536.臥龍篇:あらすじを書く

 今回は「あらすじ」についてです。

 まずコラムNo.523「飛翔篇:企画書を書く(毎日連載500日達成)」で企画書を完成させてください。

 どんな主人公がどうなる物語なのか。それをもとに主人公にどんな出来事が起こるのかを考えていきます。

 物語には「対になる存在」が必要です。そしてエピソードを増やすためには第三者(脇役)も必要になります。

 人数が増えれば多種多様なエピソードが生まれるのです。





あらすじを書く


 今回は「あらすじ」について書きます。

 ここでいう「あらすじ」は小説投稿サイト『小説家になろう』に投稿するときに書く「あらすじ」欄のことではありません。

「あらすじ」とは「主人公にどんな出来事エピソードが起こるのか」を時系列に沿って書いたものを指します。

 主人公がどんなことをしてどうなる物語なのか。その「どんなことをして」が「あらすじ」の「出来事エピソード」に当たります。

 先にコラムNo.523「飛翔篇:企画書を書く(毎日連載500日達成)」で「企画書」を完成させてください。

 どんな主人公がどうなる物語なのか。それを決めます。

 その「企画書」を素に「あらすじ」を書くことになるのです。




あらすじの作り方

「あらすじ」には三つの作り方があります。

 コラムNo.187「再考篇:キャラ先のあらすじづくり」

 コラムNo.188「再考篇:ストーリー先のあらすじづくり」

 コラムNo.189「再考篇:舞台先のあらすじづくり」

 この三つです。

 初心者が「企画書」を書いてから「あらすじ」を書く際に必要なものを、要約してわかりやすくして以下に記します。




人物を決める

 まず主人公を明確にする必要があります。これは「企画書」を書いた時点でクリアされています。

 物語に主人公しか出てこないことはまずありえません。

 主人公とは「対になる存在」が、物語には必要です。

 主人公と「対になる存在」はかけ離れているほどよい。

 勇者と魔王、探偵と殺人犯、保安官とならず者、地球人とエイリアン、女々しい男性と勝ち気な女性、僕と君、わたしとあなた。

 物語にはつねに「対になる存在」がいるのです。

 ショートショートなら、主人公と「対になる存在」のふたりで物語を完結させられます。

 しかし短編小説よりも長い文章を書こうと思えば、第三者(脇役)が必要です。

 異世界ファンタジーの勇者譚なら、勇者、戦士、盗賊、神官(僧侶)、魔法使い(魔術師・精霊使い)でパーティーを組みます。これは指輪物語の主人公パーティーの基本構成であり、それを元にしたTRPGテーブルトーク・ロールプレイングゲームのゲイリー・ガイギャックス氏『Dungeons & Dragons』の基本構成です。


 小説に出てくる人物の数が増えるほど、出来事エピソードは加速度的に増やしていけます。

 主人公が勇者なら、「勇者」「魔王」「勇者と魔王」の三つのエピソードだけです。

 仲間に盗賊がいれば「勇者」「盗賊」「勇者と盗賊」「魔王」「勇者と魔王」「盗賊と魔王」「勇者と盗賊と魔王」の七つのエピソードになります。

 さらに魔法使いがいれば「勇者」「盗賊」「勇者と盗賊」「魔法使い」「勇者と魔法使い」「盗賊と魔法使い」「勇者と盗賊と魔法使い」「魔王」「勇者と魔王」「盗賊と魔王」「勇者と盗賊と魔王」「魔法使いと魔王」「勇者と魔法使いと魔王」「盗賊と魔法使いと魔王」「勇者と盗賊と魔法使いと魔王」の十五のエピソードが作れるのです。

 2020年から「プログラミング」が必修科目になりますが、コンピュータでいうと2進数でエピソードの数が増えていきます。ひとりなら1ビット(0〜1)、ふたりなら2ビット(0〜3)、三人なら3ビット(0〜7)、四人なら4ビット(0〜15)という具合です。

 もちろんこれらすべてを使う必要はありませんし、同じ組み合わせを何回使ってもかまいません。

 逆にこれら以外の組み合わせはありえないのです。これら以外の組み合わせということは、新しい人物が必ず出てきます。そうでないのなら、上記以外の組み合わせが生まれることはないのです。


