臥龍篇〜しばしの間は、初心者気分で

534.臥龍篇:小説を書く動機

 今回から小説初心者のための「臥龍篇」を始めます。

「臥龍」とは中国古典『三国志』に登場する蜀の国の天才軍師・諸葛孔明氏を指します。

 彼は荊州で人知れず実力を磨き続けてひとかどの人物となったのです。

 皆様も孔明氏のように「天才」と呼ばれるような書き手になってくださいね。





小説を書く動機


 小説初心者の皆様へ。

 皆様にとって「小説を書いてみたい」と思った動機はなんでしょうか。

 大きく三つに分けてみたいと思います。




お気に入りの作品がある

「お気に入りの作品があって、私もそんな物語を書いてみたい」からという方が最も多いと思います。

「お気に入りの作品」が明確にあれば、それが「手本」となるのです。

「手本」は何遍も読み返しますから、物語の流れや小説の文章があなたにはすでに身についています。こういう方は「小説を書きましょう」と誰かが言ってくれれば、いつでも小説が書けるのです。

 ただし「手本」に近い物語に偏ってしまう傾向があります。好きな作品が「SF」小説なら最も書きやすいのは「SF」小説です。そして「スペースオペラ」が好きなら「スペースオペラ」を書き、「超能力バトル」が好きなら「超能力バトル」を書きます。

 実際には「書けます」というより「それしか書けません」。

「お気に入りの作品」を何度も読んでいることが「至福の時」ですから、他の作品を読む時間が足りていないからです。

 だから「お気に入りの作品」がある方は、「他にも私が好きになりそうな小説はないか」と書店や電子書籍販売サイトなどで「冒頭試し読み」をしてチェックしてみましょう。できればあなたの「お気に入りの作品」と「同じ出版社の同じレーベル」から見つけ出してください。

 なぜそんな縛りをするのか。

「同じ出版社の同じレーベル」ならあなたの「お気に入りの作品」と同じジャンルで似たような作風の作品がまとめられているからです。

「冒頭試し読み」はシリーズものであっても第一巻の冒頭だけでかまいません。冒頭だけで惹き込まれない作品はあなたの感性に合わないのです。だから無理して読む必要はありません。

「冒頭試し読み」は十年も二十年も前の作品をチェックすることもあります。近くの図書館で見つかればいいのですが、なかなか難しいものがあります。できれば電子書籍販売サイトたとえばamazon『Kindle』やApple『ブックストア』なら有名レーベルの古い小説も取り扱っていることがありますので、こちらで「冒頭試し読み」するのもよいでしょう。

 第一巻の冒頭だけでかまわないので、「同じ出版社の同じレーベル」をしらみつぶしに読んでみましょう。とりあえず「お気に入りの作品」以外に「二作」見つかればよしとします。最終的には合わせて「五作」は見つけたいところです。しかし「小説を書きたい」という意欲を削がないためには「二作」に限りましょう。

 選び出した「二作」は第一巻だけ購入してください。お金と時間に余裕があれば「全巻購入」なんていう大人買いもありでしょうが、「物語の多様性」を得るためだけの「手本」なので第一巻だけでじゅうぶんです。

「お気に入りの作品」と当座に選んだ「二作」を読んでみて、「こんな物語にすると面白いかも」というインスピレーションを得てください。この三作品はまったく同じ物語ではないので、それらとは異なる物語が必ずひらめいてくるはずです。

 物語がひらめいたら、それを紙に書き出してみましょう。きっとあなたのオリジナルでありながらも素晴らしい物語になっているはずです。




好きな書き手のようになりたい

「好きな書き手(作家)がいて、その人のようになりたいから」という方は、憧れの存在に近づきたいというタイプですね。

「憧れの書き手」が新作を出すたびに、あなたの心を次々と射止めてくる。こんな素晴らしい作品たちを生み出した書き手は尊敬の対象になります。

 書き手が動機の方は「物語を生み出す」のに苦労します。

 具体的にどんな物語が書きたいのか。「憧れの書き手」の存在に夢中になってしまって、書きたい物語が見つからないからです。

 そんな方は「憧れの書き手」の作品の中で最も気に入っている作品をひとつ選び出してください。それを「手本」にします。

「一作に絞るのは無理。せめて三作、いや五作は」という方は、「手本」の他に「二作」を選んでおきましょう。でもあくまでも「手本」は一作です。「憧れの書き手」の作品のうち最も人気のある作品でもいいですし、個人的に気に入っている作品でもかまいません。

「好きな作品がある」方とは違い、「憧れの書き手がいる」方はその書き手の作品をすでに何作も買って自室の書棚に保管しているはずです。だから探し出すのに苦労しません。

 連載小説よりも単巻完結(書き下ろし)の小説がいいのですが、現在の小説界ではシリーズもののほうが多いのが実情です。「単巻完結(書き下ろし)」といえば聞こえはいいのですが、出版業界では「連載されなかった凡作」ととらえられてもいます。

