544.臥龍篇:誰に読まれたいか

 今回は「誰に読まれたいか」についてです。

「ひとりでも多くの人に読まれたい」では誰にも読まれなくなります。

 対象を絞ったほうが、そのような人やその周りの人があなたの小説に惹き込まれるのです。





誰に読まれたいか


 小説は「誰に読まれたいか」を想定して書かなければなりません。

「ひとりでも多くの人に読まれたい」と思って書いた小説は、結局誰の心もつかめないのです。

「誰に読まれたいか」を明確にして書いた小説は、作品の「テーマ」を必然とその人たちに伝えられます。




年齢・年代

 まずは年齢・年代です。

 小学校に上がる前は童話や寓話を絵本で読みます。皆様も絵本をたくさん読んできたのではないでしょうか。

 ここで「物語って面白い!」という原体験が得られないと、物語そのものが好きでなくなります。お子さんがいらっしゃるご家庭でしたら、絵本の読み聞かせを増やしてください。親子仲もよくなりますし、お子さんの基礎学力を高めることもできるのです。個人的な意見ですが、幼児学習に腐心するのは後回しでよいと思います。それよりも、絵本の読み聞かせで「物語の面白さ」に気づいてもらったほうが、小学校からの成績の伸び率は高いのです。

 授業の内容がひとつの物語になっていると気づいた瞬間、子どもは勉強が大好きになります。この自発的な気づきを得たほうがその子のためになるのです。

 私は小学校に上がるまで養護施設にいましたが、絵本はそれほど読んでいません。その代わり『アーサー王伝説』や『ギリシャ・ローマ神話』といったものを読んでいました。おかげで五歳で二桁の足し算・引き算や九九を憶えることができたのです。


 小学校に上がると図書室には児童文学が揃えられています。

『マンガ日本の歴史』『マンガ・世界偉人伝』のような学習要素のあるマンガが多い。

 それでも江戸川乱歩氏『少年探偵団』シリーズやモーリス・ルブラン氏『怪盗ルパン』シリーズ、ジュール・ヴェルヌ氏『八十日間世界一周』『二年間の休暇(十五少年漂流記)』『海底二万マイル』、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ氏『星の王子さま』、ジョナサン・スウィフト氏『ガリヴァー旅行記』、ジャン・アンリ・ファーブル氏『昆虫記(ファーブル昆虫記)』など、一度は読まれたはずです。

 ここに挙げた小説を眺めてみると、「冒険小説」が多いという印象を覚えます。

 小学生の知的好奇心を刺激する「冒険小説」をどれだけ読んできたかで、その子が読書好きになるかどうか分かれると言ってもよいでしょう。

 小学生のときから小説を読む習慣をつけておけば、中学・高校・大学で難しい教科書や文献を読むのが苦でなくなるのです。


 中学生に上がると図書室には「文豪」の作品が並び始めます。しかし中学生でいきなり「文豪」の作品を読む子どもはまずいません。まずは小学生からの延長でまだ見ぬ「冒険小説」を求めて、作者不詳『アーサー王伝説』やJ.R.R.トールキン氏『指輪物語』、今ならJ.K.ローリング氏『ハリー・ポッター』シリーズ、小野不由美氏『十二国記』シリーズ、宗田理氏『ぼくらの七日間戦争』、ライトノベルの「ファンタジー」といったものを読み始めます。「ファンタジー」は学校の図書室に置かれることが少ないので、小説投稿サイトに掲載されている無料の作品を読むのです。この頃から持ち始めるスマートフォンの維持費がかさむため、コンテンツは無料なものを使うことが多くなります。

 その流れから「空想科学(SF)小説」も読まれるようになるのです。といってもこちらも小説投稿サイトの「空想科学(SF)小説」ジャンルを読みます。

 またサー・アーサー・コナン・ドイル氏『シャーロック・ホームズの冒険』シリーズ、アガサ・クリスティー氏『名探偵ポワロ』シリーズや『ミス・マープル』シリーズ、横溝正史氏『金田一耕助』シリーズなどの「推理小説」に興味を覚えるのです。

 また第二次性徴期によって異性に関心を覚える年代ですから、とくに女子は「恋愛小説」も多く読み始めるのです。三田誠広氏『いちご同盟』、瀬尾まいこ氏『幸福な食卓』、森絵都氏『カラフル』、石田衣良氏の直木賞受賞作『4TEEN』などが人気のようです。