 エピソードが増えるのなら、人物はたくさん出したほうがよいのではないか。

 そう思ってしまいがちですが、人物は限ったほうがよいのです。

 ひとりの人物がひとつのエピソードでしか活躍しないのなら、いる必要がありません。

 とくに人物へ名前を付けると読み手が「主要人物かな」と思って記憶しようとします。

 ですが三百枚を読んでみたらただのモブキャラだったとしたら、「モブキャラに名前をつけるんじゃないよ」という気持ちが湧いてくるのです。

 それでは読み手の記憶力を浪費したにすぎません。

 ひとつのエピソードのために名のある人物を入れると、他の人物の印象が薄れます。

 登場人物を増やすとエピソードは増える。でも増やしすぎるとひとりあたりのエピソードの割合は少なくなるのです。

「小説賞・新人賞」に応募する原稿用紙三百枚に数十人も登場させたら、誰が主人公なのかわからなくなりますし、書ける関係線も限られてしまいます。

 人物を絞って関係線を密にしたほうが断然よいのです。




佳境と結末のエピソード

 主人公が経験する出来事エピソードは「企画書」の段階である程度決まります。

 企画書で決めた「結末エンディング」は、恋愛小説なら「意中の異性と結ばれる」か「結ばれないか」でしょうし、バトル小説なら「敵対者を撃退する」か「敗れる」かでしょう。異世界転生・異世界転移も「人間に戻る」「元の世界に戻る」「そのまま異世界で暮らす」のが基本です。勇者譚なら「治世を乱す魔王(賊)を討伐する」、推理小説なら「犯人を追い詰めて自白させる」ことになります。

 意表をついて「通販番組で商品を紹介してたくさん買ってもらう話」という商売をネタにするのも「あり」でしょう。なおこのネタは私の小説ネタのストックに入っていますのでパクらないように! と言いつつ、物語の展開には著作権が適用されませんから、通販ネタをそのまま頂いてしまってもかまいませんよ。今ならジャパネットたかた、ショップチャンネル、QVC、トーカ堂、日本文化センターといったテレビ通販会社が元ネタとしては「あり」だと思います。とくにジャパネットたかたの前社長・高田明氏やトーカ堂の北社長などは特異な人間性を発揮していて、小説のモデルにぴったりだと思いませんか。


 エピソードは「企画書」で決めた「佳境クライマックス」から「結末エンディング」へとつながるようにします。「企画書」の段階で「佳境クライマックス」を想定していたはずですから、乖離するはずがないのです。

 恋愛小説なら「意中の異性に告白する」が「佳境クライマックス」で、その結果が「結末エンディング」になります。「結ばれる」のか「恋に破れる」のかです。

 バトル小説なら「敵対者と戦う」のが「佳境クライマックス」で、その結果が「結末エンディング」になります。「敵対者を撃退する」のか「敗れる」のかです。

 小説とは「佳境クライマックス」で手に汗握ってもらい、「結末エンディング」で結果がわかって話が終わります。「結末エンディング」のほうが盛り上がってしまうと、「佳境クライマックス」の意味がなくなるのです。あくまでも盛り上がるのは「佳境クライマックス」であることをお忘れなく。

佳境クライマックス」から「結末エンディング」まで決まったら、ここからはひとつずつ前のエピソードを考えていきましょう。物語が破綻しないためには、「佳境クライマックス」「結末エンディング」から先に決め、そのひとつずつ前のエピソードを決めていくのが最も確実です。


 エピソードとしては、たとえば「お姫様がさらわれる」「さらわれたお姫様を救い出す」、「あるものが奪われる」「奪われたものを取り戻す」という奪還ものは定番です。

 目標を設定して「それと戦って勝つ」「負ける」エピソードも定番でしょう。

 物語の展開は基本的にパターンがあります。

 それでも「小説の差別化」のために「意表をついたストーリー」を作り上げたいと思うのが、物語の書き手の性ではないでしょうか。

 その場合は基本として「少しズラす」ことになります。

 恋愛小説と見せて話を進め、気がついたら想い人を奪い合う足の引っ張り合い小説になっていたということもあるでしょう。

 よいズラし方はマンガの美内すずえ氏『ガラスの仮面』です。主人公の北島マヤがライバルの姫川亜弓と幻の舞台演劇『紅天女』の主演を勝ち取るべく競い合う物語。それがマヤを影から支援するあしながおじさん“紫のバラの人”である速水真澄とのロマンスの駆け引きにズレました。しかし『紅天女』の主演争いは依然として主流として残っていますから、これはよいズラし方だと言えます。