 もし「憧れの書き手」がいわゆる「文豪」であればその点はクリアできます。芥川龍之介氏は短編・中編小説が専門ですし、夏目漱石氏は中編・長編小説が専門です。星新一氏はショートショートの大家。

 私は田中芳樹氏『銀河英雄伝説』のファンで、田中芳樹氏の小説をいくつか所蔵していますが、単巻完結(書き下ろし)の『西風の戦記』を「手本」にしています。連載小説が多い著者ですが、単巻完結(書き下ろし)でもひじょうにすぐれた作品を書いているのです。こういう掘り出し物を見つけるのもファン心理が働きますよね。

 また水野良氏『ロードス島戦記』のファンです。こちらは第一巻「灰色の魔女」を「手本」にしています。その後『魔法戦士リウイ』『グランクレスト戦記』などを揃えていったのです。

「手本」とする作品を読んで「どういう物語にしようか」考えてみてください。その際残り「二作」も読んでみて「こういう要素を加えてみたらどんな物語になるか」を試しましょう。「手本」にはアイデアの種が詰まっています。

 物語がひらめいたら、紙に書き出していくのです。多くの人に支持されるような作品になる可能性があります。




夢の印税生活

「文字を書くだけでお金が手に入るのなら、今よりもラクに稼げるから」という方もいるはず。俗に言う「夢の印税生活」ですね。それも立派な動機と言えます。

 では具体的に「小説の物語を考えて」みてください。

 どうですか。すぐに思い浮かぶでしょうか。

 難しいですよね。

「夢の印税生活」を思い描いている方は、具体的に「こんな小説を書きたい」という物語を持っていません。

 原稿執筆の苦労を知らず、小説もたいして読んでおらず、頼りになるのは子どもの頃に読んだ童話や寓話の類いのみ。

 こういう方は、「今いちばん売れている小説」を購入して「手本」にすることをオススメします。

「印税生活」を目指すなら「売れる小説」を書かなければなりません。

「売れる小説」とはなにかを知るために「今いちばん売れている小説」を読むのです。

 たいして小説を読んできていませんから、「手本」だけでは物語は浮かばないと思います。そこで書店のベストセラー枠にある「上位三作」を購入してください。これでかなり幅の広い読書体験ができます。

 あとはこの「上位三作」を徹底的に読み込んでください。最低でも五回、時間に余裕があれば十回は通して読みましょう。

「夢の印税生活」を送りたいなら、「手本」を読み込むことです。

 そこからなにかインスピレーションが得られるか。もしなにひとつ得られなかったら、小説を書くのは不可能に近いのです。

 それでも諦めたくないのであれば、読書を習慣づけてください。

「お気に入りの作品がある」か「好きな書き手のようになりたい」かが明確になれば、そちらへ派生していきましょう。




ひらめいた物語を書き出す

 これはいけるのではないか。そうひらめいた物語を紙に書き出しましょう。

 書くのが苦手という人は、単語でもとりとめもない文でもかまいませんので箇条書きしてください。

 紙の空白が埋まっていくさまを見ているだけでも「物語が組み上げられている」手応えを感じられます。これがひじょうに重要です。

 物語は頭から書く必要はなく、むしろ思いついたところから書いていき、時系列に沿うように並べ替えて作ります。

「文豪」の時代にはワープロは存在しませんでした。

 今はコンピュータの時代で、Microsoft『Word』、JUST SYSTEM『一太郎』、Apple『Pages』といったワープロソフトや、フリーウェアとシェアウェアのテキスト・エディターなどで執筆して、いつでも文章の順番を入れ替えられます。

 加筆も簡単なので、とにかく思いついたものはすべて紙に書き出していきましょう。

 紙に書き出せたら、ワープロソフトなどに入力して並べ替えや加筆、削除などをして流れを整えていきます。


 文が作れない方のために簡単な「てにをは」テンプレートをふたつ。

 [  ]は[  ]が[  ]と[  ]で[  ]に[  ]を[  ]。

 例:私は保育園で保育士に幼児を預けた。

 [  ]は[  ]に[  ]と[  ]で[  ]へ[  ]を[  ]。

 例:私は朝八時に父と車で保育園の保育士へ幼児を預けた。

 「に」を「へ」に変えていますが、これは「一文で助詞を二つ以上出さない」という原則があるためです。

 このテンプレートに慣れてきたら、自由に文が作れるようになりますよ。




最後に

 今回は「小説を書く動機」について述べてみました。

 どんな動機で「小説を書こう」と思ったのか。それによる執筆準備、つまり「企画書」「あらすじ」づくりへ向かえるようになっています。

 どれが正解というものはありません。どんな動機で「小説を書きたい」と思ってもいいのです。

 ただしモチベーションを保ちつづけることが難しい。

 こればかりはその人の意志の強さによります。

 ですので、今回は「思いついた単語や文を箇条書きにして書いてみる」ことをオススメしたのです。

 これなら「モチベーションが高いうちに書ける」と思います。

 皆様の考えた小説を読んでみたい。

 だからこそ、あなたの小説を書いてみませんか。



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