 対して男子は「ラブコメ小説」を読むようになります。「恋愛小説」を女子のものと思い込んでいるため、男子は照れ隠しの意味も込めて「ラブコメ小説」に走るのです。

 渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』が爆発なヒットを飛ばしています。女子だけでなく男子も読める「ラブコメ小説」だったからです。


 高校生になると「文豪」の作品と向かい合う必要が生じます。大学受験で「文豪」作品の読解力を試されるからです。ひとつでも多くの「文豪」作品を読もうとします。中学生までに読書の習慣がついていればなんの苦もないことです。中学生までにたいして小説を読んでこなかった方は、ここで大きくつまずくことになります。付け焼き刃を求めて学習塾に通うハメに陥るのです。

「文豪」以外の小説は基本的に中学生と同じものを読みます。そもそも三年しかない期間で対象が変わるほうが難しいのです。小学生は六年間ありますからね。

 そんな中で、大学受験という大きな関門をしばし忘れられる「ファンタジー」とくに「異世界転移ファンタジー」「異世界転生ファンタジー」に人気が集まります。

 また「現実世界ファンタジー」として鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』、谷川流氏『涼宮ハルヒ』シリーズも人気が出てきます。


 大学生になると受験がなくなるため時間に余裕ができて、ほぼすべてのジャンルの小説を読めるようになります。それでも「ファンタジー小説」一辺倒の人も、「恋愛小説」一辺倒の人も一定数いるのです。

「推理もの」では西村京太郎氏『トラベルミステリー』シリーズのような精緻なトリックが評判を集めます。

 大学受験対策で読んでいた「文豪」作品を、改めて読み返すこともあるのです。大学生でどれだけ多くの小説を読んだかで、将来小説を書きたいと思ったときに、すんなりと小説が書けるようになるかが決まります。

 私は高卒なので小説をそれほど読み込めませんでした。なので今になって少し苦労しているのです。まぁ小説自体は中学生のときから書き始めていたので、我流でなら書けました。皆様に読んでいただけるだけの質を持った作品が書けなかったのです。




社会的地位

 平社員は日々の仕事に翻弄されて、小説を読む時間がありません。積極的に読むというよりは、暇つぶしで読むのです。少ない時間で読める小説がウケます。小説投稿サイトで連載されている一回千五百字〜二千字程度の五分で読める分量を求めているのです。これならちょっとした移動時間にスマートフォンで読めます。

 小説投稿サイトを使うのであれば、ジャンルはさほど問いません。とりあえずランキング上位の作品が「安牌」と思って読む傾向にあります。


 中間管理職はキャリアアップのために日頃からビジネス書籍をよく読みます。私も中間管理職だった頃は「ゲーム理論」「ランチェスター戦略」「決算書の読み方」について勉強したものです。元から『孫子』『春秋』『史記』を始めとする中国古典の兵法書や歴史書を読んでいましたし、高校では「簿記」を選択していましたから、経営に関して不安はありませんでした。

 書籍の力で書店店長になり、通販事業立ち上げにまで参加しました。つまり経営者にまで登りつめたのです。

 そんな私は当時あまり小説を読んでいません。仕事が忙しすぎて寸暇すら作れなかったからです。一冊でも多く売るための努力を重ねましたし、Webサイトを構築する作業もたいへんでした。通販事業立ち上げに際し、途中から突然上司が配属され、私のやりたい方法で進められないと判断しました。自分の努力が正当に報われなくなったことを理由として、私はその書店運営会社を退社したのです。


 その後は派遣会社の派遣社員となり、各事業所を渡り歩くことになりました。

 おかげで小説を読む時間が再び戻ってきたのです。

 最初は水野良氏『魔法戦士リウイ』、次に賀東招二氏『フルメタル・パニック!』を読み始めました。

 田中芳樹氏『銀河英雄伝説』、水野良氏『ロードス島戦記』、冴木忍氏『〈卵王子〉カイルロッドの苦難』を再読するなど、この頃から小説を書くことを再開したのです。

 自宅にインターネット回線を引き、個人Webサイトを運用するようになってからは、新作をコツコツ投稿する日々が続きました。




性別

 LGBTと呼ばれる性的マイノリティーの方々がどこに属するのか、私にはわかりませんので、男性と女性で分けていきます。

 まず小説を読む方々は男女問わず「浪漫主義者ロマンチスト」です。

現実主義者リアリスト」は小説など読まず、ビジネス書籍を読んだり英会話の勉強をしたりして、実社会での地位や収入の向上を求めます。学生なら将来の受験のために数学や英語などの勉強に勤しむでしょう。

