542.臥龍篇:プロットの書き方

 今回は「プロット」についてです。

 小説を書いてみたけど、どうしても短くなってしまう。

 それは「あらすじ」「箱書き」から直接「執筆」をしているからです。

「執筆」の前に「プロット」を書きましょう。





プロットの書き方


 小説を書き始めたのだけど、どう書いてみても短くなってしまうんだよなぁと思ったことはありませんか。

 それは「あらすじ」や「箱書き」から直接小説を書こうとしているからです。

 先に「プロット」を書いてみましょう。




プロットはペン入れ

「プロット」といえば通常「あらすじ」のことを指すのですが、私は「ペン入れ」のことを指す単語として使っています。

「執筆」は「ペン入れ」である「プロット」にベタや色を塗ったりスクリーントーンをかけたりハイライトを入れたりするくらいの気持ちで書くものです。

 絵やマンガで説明すると、「企画書」は「どんな絵を書こうかな」と検討する「ネーム」の段階。「あらすじ」は鉛筆で構図を書いてみる「ラフ」の段階。「箱書き」は「ラフ」から「下書き」を書く段階。そして「プロット」は「下書き」から「ペン入れ」をする段階になります。

 つまり「プロット」を書くには、「箱書き」の段階で「下書き」が出来ていることが前提なのです。

 これから皆様にご自身で用意した「箱書き」から「プロット」を書いてもらいます。

 難しいことはありません。「主人公を出すタイミング」や地の文と会話文のバランスといったことに留意して書くだけです。

 例に賀東招二氏『フルメタル・パニック! 戦うボーイ・ミーツ・ガール』を挙げて説明することと致します。




書き出しから主人公を出す

「箱書き」に書いた設定部分のうち「いつ」「どこで」「主人公が」をまず書きます。これが「書き出し」に書いていなければ、話が始まりません。

 とくに「主人公」を「書き出し」に持ってくるのがいちばんよい手法です。

 田中芳樹氏『銀河英雄伝説』のプロローグには主人公が登場しません。人類が銀河へ進出した過程を延々と説明しているだけです。つまりプロローグでは物語が始まっていません。こういった物語本編より前の出来事を本編開始前に書き連ねるのは、単なる書き手の自己満足にすぎないのです。

『フルメタル・パニック!』では最初のページでヒロインの千鳥かなめと主人公の相良宗介を真っ先に出しています。これにより「このふたりのどちらかが主人公だな」と読み手に思わせているのです。そしてプロローグが終わると、第一章で時間と場所ががらりと変わり、宗介を視点が追っていることに気づきます。ロボットバトルという、小説では表しづらいジャンルを読み手にとっつきやすくするために、学園もの仕立てのプロローグを巧みに利用しているのです。


 このようにまず「主人公」を出して読み手に感情移入してもらい、「主人公」が「出来事を起こす」か「出来事が起こる」かします。

『フルメタル・パニック!』ではプロローグにおいて「コピー用紙四束強奪作戦」が繰り広げられるのです。

 その準備段階から「主人公」が動きます。そこで初めて「どこで」の場所を書くのです。書けるのならこの段階で「いつ」の時間も書きます。これが感情移入を促す、ごく自然な流れです。

『フルメタル・パニック!』では「放課後」の「職員室の扉前」でプロローグがスタートし、打ち合わせの結果ただちに職員室内にふたりが入り、作戦が始まります。

『フルメタル・パニック!』は三人称視点です。三人称視点は人物の心の声が書けないため、読み手を主人公に感情移入させるのが難しい。反面あらゆる人物や事物の情報を書き込める利点があります。『フルメタル・パニック!』では三人称視点のうえでシーンごとにひとりの心の中を書いています。これを「三人称一元視点」と呼びます。プロローグではかなめの心の中が覗けるけれど、かなめ自身のことを「かなめ」と呼んでいる「三人称一元視点」です。

 第一章からはシーンによって「三人称一元視点」が切り替わる、いわゆる「三人称一元視点」でのザッピング形式の語り口となります。宗介をさまざまな人物の視点から描写し、もちろん宗介自身の視点も含まれていて「主人公」としての宗介のキャラを立てているのです。

『フルメタル・パニック!』で「三人称一元視点」のザッピングをしても主人公である相良宗介のキャラが立っているのは、宗介自身が「戦争ボケ」していて、平和な日本の生活に慣れないという設定と、宗介には感情の起伏がほとんどないことにあります。


 では冒頭で「主人公」を取り巻く出来事は解決したでしょうか。解決していなければ、解決するまでを書くことになります。

『フルメタル・パニック!』でプロローグの一連の流れとなる「コピー用紙四束強奪作戦」は失敗するのです。失敗を引き起こした宗介に腹を立てつつも、どこか憎めないかなめの心情が書かれています。

 プロローグのシーンは職員室前のシーン、職員室内のシーン、北校舎への連絡通路のシーンと三つ出てくるのです。場所の移動によるシーンの切り替えで進んでいきます。三シーンでエピソードが完結したのです。

 それに比べて第一章では頻繁にシーンが切り替わります。上記しましたがザッピング形式でのシーンの切り替えです。説明を尽くすために、設定を盛り込むだけ盛り込んでいます。

 これもプロローグで宗介を出して動かしたことから生まれた感情移入があるからこそです。プロローグでは「戦争ボケ」を強調し、第一章で実際の「戦争」に身を置く戦士としての一面にクローズ・アップします。

