537.臥龍篇:箱書きを書く

 今回は「箱書き」についてです。

「あらすじ」というラフから下書きを書く段階となります。

『秋暁の霧、地を治む』は中編小説『暁の神話』の連載版なので、そちらを参照できる部分は箱書きに書いていません。

 とくに主人公の設定を〇番目の「箱書き」に書かないのは反則に近いんですよね。

 皆様はきちんと〇番目の「箱書き」を作りましょう。





箱書きを書く


「箱書き」は「あらすじ」の「出来事エピソード」を「場面シーン」に細分化して詳しく書いたものです。「エピソード」に含まれる「シーン」の数だけ「箱書き」を書くことになります。

 具体的になにを書けばいいのかを見ていきましょう。




物語の設定を書く

「箱書き」の一番目の前、つまり〇番目の「箱書き」には、物語の基本的な設定を書きます。最も分量が多くなる「箱書き」です。

 どんな世界観でどんな町や国や星があり、社会インフラはどの程度整っているのか。こういった物語が展開される舞台をまず決めます。勇者譚なら「剣と魔法のファンタジー」世界でしょうし、現実世界恋愛なら「今あなたが存在している」世界でしょう。

 また学園ものなら主人公が通う学校名やクラスや出席番号。戦争ものなら国体や軍制がどうなっているのか。

 人物たちの家族関係や友人関係、敵対関係などを〇番目の「箱書き」に書いておくと、いつでも振り返って読むことができて便利です。

 基本的に主人公と「対になる存在」の設定も、〇番目の「箱書き」に書いておきましょう。

「箱書き」執筆中の拙著連載小説『秋暁の霧、地を治む』では〇番目の「箱書き」には軍制しか書いていません。これは戦争をテーマにした群像劇にしたいのと、元々中編小説『暁の神話』を連載しようという成立過程からです。つまりある程度の情報が『暁の神話』に書かれています。そのため、取り立てて〇番目の「箱書き」を充実させる必要がないのです。またレイティス王国のミゲルが主人公なのですが、ミゲルだけでまわる小説でもないので、彼の設定はあえて別の「箱書き」に書いています。さらにミゲルとガリウスの養父であるカートリンクとの関係も書いてありません。本来なら書くべきなのですが、一度『暁の神話』として作品が出来あがっていますので、頭の中だけで人間関係の整理はついています。だから本来なら〇番目の「箱書き」に書くはずの基本となる人間関係は省いています。




シーンの設定を書く

「箱書き」は「場面シーン」と対応しています。

 では「シーン」にはなにが必要なのでしょうか。

 先立って「いつ」「どこで」「誰と誰が」登場する「シーン」なのか。この設定が必要です。

「いつ(When)」たとえば何年何月何日何時頃。細かな時間がのちのち必要となる「推理小説」とくに「トラベルミステリー」なら分単位も必要になります。アリバイトリックを成立させるためには何時だけが確定しても意味がないからです。逆にファンタジー小説なら細かな時間がわかるのも不自然なので「何月何日の朝方」くらいざっくりしていてもかまいません。

「どこで(Where)」たとえば渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の主人公・比企谷八幡が通っているのは「千葉市立総武高校の2年F組」ですから、学校にいるときは主にこの教室と奉仕部の部室にいるはずです。基本的に主人公のいる場所が変わったら「シーン」も改められます。

「誰と誰が(Who)」ある時間のある場所つまりある「シーン」には「誰と誰が」いるのかという情報も必要です。「シーン」の中で主人公以外の人物はいつでも出たり入ったりしてかまいません。前記しましたが、主人公が場所を移動したら「シーン」も改められます。


「箱書き」執筆中の拙著連載小説『秋暁の霧、地を治む』では、第二章に戦争をしている国々の成り立ちと地理を書いています。これは第二章が手薄であることが第一です。でもプロローグはスピーディーにして読み手を惹きつける役割、第一章は主人公ミゲルに感情移入してほしいという狙いがあります。最速で成り立ちと地理を説明するには第二章まで待たなければならなかったのです。また地理については戦争以外ではあまり触れられていませんから、次の戦闘までに説明できればよしとの判断が働きました。このあたりは臨機応変で構成していきましょう。




シーンに登場する人物の言動を記す

 次に誰がどんなことをしたのか。どんなことをされたのか。どんな行動をとったのか。どんな発言をしたのか。それを受けてどんなリアクションがあったのか。「シーン」に登場する人物の言動を書きます。

 会話文を書いてもいいですし、地の文で説明や動作を書いてもいいです。

 また「シーン」に登場する人物に関する情報も書き込んでいきます。


 拙著連載小説『秋暁の霧、地を治む』では、プロローグにおいて王国軍務長官アマムとタリエリ将軍の情報を書き込みました。

 アマム軍務長官はプロローグでの大敗の責任をとり軍務長官を解任され、次戦で汚名返上と手柄を焦って帝国軍の作戦にハマっての討ち死にです。プロローグでは主人公のミゲルと僚友ガリウスはアマムが率いる王国軍に属しているため、アマムのことについて言及しました。