 その貴重な時間を投げ出して小説を読むのです。「浪漫主義者ロマンチスト」でなければ現実から追い立てられる現実を前にして小説を読むことはできません。

 もちろん勉強の合間に小説を読む方もいます。ですが勉強の合い間は別の教科の記憶などをしていたほうが、よほど効率がよいのです。


 ここから性差を考えてみたいと思います。

 男性は主に理屈で動くのです。つまり「将来得をするために、今なにをすべきか」を考えています。世のビジネス書籍の読み手はほとんどが男性です。理由はキャリアアップ、スキルアップを目指すため。

 そんな男性が読む小説は池井戸潤氏に代表される企業小説です。『下町ロケット』シリーズ、「半沢直樹」シリーズはとてもよく売れています。

 女性はどの年代を通しても「恋愛小説」を求めます。心の充足を暗に求めているのかもしれません。「恋愛小説」の代表的な書き手といえば、石田衣良氏、江國香織氏、有川浩氏、山田詠美氏、角田光代氏あたりでしょうか。それぞれが個性的な作品を書いているため、自分の好みに最も合う書き手を探してみるとよいと思います。




誰に読まれたいかでジャンルを選ぶ

 小学生に読まれたいなら「冒険小説」、中学生高校生に読まれたいなら「冒険小説」「ファンタジー小説」「空想科学(SF)小説」「推理小説」「恋愛小説」「ラブコメ小説」です。

 スマートフォンを持っていれば、小説投稿サイトで小説を読むようになります。人気を集めるのも上記作品群であり、それをお手軽・お気軽にした「ライトノベル」なのです。

 大学生はどんな小説でも読みます。中高生で読んでいたものの延長線もありますし、「純文学」と呼ばれる「文学小説」も読む人が出てくるのです。「文学小説」の新人賞を目指そうと思うのもだいたいこの時期から。とくに国文科に進んだ人は、将来芥川龍之介賞(芥川賞)・直木三十五賞(直木賞)を獲りたいと思っているものです。

 会社員ともなれば、仕事が忙しくなって書籍を読む時間が限られてきます。読む本もビジネス書籍が増えてきて、小説を読む時間はさらに減ってしまいます。会社員に残されているのは、移動に使う電車やバスの中での時間です。仕事の都合上スマートフォンを持っていることが多いため、小説投稿サイトを積極的に活用することになります。

 小説投稿サイトは中高生が主要層ですが、平の会社員もかなりの数読んでいるのです。

 時間がない中でも芥川賞・直木賞を目指す人は小説を書き続けています。執筆にまるまる一年かけることも当たり前です。一年かけて書いたら小説賞・新人賞に応募し、受からなければ何年もその生活が繰り返されます。あきらめるタイミングは人それぞれですが、会社で昇進する時期が選ばれやすい。昇進すると中間管理職となり、仕事が急増して執筆している暇がなくなるからです。

 社会人になると、男性は「企業小説」をよく読むようになります。下働きする自分を主人公に重ねやすいからでしょう。女性は「恋愛小説」に傾倒するようになります。女性特有の「共感する」力でラブロマンスを自分に重ねやすいからかもしれません。





最後に

 今回は「誰に読まれたいか」について述べてみました。

 読ませる人を特定することで、どのジャンルを選べばいいのかが決まります。また小学生が読む「冒険小説」と中高生が読む「冒険小説」とでは、書き方が異なっていることでしょう。

 年齢・年代と性別によって求められる小説は違います。女性は総じて「恋愛小説」好きですが、中高生女子が求めるのは「スクールラブ」や「白馬の王子」とのラブロマンスですし、大学生なら「イケメン」との純愛。社会人なら「オフィスラブ」、専業主婦になれば「大金持ちのイケメン」とのちょっとエッチなラブロマンスといったところでしょうか。

 読み手をピンポイントで絞り込めなければ、需要のない小説を書くことになりますよ。



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