一概に言えません。
確たる「テーマ」は読み手に安心感を与えます。この書き手なら以前と同じ展開をしてくれるだろうと期待してくれるのです。
柔軟な「テーマ」は読み手にワクワク感を与えます。今度はどんな作品で楽しませてくれるのだろうと期待してくれるのです。
テーマは等身大で
「テーマ」は背伸びして書かないでください。読み手には背伸びしていることがすぐにバレてしまいます。
独創的な「テーマ」を書かなければ「小説賞・新人賞」は獲れないのではないか。そう思うことは無理からぬことですが、それは杞憂です。
初心者はとくに「テーマ」は平凡でいい。「企画書」で尖った主人公の設定を考えたほうがよほど建設的です。
書き手が扱える範囲での「テーマ」を設定してください。手頃な「テーマ」を扱えば背伸びだなんて言われません。
そして自分の書ける範囲で書くことで、あなたにしか書けない「テーマ」を持った小説が書けるのです。
昔から「文は人なり」と言われてきました。文章は筆者の思想や人柄が表されている。文章を見れば書き手の人となりが判断できる。フランスのジョルジュ=ルイ・ルクレール・ド・ビュフォンの言葉です。
作品の「テーマ」を見れば、書き手の人となりが表されています。
だから殊さら「テーマ」を掲げなくても、出来あがった作品に「テーマ」は内包されているのです。
書いた作品から「テーマ」に気づければそれでいい。
そこまでの読解力がないのなら、「モチーフ」から「テーマ」を作り、「企画書」を仕上げる工程を意図的に経てください。
最後に
今回は「テーマとはモチーフの見せ方」について述べました。
小説投稿サイトで催されている「小説賞・新人賞」には「テーマ」が決まっているものがあります。
「小説賞・新人賞」で規定されている「テーマ」は、音楽でいう「モチーフ」です。
「モチーフ」の見せ方のことを「テーマ」と呼びます。
そう考えると「小説賞・新人賞」に課せられた「テーマ」も怖くないですよね。
ぜひ「小説賞・新人賞」に応募してみましょう。
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