539.臥龍篇:読みやすい小説を目指す
今回は「読みやすい小説」についてです。
小説は論文ではないので、わかりやすい小説を目指しましょう。
記号を多用して読みにくくしない、外国語はできるだけ使わない、でも砕けた表現も取り入れる。
そんな文章が「読みやすい小説」を作ります。
読みやすい小説を目指す
「小説」という言葉から、あなたは国語の授業で習った夏目漱石氏や森鴎外氏や島崎藤村氏、芥川龍之介氏や直木三十五氏や菊池寛氏、川端康成氏や三島由紀夫氏などのいわゆる「文豪」が書いた「崇高な」作品を思い浮かべると思います。
実はここに挙げた「文豪」は笑える作品やエロティックな作品も書いているのです。
「純文学」とは哲学的な命題の書き手なりの「答え」を書いた作品のことを言います。
それを論文にして書くか、小説という形を借りて書くか。その程度の違いしかありません。
小説は論文ではない
「純文学」は論文ではありません。
庶民の娯楽として物語を味わう作品です。
伝えたいものがあるから、人は文章を書きます。伝えたいものがないのに文章を書いても、読み手には響かないのです。
「なにを伝えたい」のか。
「純文学」なら哲学的な命題の書き手なりの「答え」です。それに物語の皮をかぶせてあります。
物語を読んでいるうちに、自然と「答え」が伝われば「純文学」として成功なのです。
また文章は短文が好まれます。
とくに難解になりやすい論文は一文も長くなりやすいのです。短文で表せられればとてもよみやすく、伝えたいことが伝わりやすくなります。
小説では一文が百文字あるような書き手も存在します。これは例外です。
百文字あっても、それは重文になっていて、読点を句点に変えても文法上問題がない。
読点のリズムと句点のリズムは異なります。
小説ではあえて句点のリズムではなく読点のリズムを重視する書き手が少なからずいるのは事実です。
ですが、そのような書き手が小説投稿サイトで「小説賞・新人賞」を狙っても受賞する可能性はかなり低いでしょう。
なぜか。わかりにくいからです。
文章のリズムだけで読ませてしまえるのはひとつの才能といえます。
でも物語が伝わりやすいかといえば伝わりにくい。
小説といえども論文と同じ日本語で書かれています。
もし論文として書いたとしたら、あなたの文体は読み手に伝わりやすいでしょうか。
物語と論文はもちろん異なります。ですが言語として見た場合、どちらも日本語なのです。
わかりやすい文章とは
「!」「?」「!!」「!?」といった記号、句読点、カッコ、外国語はできるだけ少なくしましょう。
本コラムはわざとカッコを多めに使っています。
その回の「キーワード」を繰り返すことで、印象を強めようという意図です。
今回も「純文学」や「答え」などをカッコで書いています。
驚くかもしれませんが、小説を書くときはカッコが少ないんですよ。
どうしても地の文で語ってしまうクセがあるからです。
記号は、使いすぎると文章が安っぽくなってしまいます。
ライトノベルは元々マンガのような安っぽさが売りですから、必然と記号が満載になるのです。
ライトノベルでもし記号を減らして書いたらどうなると思いますか。
歴史に残るような名作になるのです。
田中芳樹氏『銀河英雄伝説』『アルスラーン戦記』では記号はあまり使われていません。水野良氏『ロードス島戦記』『魔法戦士リウイ』もあまり使っていないのです。
それなのにライトノベルとして屈指の知名度を誇ります。
小説投稿サイトの作品を読んでみてください。
こちらは記号だらけの「記号祭り」といった状況です。
TwitterやLINEなどの短文SNSが広く普及したため、「!!!!」や「????」や「wwww」といった記号が並んでしまっています。
小説を書くのであれば、このような記号の連打は今すぐやめましょう。
仲間内だけで盛り上がりたいなら使ってもいいのです。
それを小説に持ち込むから評価が上がらないのだと気づいていますか。
三点リーダー「……」やダッシュ「——」といったプロの書き手も用いる記号も長すぎれば安っぽく見えてしまうのです。
これはコンピュータ・ゲームから来た悪弊でしょう。
とくに音声を喋らせてセリフを逐次表示していくタイプのゲームです。
少なくともとゲームのPCエンジン用ソフト・KONAMI『ときめきメモリアル』まで遡れると思います。
吹き替えの間を表現するのに「……」が連発されたのです。
小説では本来、間が二秒だろうと五秒だろうと十秒だろうと、「……」はこのひとつだけで表わします。
そもそも間は地の文を読んでいるときに自然と空くものです。
だから五秒の間が欲しければ、五秒ぶん地の文を書けばよい。十秒の間が欲しければ、十秒ぶん地の文を書けばよいのです。
そして外国語はできるだけ書かない努力をしてください。
私は英語がきわめて不得意なのでそれほど英語を書きません。というより書けません。
英語が得意な人は「ダイバーシティ」「シンギュラリティ」「アンビバレンツ」といったカタカナを「カッコいい」という理由で使ってしまいがちです。
ですが小説投稿サイトの主要層は中高生です。
彼ら彼女らは辞書を引きながら小説を読むようなことはしません。
わからない単語が出てきたら「飛ばして」読みます。
それでも文章がつながっているようならいいのです。
その単語がきわめて重要な場合は、物語がわからなくなって結果としてあなたの小説から離れていってしまいます。
これはひじょうにもったいない。
英語に限らず、意味のわからない外国語を書くことで、読み手は離れていってしまいます。
「それなら外国語の後ろに日本語をカッコ書きすればいいんじゃないの」とお思いかもしれません。ひじょうに間抜けな文が出来あがります。
「日本語を書いて、ルビで外国語を振ればいいんじゃないの」とお考えならまだましです。
ただしルビの多い文章もある程度間抜けな印象を与えてしまいます。
カッコもルビも少ない文章がいちばん読みやすいのです。
砕けた表現を交える
そして読まれる小説にはユーモアがあります。
笑い話やジョークやダジャレで「笑いをとりに行け」と言っているわけではないのです。
ひじょうに真面目な「だ・である」体で書かれている小説は四角四面で、読んでいて堅苦しく感じます。
そんなときにふと「砕けた表現」を交えることで、文章の硬さをほぐしていくのです。
『銀河英雄伝説』では、自由惑星同盟サイドの描写において戦闘シーンであろうと「砕けた表現」に満ちています。
ダスティ・アッテンボロー提督の一言が場の緊張感を弛緩させるさまは鮮やかな手際といってよいでしょう。
『ロードス島戦記 灰色の魔女』において「砕けた表現」はほとんどありません。二巻以降では「砕けた表現」が見られるようになります。とくに主人公がスパークになってからは、パーティー・メンバーからかなりボロクソに言われてしまうのです。パーンが生真面目な騎士であり、スパークは駆け出しの騎士であることも、「砕けた表現」が増えた要因でしょう。
『魔法戦士リウイ』ではさらに「砕けた表現」に磨きがかかっています。
水野良氏で「砕けた表現」を調べてみたい方は『魔法戦士リウイ』がおススメです。
最後に
今回は「読みやすい小説を目指す」ことについて述べてみました。
小説は論文ではありません。
だからといってどんな表現も許容されるわけではないのです。
記号、句読点、カッコ、外国語はできるだけ少なくしましょう。
また堅苦しくならないために「砕けた表現」も必要です。
これをクリアしていれば、「読みづらい」という批判とは無縁でいられます。
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