 悪いズラし方はマンガの鳥山明氏『DRAGON BALL』で、当初は「七つ集めるとなんでも願いを叶えてくれるドラゴンボールを集める」物語だったのです。しかし天下一武道会が始まる頃から単なるバトル漫画と化してしまいました。元の「ドラゴンボール探し」があっという間に終わって形骸化してしまったので、これは悪いズラし方なのです。




神話や童話や寓話からエピソードの立て方を学ぶ

『桃太郎』なら、「企画書」では主人公「桃から生まれた桃太郎は」、佳境クライマックス「鬼ヶ島に乗り込んで鬼たちを退治して」、結末エンディング「金銀財宝を持って凱旋する」となります。

 ですがこれだけだと話が短くなるので、鬼退治の仲間を集めることにするのです。

 つまり「鬼ヶ島に乗り込む」にはひとりでは心細いので、「空から支援してくれる者を味方につけよう」と考えて「雉を仲間にする」エピソードが思い浮かびます。

「空はどうにかなったから、地上の戦力を増やそう」と考えて能力の高い「猿を仲間にする」エピソードが考えつくでしょう。

 猿は能力こそ高いのですが従順ではないので人に従順な「犬を仲間にする」エピソードが生まれます。

 三名も仲間がいれば桃太郎も心強い。では「鬼ヶ島の鬼退治に向かう」エピソードを始めるとしましょう。

 ここまでが時間を逆行して作られたエピソードです。


 時系列に沿って並べ替えると、主人公「桃から生まれた桃太郎は」、「鬼ヶ島の鬼退治に向かう」「犬を仲間にする」「猿を仲間にする」「雉を仲間にする」、佳境クライマックス「鬼ヶ島に乗り込んで全員で鬼たちを退治して」、結末エンディング「金銀財宝を持って凱旋する」というエピソードで成り立っています。

 やはり桃太郎はヘタレです。なぜひとりで鬼ヶ島に乗り込んで、全員倒そうとしなかったのでしょうか。おじいさんとおばあさんに「鬼ヶ島の鬼を退治してきます」と大見得を切って出立しておいて、こそこそ仲間を集めている。ひとりでは倒せないとわかっているのなら、「鬼ヶ島の鬼を退治したいので仲間を集めてきます」と宣言すればよいのですよ――と桃太郎を口撃しておりますが、物語のエピソードを作るのは『桃太郎』を参考にするのが手っ取り早いのも確かなのです。

『カチカチ山』や『三匹のこぶた』を知っていたら、こちらもエピソードを作る参考になります。

 神話や童話や寓話はエピソードの塊と言ってもよく、そこからインスピレーションを得るのは「あり」です。

 実際、エピソードの種類は昔から「神話や童話や寓話などの民間伝承」と「ウイリアム・シェイクスピア氏の演劇」で出尽くしたとさえ言われています。





最後に

 今回は「あらすじを書く」ことについて改めて述べてみました。

 まず「企画書」を書いて「どんな主人公がなにをする物語」なのかを決めてください。

 それをもとに「人物にどんな出来事エピソードが起こる」のかを、「佳境クライマックス」から遡って設定します。スタート地点までたどり着いたら時系列に沿って並べていくのです。

 エピソードが思いつかない方は、神話や童話や寓話などの民間伝承からインスピレーションを得ましょう。

 物語の展開つまりエピソードは著作権で保護されていませんから、あなたの小説に使えるエピソードを持ってきてアレンジしてもいいのです。

 ただし小説に使えるエピソードである必要があります。

「使ってみたら物語がガラリと変わってしまった」ようでは、そのエピソードは使えなかったのです。

 エピソードは必ずあなたの小説にフィットするよう補正を施してください。

 そうするかぎり、あなたは尽きることなくエピソードを生み出せるようになりますよ。



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