 タリエリ将軍はプロローグで戦死してしまいます。ミゲルとガリウスの直属の上官として言及せずにはおれない存在であるため、あえて名前をつけて情報を書いたのです。

 第一章になってようやく王国側主人公ミゲルと僚友ガリウスの情報を書き込んでいます。主役格のミゲルとガリウスはプロローグの出だしから登場してくる人物なのですが、プロローグは展開が速いため、落ち着いた第一章で説明することにしました。


 こうやって人物の情報をいつ出すのかも考えながら「箱書き」を書いていきましょう。

「シーン」で起こることを箇条書きにするのが難しいと仰る方もおりました。

 文章で書ければ文章で書くべきですが、一文しか思い浮かばないのなら一文で結構です。単語しか浮かばなければ浮かぶかぎりの単語だけでもかまいません。あとで読み返したときに内容を思い出せればじゅうぶんです。

 これでこの「シーン」の「箱書き」の一回目完成です。

 次の「シーン」の「箱書き」へ移りましょう。




箱書きの二回目完成

「エピソード」を構成する「シーン」の「箱書き」が揃ったら、一度流れを追って読み返してみてください。

 時系列どおりに流れていますか。現在の状況に至る過去の出来事の説明をするシーンは一箇所に集められていますか。言動が食い違っていませんか。受け答えがしっかりしていますか。そして肝心の物語が自然に進んでいますか。

 時系列の順番に「箱書き」を並べ替えてみて、きちんと物語が進むかを調べるのです。

「エピソード」がよどみなく流れるようになったら、「シーン」の順番を確定させます。

「シーン」の順番を確定させたら「箱書き」を手直ししては「エピソード」の流れと適合しているかチェックするのです。

 この段階で箇条書きの一文や単語を整理して文章を作っていきましょう。

 かなりの手間と時間が必要になります。一文や単語を文章に書き換えただけで分量が爆発的に増えるのです。

 話の流れが整い、「シーン」の文章が形になってきたら「箱書き」の二回目完成です。

 私の「箱書き」は会話文が少ないので、次の三回目で大幅に会話文を追加することになります。




箱書き三回目

 箱書きの三回目では地の文と会話文のバランスをとりつつ、シーンの内容を詳らかにしていきます。

 二回目まで会話文だけを書いていた人は、物語の流れを意識して地の文を差し挟んでいってください。

 拙著連載小説『秋暁の霧、地を治む』では、会話文が圧倒的に足りません。また登場人物を何名か加えようと思っています。それによって「箱書き」をさらに書き換えることになります。

 たとえば王国王女を登場させてミゲルとガリウスと絡ませてみることで、殺伐とした戦争小説の緊張をほぐしたいところです。王女はミゲルとガリウスを兄のように慕っており、いずれとも結婚したいとは思っておりません。ですがミゲルとガリウスはランドル王の腹心であるカートリンクの養子ですから、王女と交流があってもよいだろうとの判断です。主に物語のマスコット的な存在となります。

 また王女が出るなら王太妃が出てもいいだろうとも考えているのです。現国王ランドルは七十を超えていますから、娘は四十代半ばになり王女との年齢に乖離が生じます。そこで王太妃とすることで、孫の王女が二十歳前後になるようにしたのです。ちょっと苦しい設定ですが、ないよりはあったほうがわかりやすいと思います。

 ただし王太妃はほとんど物語に絡まないことが決定しているので、出しても名前はつけません。

 一方でボッサム帝国のほうは追加できる人はいないのです。レブニス帝の妹レミアはすでに登場させていますし、皇帝の信頼厚いクレイドも戦場での主役として出てきます。敵陣営である帝国はそれほど人数を増やす必要がありません。

 元々帝国軍の三大将はローテーションさせて運用してきたわけですから、三大将がいれば物語は滞らないのです。

 ということで王国王女を新たに追加して、会話文も増やして「箱書き」の三回目を早急に作らなければなりません。「箱書き」段階で新キャラを入れるとやることが多くなります。





最後に

 今回は「箱書きを書く」ことについて述べてみました。

 箱書きを一回で過不足なく書ける人はまずいません。

 二回目、三回目とじょじょに内容を増補していってください。

 結果として「プロット」がスラスラ書けるようになるまで「箱書き」を練ることになります。

 だいたいの目安が三回なのです。

 書き慣れないうちは、四回でも五回でも書き換えてください。その際は矛盾が発生しないようにすることと、伏線を張る場所を明確にしておくことです。



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