 もし第一章から物語を始めてしまっていたら、『フルメタル・パニック!』はこれほど長い連載にはならなかったでしょう。「軍事部分の設定がてんこ盛りの退屈な軍事オタク小説」という評価だったと思われます。

 それほどまでに「書き出し」は作品の評価を左右する重要な部分なのです。

「書き出し」から「主人公」を出すことは、現在の小説では必須のテクニックとなっています。




長い文章が書けない

「書き出し」はなにを盛り込めばいいのかご理解いただけたかと存じます。

 次は地の文と会話文のバランスについてです。

 小説を書き慣れていない人ほど、「箱書き」には「会話文」を書いています。

 これは悪いことではありません。「会話文」のやりとりで物語の展開が明快になりますから、とくに書き慣れていない人ほど「会話文」主体であってもいいのです。

「会話文」の機能については次回に譲ります。

 小説を書き慣れない人ほど「地の文」は少なくなるのです。

「地の文」は動作と説明と描写を書きます。


 説明を書くのはそれほど難しくありません。設定や今置かれている状況を書くだけでいいのです。

 説明を細かく丁寧に書くほど長い文章が書けます。

 まず説明したいことを書き、そこに理由や対比を書いていき、例を引いてくるのです。

「どうしてそんなことをするのか」「もしそうでなかったらどうなるか」「そうすることでどんなことが起こると思われるか」といったことを書きます。

 ただし説明は物語の流れを停滞させない程度のつまびらかさで書きましょう。

 目の前にいる人はどんな格好をしているのか。髪や瞳や肌の色よりも、肉づき・か弱さやなにを着てどんなポーズをとっているのかを書きましょう。

 いちいち髪や瞳や肌の色を書く人は、人間の頭部しかイメージが見えていないのです。体には頭部のほか肩・腕・肘・手、尻・脚・膝・足、胴体・胸・腹・腰・背などがあります。そういったものを書いていくことで、顔のドアップ以外のカメラワークを用いて説明することができるのです。


 難しいのは動作と描写です。

 動作は義務教育レベルの語彙で書きます。

 たとえば「『〜』と彼は言った。私は『〜』と言った。それを聞いた彼はこう言った。『〜』」のように「言った」という動作ばかりを書くのは小学生レベルです。

「言う」にはバリエーションがあります。「話す」「語る」「告げる」「伝える」「叫ぶ」「怒鳴る」「つぶやく」「ささやく」「吐く」「漏らす」「匂わす」とすぐに思いつく和語だけでもこれだけあります。

「あげつらう」のような、義務教育レベルではまず習わない語彙を使う必要はありません。

 動作は「適切な動詞」を選んでかなり細かく書き込むことで分量を増やしつつ質を高められます。読み手の感情移入を深く誘うために、主人公の動作や心象を読み手に余すところなく伝えて「共感」を築いていくのです。


 描写は「たとえ」「比喩」です。

「当人は猫型ロボットだと言い張るが、僕にはまるで青いタヌキのようにしか見えなかった」といったものが「たとえ」「比喩」になります。

 描写の本質は「そのままでは理解するのが難しいことでも、読み手の知っている身近なものを引き合いに出してわかりやすく噛み砕いて表現する」ことです。

「台風によって増水した川の流れは、まるで中国にある黄果樹大瀑布のような壮大さを感じさせた」という描写は「たとえ」「比喩」として適切ではありません。

 大瀑布ということであれば「黄果樹大瀑布」よりも「イグアスの滝」「ヴィクトリアの滝」「ナイアガラの滝」という世界三大瀑布のほうが有名です。「黄果樹大瀑布」の映像をなにかで見たことのある人がどれだけいるのでしょうか。「イグアスの滝」「ヴィクトリアの滝」「ナイアガラの滝」ならテレビで何度となく放送され、どんなものなのか知っている人が大半です。

 だから適切な「たとえ」「比喩」という点では、「台風によって増水した川の流れは、まるでナイアガラの滝のような壮大さを感じさせた」のほうが的確だと言えます。

 しかし描写による「たとえ」「比喩」は多用すべきではありません。「たとえ」「比喩」ばかりの小説は、話がまったく進まず、読んでいるとリズムがとっ散らかってすんなり読めないからです。

 ポイントを絞って効果的な「たとえ」「比喩」で伝えられれば、品格の高い文章が書けます。


 この説明と動作と描写を織り交ぜることで、地の文の分量が増していくのです。





最後に

 今回は「プロットの書き方」について述べてみました。

「書き出し」から「主人公」を出しましょう。長々と時代設定を書いてしまうのは、一見格調が高そうです。しかし読み手は「退屈だ」と感じます。

 読み手が求めているのは物語をまわす「主人公」を早く出してくれることです。「主人公」がわかれば読み手は感情移入しようと試みます。主人公の動きや感覚を書くことで「主人公」の感じ方を理解して深く感情移入できるのです。

「文章が長く書けない」という方は、主人公の動作や心象を細かく書き、説明は主人公への感情移入を妨げない程度に増やし、描写でポイントを絞って「たとえ」「比喩」を用いていきましょう。

「プロット」は絵でいうと「ペン入れ」の段階です。

 どれだけ密度の高い「ペン入れ」ができるか。それで絵全体の評価が決まります。

 すらすらと「執筆」できるようになるには、綺麗な「ペン入れ」ができているかどうかにかかっているのです。



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